短編小説「タイタンの存在者」7(全9回)

7.フフフ・・・やっと連絡が取れたね
『フフフ・・・やっと連絡が取れたね・・・。私はクロフツだ。地球にいる本人だ。君が聞きたいことは山ほどあると思うが・・・・・・返事がないようだね。どうした、疲れているのか・・・。このタイタンだが、宇宙全ての法則や物体をコピーできるほどの性能はないというのは君も知っているね。そう、補助となる人間が一人必要となる。ヨムレイがそうなるはずだったんだ・・・しかし見てのとおりだ。それでもう一人、この世界を一定に維持していく存在、他者が侵入しても強い意志を持って世界を変えさせない存在が、必要となった。今までヨムレイをどうにか生かしておいたんだが、もう彼は自我が崩壊して勝手に消えていってしまうだろう。君が侵入したせいで、ヨムレイの城が崩れだしている・・・フフフ・・・君だよ。ミロ君。君はここに残るんだ。地球にある君の本体は、いらなくなったので処分しておくよ・・・フフフ・・・一瞬にそして永遠に・・・・・・リターン』

ミロは起きた。朝になっていた。ここはデカルトに連れこまれた部屋だ・・・もう彼はここにはいない。どこにもいない。・・・それにしても、今の夢はなんだったのか。ようやくクロフツと連絡が取れたのだろうか。しかし彼の言葉の内容は、終局的だ。信じられない。クロフツはおれを罠にはめたのだろうか。それとも、やはりさっきの夢も、おれの頭の中にある単なる夢に過ぎないのか?
「おはよう。朝食よ。コーヒーとパンだけど」
隣の部屋からエンジェルが現れて、彼の前にトレイを置いた。一睡もしていないのが表情を見て分かる。
「あれから・・・どうなったのか」
「私にも分からない。気がついたら2人して外に倒れてたの。君は雪に埋もれた私を起こして、バイクを運転して私を担いで部屋に連れ込んだ後に倒れたのよ。・・・・・・ありがとう」
「あの時・・・デカルトのことは、とてもすまなく思っている」
エンジェルは、飲んでいたコーヒーカップを置いた。青白い頬が小さな痙攣をしつづけていた。今にも叫び声をあげそうな表情だった。しばらく青く晴れた空を眺めた後、ゆっくりと話しはじめた。
「私はね、このスラムで生まれたの。タイタンじゃないわ。この街よ。小さい頃、捨てられて、施設に送られたの。一人でいつも・・・泣いてたみたい。そこにデカルトがやってきて、私を拾って育ててくれたの。あのアンドロイド排斥の時、機械に育てられた子供は人間らしく育たないって言われたらしいけど、私は違うみたいね。・・・そう思ってる。デカルトは、とても優しくしてくれた。・・・私は彼に何もしてあげられなかった」
2人は黙って食事を終えた。食器を片づけて戻ってきた後、エンジェルは話しかけた。
「あの時、王は私を指さして、自分の娘とか言ったわ。あれはどういう意味なの?」
「君を造ったのはヨムレイだということだ。彼がこの世界へ侵入した時、たぶん願望からだろう、死んだ自分の娘を造ったんだ。君以外にも何人も造ったのかもしれない。君はおれと同じように全く外部の人間だから、王の命令を聞いたりせずにすんだんだ」
彼女ははじめ驚いた顔をしていたが、やがて考えこむような顔つきでミロの隣に座り、彼を見つめながら口を開いた。
「いい?私は私なのよ。誰に造られたモノでもない。他人の頭の中にあるわけじゃない。ここにいるのは私であって、他のなにものでもない私なのよ。君だってそうなの。どんな場所にいても、君は生きなきゃならないわ」
「・・・そうだ、君は、君自身だ」
ミロはそう答えた。そして立ち上がった。
「どこへ行くの」
「王の城。ヨムレイがああなったのには、少しはおれにも責任がある」
「・・・私も行くわ」
「よせよ、君には関係ないことだ」
「私は必要なはずよ」
実際そうだった。彼女にはなにか力があるのだ。王の自己破壊から助かったのも、おそらく彼女のせいなのだ。