
楽天三木谷CEOがエンジニアに語った「AIの未来」とは
2025年11月15日に開催された第17回楽天テクノロジーカンファレンスで、楽天グループの三木谷浩史会長兼CEOが、会場に集まったエンジニアたちに向けて、AI時代における重要なメッセージを発信しました。今回のカンファレンスのテーマは「AI-nization with U」。三木谷氏は参加者たちに、AIに対する既成概念を見直すよう呼びかけたのです。
AIは単なる技術革新なのか、それとも
三木谷氏は冒頭で、参加者たちに問いかけました。「AIについて話をする必要があります。ビジネスに、あなたに、地域社会に、国に、世界に、何が起こるのでしょうか」と。そして続けて、「これは単なる段階的なイノベーションなのか、それとも第四次産業革命なのか。あるいは、それよりもさらに大きな、根本的に異なる何かなのか」という本質的な問いを投げかけました。三木谷氏は、AIに関する自身の見解を3つの重要なポイントに整理して説明しました。
データの優位性
第一のポイントは「データ」です。三木谷氏は、「楽天はデータの所有という点で非常にユニークな存在です」と述べました。多くのAI企業が公開データに依存している中、楽天は価値ある取引データや行動データを活用してモデルをトレーニングしているのです。楽天は日本国内で70以上のサービスを展開しており、比類のないデータの宝庫にアクセスできる立場にあります。「世界中で20億人以上の会員がいます。日本では、月間アクティブユーザーが4,500万人います。つまり、実際に取引をしているということです。楽天カード、楽天市場、楽天銀行などを利用しています。日本の成人の約半数が毎月楽天を利用しているのです」と三木谷氏は語りました。
実行力で差をつける
しかし、データだけでは意味がありません。三木谷氏が挙げた第二のポイントは「実行力」です。彼は、楽天がすでにAIを実際にどのように活用しているか、具体例を示しました。「楽天ペット保険では、AIを使用して効率を28%向上させ、処理時間を短縮しました」と三木谷氏は明かしました。また、「楽天証券はAI株式分析を提供しており、米国と日本の8,500銘柄を分析しています」とのことです。楽天市場や楽天トラベルのユーザーも、買い物や旅行計画を支援するパーソナライズされたエージェントにアクセスできるようになっています。「楽天モバイルでは、自動化されたネットワーク管理と自動復旧に加えて、電力使用量を20%削減しました。すべての携帯電話会社がこれを実施すれば、数百億ドルが節約されるでしょう」と三木谷氏は強調しました。
人材への投資
そして三木谷氏のAI三本柱の最後のピースは「人材」です。「トップタレントを採用することが鍵になると信じています」と述べました。三木谷氏は、楽天がAI導入をさらに加速させるために、すべての事業部門にチーフAIオフィサーを配置することを明らかにしました。「楽天従業員の90%以上が、当社の『Rakuten AI for Rakutenians』プラットフォームのユーザーです。20,000以上のAIテンプレートを作成しました。トークン使用量は昨年から17倍に増加しています」とカンファレンスで報告しました。「従業員は、知識管理、検索、計画立案、翻訳、品質保証など、あらゆる用途でAIを使用しています」このレベルの従業員の積極的な参加こそが、AI駆動時代に企業を際立たせるものなのです。「すべての従業員が本当に信じる必要があります。AIを使えなければ、成功することは難しいでしょう」と三木谷氏は語りました。
楽天モバイルがもたらすエコシステム効果
楽天のAI変革の基盤には、もう一つの大きな取り組みがあります。それは「接続性」です。本格運用開始から5年以上が経過した楽天モバイルの影響は、今や明確になっています。「このプロジェクトを始めた理由は、携帯電話料金が高額になりすぎていたからです」と三木谷氏は説明しました。「それは多くの業界、消費者、観光業、小売業にとって良くありませんでした」現在、楽天モバイルは業界で最も高い顧客満足度スコアを獲得しており、楽天エコシステムの中核的な柱となっています。「楽天会員が楽天モバイルに加入すると、楽天市場での支出が50%増加します。楽天カードでの支出は30%増加します。楽天モバイルがエコシステムにもたらす育成効果は非常に大きいのです」
新時代への道を切り拓く
「私たちは常に先駆者、あるいは破壊者でした。新しいことに挑戦するクレイジーな会社です。時には成功し、時には失敗します」と三木谷氏は振り返りました。10年以上前、三木谷氏の「英語公用語化(Englishnization)」イニシアチブは、会社を言語変革に導きました。この賭けは、AI人材争奪戦において実を結んでいます。「インドには4,000人以上のエンジニアがいます。イスラエルとウクライナにはViber、フランスには楽天フランス、バルセロナには楽天TV、カナダにはKobo、Viki、そしてシリコンバレーには広告事業があります」楽天が「グローバル企業の連邦」になるにつれて、三木谷氏はカンファレンスの参加者たちに、AI駆動の未来においてビジネスがどのようにあるべきかを考えるよう促しました。「言語変革で行ったことと重ね合わせることができると思います」と彼は述べました。「AI革命の前と後でのビジネスの管理方法は、同じでしょうか」この問いかけは、エンジニアたちだけでなく、すべてのビジネスパーソンに向けられたメッセージと言えるでしょう。AI時代を生き抜くためには、従来の考え方や働き方を根本から見直す必要があるのです。楽天は、データ、実行力、人材という3つの柱を軸に、この変革の最前線を走り続けています。

私見と考察:三木谷氏の提言が示す「AI時代の企業変革」の本質
楽天テクノロジーカンファレンス2025での三木谷氏の講演を振り返ると、そこには単なるAI活用の事例紹介を超えた、深い洞察と戦略的ビジョンが込められていることが分かります。ここでは、同氏の提言を多角的に考察し、日本企業が直面する課題と可能性について掘り下げていきます。
第四次産業革命という問いかけの重み
三木谷氏が投げかけた「これは単なる段階的なイノベーションなのか、それとも第四次産業革命なのか」という問いは、決して修辞的なものではありません。この問いには、経営者としての深い危機感が潜んでいると言えるでしょう。過去の産業革命を振り返ると、蒸気機関、電力、コンピューターといった技術革新は、いずれも社会構造そのものを根本から変えてきました。そして重要なのは、これらの変化に適応できなかった企業や産業が淘汰されてきたという歴史的事実です。三木谷氏の問いかけは「今回もそうなるかもしれない」という警鐘として受け止めるべきでしょう。特に興味深いのは「それよりもさらに大きな、根本的に異なる何か」という表現です。これは、AIが過去の産業革命とは質的に異なる変化をもたらす可能性を示唆しています。蒸気機関や電力が人間の「物理的能力」を拡張したのに対し、AIは「知的能力」を拡張します。この違いは、社会に与える影響の深さという点で、過去の革命を凌駕する可能性があるのです。
データ戦略の本質:「所有」から「活用」へ
三木谷氏が第一に挙げた「データ」について、より深く考察する必要があります。彼が強調したのは単なるデータ量ではなく「データの所有」という概念でした。これは極めて重要なポイントです。現在のAI競争において、多くの企業が公開データや購入したデータセットに依存しています。しかし、楽天が持つのは「自社エコシステム内で生成された一次データ」です。楽天カードでの購入履歴、楽天市場での閲覧行動、楽天トラベルでの予約パターン、楽天モバイルの通信データ。これらは他社には決して手に入らない、独自性の高いデータです。さらに重要なのは、これらのデータが「実際の取引」に基づいているという点です。ソーシャルメディアの投稿やウェブ上の行動データと異なり、購買データは「意思決定の結果」を示しています。人々が実際にお金を払った記録は、単なる関心や興味よりも遥かに価値が高い情報なのです。ただし、ここで一つの疑問も浮かび上がります。データの所有と活用は、プライバシーという重要な課題と常に隣り合わせです。楽天がこれだけの個人データを保有し活用することについて、ユーザーの理解と信頼をどう維持していくのか。この点は、今後さらに重要性を増していくテーマと言えるでしょう。
「実行力」が意味する組織文化の変革
三木谷氏が示した具体的な実行事例「ペット保険の効率28%向上、楽天証券のAI株式分析、楽天モバイルの電力20%削減」は、単なる成功事例の羅列ではありません。これらは「AIを実際にビジネスに組み込む文化」が社内に根付いている証拠です。多くの企業がAIの導入を検討し、実証実験を行っていますが、実際に業務プロセスに組み込んで成果を出すまでには至っていないケースが少なくありません。なぜでしょうか。それは、技術的な問題以上に、組織文化や業務プロセスの壁が立ちはだかるからです。楽天の事例が示唆しているのは「トップダウンでAI活用を推進する強い意志」と「現場レベルでの実験を許容する柔軟性」の両立です。全事業部門にチーフAIオフィサーを配置するという決定は、前者を象徴しています。一方、20,000以上のAIテンプレートが作成され、従業員の90%以上が活用しているという事実は、後者を物語っています。この「両輪」があって初めて、AIは机上の理論から実際のビジネス成果へと転化するのです。
人材戦略の真の意味:「AIを使える人」から「AIで価値を創る人」へ
「すべての従業員が本当に信じる必要があります。AIを使えなければ、成功することは難しいでしょう」という三木谷氏の言葉は、一見厳しく聞こえるかもしれません。しかし、これは脅しではなく、現実的な予測です。考えてみてください。かつて、パソコンが使えることは「特殊スキル」でした。今では、オフィスワークにおいてパソコンが使えないことは致命的です。同じことがAIにも起こりつつあるのです。ただし、三木谷氏が求めているのは単に「AIツールを操作できる」というレベルではないでしょう。トークン使用量が昨年から17倍に増加したという数字が示すのは、従業員たちがAIを日常的に、そして創造的に活用しているということです。知識管理、検索、計画立案、翻訳、品質保証。これらすべてにAIを組み込むことで、従業員一人ひとりの生産性が飛躍的に向上しているのです。さらに注目すべきは、「英語公用語化」という過去の取り組みが、現在のAI人材獲得において優位性をもたらしているという指摘です。インド、イスラエル、ウクライナ、フランス、カナダ、シリコンバレー。世界中に分散した4,000人以上のエンジニアを擁する体制は、10年以上前の決断が結実したものです。これは重要な教訓を含んでいます。つまり、真の変革には「時間がかかる」ということです。そして、今日の決断が10年後の競争力を左右するということです。日本企業の多くが直面している課題は、この長期的視点での投資を実行できるかどうかでしょう。
楽天モバイルという「基盤投資」の戦略的意義
楽天モバイルへの言及は、一見するとAIの話題から逸れているように思えるかもしれません。しかし、これは非常に戦略的な文脈で語られています。三木谷氏が明かした数字。楽天モバイル会員は楽天市場で50%多く支出し、楽天カードで30%多く支出する、は、エコシステムの「ネットワーク効果」を定量的に示しています。携帯電話という日常的に使用されるサービスを起点に、顧客のライフタイムバリューを最大化する。これは、単一サービスで収益を上げるビジネスモデルとは根本的に異なる発想です。この「接続性」こそが、AI時代における競争優位の源泉となります。顧客との接点が多ければ多いほど、収集できるデータも増え、AIによるパーソナライゼーションの精度も高まるからです。楽天モバイルは、単なる通信事業ではなく「データ収集と顧客接点の強化」という戦略的インフラです。ただし、この戦略には膨大な初期投資とリスクが伴います。楽天モバイルの立ち上げには数千億円規模の投資が必要でした。短期的な収益性を重視する株主や市場からの圧力に耐えながら、長期的なビジョンを追求する。これは、言うは易く行うは難しの典型例です。
「Englishnization」再考:言語変革が示唆するもの
三木谷氏が10年以上前に推進した英語公用語化は、当時大きな議論を呼びました。日本企業が英語を公用語にする必要があるのか。日本人同士のコミュニケーションが非効率になるのではないか。多くの批判がありました。しかし今、その決断の価値が明らかになっています。グローバルなAI人材を採用し、世界中に分散したチームを統合する。これは英語という共通言語なしには不可能です。ここで考えるべきは、「なぜ三木谷氏はこの痛みを伴う変革を10年以上前に実行できたのか」という点です。おそらく、彼の頭の中には、すでに「グローバル企業の連邦」というビジョンがあったのでしょう。そのビジョンを実現するための必要条件として、言語統一を位置づけていたのです。これはAI変革においても同じことが言えます。「なぜAIを導入するのか」という問いに対して「競合がやっているから」「効率化できるから」という表面的な理由では真の変革は起こりません。「AIによって、我々のビジネスはどう変わるべきか」「5年後、10年後、どんな企業になっているべきか」というビジョンがあって初めて、痛みを伴う変革を推進できるのです。
「AI革命の前と後」問われているのは経営の本質
三木谷氏の最後の問いかけ「AI革命の前と後でのビジネスの管理方法は、同じでしょうか」は、この講演の核心を突いています。従来の経営管理は、人間の能力を前提に設計されてきました。情報処理速度、分析能力、意思決定のスピード、これらすべてが「人間ができる範囲」を基準にしていたのです。しかしAIはこの前提を覆します。例えば、かつては数週間かかっていた市場分析が数秒で完了する。数百ページの報告書を瞬時に要約できる。複雑なシミュレーションを何千回も繰り返せる。こうした能力が当たり前になったとき、マネジメントはどう変わるべきでしょうか。一つの答えは「人間は判断に集中する」というものです。AIが情報収集と分析を担当し、人間は戦略的判断と創造的思考に専念する。これは理想的なシナリオに聞こえます。しかし、本当にそれだけでしょうか。AIが高度な分析を行えるようになれば、「判断の根拠」も変わってきます。直感や経験則ではなく、データドリブンな意思決定が標準になる。そのとき、経営者に求められる資質も変化するはずです。さらに言えば、組織構造そのものも変革を迫られるかもしれません。情報の流れが瞬時になり、分析能力が民主化されれば、従来のヒエラルキー型組織は最適解ではなくなる可能性があります。よりフラットで、より機動的な組織形態が求められるかもしれません。
日本企業への示唆:「先駆者のジレンマ」をどう乗り越えるか
三木谷氏は、楽天を「常に先駆者、あるいは破壊者」と表現しました。「時には成功し、時には失敗する」とも述べています。この率直さには、重要な示唆が含まれています。日本企業の多くは、リスク回避的です。失敗を恐れ、実績のある手法を踏襲しがちです。これは決して悪いことではありません。安定性や信頼性は、日本企業の強みでもあります。しかし、AI時代においては、この保守性が致命的な弱点になる可能性があります。なぜなら、AIは急速に進化しており、「様子見」をしている間に、決定的な差がついてしまうかもしれないからです。三木谷氏の「時には失敗する」という言葉は、逆説的に重要です。失敗を許容し、そこから学ぶ文化がなければ、イノベーションは生まれません。楽天が英語公用語化や楽天モバイルという大胆な賭けに出られたのも、失敗のリスクを受け入れる覚悟があったからでしょう。日本企業がAI時代に生き残るためには、この「計算されたリスクテイク」の文化を育てる必要があります。すべての企業が楽天のように大胆である必要はありませんが、少なくとも「実験する余地」を組織内に確保することは不可欠です。
データ主権という新たな競争軸
三木谷氏の講演で暗黙のうちに示されていたのが、「データ主権」という概念です。楽天が強調する「データの所有」は、単なる資産の問題ではなく、国家レベルの戦略的課題でもあります。現在、世界のAI競争はGAFAMと中国のテック企業が主導しています。しかし、これらの企業が持つデータの多くは、各国のユーザーから収集されたものです。つまり、データは各国に分散して存在しているにもかかわらず、その価値を活用しているのは一部の巨大企業だけという状況です。楽天のような国内企業が自社エコシステム内でデータを蓄積し活用するモデルは、この構造に対するオルタナティブになり得ます。日本国内で生成されたデータが、日本企業によって価値化され、その利益が国内に還元される。これは経済安全保障の観点からも重要です。特に、AIが社会インフラとして重要性を増すにつれ、「誰がデータを持ち、誰がAIを制御するか」という問題は、国家の独立性にも関わってきます。エネルギーや食料と同様に、データとAIも「自給」できることが望ましいのです。
エコシステム戦略の進化:「囲い込み」から「価値共創」へ
楽天のエコシステム戦略は、かつては「顧客の囲い込み」として理解されてきました。しかし、AI時代のエコシステムは、より洗練された価値提案へと進化しています。楽天モバイル会員が他のサービスでより多く支出するのは、単にポイント還元があるからではないでしょう。むしろ、AIによるパーソナライゼーションが、顧客体験を向上させているからだと考えられます。例えば、モバイルでの位置情報と購買履歴を組み合わせることで、より適切なレコメンデーションが可能になります。つまり、エコシステムが大きくなればなるほど、AIはより精緻な顧客理解を実現でき、それがさらに顧客体験を向上させるという好循環が生まれるのです。これは「ネットワーク効果」の新しい形態と言えるでしょう。ただし、この戦略には「過度な依存」というリスクも伴います。顧客が楽天のエコシステムに深く組み込まれればれるほど、離脱は困難になります。これは企業にとっては望ましいことですが、顧客の選択の自由を制限するものでもあります。健全な競争環境を維持しつつ、エコシステムの価値を高める。このバランスが今後の課題となるでしょう。
組織学習としてのAI導入:「ツール」から「文化」へ
楽天の従業員の90%以上がAIプラットフォームを利用し、20,000以上のテンプレートが作成されているという事実は、単なる「ツールの普及」以上の意味を持ちます。これは「組織学習」が起きている証拠です。AIを使いこなすには、試行錯誤が必要です。どのような問いかけが良い結果を生むのか、どのタスクにAIが適しているのか、これらは実際に使ってみなければ分かりません。20,000のテンプレートは、楽天の従業員たちが蓄積してきた「AIの使い方に関する集合知」なのです。これは、従来の企業内ナレッジマネジメントとは異なる次元の話です。なぜなら、AIの使い方は日々進化し、ベストプラクティスも絶えず更新されていくからです。このような動的な知識を組織全体で共有し、発展させていく仕組み。これこそがAI時代の競争力の源泉となります。また、トークン使用量が17倍に増加したという数字は、AIが「特別なツール」から「日常的なツール」へと変化したことを示しています。最初は好奇心や義務感で使っていたものが、今では「ないと困る」存在になっている。この変化こそが、文化的変革の証なのです。
グローバル分散とローカル最適のバランス
「グローバル企業の連邦」という三木谷氏の表現は示唆に富んでいます。これは単一の巨大企業ではなく、世界中に分散した企業群が連携するモデルです。この構造はAI時代において理想的かもしれません。なぜならAIは地域ごとの文化や言語の違いに対応する必要があるからです。Viber、Kobo、Viki、楽天TV。これらはそれぞれの市場で独自の価値を提供しながら、楽天のデータとAI基盤を活用できます。つまり「中央集権的なデータ・AI基盤」と「分散的な価値提供」の組み合わせです。これはグローバル展開における新しいモデルと言えるでしょう。GAFAMのような完全に統合されたグローバル企業でもなく、各地域で独立した企業でもない。その中間に位置する「連邦型」組織です。ただし、このモデルを機能させるには強力な統合基盤が必要です。英語という共通言語、共通のAIプラットフォーム、データの相互運用性。これらがなければ連邦はバラバラになってしまいます。楽天が英語公用語化に踏み切った理由もここにあるのでしょう。
問われる経営者の覚悟:10年後を見据えた意思決定
三木谷氏の講演全体を通じて感じられるのは、「長期的視点での意思決定」の重要性です。英語公用語化も、楽天モバイルも、短期的には痛みを伴う決断でした。しかし、10年という時間軸で見れば、その価値が証明されつつあります。AI投資も同じです。すぐに結果が出るものではありません。データ基盤の整備、人材の育成、組織文化の変革。これらすべてに時間がかかります。四半期ごとの業績を気にしていては、このような投資はできません。ここで問われるのは、経営者の覚悟です。短期的な批判に耐え、長期的なビジョンを追求できるか。ステークホルダーを説得し、必要な投資を実行できるか。日本企業の多くが直面しているのは、技術的課題ではなく、この「意思決定の課題」なのかもしれません。興味深いのは、三木谷氏が「時には失敗する」と公言していることです。これは、失敗を隠すのではなく、学習の機会として捉える姿勢の表れです。完璧を目指すのではなく、方向性の正しさを信じて前進し続ける。このマインドセットこそが、不確実性の高いAI時代に求められるリーダーシップなのでしょう。
結論:変革か、淘汰か
三木谷氏の講演は、一つの明確なメッセージに集約されます。それは「変革しなければ淘汰される」という厳しい現実です。AI時代において、現状維持は後退を意味します。なぜなら、競合他社も、新興企業も、そして異業種からの参入者も、すべてがAIを武器に進化し続けているからです。立ち止まることは、相対的に遅れることなのです。しかし、変革は容易ではありません。データ基盤の整備には投資が必要です。人材の育成には時間がかかります。組織文化の変革には抵抗が伴います。多くの企業がAI導入で苦戦しているのは、技術的困難よりも、これらの組織的・文化的障壁が原因でしょう。楽天の事例が教えてくれるのは、「段階的なアプローチ」の重要性です。いきなりすべてを変えることはできません。しかし、明確なビジョンを持ち、一つずつ課題をクリアしていく。この積み重ねが、やがて大きな変革につながります。データ、実行力、人材。三木谷氏が挙げた3つの要素は、相互に関連しています。データがあっても実行できなければ意味がありません。実行力があっても、それを担う人材がいなければ持続しません。人材がいても、活用すべきデータがなければ価値を生み出せません。つまり、AI戦略は総合的なものでなければならないのです。部分最適ではなく、全体最適。短期的な成果ではなく、長期的な競争力。技術導入ではなく、組織変革。この視点の転換こそが、AI時代を生き抜く企業と淘汰される企業を分けるのではないでしょうか。三木谷氏の問いかけ「AI革命の前と後でのビジネスの管理方法は、同じでしょうか」に対する答えは明白です。「同じであるはずがない」のです。そして、その違いを理解し、実行に移せる企業だけが、次の10年を生き残ることができるのでしょう。
Mikitani to engineers: Here’s what’s next
https://rakuten.today/blog/mikitani-to-engineers-heres-whats-next.html
