
楽天グループの未来戦略:三木谷会長兼CEOが描く2026年以降のビジョン
楽天グループの三木谷浩史会長兼最高経営責任者(CEO)が、2026年の年頭所感で同社の今後の展望について語った内容が注目を集めています。29期連続の成長を遂げた同社は、モバイル事業の黒字化やAI技術の本格展開など、新たな成長段階に入ったことを明らかにしています。
楽天モバイルが転換点を迎える
三木谷氏は、楽天モバイルの契約者数が2025年末に1,000万件を突破したことを重要なマイルストーンとして挙げました。同氏によれば、楽天モバイルの立ち上げは単なるサービス追加ではなく、デジタル社会における重要なインフラ構築を目指したものだということです。スマートフォンは今や、単なる通話ツールではなく、財布やテレビ、図書館、パーソナルアシスタントとしての役割を果たしています。楽天モバイルは、手頃な価格と透明性の高いサービスで顧客の信頼を獲得し、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)ベースで黒字化を達成しました。これにより、楽天エコシステム全体の成長エンジンとしての役割を果たし始めているということです。さらに、楽天モバイルのために開発された技術は、楽天シンフォニーを通じて世界的な注目を集めています。クラウドネイティブソフトウェアやプラットフォームソリューションは、世界中の大手通信事業者に採用されており、日本国内での通信革命が国際的なビジネスへと発展しつつあります。
AI技術の実用化が加速
AI技術についても、三木谷氏は実験段階から実用段階への移行を強調しました。楽天グループは、約7,000億のパラメータを持つ独自の大規模言語モデル「楽天AI 3.0」を開発中です。ただし、LLMの開発自体が目的ではなく、顧客体験の向上と満足度の向上が真の目標だということです。同社はすでに70以上のAI活用サービスやソリューションを展開しています。ショッピングアシスタント、旅行のパーソナライゼーション、金融インサイトなど、各サービスは利用者の利便性を高めるよう設計されています。特筆すべきは、楽天モバイルのビジネスサポートシステムの内製化プロジェクトです。AIをコーディング、テスト、デザインに活用することで、当初4年かかると見込まれていたプロセスを約1年で完了できる見通しだということです。これは、長期的なコスト削減と柔軟性の向上につながるとしています。
音声インターフェースとスーパーアプリ構想
三木谷氏は、将来的に音声が主要なインターフェースになるとの見解を示しました。「人々は今後、タイピングを続けることはないだろう」と述べ、音声とAIエージェント、プロアクティブなサービスが、ユーザー体験を根本的に変えると予測しています。楽天グループの各事業は現在、独自のAIエージェントを開発中です。三木谷氏は、これらを統合する「マザーエージェント」の構想を語り、全ての楽天サービスがシームレスに連携することを目指しています。現在、楽天グループは数十種類のアプリを運営していますが、この複雑さは今後意味をなさなくなるということです。フィンテック分野を皮切りに、サービスを統合した単一のスーパーアプリへの移行を計画しています。高速ネットワークと高性能デバイスの普及により、AI駆動型のインターフェースがこれを可能にするとしています。
人材育成への強いコミットメント
技術革新が進む中でも、三木谷氏は人材育成の重要性を強調しました。2026年には、自身の時間の約25%を国内外での採用と人材育成に充てる計画だということです。昨年、同氏は新卒入社者約300人と個別に面談を行いました。この経験を通じて、組織内に存在するエネルギー、好奇心、可能性を再認識したということです。楽天モバイルショップでの起業家育成プログラムなど、若手社員に実際の責任を与え、地域コミュニティとサービスをつなぐ機会を提供する取り組みも進めています。技術がいかに進化しようとも、最終的には人材が企業の到達点を決定するという信念が背景にあります。
営業利益1兆円という野心的な目標
楽天グループは長期目標として、営業利益1兆円を掲げています。これは野心的な目標ですが、三木谷氏は現在の進捗状況に基づいた現実的なものだと強調しました。同氏は最後に、今後の道のりは困難であると同時に刺激的なものになるだろうと述べました。楽天は、長期的思考、大胆な意思決定、そして人々への根本的な信頼に基づいて構築された独自の企業であり、2026年以降、楽天にとって最良の時代が訪れると確信していると締めくくっています。
過去の大規模投資が実を結び始め、モバイル事業の黒字化とAI技術の本格展開という新たな成長段階に入った楽天グループ。その未来戦略は、技術革新と人材育成のバランスを重視した、持続可能な成長モデルを目指すものとなっています。

私見と考察:AIとモバイルが切り拓く新次元と、直面する構造的課題
通信の壁:1,000万回線の達成と収益化のジレンマ
契約者数1,000万件突破は、楽天モバイルが「社会インフラ」として市民権を得た証です。EBITDA黒字化により、これまでの巨額投資がグループの純利益を削る「出血期」を脱し、他サービスへ顧客を流し込む最強の呼び水となることが期待されます。しかし、ユーザーの多くは「楽天ポイント」や「低料金」を求めて流入した層です。ARPU(1人あたりの平均収入)を上げるために料金改定やポイント付与の制限を行えば、即座に他社へ流出するリスクがあります。「安さ」や「楽天経済圏」以外の、楽天モバイルでなければならない「体験価値」を、2026年中にどれだけ多く提示できるかが最大の壁となります。
インターフェースの変革:独自AIとマザーエージェントの理想と現実
「タイピングの終焉」を掲げる三木谷氏のビジョンは、EC体験を再定義します。楽天AI 3.0による「マザーエージェント」が、金融から旅行までをワンストップで解決する未来は、AppleやGoogleのプラットフォームに依存しない、日本独自の「巨大な知能経済圏」を生み出す可能性を秘めています。技術的な期待は大きいものの、AIによる全自動化は、楽天がこれまで強みとしてきた「出店者とユーザーの繋がり(商店街モデル)」を希薄化させる恐れがあります。AIが「効率」だけを追求した結果、楽天市場の持つ「買い物の楽しさ」や「多様性」が失われないか。アルゴリズムの最適解と、人間の感情的な購買体験をどう両立させるかが問われます。
組織のスピード感:AI駆動の開発加速と技術的負債の制御
BSS(基盤システム)構築を4年から1年へ短縮したAI活用は、グローバルで見ても驚異的なスピードです。これにより、楽天シンフォニーを通じた「通信技術の輸出」が加速し、ソフトウェアのライセンス収入という高利益なビジネスモデルへの転換が期待できます。爆速開発の裏では、システムの複雑化(スパゲッティ化)が進みやすくなります。特に金融・通信という「1秒の停止も許されない」インフラにおいて、AIが書いたコードの保守・運用を人間がどこまでコントロールし続けられるか。スピードを優先するあまり、セキュリティやシステムの堅牢性に綻びが出ないか、組織的な監視体制が不可欠です。
リーダーシップの継承:三木谷氏の25%のコミットと次世代の育成
CEO自らが時間の4分の1を採用と育成に充てる姿勢は、組織に創業時のような熱量を再注入します。「楽天モバイルショップを起業家育成の場にする」といった取り組みは、若手に現場の厳しさと経営視点を教え、AI時代にも生き残れる「自律型人材」を輩出することが期待されます。一方で、三木谷氏の強烈なリーダーシップへの依存度は依然として高く、氏の直感や情熱が組織の隅々にまで届かなくなった瞬間に、成長が止まるリスクがあります。「三木谷イズム」を言語化・システム化し、AIという冷徹なツールと、人間特有の熱いマインドセットを融合させた「ポスト三木谷」の集団指導体制を2026年以降に構築できるかが、長期的な存続の鍵です。
まとめ:不確実な未来に賭けを続ける稀有な挑戦者
まさに、数々の課題があるのは事実です。しかし、楽天グループほど「リスクを恐れず未来を自ら作りに行く」姿勢を貫く日本企業は他にそれほど多くはないのかもしれません。保守的な企業が多い中で、数兆円規模の投資を断行して自前の通信網を築き、AIを「効率化の道具」ではなく「インターフェースの革命」として捉え直すその胆力。楽天は常に「全速力で走りながら改善する」というベンチャー精神をいまだ失っていません。営業利益1兆円という目標の成否以上に、これほどまでに野心的で、技術と人間力の融合を本気で信じている企業が存在し続けている事実。技術革新と人材育成の両輪で走り続けるその先に、いったいどんな光景が見えてくるのでしょうか。
My view for Rakuten in 2026 and beyond
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