楽天AI、2025年の軌跡:エージェント型AIの本格展開

2025年、楽天AIは生成AIソリューションの集合体から、楽天エコシステム全体を支える本格的なエージェント型プラットフォームへと進化しました。国家プロジェクトへの選定、HPとの協業、そして日本最大級のAIモデル開発など、画期的な成果を次々と実現した一年となりました。

1月:AI-nization宣言と法人向けサービス開始
三木谷浩史会長兼社長は新年の挨拶で「AI-nization」イニシアチブを改めて強調しました。楽天モバイルは「Rakuten AI for Business」を立ち上げ、技術的専門知識がなくても企業が生成AIを活用できるサービスを提供開始しました。月末の楽天新春カンファレンスでは、AI活用事例や物流強化など、楽天市場の未来戦略が共有されました。

2月:オープンソース貢献と配送ロボット拡大
楽天初のMoE方式日本語LLM「楽天AI 2.0」がオープンソース化され、前バージョンの8倍の性能で「クラス最高」スコアを達成しました。小規模言語モデル「楽天AI 2.0 mini」もリリースされました。Avride社の先進ロボットを追加した自動配送サービスが東京で拡大し、初のB2Bイベント「Rakuten Ad & Marketing Day 2025」では大丸松坂屋百貨店がAI活用による来店・購買増加の成功事例を紹介しました。

3月:グローバル展開とスポーツへの応用
MWC Barcelonaで楽天シンフォニーがAI駆動型通信イノベーションを披露し、業界の注目を集めました。楽天GORAは楽天技術研究所、慶應義塾大学、楽天インドと協力開発したAIゴルフスイング分析ツールを楽天ゴルフスコアマネジメントアプリに導入し、ゴルファーのスキル向上を支援する新サービスを開始しました。

4月:欧州拠点設立とインドでの大規模イベント
パリに楽天テックセンターヨーロッパを設立し、AI、クラウド、プラットフォーム開発などの専門家50名以上を擁する欧州技術ハブが誕生しました。楽天インドでは「Machine Speed, Human Ingenuity」をテーマにRakuten Product Conference 2025を開催し、NVIDIA幹部を含む2万人以上が参加してAIの未来について議論しました。

5月:ネットワーク最適化と保険AI導入
楽天モバイルと楽天シンフォニーは、世界初の全国規模商用RICプラットフォームを4G/5G Open RANネットワークに導入し、ネットワークエネルギー消費を最大20%削減する見込みです。楽天損害保険は業界初のAIアバター(ベータ版)を自動車保険見積もりシミュレーションに導入し、オンライン保険加入の心理的ハードルを低減しました。

6月:Edge AI実証実験とソフトウェア開発革新
楽天モバイル、AWL、楽天ヴィッセル神戸が総務省のDX推進プロジェクトに選定され、ノエビアスタジアム神戸でEdge AI技術による大規模施設の通信負荷最適化実証実験を開始しました。楽天はAnthropic社のClaude Codeを活用してソフトウェア開発を変革し、市場投入時間の短縮を実現しました。DTW Ignite 2025では、Cai TingがAI-nization戦略について基調講演を行いました。

7月:国家プロジェクト選定と「Rakuten AI Optimism」開催
経済産業省とNEDOが推進するGENIACプロジェクト第3期に選定され、メモリ容量を大幅拡張した次世代AI基盤モデルの研究開発を8月に開始しました。年次カンファレンスを「Rakuten AI Optimism」と改名し、7月30日〜8月1日にパシフィコ横浜で開催。初日に「楽天AI」の本格始動を発表し、ショッピングから教育まで楽天エコシステム全体をシームレスに統合するエージェント型プラットフォームとして披露しました。三木谷氏とCai Tingが基調講演でビジネスプランから宿題支援まで幅広い機能を実演しました。

8月:楽天AI本格稼働とエコシステム統合の加速
7月末から8月初旬のRakuten AI Optimismで発表された楽天AIが本格稼働を開始しました。一般ユーザー向けにhttps://ai.rakuten.co.jp/chatでサービスが公開され、ショッピング、旅行、金融、エンターテインメントなど楽天エコシステム全体と統合されたエージェント型AIとして、日常生活のさまざまな場面でユーザーをサポートするプラットフォームが始動しました。GENIACプロジェクトの一環として、メモリ拡張技術を統合した次世代AI基盤モデルの本格的な研究開発も進められました。

9月:旅行予約と金融サービスのAI化
楽天トラベルが「楽天トラベルAIホテル検索」を開始し、自然言語理解、Web検索統合、地図・リスト比較表示などの機能で、膨大なレビューと予約データに基づくカスタマイズされたホテル推奨を提供開始しました。楽天銀行の鳥林智隆社長は、AI時代の組織改革について、新マーケティング部門設立や営業組織強化など、楽天エコシステムとAIを融合させた戦略を説明しました。

10月:フリマアプリと広告予測へのAI統合
楽天ラクマがAI画像解析による商品情報自動推奨機能を開始し、コメ兵のデータを活用して100以上の高級ブランドを含む正確な商品情報作成を支援しました。楽天は70以上のサービスと広告主データを活用する「未来購買予測」サービスを開始し、AIが人間には予測困難な需要を特定して将来の購入者を予測する革新的な広告技術を提供開始しました。

11月:HP協業とオンデバイスAI展開
楽天と日本HPがHP PCへの楽天AIオンデバイス機能統合を発表しました。2026年春〜夏に提供開始予定のデスクトップ版楽天AIは、日本語最適化LLMをローカル実行し、クラウド・エッジ・デバイス間のインテリジェントルーティングでオフライン継続性とコスト削減を実現します。第17回楽天テクノロジーカンファレンスでは、Cai Tingらがエージェント型AIの未来を語りました。

12月:日本最大級AIモデル発表と表彰
GENIACプロジェクトの成果として、約700Bサイズの日本最大級高性能AIモデル「楽天AI 3.0」を発表しました。楽天AIゲートウェイを通じて楽天サービス全体に展開予定です。楽天と楽天モバイルは「楽天モバイルAIアシスタント2.0」の開発により、JIPDEC第43回IT賞2025の情報技術賞(カスタマーエクスペリエンス革新分野)を受賞しました。

まとめ
2025年、楽天はエージェント型AIの本格実装に向けて大きく前進しました。日本語最適化LLM開発、多様なサービスへのAI統合、国際パートナーシップ構築を通じて、2026年にはさらなる革新が期待されています。​​

私見と考察:楽天AIが示す日本のAI戦略の新しい可能性

日本語最適化という戦略的選択の意義
2025年の楽天AIの取り組みを振り返ると、同社が一貫して「日本語と日本文化に最適化されたAI」という明確な戦略を貫いていることが印象的です。グローバルなAI開発競争において、OpenAIやGoogle、Anthropicといった米国企業が圧倒的な存在感を示す中、楽天は敢えて日本語特化という差別化戦略を選択しました。この選択は単なる市場戦略ではなく、AI技術の本質的な課題に対する深い理解に基づいているように思われます。大規模言語モデルは学習データの質と量に大きく依存しますが、日本語は英語に比べてデータ量が圧倒的に少なく、文化的文脈も大きく異なります。楽天は楽天市場、楽天トラベル、楽天銀行など70以上のサービスを通じて蓄積された膨大な日本語データと、日本人の行動パターンを持っています。この「データの地の利」を活かした開発は、極めて合理的な戦略と言えるでしょう。

エージェント型AIへの進化が意味するもの
2025年の最も重要な転換点は、単なる「質問応答型AI」から「エージェント型AI」への進化でした。7月のRakuten AI Optimismで本格始動した楽天AIは、ユーザーの意図を理解し、楽天エコシステム内の複数のサービスを横断して実際にタスクを実行できるプラットフォームです。これは単なる技術的進歩ではなく、AIの利用形態における根本的なパラダイムシフトを示しています。従来のAIは「答えを教えてくれる」存在でしたが、エージェント型AIは「実際に行動してくれる」存在です。ホテルの検索から予約、商品の推奨から購入サポート、金融商品の提案から申し込み支援まで、楽天AIは情報提供にとどまらず、ユーザーの目的達成を支援するパートナーとなりつつあります。この進化の鍵となるのが、楽天が構築してきた巨大なエコシステムです。Amazon、Google、Appleといったプラットフォーム企業もエージェント型AIを開発していますが、楽天は日本市場において、EC、旅行、金融、通信、エンターテインメントという幅広い領域で強力な基盤を持っています。このエコシステムの広がりと深さが、エージェント型AIの実用性を大きく高めているのです。

オープンソース戦略の深謀遠慮
楽天が2月に楽天AI 2.0をオープンソース化した決断は、一見すると自社の競争優位性を手放す行為に見えますが、実は極めて戦略的な選択だったと考えられます。オープンソース化には複数のメリットがあります。第一に、日本のAI開発コミュニティ全体の底上げに貢献することで、長期的には日本語AIの技術水準向上につながります。第二に、外部の開発者や研究者からのフィードバックを得ることで、モデルの改善速度が加速します。第三に、「日本語AIのデファクトスタンダード」としての地位を確立できる可能性があります。さらに重要なのは、楽天の真の競争優位性が基盤モデルそのものではなく、エコシステムとの統合、ユーザーデータ、そして実装ノウハウにあるという自信の表れでもあります。基盤モデルをオープン化しても、それを実際のビジネスに活用する能力は簡単には模倣できません。これは、真に成熟したAI戦略の証と言えるでしょう。

HP協業が示すオンデバイスAIの重要性
11月に発表された日本HPとの協業は、AI戦略における次の重要なフロンティアを示しています。2026年春〜夏に提供予定のデスクトップ版楽天AIは、クラウドだけでなくローカルデバイス上でも動作します。この「ハイブリッドアプローチ」は、AI技術の実用化における本質的な課題に対応しています。クラウドAIはレイテンシ(遅延)、プライバシー、コストの問題を抱えています。特に日本では個人情報保護への意識が高く、機密情報をクラウドに送信することへの抵抗感が強い傾向にあります。オンデバイスAIは、これらの課題を解決します。プライベートなタスクはローカルで処理し、より複雑なタスクや最新情報が必要なタスクのみクラウドを利用するインテリジェントルーティングは、ユーザー体験とプライバシー保護を両立させる理想的な解決策です。また、この協業は楽天のAI戦略が単なるソフトウェア開発にとどまらず、ハードウェアメーカーとの連携を通じてエコシステムを拡大する段階に入ったことを示しています。スマートフォンだけでなくPC市場にも展開することで、楽天AIはユーザーの仕事環境にも深く入り込むことになります。

GENIAC選定が持つ国家戦略的意義
7月に発表されたGENIACプロジェクト第3期への選定は、楽天のAI開発が単なる企業活動ではなく、日本の国家戦略の一翼を担うものとして認識されていることを示しています。現在、AI技術開発は米国と中国の二強体制となっており、日本を含む他の国々は大きく後れを取っています。この状況において、日本政府が楽天を選定したことは、民間企業の技術力とビジネス実装能力を活用して国際競争力を高めようとする明確な意図の表れです。12月に発表された約700Bサイズの楽天AI 3.0は、GENIACプロジェクトの成果として開発された日本最大級のAIモデルです。このモデルは、メモリ容量を大幅に拡張する新技術を統合しており、従来の生成AIの限界を克服する可能性を秘めています。ここで注目すべきは、楽天が「オープンウェイト」モデルとして開発していることです。完全にクローズドなプロプライエタリモデルでもなく、完全にオープンソースでもない、この中間的なアプローチは、技術の民主化と競争優位性の維持を両立させる現実的な選択と言えます。

楽天エコシステムの真価が問われる時代へ
楽天の最大の強みは、長年かけて構築してきた巨大なエコシステムです。しかし、AI時代においてこのエコシステムは単なる「サービスの集合体」から「統合されたインテリジェントプラットフォーム」へと進化する必要があります。2025年の取り組みを見ると、楽天は着実にこの進化を実現しています。楽天トラベルAIホテル検索、楽天ラクマのAI商品情報推奨、未来購買予測など、個別サービスへのAI統合が進む一方で、楽天AIという統一されたインターフェースを通じてこれらすべてにアクセスできる構造を構築しています。これは、ユーザーにとって革命的な体験をもたらす可能性があります。例えば、「来月の家族旅行を計画したい」という一つの要望に対して、楽天AIは旅行先の提案、ホテルの予約、レンタカーの手配、旅行保険の提案、そして旅行資金の一部を楽天ポイントで支払う提案まで、エコシステム全体を横断して最適なソリューションを提供できるのです。ただし、この統合には技術的課題だけでなく、組織的・文化的課題も伴います。楽天グループ内の各サービスは独立性が高く、それぞれが独自の文化とシステムを持っています。これらを真に統合されたエクスペリエンスとして提供するには、技術的統合以上に、組織横断的な協力体制と共通のビジョンが必要です。三木谷氏が強調する「AI-nization」は、まさにこの組織文化の変革を目指すものと理解できます。

2026年以降の展望:日本発グローバルAIプラットフォームへの道
2025年の成果を踏まえて、2026年以降の楽天AI戦略には大きな期待が寄せられます。最も注目されるのは、春〜夏に予定されているHP PC向け楽天AIの提供開始でしょう。これが成功すれば、楽天AIはスマートフォンの枠を超えて、ユーザーの仕事環境にも浸透することになります。また、楽天AI 3.0の本格展開により、より高度な自然言語理解と長期記憶を持つAIアシスタントが実現するでしょう。これまでのAIは会話の文脈を数ターン程度しか記憶できませんでしたが、メモリ拡張技術により、数週間、数ヶ月にわたる長期的な関係性を構築できる可能性があります。さらに、楽天エコシステムの海外展開とともに、楽天AIも国際展開する可能性があります。日本で培った技術とノウハウを、他のアジア市場に展開することで、「日本発のグローバルAIプラットフォーム」という野心的なビジョンが現実味を帯びてきます。

日本のAI戦略のロールモデルとして
2025年の楽天AIの取り組みは、日本企業がグローバルなAI競争において独自の地位を築く可能性を示しました。米国企業の汎用的なアプローチとは異なり、楽天は日本語と日本文化への最適化、既存エコシステムの活用、オンデバイスAIによるプライバシー保護という、明確な差別化戦略を展開しています。特に重要なのは、楽天がAIを単なる技術として捉えるのではなく、ユーザーの日常生活を豊かにするためのツールとして位置づけていることです。ビジネスプランの作成から数学の宿題支援、旅行計画から保険契約まで、AIが人々の実際の課題解決を支援する「エージェント」となることを目指しています。また、オープンソース化と国家プロジェクトへの参画を通じて、楽天は日本のAI技術全体の底上げにも貢献しています。これは単なる企業の社会貢献ではなく、長期的な技術エコシステムの発展が自社の競争力向上にもつながるという、戦略的な視点に基づいています。2026年以降、楽天AIがどこまで進化し、どのような新しい体験を提供するのか、大いに注目されます。日本企業による、日本人のための、そして将来的には世界中の人々のためのAIプラットフォーム。その実現に向けて、楽天は着実に歩みを進めています。グローバルなAI競争において、規模では米国企業に及ばないかもしれませんが、特定市場への深い理解、統合されたエコシステム、そしてユーザー中心の設計という点で、楽天は独自の価値を提供できる可能性を持っています。2025年はその可能性が現実のものとなり始めた年として、日本のAI史において記憶されることになるでしょう。​​​​​​​​​​​​​​​​

Rakuten AI in 2025: Embracing Agentic AI
https://rakuten.today/blog/rakuten-ai-in-2025-embracing-agentic-ai.html

Rakuten AI in 2025: Embracing Agentic AI2025 marked Rakuten AI’s pivotal transformation into a full-fledged agentic platform, empowering users across the Rakuten Ecosystem.rakuten.today