映画評「おとなのけんか」(2011年/フランス・ドイツ・ポーランド・スペイン)

2011年/フランス・ドイツ・ポーランド・スペイン/79分 監督・脚本:ロマン・ポランスキー 原作・脚本:ヤスミナ・レザ 撮影:パヴェル・エデルマン 製作:サイド・ベン・サイド 美術監督:ディーン・タヴォウラリス 出演:ジョディ・フォスター/ケイト・ウィンスレット/クリストフ・ヴァルツ/ジョン・C・ライリー

子供同士の喧嘩がきっかけで親同士が集まって、大人同士で喧嘩する話。アメリカ英語のぶつけ合いなので、日本人にはつまらないかもしれない。何回観ても楽しめそうな完成度の高さが印象的。フランスで撮影し、フランス人が原作を書いた、フランスが舞台の劇なのに、あえてアメリカを舞台にしている部分にも興味を持った。79分という短い上映時間内に、限定された4人の登場人物が、言葉と感情をたたみかけ、たたみかけ、たたみかける。神経質で細かく暗い罵りあいではなくて、激しい感情の爆発があるので、なぜか見ていて楽しい。日本映画だとこんなふうにならない。ストレートに表現できても、強烈。アメリカ英語のすばらしさとこわさを感じる。ストーリーを考えると、登場人物たちは本来ならそもそも会わないと思う。もしも話しあうとしたら、第三者を呼んで、子供同士の立場を客観的に見て時系列に沿って話しあうべきかと思うが、みんな自分がかわいいあまりに子供たちから逸脱して話題がどんどん脱線していく。敵と味方の立場もあいまいになっていく。立場としては、観客は傍観者。「こんなやつはいないだろ」と笑いつつも、どこかで自分と重ね合わせて考えてしまう。よくできた風刺劇だ。ずっと喧嘩しているわけではなくて、嘔吐と酒とハムスターと携帯電話が小粋なアクセントとなっている。嘔吐でゆさぶりをかけ、酒で加速して、ハムスターで別次元に行き、携帯電話がそれをさえぎりながら独特の存在感を放つ。特に携帯電話はもう一人の登場人物といっても過言ではない。話の途中で急に鳴りはじめるので、見ている側もイライラする。電話での激しい口調が、4人で丁寧な言葉使いで築きあげた人間関係を崩壊していてハラハラする。観客と役者の間での一体感ができる。最後も瞬間的な面白さがある。限定された室内劇だが、リズムよくアクセントを配置することにより、場面に広がりを持たせている。演技としてはこの4人は最高だ。特に、涙を流して感情を大爆発させるジョディ・フォスターがすごい。彼女の感情のほとばしりは、達成感すら感じさせられ、見ていて痛快だった。エスプレッソやケーキやスコッチや葉巻を与えられるたびに喜んで楽しみ、妻や子供に対しての愛情が希薄で、言葉の攻撃力に敏感で、携帯電話で実現可能な強い口調を愛し、人間関係や自分からも少し距離を置いている弁護士役のクリストフ・ヴァルツの演技が、オーストリア生まれだけあって、アメリカ人っぽくない、原作のフランス的な感性で描かれていて魅力的だった。この映画の監督はロマン・ポランスキーだ。個人的な事情でアメリカで撮影できないのに、一流のスタッフを呼び寄せてじっくりしたリハーサルの時間をかけて作れるのも、一流だけのなせる技だ。スクリーンのサイズや、構図、カメラワーク、人物のアップ、カット割りで緊張感と臨場感を持たせることに成功している。最後、彼らは、どう別れたのか。その後の経緯はよくわからないが、今でも仲良く喧嘩しているのではないか。ここまで心をさらけ出すことは、現実ではなかなか得られない。貴重な人間関係だ。本音をぶちまけた開放感があって、なぜかすがすがしい気分になった。