
楽天シンフォニー、スリランカのSLTモビテルとOpen RAN試験運用へ
楽天グループ傘下の通信事業会社である楽天シンフォニー株式会社は、スリランカの大手通信事業者SLT-MOBITEL(SLTモビテル)と協力し、同国において4Gおよび5G(NSA方式とSA方式)のOpen RANネットワークを試験導入するパイロットプロジェクトを実施することで合意しました。両社が締結した覚書(MoU)により、この試験運用は南アジア地域でも初期の本格的なOpen RAN導入例となる見込みです。
Open RANとは何か?従来との違い
まず「Open RAN(オープンラン)」とは何でしょうか。一般に携帯電話のネットワーク(RAN=無線アクセスネットワーク)は、基地局などの機器一式を特定ベンダーがまとめて提供するのが普通でした。例えばこれまで通信キャリアはエリクソンやノキア、ファーウェイといったメーカーの機器を一括採用し、他社製と混在させることは難しい「ベンダーロックイン」の状態でした。しかしOpen RANは、無線機(Radio Unit, RU)と制御装置(基地局の頭脳にあたる中央装置CU=Centralized Unitや分散装置DU=Distributed Unit)などをオープンなインターフェースで接続できるよう標準化した仕組みです。これにより、異なるメーカーの機器を自由に組み合わせてネットワークを構築できるようになります。その結果、通信事業者は単一ベンダーへの依存を減らし、より低コストな機器や最先端技術を柔軟に採用できるメリットがあります。Open RANではネットワーク機能の仮想化・ソフトウェア化が進んでおり、クラウド上で基地局の制御を行うことで設備導入や更新のスピードが飛躍的に向上します。従来は新しい基地局を設置するのに何日もかかっていた作業が、自動化されたソフトウェア処理によって数分で完了するといった事例も報告されています。こうした柔軟性と迅速性こそがOpen RANの大きな魅力です。
Rakuten SymphonyとSLTモビテルの協業内容
今回の楽天シンフォニーとSLTモビテルの協業では、楽天シンフォニー側が持つ先進的なOpen RANプラットフォームが活用されます。具体的には、楽天シンフォニーが開発した仮想化されたCU/DU(中央・分散装置)のインフラに加え、Open RAN仕様に適合した第三者製の4G/5G対応無線ユニット(RU)を組み合わせて、新しいネットワークを構築する計画です。言い換えれば、楽天シンフォニーがソフトウェア中心の基地局制御技術を提供し、アンテナなどのハードウェア部分はOpen RANに対応した他社製品もうまく組み合わせて使おうという試みです。これによって、SLTモビテルはより柔軟で拡張性の高いネットワークインフラを短期間で構築できると期待されています。
今回のパイロットプロジェクトは南アジアで初のOpen RAN本格展開になるとも言われており、将来的にはこの試験結果を踏まえてスリランカ全国規模でのOpen RAN導入へと発展する可能性があります。SLTモビテルにとっても、5G本格展開に向けて最先端のネットワークを実現する重要なステップとなるでしょう。実際、SLTモビテルは南アジア地域で初めて3.5G(HSPA+)や4G LTEを導入した実績を持ち、5Gの試験も行ってきた革新的な企業です。そのような先進的ICT企業であるSLTモビテルが楽天との協業でOpen RANに踏み切ることは、同社が引き続き技術革新をリードしようとしている姿勢の表れと言えます。
日本発のOpen RAN戦略と政府支援
楽天シンフォニーと聞いて「楽天が通信インフラ?」と驚く方もいるかもしれません。楽天シンフォニーは、日本で楽天モバイルとして携帯キャリア事業を展開する楽天グループが、そのネットワーク技術を海外事業者にも提供する目的で設立した子会社です。楽天モバイルは2019年に日本で携帯電話サービスに新規参入し、世界で初めてOpen RANベースの完全仮想化クラウドネイティブな大規模商用ネットワークを構築したことで知られます。自社ネットワーク運用で培ったそのノウハウをまとめたプラットフォームが楽天シンフォニーによる「Rakuten Open RANソリューション」であり、海外への展開が積極的に進められてきました。今回のSLTモビテルとの協業もその一環と言えます。
興味深いのは、この楽天のグローバルOpen RAN展開を日本政府が後押ししている点です。楽天モバイル(楽天シンフォニーの親会社)が主導する形で、日本政府の支援を受けた包括的な戦略の一環として世界各国でOpen RAN普及プロジェクトが進められています。目的は、通信ネットワーク機器のサプライチェーン多様化(vendor diversification)と通信インフラ競争力・安全保障の強化にあります。近年、特定の海外メーカーに依存しないオープンなネットワーク構築は各国にとって戦略的な課題となっており、日本も補助金や技術開発支援を通じて国産技術の活用やオープン技術の国際展開を図っています。
楽天シンフォニーと楽天モバイルは、国立研究開発法人NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発」プロジェクトに採択され、Open RANの統合基盤技術や自動化技術の研究開発にも取り組んできました。今回のスリランカでの試験には、そうした研究成果も活用される予定です。実際、楽天シンフォニーはこれまでもインド、ベトナム、クウェート、ケニアなどで現地通信事業者との提携を通じたOpen RAN実証を展開してきました。直近ではバングラデシュの大手通信事業者グラミンフォンとの協業も発表されており、南アジア地域でOpen RANの波が広がりつつあります。このように、日本発のOpen RANソリューションが新興国を中心に世界各地で採用され始めているのです。

Open RAN導入がもたらすメリット
楽天シンフォニーによれば、Open RANの導入によりネットワークの総保有コスト(TCO)の改善や運用モデルの効率化、サービスの市場投入までのリードタイム短縮といった効果が期待できるとしています。自社のクラウドネイティブ技術を用いれば、基地局の設置・構築作業を徹底的に自動化できるため、少ない人員でも短期間で広域にネットワークを展開できると楽天シンフォニーは自負します。またソフトウェアアップデートによって機能向上や不具合修正が迅速に行えるため、ネットワーク品質の向上や顧客体験の改善にも繋がるといいます。実際、楽天モバイルは自社ネットワークで、AIを用いた自動最適化やエネルギー効率化など新しい試みを次々と実証してきました。そうした経験がSLTモビテルにも提供されれば、より高度で安定したサービスをエンドユーザーに届けられるようになるでしょう。
一方、SLTモビテル側も今回の協業への期待を表明しています。同社のMobitel部門COOであるスダルシャナ・ギーガナッジ氏は「楽天シンフォニーとの協業を通じて、南アジアにおけるOpen RAN展開を牽引できることを嬉しく思います。今回の取り組みは、サービスを強化するために次世代技術の実装に注力するという当社の姿勢を示すものです。Open RANは、これまでにないネットワークの柔軟性とイノベーションをもたらし、SLTモビテルが優れた顧客価値を提供し、スリランカのデジタル経済の成長を支援することを可能にします」と述べています 。つまり、ネットワークの柔軟性向上=新しいサービスへの迅速な対応や革新的なソリューションの導入につながり、結果的に利用者へのサービス品質向上と国全体のデジタル化推進に貢献すると見ているわけです。
今後への期待と課題
今回の楽天シンフォニーとSLTモビテルの提携は、日本発のOpen RAN技術が海外で評価され、本格導入に踏み出す象徴的なケースとして注目できます。特にスリランカはまだ5G商用サービスが本格展開されておらず、これからネットワークを整備していくフェーズにあります。そうした国にとって、柔軟でコスト効率の高いOpen RANは既存インフラに縛られずに最新技術で一気に飛躍できるチャンスと言えるでしょう。日本政府の支援も受けた形で楽天のテクノロジーが導入されることは、両国の関係強化や技術交流の面でもプラスに働くかもしれません。さらにこの成功例が示されれば、南アジアや他の新興国でも「自国の通信インフラをOpen RANで構築しよう」という動きが加速する可能性があります。
もっとも、Open RANの未来がバラ色かというと必ずしも楽観視ばかりはできません。世界の通信業界全体では、依然として大手ベンダーの安定したソリューションを支持する声も根強く、Open RANの採用拡大は現時点では慎重に見極められている段階です 。Open RAN機器間の相互接続の検証や、大規模ネットワークでの性能確保など、課題も多いと言われます。しかし、新興国のニーズやコスト要件に合致したオープン技術の魅力は大きく、各国政府の後押しもあって徐々に採用例が増えているのも事実です。楽天シンフォニーは自社の日本での実績を「既に30万局以上の基地局をOpen RANで運用した実績がある」とアピールしており、技術の成熟度を強調しています。今回のSLTモビテルとの試験運用が成功を収めれば、その実証データが信頼性向上につながり、他の通信事業者にとっても貴重なベンチマークとなるでしょう。
結論として、楽天シンフォニーとSLTモビテルのOpen RAN試験導入プロジェクトは、通信業界における新たなイノベーションの波を南アジアから起こす試みと言えます。ベンダーロックインに依存しない開かれたネットワーク構築は、競争促進とサービス向上に寄与する可能性を秘めています。日本発の技術と現地通信事業者の知見が結集する今回のプロジェクトが、スリランカの人々にもたらす価値、将来的に他国への波及効果に期待したいところです。Open RANが真にグローバルスタンダードの一翼を担えるか、注目の取り組みだと感じます。
楽天シンフォニーとスリランカの通信事業者SLTモビテル、Open RAN導入検証に向けた覚書締結を発表
– 南アジアにおけるOpen RAN導入の先駆けとなる試験運用を実施 –
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2025/1028_01.html
