短編小説「深夜コンビニ、地球を救う」

プロローグ

国道13号線、街灯もまばらな田園地帯に、ぽつんと浮かぶようにコンビニのオレンジ色の看板が灯っていた。深夜3時43分。世界は深い静寂に包まれ、遠くで虫の音がかすかに聞こえるだけだった。アスファルトの路面には、街灯の光が反射してオレンジ色の帯が伸びて、異世界への入り口のようだった。コンビニの店内は蛍光灯の冷たい光に満たされ、商品棚に陳列されたカップ麺やスナック菓子、色とりどりの飲料が不自然なほど鮮やかに浮かび上がっていた。空気はひんやりとしていて、かすかに漂うホットスナックの油の匂いと、清掃を終えたばかりの消毒液の匂いが混じり合っていた。レジ横のコーヒーメーカーからは、小さく「ゴボゴボ」という音が規則正しく響き、静寂をかき消すにはあまりにも微力だった。窓の外は漆黒の闇に覆われ、時折遠くを走る車のヘッドライトが白い軌跡を描く。店内には私、アミ一人。22歳。深夜バイトは慣れているとはいえ、この静けさは何となく落ち着かない。外の闇がまるで生き物のように感じられ、じっと私を見つめているような気がした。
「コーヒーマシンのフィルター交換完了。地球の回転に合わせて、豆の挽き具合を0.2%調整しました。地球防衛作戦続行可能です」
低い声が店内に響いた。仕入れを終えてレジに入ってきたジョン・スミス、35歳。名札には「アルバイト ジョン」とあり、冴えない風貌の中年男性だが、その正体は地球防衛の最前線エージェント、らしい。様々な困難なミッションを経て、この田舎町のコンビニにたどり着いたらしい。不意に、耳をつんざくようなノイズが店内に響き渡った。店内に設置された電子機器が一斉に警告音を発し、蛍光灯がチカチカと点滅を始めた。レジの画面には意味不明な記号が走り、防犯カメラの映像は砂嵐に覆われた。
「・・・来たか」
普段はぼーっとしているのに、こういう時だけやけに鋭い眼光で、防犯カメラの映像を食い入るように見つめている。とはいえ、映っているのはただの中年男性。カップ麺とお酒を手にレジに来た。彼の顔色は悪く、地球の危機よりも彼の危機の方が間近に迫っているような気がした。
「いらっしゃいませ」
私は平静を装い、レジを打ち、ビニール袋に客の買ったカップ麺とお酒を入れた。心臓は激しく鼓動していたが、顔には出さない。これが私の仕事。深夜のコンビニ店員、アミの仕事。

第一章

「今日はエイリアン日和だね。気をつけてね」
ジョンは真顔で外を眺める。いろいろおかしいジョンだったが、仕事は完璧。たぶん、未来にロボットが作られたらこんなふうに動くんだろうなと思うくらいに。
「あ。司令官。おはようございます!」
直立不動でジョンが敬礼した。
「どうしたんだい?ジョン。また地球の危機かい?」
店長が現れた。店長は明日の昼に来るはずだ。店長はジョンに退職してもらいたくないので、ジョンに付き合うことに決めていた。
「はい。地球の危機です」
とジョンが真顔で答えた。深夜3時に現れる店長。UFOよりもそっちの方が怖いかも。
「そうか、いよいよ我々の特訓が役に立つ時が来たんだな」
店長が穏やかに笑う。元自衛隊員の店長は休日にはジョンと2人でジムでトレーニングしていた。トレーニングは店長の趣味でもあった。私もたまにジョギングに参加していた。その時、店内の温度が急激に低下し、静電気がパチパチと音を立てる。レジの画面が乱れ、商品棚がかすかに揺れ始める。店のガラスに巨大な影が映り込む。円盤型の飛行物体・・・UFOだ。店の外に降り立ったのは、光り輝く緑色の人型の不定形生命体。
「店長!なんですか?あれ」
「ああ。あれはたまに来るお客様だ」
と店長はのんびり答える。
「ザイゴン星人。高度な生体変形能力を持ち、地球の文化、特にコンビニ文化を侵略するためにやってきたのだ」
ジョンが驚きの表情。5人のザイゴン星人が店に入ってきた。自動ドアが静かに開き、店内に冷たい夜風が流れこんだ。それと同時に、蛍光灯のちらつきが激しくなり、商品の影が壁に大きく揺らめく。彼らはゆっくりと店内を見回し、商品棚に並ぶ見慣れない物たちに、好奇の目を向けている。私は平静を装い、レジに手を置いた。バイト中に宇宙人が来るなんて、マニュアルにはなかったな。心臓は激しく鼓動しているが、表情には出さない。これが深夜のコンビニ店員の私の仕事。

第二章

ザイゴン星人の一隊は遠足に来た子供のように店内を物色し始めた。棚からお菓子を手に取り眺めたり、コピー機やATMを触ったり、冷凍庫を開けて冷気を浴びたりと、やりたい放題だ。その様子を、ジョンは冷や汗をかきながら見つめていた。
「まずい。やつらは地球の文化を、いや、コンビニエンスストアの文化を理解しようとしている!」
私も、この人たちはちゃんとお金を払ってくれるのか、ドキドキしはじめた。ザイゴン星人の1人がコカコーラを手に持ち、ボトルを開けた。ザイゴン星人が群がりコカコーラに注目。コカコーラを、触手のような手のような部分に一滴たらす。手から煙が出て、コカコーラを落とし、全員が悲鳴を上げた。
「ちょっと!まずはレジに来て買ってから品物を開けてください!」
と店長が叫びながらザイゴン星人たちに向かって走る。ザイゴン星人が店長をにらむと、眼光から光線。店長が弾き飛ばされた。
「ちょっと!店の中で暴れないでください!食べるならイートインをご利用ください!」
私がザイゴン星人たちに叫んだ。
「我々は地球を侵略しにきた!我々は地球の文化、特にコンビニ文化を破壊する!」
ザイゴン星人のリーダーが宣言する。
「地球はともかく、この店は私が守る!」
立ち上がって店長が応戦するも、多勢に無勢。またもや店長が倒れた。
「店長!」
私が倒れた店長の元にかけよる。ザイゴン星人たちがゆっくりと近づいてきて、私は思わず悲鳴を上げた。その時、ジョンがメガシャキを一気に飲み干す。
「おまえらの相手は、このおれだ!」
ジョンの目が光り、筋肉が異常に膨張する。ジョンの拳がザイゴン星人の緑色の体に突き刺さり、相手を吹っ飛ばす。衝撃波が店内を駆け巡った。
「すごい!これはもう、スーパーメガシャキ!味はどうだい」
と店長が叫び、ジョンが振り向いて親指を立てる。
「とってもうまい!」
反撃してきたザイゴン星人にさらなる一撃。ザイゴン星人もビーム兵器で反撃。ビームが私に命中。激しい光を浴びて、少し痛い。在庫管理用のタブレットで防御する。
「くっ・・・やつらはコンビニ商品のパワーを理解していない」
ジョンはつぶやき、背中に隠していた特製バックパックを開ける。中には、改造されたコンビニ商品がずらりと並んでいる。
「おお、それは、我が商品!」
店長が目を見開く。ジョンが叫ぶ。
「コンビニ防御システム発動!」

第三章

ジョンは改造からあげクンを次々とレンジで加熱し、ザイゴン星人に発射する。Lチキバズーカも火を噴き、侵略者の体を蜂の巣にする。ジョンは私に語りかけた。
「このからあげクンは、高密度プラズマ兵器。レンジで加熱することで、衣に内蔵された特殊鉱物が反応し、高エネルギー粒子を放出する。量子エネルギー変換効率は3.14159265%!複合合金製の衣は電磁波シールドとしても機能し、ミサイル追尾システムも搭載されている!このLチキは、量子エネルギー変換装置。鶏肉の繊維が特殊量子エネルギーに共鳴し、音速の20倍の衝撃波を生成。宇宙空間でも威力を発揮する。私の改造により連射機能と精密照準機能が追加されている!」
でも、ザイゴン星人も強力なビーム兵器で反撃。何度も受けるととっても痛いので私たちは逃げ惑う。店内は大混乱に陥る。
「くっ。ここまでか・・・」
ジョンが膝をつく。その時、店長が立ち上がり、特製おにぎりを手に取った。
「愛と勇気、コンビニへの情熱・・・そのすべてをこめて一生懸命に握った、おれの最終兵器を受けてみろ!」
店長がおにぎりを投げつけた。でも、店長の放った渾身の一撃は、全く効かなかった。レーザー光線を一斉砲火されて店長が吹っ飛んだ。私は店長が懸命におにぎりを握る姿をいつも見ていたのでとても悲しい気持ちになった。
「ここまでか」
店長にとどめを刺そうとザイゴン星人が迫る。その時、私は飲料品売り場へ走った。コカコーラを2本手に持ち、よく振って、キャップを開ける。襲いかかってきたザイゴン星人の体にコーラがかかる。コーラを浴びたザイゴン星人の体が溶けていく。悲鳴を上げてUFOに逃げていく4人のザイゴン星人。私は店長とジョンに向かって叫ぶ。
「店長は、メントス!ジョンは、コカコーラ!早く持ってきて!」
店にあるありったけのコカコーラのキャップを開けて、メントス投入。コーラがUFOにかかる。虹色の光を放ちながらUFOに亀裂が走る。黒煙を噴き出しながらUFOが夜空に消えていった。

エピローグ

朝。店内は驚くほど綺麗に片付いている。まるで何事もなかったかのように。私はいつも通り在庫チェックを行い、店長は朝のシフトの準備をしている。ジョンはレジを打ちながら、静かにメガシャキの空き缶をゴミ箱に捨てる。
「あのメガシャキ。私も飲んでみたいです」
私は深夜の激闘で眠くなっていた。
「あのメガシャキは戦闘能力増幅飲料。私の生体エネルギーを1000%に増幅する特殊飲料。副作用として一時的な臓器機能の極限状態を引き起こすが、宇宙環境適応能力も付与する」
「うわ。副作用あるんですね」
「君の力は素晴らしい。でも、これからもっと鍛錬が必要だ。地球防衛隊は君のような人材を求めている」
私は少し葛藤した。コンビニよりも、それは時給がいいだろうか。ジョンのようにダブルワークも可能なのだろう。私は目の前のジョンを改めてよく見てみた。一瞬で結論はついた。私は可愛らしく首をかしげて愛想笑いを浮かべた。これが私の流儀。深夜のコンビニ店員、アミの流儀。
「私、ジョギングなら参加しますけど、その活動は辞退します。ここにも、守るべきものがありますから」
「そうだな」
店長が加わる。
「我々3人で、このコンビニと地球を守っていこう」
誰も知らない。この深夜のコンビニで、地球の運命をかけた戦いが繰り広げられていたことを。​​​​​​​​​​​​​​​​そして今日も、レシート要りますか?の問いかけとともに、地球の平和は守られていく。