
AIが通信業界の本質を変える。未来の通信キャリアの姿
通信業界では、新しい技術への期待と実際の導入とのバランスを取ることが常に課題となっています。2025年の楽天テックカンファレンスで、カウンターポイントリサーチのマーク・アインシュタイン氏とのトークセッションに登壇した楽天モバイルの幹部パニート・ハンダ氏は、AI時代の通信キャリアの未来について語りました。このセッションは、楽天モバイルがこれまで構築してきたものを振り返るだけでなく、AI技術が通信業界全体にもたらしている根本的な変化について考える機会となりました。AIは単なるツールではなく、通信キャリアのアイデンティティそのものを作り変えています。私たちは今、単なる通信サービスの提供者から、知能を持った自律的なネットワークを設計する存在へと進化しているのです。
世代交代から知能へ。通信業界の転換点
これまで何十年もの間、通信業界は「G」という世代で語られてきました。3G、4G、5Gと、各世代は新しい速度と新しい機能をもたらしてきました。しかし、アインシュタイン氏が鋭く指摘したように、現在の技術革新の波は新しい無線規格ではなく、AIに関するものです。ハンダ氏は、5Gが速度のために作られたのに対し、6Gは知能のために作られると強調しました。これは非常に重要な違いです。AIを後から追加するのではなく、プロトコルスタック自体に組み込むという、根本的な再設計を意味しています。楽天モバイルはAIファーストとソフトウェアファーストという理念を掲げています。これは単なる効率化ではありません。この理念により、従来の通信事業者を悩ませてきた古いシステムの制約から解放され、より速いデータ通信だけでなく、進化する知能のために設計されたネットワークを構築することができたのです。この先見性が、驚くほど短期間でEBITDA黒字化を達成する原動力となり、戦略的なAI主導の変革が技術的リーダーシップとともに大きな財務的リターンをもたらすことを実証しました。
自動化を超えて:自律的に判断するネットワークの力
手動操作から完全な自律化への道のりは、段階的なプロセスです。自己修復ネットワークについては何年も前から語られてきましたが、高度なAI技術により、これが現実のものとなりつつあります。楽天モバイルは現在、ネットワーク自動化においてレベル3.5の成熟度に達しており、レベル4への明確な道筋が見えています。その規模の大きさを考えてみてください。楽天モバイルは、わずか約250人のエンジニアで35万以上のオープンRAN基地局を管理しています。従来の通信事業者であれば、数千人が必要となる規模です。これは、事前にプログラムされたルールに従うだけでなく、問題を予測し、診断し、自律的に解決できる知能的なシステムによって実現されています。具体的な効果を見てみましょう。データセンターのサーバーに異常が発生した場合、ネットワークは人間の介入を待ちません。自己修復機能により、ワークロードをシームレスに再ルーティングし、サービスの継続性を確保します。AIファーストの運用により、運用コストは25〜30%削減され、ダウンタイムは約30%減少しています。これは顧客体験の向上(障害の減少、より信頼性の高い接続)に直結し、同時に業務の効率化も実現しています。単に物事を速くするだけでなく、これまで達成できなかったレベルの信頼性を持って、より賢く物事を進めているのです。
倫理的な核心:AI化と持続可能なイノベーション
この強力な技術を活用する上で、どのように実現するかが重要になります。AIが労働力に与える影響についての議論で、ハンダ氏はAIを副操縦士として捉えるべきだと強調しました。楽天のAI化という理念は、従業員に力を与え、AIツールを装備させ、人間の創造性が機械の知能によって拡張される文化を育むことを目指しています。これにより、新しい機会、新しい役割、より活気のある熟練した労働力が生まれます。その取り組みの規模を示す数字があります。楽天では、15,000人以上の従業員が日常的に楽天AIを活用しており、その利用量は前年比で1631%増加しています。これは単なる試験プログラムではなく、組織全体でAIが日常化する文化的変革なのです。さらに、環境への配慮も避けて通れない課題です。AIは持続可能性のための強力なソリューションを提供します。楽天モバイル独自のRadio Intelligent Controller(RIC)は、ネットワーク要素を動的に最適化することで15〜20%の省エネルギー化を実現しています。これは、毎月約1億台のスマートフォンを充電するのに相当するエネルギーです。技術の進歩と環境責任が両立できることを示す好例です。
6G、物理的AI、接続された世界
今後を見据えると、AIと他の革新的技術の融合が魅力的な未来像を描いています。物理的AIを通じて、ネットワークはその知能を物理世界へと拡張し、配送ロボットやインテリジェントなインフラストラクチャーなどの自律システムを可能にします。楽天モバイルの自律配送やAI最適化アンテナの取り組みは、このトレンドの初期段階を示しています。非地上系ネットワーク(NTN)サービスにより、困難な地形を含むあらゆる場所への接続を拡大しています。AIは、これらの複雑なハイブリッドネットワークを管理し、パフォーマンスを最適化する上で重要な役割を果たします。さらに先を見据えると、量子コンピューティングはまだ発展途上ですが、現在では解決できない問題を解決できる真のAI能力を引き出す可能性を秘めています。高度な暗号化から非常に複雑なネットワーク最適化まで、量子コンピューティングの応用範囲は広大です。
慎重な変革への呼びかけ
通信業界全体へのメッセージは明確です。AI時代には、慎重で戦略的な変革が求められています。表面的なAI導入ではなく、ネットワーク設計、運用、サービス提供の中核に知能を組み込むことが必要です。古いパラダイムに挑戦する意欲、ソフトウェア中心のアーキテクチャへの投資、AIに精通した労働力を育成する取り組みが必要となります。楽天モバイルの歩みは、AIネイティブな通信キャリアという明確なビジョンを信念を持って追求すれば何が可能になるかを示しています。それは継続的な学習、適応、テクノロジーがアクセスを民主化し、人々の生活を豊かにする力への深い信念の旅です。6Gとその先に向かうにつれて、通信キャリアの本質的なアイデンティティは、回線の速度だけでなく、そこを流れる知能によって定義されるようになります。真につながった集合的な未来を形作っているのです。問題は、もはや業界が変革するかどうかではありません。変革は確実に起こります。問題は、誰がリードし、誰がその未来を形作ることに参加するかです。私たちが信じる未来は、協力的で、知的で、根本的に人間中心のものです。

私見と考察:AIが通信事業者という概念そのものを書き換える時代に
今回のプニート・ハンダ氏のコラムを読み、私が改めて強く感じたのは「通信業界は今、過去30年で最も大きな意味変化を迎えている」ということです。これまで私たちがキャリアと聞いて思い浮かべていたのは、基地局、回線速度、サポート窓口、料金プランといった、いわばインフラの運営者としてのイメージでした。しかし、この記事で語られている未来像はまったく別です。通信事業者は、インテリジェンスの設計者。もうケーブルを敷いて電波を飛ばす会社ではない。ネットワークという巨大な生命体を自律的に考え、判断し、回復する存在に育てる。そうした企業が本当の意味での次世代キャリアだと。以下、そのポイントをいくつか深掘りして感じたことをまとめます。
6Gは速度ではなく知性を競う時代になる
ハンダ氏が強調する、6Gはインテリジェンスを内包したネットワークになる、という視点は、実は世界でもまだ十分に理解されていません。5Gは容量と応答速度で勝負した世代でした。しかし6Gは、AIがプロトコルの中に入り込み、制御層そのものが学習する構造を前提にしています。つまり、障害を予測し、混雑を事前に回避し、需要を読み取ってセルを自動最適化し、故障時には自分で治癒する。そういう自律型ネットワークが標準になる。ここに、楽天モバイルがソフトウェア・AIファーストで築いてきた基盤が初めて明確なアドバンテージとして効いてくると思います。ハード中心のキャリアは、根本のアーキテクチャから作り直さなければ6Gの土俵にすら立てません。G戦争ではなくAI戦争。これが6Gの本質でしょう。
350,000セルサイト × 250人運用は世界で唯一
ここは個人的に最も衝撃を受けた部分でした。250名で35万セルを運用できるキャリア。これはAIファーストでネットワークを設計し直した企業だけが到達できる構造的優位であり、通信産業の常識を完全に裏返す事例です。従来のキャリアは、管理する、人を増やすことでネットワークを拡大していく世界にいました。しかし楽天モバイルは逆です。人を増やさずにネットワークを拡大できる。むしろAIの自律度が上がるほど、人材は創造・戦略・品質設計側へ移行できる。これは、コストの安さ以上に、長期的にはネットワークの品質差として表れてくるはずです。
AI-nization という言葉が示す人間中心のAI活用
AIを導入する際に最も難しいのは、人材との関係性をどう構築するかです。
ハンダ氏はAIを「共存するパートナー」だと語りました。このAI-nizationの考え方は、単に効率化のための自動化ではなく、人間の能力を拡張する文化そのものを組織に根付かせるという発想です。15000人以上の社員が日常的にRakuten AIを使い、トークン消費量が前年比で1600%増加という事実は、AIの社内インフラ化とも言える状況です。楽天は企業文化がAIと共に進化しています。
RICによるエネルギー削減は実益のあるAIの象徴
ネットワークのAI化は華やかなテーマに見えますが、実際には地味で泥臭い部分で効いてきます。特にRIC(Radio Intelligent Controller)による15〜20%の省エネは、単なる数字ではなく、今後の世界の通信事業者が必ず直面する課題への明確な答えです。ネットワークの電力コストは莫大で、どの国でもキャリアの収益構造を圧迫しています。AIによる最適化は、環境負荷とコストの両面で持続可能なネットワーク運営へ直結する領域であり、楽天の得意分野です。AIファーストで設計したキャリアだからこそ実現できる成果です。
Physical AI と NTN は通信の役割そのものを拡張する
今後の通信は基地局を置く場所を増やすという発想から離れ、どこでもネットワークが存在する状態をAIで成立させる時代に入ります。街を走るロボット、自動配送、ドローン、自律移動インフラ、非地上ネットワーク(衛星+地上のハイブリッド)。これらは単なるサービスではなく、AIがネットワークの知覚器官として働くことで初めて成立する新しい都市の仕組みです。楽天が晴海で展開している配送ロボットは、その最初の萌芽だと感じます。
ネットワークが物理世界まで拡張していく感覚は、まさにAI時代の通信の姿です。
キャリアはAIインフラ企業へと進化し、役割自体が変わる
通信事業者の役割はつなげる企業から考えるインフラを作る企業へ移行するということです。AIは電波を最適化するだけでなく、ネットワーク全体を一つの巨大な生命体のように成長させていく。未来を最も具体的に実装し始めているのが楽天モバイルという現実も今回の記事で鮮明になりました。AIが本当に描き出す未来は、技術の話ではありません。通信とは何か、キャリアとは何者なのか、そのものを作り替える力です。
Beyond the Hype: How AI is Redefining the Telco’s Core Identity
https://symphony.rakuten.com/blog/beyond-the-hype-how-ai-is-redefining-the-telcos-core-identity
