6兆円から10兆円。楽天が描くショッピング×モバイル×AIの成長戦略

2026年の楽天グループ新春カンファレンスにおいて、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、同社の次なる成長フェーズにおいてAIが極めて重要な役割を果たすと強調しました。

1997年にわずか13店舗でスタートした楽天市場は、来年で30周年を迎えます。三木谷氏は創業当時を振り返り、初月の売上が約30万円で、そのうち20万円は自ら購入したものだったというエピソードを紹介しました。実質的な売上は約10万円ほどだったといいます。それでも挑戦を続け、現在では年間売上高6兆円を超える規模へと成長しました。

しかし、6兆円はゴールではないと三木谷氏は語ります。目指すのは10兆円規模の企業体です。その実現の鍵として示されたのがAIでした。

近年、AIは単なる情報検索や回答生成のツールから、実際に取引を完了させる存在へと進化しています。楽天ではすでに、楽天トラベルや楽天ゴルフなど、各サービスにAIコンシェルジュを導入しています。ユーザーは商品やサービスを探すだけでなく、AIの支援によって購入や予約まで完了できる体験を得られるようになりました。消費体験そのものが変化しつつあるのです。

社内においてもAIの活用は徹底されています。約800人のAIエンジニアが開発を進め、グループ全体では約2万のAIプログラムが稼働しているといいます。商品説明文の作成や画像生成、動画制作、問い合わせ対応、レビュー分析、店舗パフォーマンスの解析など、AIは日常業務のあらゆる場面に組み込まれています。AIを活用する企業は、そうでない企業と比べて成長スピードが大きく異なるとも指摘されました。規模の大小にかかわらず、AIをどう取り込むかが競争力を左右する時代に入っていることを示唆しています。

三木谷氏は、AIの本質はアルゴリズムであり、その原材料はデータであると説明しました。データはまさに金鉱脈です。楽天はクレジットカード、銀行、決済、旅行、ゴルフ、ECなど幅広い事業を展開しており、約4,500万人の月間アクティブユーザーを抱えています。さらに楽天モバイルは1,000万契約を突破し、早期に2,000万契約を目指しています。25年以上にわたり蓄積されたデータは、サービス改善とAI高度化のための強力な基盤となっています。

汎用AIは辞書のように広範な知識を持っていますが、ショッピング体験を最適化するには独自のチューニングが不可欠です。楽天は自社データを活用し、独自に最適化されたAIを構築することで競争優位を築こうとしています。さらに興味深いのは、モバイル利用者の購買傾向です。楽天モバイルの契約者は、楽天市場での購入額が約50%多いというデータが示されました。モバイルは単なる通信サービスではなく、EC売上を押し上げるエンジンとして機能しているのです。

楽天が描く成長モデルは、ショッピング、モバイル、AI、そしてデータが相互に作用する循環構造にあります。モバイル契約者が増えればデータが増え、そのデータによってAIが進化し、業務効率と顧客体験が向上します。その結果、加盟店の売上が伸び、さらに利用者が増えるという好循環が生まれます。この連続的な強化こそが、10兆円への道筋といえるでしょう。

それでも三木谷氏は、最終的に中心にあるのは人であると強調しました。AIは人に取って代わる存在ではなく、人を補完し支える存在であるべきだという考えです。消費者は最終的に人と人とのつながりを求めます。楽天市場が掲げるのは、加盟店と並走し、力を与え、顧客とつなぐプラットフォームであり続けることです。

13店舗から始まった小さなオンラインモールは、いまや6兆円規模へと成長しました。そしてその先には、ショッピング、モバイル、AIを統合した新たな飛躍が待っています。30周年を目前に控えた楽天グループは、再び大きな転換点に立っています。次の成長を決めるのはAIであり、そのAIを動かすのはデータと人の力です。共に強くなるという思想のもと、楽天はこれからさらに加速していくのでしょう。

私見と考察:国内流通総額10兆円に向けて

楽天が掲げる「国内流通総額10兆円」という目標。2026年という、モバイル事業の赤字フェーズを脱しつつあるタイミングでのこの宣言は、単なる数字の積み上げではなく「楽天という経済圏の再定義」を意味していると感じます。私なりの視点から3つのポイントで考察を深めてみます。

検索の終焉と提案の時代への完全移行
これまでの楽天市場は、ユーザーがキーワードを打ち込み、膨大な商品の中から「選ぶ」という能動的な労力を前提としていました。しかし、AIコンシェルジュが決済まで完結させる世界では、消費体験は「検索」から「対話と合意」に変わります。AIが個人の購買履歴、モバイルの行動ログ、さらには銀行・カードの収支状況まで把握していれば「そろそろこれが必要ですよね?」という提案の精度は極めて高くなります。ユーザーにとって、数多ある商品から比較検討するストレスが消える一方で、楽天AIのアルゴリズムが「どの店舗の商品を優先的に推すか」という新たなパワーバランスが生まれます。ここで重要になるのが「店舗の個性」です。AIがスペックで選別するようになると、スペックに現れない「店主のこだわり」や「ストーリー」をAIがいかに理解し、言語化してユーザーに届けられるか。三木谷氏が言う「中心にあるのは人」という言葉は、AIによる自動化が進むからこそ、人間臭い付加価値を持つ店舗しか生き残れないという逆説的な警告にも聞こえます。

楽天モバイルは通信事業ではなく最強のセンサー
モバイル契約者が楽天市場で50%多く買い物をしているというデータは、極めて示唆に富んでいます。楽天モバイルの真の価値は、月々の通信料収入(ARPU)以上に「ユーザーの24時間の行動を可視化するセンサー」である点にあります。PC前の行動だけでなく、リアルな移動、滞在場所、決済シーンをデータ化することで、AIの原材料となる「金鉱脈」の純度が劇的に上がります。モバイル契約2,000万という目標は、単に通信キャリアとして自立するための損益分岐点ではなく、AIを「神の視点」に近づけるためのデータ分母の確保でしょう。10兆円へのブーストは、ECのUI改善よりも、このモバイルから得られる「生活コンテキスト(文脈)」をいかにECのプッシュ通知に変換できるかにかかっています。

汎用AIに対する垂直統合型AIの勝利宣言
OpenAIやGoogleが提供する汎用AIは「何でも知っている」存在ですが、「私の好みの味」や「私の家の冷蔵庫の空き具合」は知りません。楽天が目指しているのは、特定の経済圏に特化した「垂直統合型AI」の覇権です。決済から物流、娯楽、通信までをワンIDで繋いでいる楽天だからこそ、汎用モデルには不可能な「最後の一押し(決済)」が可能です。多くの企業が外部のAIを導入して「効率化」を狙う中、楽天はAIを「売上を作るエンジン」として内製化しています。800人のエンジニアと2万のプログラムという規模は、もはやECサイトの運営会社ではなく「データを価値に変換するAIファクトリー」への変貌を物語っています。

楽天が目指す「共創」の未来
楽天が歩んできた30年弱の軌跡は、常に「不可能だ」と言われてきた壁を、泥臭い努力とデータの力で突破してきた歴史でもあります。13店舗から始まったあの小さな商店街が、いまやAIを羅針盤に10兆円という巨大な経済圏の海図を描き直そうとしています。しかし、私たちが忘れてはならないのは、テクノロジーがどれほど進化し、アルゴリズムがどれほど精緻に私たちの好みを言い当てたとしても、最後に「購入」のボタンを押すのは、感情を持った一人の人間であるということです。

テクノロジーは「温もり」を加速させるか
三木谷氏が強調した「中心にあるのは人」という言葉。これは、AIを単なる効率化の道具としてではなく、加盟店それぞれの「こだわり」や「ストーリー」を、適切なタイミングで適切なユーザーに届けるための「翻訳機」として定義しているように思えます。10兆円という数字は、単なる消費の集積ではありません。それは、AIという新しい翼を得た数万の店舗が、日本中、あるいは世界中の顧客と新しい絆を結んだ結果として現れるスコアなのでしょう。

私たちが目撃するECの第3章
かつて、インターネットは「場所」の制約をなくしました(第1章)。次に、モバイルが「時間」の制約をなくしました(第2章)。そして今、AIは「選択」というストレスから私たちを解放しようとしています(第3章)。楽天モバイルがもたらす膨大なライフログと、楽天エコシステムが持つ多角的なデータ。これらがAIという炉の中で融合したとき、楽天市場は「物を探す場所」から、自分の生活をより豊かに、より便利にデザインしてくれる「パーソナルな伴走者」へと進化を遂げるはずです。

2026年、楽天グループはモバイル事業の苦境を越え、AIによる真の「垂直統合」へと舵を切りました。「10兆円」という壮大なビジョンの先に待っているのは、単に便利な社会だけではありません。テクノロジーの恩恵が隅々まで行き渡り、規模の大小にかかわらず「良いものを作る人」が正当に評価され、生活者が期待以上の喜びに出会える。そんな、AIと人間が共鳴する新しい経済のカタチです。「Walk Together(共に歩む)」という楽天の精神が、AIという知性を得てどのように社会をアップデートしていくのでしょうか。


A flywheel of shopping, mobile, and AI
https://rakuten.today/blog/a-flywheel-of-shopping-mobile-and-ai.html

A flywheel of shopping, mobile, and AIAt the 2026 Rakuten New Year Conference, Rakuten CEO Mickey Mikitani highlighted that AI will be critical in the company’s next growth phase.rakuten.today