
日本の若者に選ばれるブランドの条件とは?コスパ・タイパの先に見える「インパ」
日本の若者は、伝統文化から離れ、安くて手軽な商品や短時間で楽しめるサービスばかりを求めているのでしょうか。スマートフォンやSNSを使いこなす若年層について「昔ながらの文化に関心がない」「価格と効率だけを重視している」といったイメージで語られることがあります。しかし、楽天インサイトが全国の15~79歳を対象に、各年約40万人規模で実施した「アスキングビッグデータ」の3カ年比較からは、それとは異なる20代の姿が見えてきました。「昔からの伝統を重んじている」と回答した20代や、「お金をかけていること」として「株・投資」を挙げた20代が増加しています。また、話題の健康食品やサプリメントを積極的に試し、健康に良い商品やサービスには高い金額を支払っても構わないと考える割合も上昇しました。楽天インサイトは、若者の選択・判断基準として、コストパフォーマンスを意味する「コスパ」や時間対効果を意味する「タイパ」に加え、将来の成果や回収を意識する「インパ(インベストパフォーマンス)」へ関心が広がる可能性を指摘しています。
若者の間で進む、静かな伝統回帰
楽天インサイトの調査では、「昔からの伝統を重んじている」と回答した20代の割合は、2024年版の38.7%から2026年版には43.0%へ上昇し、4.3ポイント増加しました。なお、ここで示す割合は「非常にあてはまる」と「ややあてはまる」の合計です。また、余暇意識について「その土地の歴史や文化についてよく知りたい」と回答した20代の割合も、2024年版の46.2%から2026年版には48.5%へ上昇し、2.3ポイント増加しました。楽天インサイトは、その背景として、歴史や伝統を題材にしたコンテンツに触れる機会が増えたことや、訪日外国人から日本文化が評価される様子を通じて、自身のルーツやアイデンティティーを見直す動きがある可能性を挙げています。さらに楽天インサイトは、大量生産・大量消費の時代を経て、手仕事の温かさや、歴史に裏打ちされた本物の価値を見直す動きがある可能性を指摘しています。
伝統は保存するだけでなく、現代の暮らしに合わせて再編集する
若者の伝統文化への関心は、昔の生活様式をそのまま復活させるような懐古趣味ではありません。伝統的な住宅を現代的な設備と組み合わせて改修する、職人の技術を使った工芸品を日用品として取り入れる、古い建物の質感を残しながら宿泊施設やカフェや仕事場として活用するなど、伝統を現在の生活に合う形へ組み替える動きが見られるようになりました。手作りの器や布製品を購入し、その背景や使い方をSNSで発信するように、文化的な体験とデジタル上の共有も同時に行われています。そのため企業が「創業から長く続いている」「昔ながらの製法を守っている」と伝えるだけでは、十分な購入理由にはなりません。伝統的な素材や職人技を尊重しながら、現代的なデザイン、機能性、使いやすさを備え、その文化が現在の生活にどのような価値をもたらすのかを示すことが重要です。
コスパとタイパの次に注目される「インパ」
これまで消費行動を表す言葉として、支払った金額に対して得られる価値を示す「コスパ」と、費やした時間に対して得られる成果や満足を示す「タイパ」が広く使われてきました。楽天インサイトが、コスパやタイパに続く新たな判断基準として提示しているのが、投資効率を重視する「インパ(インベストパフォーマンス)」です。「インパ」とは、商品を将来売却できるかだけでなく、支出によって知識、技能、健康、時間、利便性など、どのような成果や価値が得られるのかを意識する判断基準です。購入した瞬間の満足ではなく、数カ月後や数年後にも価値が残るのか、長く使えるのか、知識や健康につながるのか、使わなくなった後に価値を回収できるのかまで含めて評価します。
20代に広がる「株・投資」への関心
若者の投資意識は、金融行動にも表れています。楽天インサイトの調査では、「お金をかけていること」として「株・投資」を挙げた20代の割合が、2024年版の15.4%から2026年版には17.2%へ上昇しました。1.8ポイントの増加は、世代別で最も大きな伸びです。また、「株・投資」にお金をかけている20代は、20代全体と比べて、知識や教養への関心が12.3ポイント、習い事や自己啓発への支出が6.5ポイント、日頃の運動や健康管理への意識が10.9ポイント高くなっています。「健康に良い商品やサービスなら、値段が高くても構わない」とする割合も8.5ポイント上回りました。金融投資への関心と、知識、技能、健康などへの自己投資意識が、同じ層の中で併存している傾向がうかがえます。「株・投資」にお金をかける20代が増えていることから、現在の消費だけでなく、将来の価値を意識してお金を配分する傾向が強まりつつあると考えられます。これは支出を減らすことだけを目的とする節約ではなく、限られたお金を、より大きな将来価値につながる対象へ振り分ける行動です。
日常の買い物にも広がる、将来価値を意識した選択
投資に近い判断基準は、株式や金融商品だけでなく、日常の買い物にも広がっています。楽天インサイトが引用している外部調査では、Z世代を中心に、再販価値(リセールバリュー)を重視する意識が7割を超える水準に達していることが報告されています。衣類、バッグ、時計、家具、家電、趣味用品などを選ぶ際には、価格やデザインだけでなく、耐久性、修理のしやすさ、中古市場での人気、売却のしやすさも判断材料になります。購入価格が高くても、長く使うことができ、不要になった後に一定の価格で売却できるのであれば、実質的な負担は小さくなります。反対に、価格が安くてもすぐに壊れ、修理も売却もできない商品は、投資対効果が低いと判断されます。若者が求めているのは単純な最安値ではなく、長く使用できる、時間を節約できる、知識や技術が身に付く、健康につながるなど、支出した後にも価値が残る選択です。企業には、初期価格だけでなく、耐久性、保証期間、維持費、修理可能性、再利用方法まで含めた総合的な価値を示すことが求められます。
健康とウェルネスも自己投資の対象に
投資対効果を重視する考え方は、健康・ウェルネス市場にも広がっています。20代では「話題の健康食品やサプリメントがあると積極的に試す」と回答した割合が、2024年版の28.8%から2026年版には31.4%へ上昇しました。また、「健康に良い商品やサービスなら、値段が高くても構わない」とする割合も39.0%から40.8%へ増加しています。2026年版では、「サプリメントや健康食品をよく利用する」と回答した20代が39.9%となり、世代別で最も高い結果でした。楽天インサイトは、リカバリーウエア、身体の状態を数値化できるスマートデバイス、パーソナルジム、完全栄養食など、若者に支持される健康関連商品やサービスには、成果の可視化や短期ゴールの設定、小さく試したうえで継続や切り替えを判断できることなどの共通点があると分析しています。そのため健康関連ブランドには、元気を支えるといった曖昧な表現だけでなく、どのような目的で、どの程度の期間利用し、何を目安に変化を確認すればよいのかを示すことが求められます。企業は不安を過度にあおるのではなく、期待できる効果だけでなく、効果の限界、個人差、利用期間、注意事項まで誠実に説明する必要があります。

私見と考察:ブランド価値は販売後にも形成される
今回の調査から見えてくるのは、若者の消費意欲の低下ではなく、支出する理由の厳格化です。若者は商品を購入した瞬間だけでなく、その後に何が残るのかを見ています。中古市場で一定の価格を維持できる商品は、デザイン、耐久性、ブランドへの信頼、修理体制などが長期的に評価されていると考えられます。そのため企業は、新品を販売することだけでなく、修理部品の供給、正規修理、下取り、真贋確認などを通じて、数年後にも価値を維持できる仕組みを整える必要があります。また、商品価値は再販売価格だけで決まるものではありません。使い方が分かりやすいか、困ったときに相談できるか、故障した際に修理できるかといった購入後の体験も、消費者が得られるリターンを左右します。活用方法の案内、消耗品の交換通知、保証、修理、サポートなどは、単なる付加サービスではなく、商品価値の一部として捉えるべきでしょう。
物語だけでも、機能だけでも若者には届かない
伝統文化への関心の高まりをブランド戦略に生かすには、商品の背景にある物語を丁寧に伝えることが重要です。誰が、どこで、どのような材料や技術を使って作ったのかという情報は、商品への共感を生みます。しかし、魅力的な物語だけで購入が決まるわけではありません。若者は同時に、価格、機能、耐久性、口コミ、効果、再販売価値も確認しています。伝統的な模様をパッケージに使ったり、日本らしさを宣伝文句に加えたりするだけでは、文化の価値を伝えたことにはなりません。反対に、性能や数値だけを並べても、なぜその商品を選ぶべきなのかという感情的な理由は伝わりにくくなります。職人の思いを紹介するのであれば、素材、手入れ方法、耐久性、修理体制も示す。環境への配慮を訴えるのであれば、回収方法や再利用の仕組みも伝える。感情に訴える物語と、合理的な判断を支える具体的な情報を組み合わせることが重要です。
ECでは購入後の生活を想像できる情報が必要になる
楽天市場をはじめとするECでは、消費者が商品を直接手に取ることができないため、写真、文章、レビューなどから購入後の価値を判断します。商品ページでは、価格や外観だけでなく、使用期間、耐久性、手入れ方法、修理対応、保証内容、活用方法などを具体的に示す必要があります。伝統工芸品であれば、職人や産地の紹介に加えて、日常での使い方、保管方法、修理の可否を伝える。ファッション商品であれば、素材、縫製、洗濯方法、着用できる季節、経年変化を示す。健康関連商品であれば、利用方法、推奨される期間、確認すべき変化、使用上の注意を明確にすることが重要です。商品レビューについても、良かった、使いやすかったという感想だけでなく、使用期間、購入目的、利用前後の変化が分かれば、投資対効果を判断しやすくなります。頻繁な値引きが常態化すると、消費者は商品本来の価値より割引率に注目するようになります。価格を下げるだけで購入を促すのではなく、品質、保証、修理、配送、返品対応など、どのような価値が含まれているのかを説明する必要があります。
全ての価値をROIで測る必要はない
若者が投資対効果を重視しているとしても、あらゆる商品や体験をROIだけで評価することには注意が必要です。文化、芸術、旅行、趣味、読書、人との交流には、数値では簡単に測れない価値があります。一冊の本を読んで何円の利益が得られたのか、旅行によって何%成長したのかを正確に示すことはできません。一見すると無駄に思える時間や、すぐに成果が見えない体験が、後になって大きな意味を持つこともあります。企業は若者の合理性に応えながらも、全てを金額や数値に置き換えるべきではありません。測定できる機能的な価値と、簡単には測れない文化的・感情的な価値を両立させることが重要です。
若者に選ばれるのは未来を説明できるブランド
楽天インサイトの調査と元記事の分析からは、日本の20代が単純に安さだけを追い求めているわけではないことが見えてきます。歴史や伝統への関心を強める一方で、株・投資や健康関連商品など、将来の価値や成果を意識した選択にも積極的な傾向が表れています。若者に選ばれるために必要なのは、流行の言葉を広告に加えることでも、最安値を提示することでもありません。伝統を扱うのであれば、文化的背景を尊重しながら現代の生活で使える形にする。効果を訴えるのであれば、確認できる根拠を示す。高い価格を設定するのであれば、耐久性や保証を含めた長期的な価値を説明する。健康商品を販売するのであれば、不安を過度にあおらず、効果の限界や注意点も伝える。ブランドに求められているのは、購入者にどのような未来が残るのかを説明することです。「安いから買う」から「未来につながるから買う」へ。それが、コスパとタイパの先にある「インパ」の時代に、若者から選ばれるブランドの条件です。
To win over Japan’s youth, brands must prove their ROI
https://rakuten.today/blog/to-win-over-japans-youth-brands-must-prove-their-roi.html
