和好み、インパ、健康投資。2026年の20代は防衛的に生きている。その背景

これはあくまでも個人の感想ですが、最近の20代は妙に失敗しないです。何かを選ぶ時、そこにはいつも、損をしないか、という視点があります。お金の使い方だけではありません。時間の使い方、健康との向き合い方、人付き合い、趣味、旅行、日々の消費。一つ一つに「この選択は将来の自分にとってプラスになるのか」という感覚が入りこんでいるように見えます。一見すると、それは堅実で、賢く、成熟した生き方に見えます。

でも、楽天インサイトが2026年5月15日に発表したレポートを読むと、その奥にもう少し複雑な背景があるように見えました。今回は、このレポートが示唆する20代の状況について考えてみたいと思います。

楽天インサイトは、全国15〜79歳を対象にした約40万人規模の大規模調査「アスキングビッグデータ」を用い、2024年版から2026年版までの3年間で、20代の生活意識がどう変化したかを分析しました。そこで示された主な変化は「和好み化」、「インパ」、「健康投資」という3つのトピックです。表面だけ読めば「今どきの若者は伝統を大切にし、投資に関心を持ち、健康にも気を配っている」という話になります。実際、それは合っているようにも見えます。

ただ、もう一歩踏みこむと、別の輪郭が浮かび上がります。それは、より良く生きたいという前向きな欲望だけではありません。むしろ、間違えたくない、損をしたくない、将来詰みたくない、という、防衛本能に近い感覚です。2026年の20代は、夢を見なくなったのではありません。夢を見る前に、まず「落ちない方法」を探しているのではないでしょうか。このレポートが映しているのは、そんな時代の空気ではないでしょうか。

伝統回帰は、文化的成熟なのか、それとも変化への疲れなのか

まず注目されるのが「和好み化」です。楽天インサイトの調査では「昔からの伝統を重んじている」と回答した20代が、2024年版の38.7%から2026年版の43.0%へと4.3ポイント増加しました。これは世代別で見ても20代が最も大きな伸びです。また「その土地の歴史や文化についてよく知りたい」と回答した20代も、46.2%から48.5%へと2.3ポイント増えています。楽天インサイトはこの動きを「和好み化」と呼び、背景として、歴史や伝統を題材にしたコンテンツの広がり、訪日外国人からの評価を通じた自己アイデンティティの再確認、古民家リノベーションや神社仏閣への関心などを挙げています。

この読み方は自然です。たしかに、今の若い世代にとって「和」は、古くさいものではなくなっています。歌舞伎や大正浪漫を題材にした娯楽作品、古民家カフェ、レトロ喫茶、御朱印、浴衣、和柄、木造建築、発酵食品、茶、香り、手仕事。こうしたものは、単なる懐古趣味ではなく、現代的なライフスタイルの一部として再編集されています。つまり、伝統は「守るもの」から「選び取るもの」へ変わっています。

ただし、ここで考えたいのは、なぜ20代がそれを選び取るのか、という点です。文化的に成熟したからなのでしょうか。それとも、変化し続ける社会に疲れたからなのでしょうか。20代が生まれてから今日まで、日本社会はずっと不確実性の中にあります。賃金は伸びにくく、物価は上がり、円安や社会保障不安があり、AIの進化によって仕事の将来像も揺らいでいます。何十年先の自分を、はっきりと想像しにくい時代です。そんな中で、何百年もそこにあるものや、何世代にもわたって受け継がれてきたものに惹かれるのは、自然なことかもしれません。

神社の石段、古い商店街の看板、手で削られた木の器、季節ごとに繰り返される祭り、昔から変わらない作法。それらは効率的ではありません。アップデートもされません。最新でもありません。でも、だからこそ安心できるのかもしれません。変わり続ける社会の中で、変わらないものに触れる。それは文化への関心であると同時に、不安定な時代における精神的な避難所なのかもしれません。

もちろん、それを逃避と言うのは乱暴です。若者が伝統に関心を持つこと自体は、とても健全です。むしろ、古いものを現代の感性で読み替える力は、新しい文化を生む可能性があります。ただし「和好み」がライフスタイル消費として広がる時、そこには危うさもあります。和柄のスマホケース、SNS映えする神社の写真、古民家カフェで飲むラテ、浴衣風のファッション、丁寧な暮らしの雑貨。それらは入口としては魅力的です。でも、それが「和」という記号の消費に留まるなら、伝統の本質までは届きません。伝統とは本来、写真に撮って終わるものではなく、時間をかけて身体に染みこませるものだからです。作法、技術、土地の記憶、共同体、季節感、手間、継承。そうした面倒なものを含めて初めて、伝統は単なるデザインではなく、生き方になります。

今、20代の間で起きている「和好み化」は、希望にも見えます。同時に、不安にも見えます。新しいものに疲れた世代が、古いものの中に「壊れにくい価値」を探している。そう考えると、この現象は単なるトレンドではなく、時代の心理を映しているように思えます。

「インパ」は、賢い消費か、人生のROI化か

2つ目のトピックは「インパ」です。楽天インサイトの調査では「お金をかけていること」として「株・投資」を挙げた20代が、2024年版の15.4%から2026年版の17.2%へと1.8ポイント増加しました。これも世代別で見ると20代の伸びが最も大きい結果です。さらに興味深いのは「株・投資」にお金をかけている20代は、20代全体と比べて、自己投資や健康管理への関心も高いという点です。たとえば「知識を増やし、教養を深めることに関心がある」では、投資している20代が79.9%、20代全体が67.6%で、12.3ポイントの差があります。「お金をかけていること 自分自身の習い事・自己啓発」でも、投資している20代は13.9%、20代全体は7.4%で、6.5ポイント上回っています。さらに「日ごろから運動をして、健康管理に努めている」では10.9ポイント、「健康に良い商品やサービスなら、値段が高くても構わない」では8.5ポイント高い結果となっています。楽天インサイトはここから「インパ(インベストパフォーマンス)」という概念を提示しています。コスパ、タイパに続く「投資効率」を重視する価値観です。

この言葉はかなり現代的です。服を買う時も、リセールバリューを考える。旅行に行く時も、経験値として回収できるかを考える。本を読むときも、仕事や収入に結びつくかを考える。食事も、睡眠も、運動も、将来の自分への投資として考える。たしかに合理的です。そして、今の時代には必要な感覚でもあります。収入が大きく伸びる保証がない。老後の不安もある。社会保障への信頼も揺らいでいる。そういう環境では、若いうちから投資や自己研鑽に目を向けるのは、むしろ当然です。

問題は、投資感覚そのものではありません。問題は、その感覚が生活全体を覆い始めることです。全ての行動に見返りを求める。全ての消費に回収可能性を求める。全ての経験に意味や成果を求める。そうなると、人生は少しずつ、運用対象になっていきます。もちろん、限られたお金と時間を大切に使うことは悪くありません。むしろ大切です。ただ、もし映画を観る時に「この2時間で何が得られるか」ばかり考えるようになったら、その体験は少し貧しくなります。映画は、役に立つためだけにあるわけではありません。小説も、音楽も、散歩も、雑談も、恋愛も、寄り道も、失敗も、全部そうです。得るものがあるか分からない。むしろ何も得られないかもしれない。でも、なぜか心に残る。そういう「回収不能な経験」が、人間の感情を作っている部分は確実にあります。そう思いませんか?

「インパ」という言葉は便利です。マーケティング用語としても使いやすいでしょう。商品やサービスの価値を説明する上でも、有効な概念です。でも、生活者の側から見ると、少し怖い言葉でもあります。なぜならそれは、「あなたの人生の選択は、ちゃんと回収できますか」と問いかけてくるからです。

健康投資は、楽しみとしての健康か、それとも義務としての健康か

3つ目のトピックは、健康消費です。楽天インサイトの調査では「話題の健康食品やサプリメントがあると積極的に試す」と回答した20代が、2024年版の28.8%から2026年版の31.4%へと2.6ポイント増加しました。また「健康に良い商品やサービスなら、値段が高くても構わない」と回答した20代も、39.0%から40.8%へと1.8ポイント増えています。さらに「サプリメントや健康食品をよく利用する」と回答した20代は39.9%に達し、全年代で最も高い水準となりました。楽天インサイトは、若者に支持される健康関連商品として、リカバリーウェア、スマートデバイス、パーソナルジム、完全栄養食などを挙げています。それらに共通する要素として、成果の可視化、効果の確実性、短期ゴール設定などを指摘しています。

この分析はかなり鋭いと思います。今の健康消費は、単なる健康志向ではありません。睡眠時間を測る。心拍数を測る。歩数を測る。消費カロリーを測る。栄養バランスを管理する。疲労回復も、なんとなく休むのではなく、「どれだけ早く回復できるか」を考える。身体は、感覚で付き合うものから、数値で管理するものへ変わりつつあります。もちろん、それ自体は悪いことではありません。若いうちから健康に気を配ることは、長い人生を考えれば非常に合理的です。

ただ、ここでも気になるのは、その背景です。この健康意識は、よりよく生きたい、という希望から来ているのでしょうか。それとも、病気になれない、という恐怖から来ているのでしょうか。終身雇用の崩壊、将来不安、医療費負担、社会保障への不信感。そうした空気の中では、健康でいることが楽しみではなく、生存戦略になります。身体は自分自身であると同時に、破損してはいけない資産にもなっている。サプリを飲む。運動する。睡眠を管理する。食事を整える。それらは自分を大切にする行為です。同時に、自分というリソースを減らさないための管理でもあります。健康が喜びではなく、義務になります。身体が生活ではなく、投資対象になります。疲れたから休むのではなく、パフォーマンスを落とさないために休みます。そう考えると、現在の健康ブームは、単なる美容・健康意識の高まりではなく、不安定な社会に適応するための自己防衛にも見えてきます。

3つのトピックを貫くものは自己防衛

ここまで見てくると、「和好み」、「インパ」、「健康投資」は、別々の現象には見えなくなってきます。伝統に惹かれる、投資に関心を持つ、健康を管理する。一見するとバラバラですが、共通した感覚があります。不確実な未来に対して、自分なりの防衛線を引くことです。変わらないものに触れることで精神を安定させる。投資や自己啓発によって経済的リスクに備える。健康管理によって身体的リスクを減らす。つまり、20代は、楽しんでいる、と同時に、備えているのではないでしょうか。

これは、彼らが悲観的だという意味ではありません。むしろ、極めて現実的なのだと思います。社会が安定していれば、人はもっと無駄なことができます。将来がある程度見えていれば、遠回りもできます。失敗してもやり直せると思えれば、効率ばかり考えなくてもすみます。でも、将来が見えにくい社会では、若者は早くから計算を始めます。この選択は得か。この時間は無駄ではないか。このお金は回収できるか。この経験は自分の価値につながるか。そうやって、人生のあらゆる場面に小さな損益計算が入りこんでいきます。それを、賢いと呼ぶことはできます。実際、賢いのです。

ただ、その賢さが希望ではなく、不安への適応から生まれているとしたら、そこには社会全体の問題があるような気がします。なぜ20代がここまで備えなければならないのでしょう。なぜ人生の楽しみまで、投資効率で測らなければ安心できないのでしょう。楽天インサイトのレポートは、若者の変化を分析しています。でも、本当に問われているのは、若者が変わったことではなく、若者をそこまで防衛的にさせている社会の方かもしれません。データは答えを出しません。ただ、問いを差し出しています。不確実な時代に、今日もリスクを計算しながら生きている20代。その姿を成熟と呼ぶのか、萎縮と呼ぶのか。それは、この社会をどう見るかによって変わるのだと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​

最後に、一つだけ、お伝えしたいことがあります。このような個人の防衛術が社会全体のスタンダードになった時、私たちの関係性はどう変わるのでしょうか。全ての選択にリターンを求め、心身を資産として管理し、失敗を徹底的に排除する。その先に待っているのは、賢く清潔で、一滴の無駄も摩擦も許されない、静かな停滞ではないでしょうか。何の役にも立たない寄り道や、回収不能なほど注ぎこんでしまう情熱。そうした防衛線の外側にあるものこそが、実は社会を、個人を動かすエネルギーだったのではないでしょうか。防衛しきった先に、私たちは一体何を守り抜こうとしているのでしょうか。個人が本当に大切にすべきこと。それを実現する社会。失敗してもそこから学び、笑いあえる場所。リターンを計算せずに誰かにしっかりと手を差しのべる瞬間。その答えを探すことが、今の私たちには必要なのかもしれません。


楽天インサイト、約40万人の大規模調査「アスキングビッグデータ」を用いて3年間比較した20代の「生活意識」変容を発表

https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0515_01.html


楽天インサイト、約40万人の大規模調査「アスキングビッグデータ」を用いて3年間比較した20代の「生活意識」変容を発表 | 楽天グループ株式会社 楽天インサイト株式会社(以下「楽天インサイト」)は、年に1回実施する大規模調査「アスキングビッグデータ」(各年約40万人規模)を用いて、20代の「生活意識」を2024年版〜2026年版の3年間で比較し、意識変容の傾向をまとめた結果を発表しました。corp.rakuten.co.jp