
楽天グループQ1決算:過去最高売上と営業黒字化、その裏で問われるモバイルの次の一手
楽天グループは2026年度第1四半期の決算ハイライトを発表しました。連結売上収益は過去最高となる6,436億円(前年同期比14.4%増)を記録し、IFRS営業利益では304億円、Non-GAAP営業利益でも363億円の黒字を達成しました。楽天モバイルのMNO事業参入以降、第1四半期として営業黒字化を達成したのは初めてであり、グループ全体としては大きな節目を迎えたと言えます。
一方で、決算の内訳を丁寧に見ていくと、依然として楽天モバイルが大規模な投資フェーズの途中にあり、グループ全体がフィンテック事業の強い収益力に支えられている構図も浮かび上がってきます。今回は各セグメントの動向を整理しながら、楽天モバイルの現在地について考えてみたいと思います。
インターネットサービス:広告とAI活用が利益改善を牽引
インターネットサービスセグメントの売上収益は3,176億円(前年同期比4.0%増)、Non-GAAP営業利益は212億円(前年同期比65.6%増)となり、増収増益を達成しました。
国内EC全体の流通総額は1兆4,990億円(前年同期比4.8%増)。楽天市場のコア事業は引き続き堅調に推移しており、インバウンド需要を取り込む楽天トラベルも好調を維持しています。物流事業など成長投資領域においても、損失改善が進みつつあります。
特に注目されるのは広告事業です。楽天市場におけるAI活用によるRPP広告の自動最適化などが寄与し、広告売上は619億円(前年同期比13.0%増)を記録しました。AIを単なる業務効率化ではなく、広告収益の最大化へ直接結びつけている点は興味深いポイントです。特に楽天市場のように巨大な購買データを持つプラットフォームでは、「どの商品を、誰に、どのタイミングで表示するか」が広告単価そのものを左右します。楽天グループはEC・金融・通信を横断してデータを保有しており、そのデータ基盤がAIによる広告最適化と高い親和性を持っていることが、今回の広告成長にも表れていると言えそうです。
さらに楽天グループのAI戦略で特徴的なのは、AIを単なるコスト削減ツールとしてではなく、「ユーザー体験や事業者の売上を拡張する仕組み」として位置づけている点です。検索、レコメンド、広告配信、CRM、問い合わせ対応などを横断的につなぐことで、AIそのものを収益基盤へ組み込もうとしている構図が見えてきます。
海外事業を含むインターナショナル部門の売上収益は4億5,920万米ドル(前年同期比6.9%増)となり、Non-GAAP営業利益も710万米ドルと、前年同期比860万米ドルの改善を達成しました。Rakuten KoboやRakuten Viberに加え、Rakuten Vikiではサブスクリプション料金改定やプロダクト構成改善が増収に寄与しており、海外事業全体でも収益改善が進みつつあります。
フィンテック:グループ全体を支える収益基盤
フィンテックセグメントは、今回の決算でもグループ全体を力強く支える存在となりました。
売上収益は2,753億円(前年同期比23.1%増)、Non-GAAP営業利益は585億円(前年同期比33.8%増)と、高い成長率を維持しています。
楽天カードは顧客基盤拡大と利用単価上昇を背景に、ショッピング取扱高が6.8兆円(前年同期比8.5%増)へ拡大。楽天銀行は口座数1,807万口座、預金残高12.9兆円まで成長し、日銀の政策金利引き上げによる金利収益増加も追い風となりました。
楽天証券も新NISA需要を背景に、証券総合口座数が1,387万口座(前年同期比12.4%増)へ拡大し、4月には1,400万口座を突破しています。
金利上昇という外部環境の恩恵もありますが、楽天グループの強みは依然として「エコシステム」にあります。決算資料では、楽天モバイル契約者は非契約者と比較して楽天グループサービスの利用数が2倍以上高い傾向が示されており、カード・銀行・証券・ECを横断するクロスユースが顧客基盤の拡大につながっています。単体事業ではなく、複数サービスを束ねることでLTV(顧客生涯価値)を引き上げる戦略が、今回の決算でも改めて数字に表れた形です。
そして今後は、この「エコシステム」にAIが深く組み込まれていく可能性があります。ECでの購買、金融での決済、モバイルでの行動データなどが横断的に連携されることで、楽天経済圏全体が“学習するプラットフォーム”へ変化していく。今回の決算は、その初期段階が収益面にも現れ始めた四半期だったとも言えるのかもしれません。
楽天モバイル:「初のEBITDA黒字化」が示す前進
今回の決算で大きく取り上げられたのが、楽天モバイルの「第1四半期として初のEBITDA黒字化」です。
EBITDAは10億円の黒字となり、前年同期比では75億円の改善となりました。契約回線数増加や通信収入の拡大に加え、コスト最適化が進んだことが背景にあります。
もっとも、EBITDAは減価償却費などを除いた利益指標であり、ネットワーク投資負担の大きい通信事業では、必ずしも最終的な収益性をそのまま示すものではありません。
実際、楽天モバイルのNon-GAAP営業損失は依然として364億円であり、大規模な基地局投資やネットワーク拡張を続ける段階にあることに変わりはありません。ただし、前年同期比では損失改善が着実に進んでおり、契約回線数の増加に伴って固定費回収フェーズへ移行しつつある点も見逃せません。楽天モバイルは「赤字事業」ではあるものの、その赤字幅そのものは縮小傾向にあります。
とはいえ、従来の「大幅赤字が拡大し続ける局面」から、「損失縮小と収益改善を進める局面」へ移行し始めていることも、今回の決算から読み取れる重要な変化です。
1,036万回線とARPUの課題
2026年3月末時点の契約回線数は1,036万回線となり、前年同期比では174万回線の純増となりました。
回線数は順調に積み上がっていますが、同時にARPU(1契約あたり平均収入)の動向も重要です。
正味ARPUは2,442円となり、前四半期から低下しました。会社側は、B2B契約拡大による契約ミックス変化や、四半期末におけるB2C獲得加速が要因であると説明しています。
つまり、回線数拡大そのものは順調に進んでいる一方で、今後は「どれだけ収益性を伴った契約を積み上げられるか」がより重要なテーマになってきます。
モバイル事業は固定費負担が極めて大きいため、契約数の拡大に加えてARPU改善が進むかどうかが、中長期的な収益化を左右するポイントになりそうです。

楽天モバイルの設備投資はまだ続く
2026年度第1四半期の設備投資額は262億円でした。
楽天モバイルは通信品質向上に向けて基地局建設を継続しており、第2四半期以降は前工程の内製化によって建設効率を高める方針を示しています。
これはネットワーク品質改善に向けた重要な取り組みですが、同時に、依然として大規模な投資フェーズが続いていることも意味しています。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが数十年かけて構築してきた全国ネットワークを、楽天モバイルは短期間で追い上げている状況です。そのため、収益改善が進んでいるとはいえ、投資負担がすぐに軽くなるわけではありません。
グループ全体で見る楽天モバイルの位置づけ
今回の決算では、フィンテック事業の高い収益力と、モバイル事業の損失改善が組み合わさることで、グループ全体の営業黒字化につながった構図が見えてきます。
特に楽天銀行、楽天カード、楽天証券を中心としたフィンテック事業の利益貢献は大きく、楽天グループ全体の財務基盤を支える役割を果たしています。
一方で、楽天モバイルも契約回線数増加やEBITDA黒字化など、以前より着実に改善が進んでいることは事実です。
また、楽天モバイルの役割は通信収益そのものだけではありません。決算資料では、楽天モバイル契約者は非契約者と比較して楽天グループサービスの利用数が2倍以上高い傾向も示されています。スマートフォンという日常的な接点を持つことで、EC・金融・証券などグループ全体へのクロスユースを促進する役割も担っている点は、楽天モバイルの特徴と言えるでしょう。
つまり現在の楽天グループは「フィンテックが収益基盤を支えながら、モバイル事業の黒字化を中長期で育てていく段階」にあると見るのが、最も実態に近いのかもしれません。
私見と考察:数字の奥に見える、楽天の設計思想
楽天モバイルの挑戦は、単なる新規通信参入ではなく「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」を大規模商用展開する世界的な実験でもあります。楽天シンフォニーがOpen RAN関連で国際的な存在感を高めていることからも分かるように、技術的な先進性そのものへの評価は決して低くありません。従来の通信業界では、基地局設備は巨大ベンダーによる垂直統合型が主流でした。しかし楽天グループは、ソフトウェア化・仮想化によって通信網をクラウドインフラに近づけようとしています。これは単なるコスト削減ではなく「通信網そのものをソフトウェア産業へ変えていく」挑戦とも言えるでしょう。
今回の決算で注目したいのは、その技術的挑戦と並行して、資本の使い方そのものが変わり始めているという点です。欧州マーケットプレイス事業や関西エリアのネットスーパーなど採算の見込みにくい領域から撤退し、AI・フィンテック・モバイルエコシステムへ経営資源を集中させる判断が、今回の黒字化の一因となっています。「全部やる会社」から「勝てる領域に張る会社」への転換は、収益構造の変化として数字にも表れ始めています。
楽天グループの経営資源集中が向かっている先は、AIを軸にした顧客との関係性の深化です。楽天市場のRPP広告における自動最適化はすでに収益への貢献が数字に出ており、EC・金融・通信を横断する購買・決済データを持つという強みは、生成AIブームへの単純な追随とは異なる楽天固有の競争軸になりえます。モバイル契約がEC・金融・旅行の利用を自然に促し、サービス横断でのクロスユースが顧客の日常生活に溶け込んでいく。楽天が目指しているのは広告で売ることでも通信回線を増やすことでもなく、生活インフラとして関係性を深めることであり、その設計思想が収益面にも少しずつ現れ始めた四半期だったと言えそうです。
ただし、道半ばであることも事実です。
一方で、市場の評価は依然として慎重です。楽天グループの株価は、モバイル事業への巨額投資負担や有利子負債への警戒感を強く織りこんで推移しています。投資家は「技術的には面白い」ことと「安定して利益を生み出せる」ことを、まだ別問題として見ているわけです。だからこそ今後は「契約回線数が増えた」という成長ストーリーだけではなく「どれだけ安定的に利益を生み出せるか」というフェーズへ、楽天モバイル自身が移行できるかどうかが問われていくことになります。
今回のEBITDA黒字化は確かに重要な前進ですが、本当の意味で安定的な収益構造へ移行できるかどうかは、ARPU改善、契約者基盤の質、設備投資負担のピークアウトなど、複数の課題を乗り越えられるかにかかっています。今後の楽天モバイルの注目点は「B2C契約の積み上がりによってARPU改善が進むか」、「ネットワーク投資がどのタイミングで安定局面へ移行するか」でしょう。楽天モバイルは依然として挑戦の途中にあります。しかし今回の決算は「永遠に赤字が続く事業」から、「黒字化への道筋が見え始めた事業」へと、少しずつ局面が変わり始めていることを示した四半期だったと言えそうです。
楽天グループ決算説明会プレゼンテーション資料
https://corp.rakuten.co.jp/investors/assets/doc/documents/26Q1MAINPPT_J.pdf
楽天グループ株式会社2026年度第1四半期 決算ハイライトに関するお知らせ
第1四半期において、連結売上収益が過去最高、MNO事業参入後初となるIFRS営業黒字を達成。2026年も通期営業黒字化に向けて堅調な滑り出し
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0514_01.html
