中東・アフリカの通信インフラを変える楽天シンフォニーの協業戦略

Open RAN、5G、AIの導入は、通信事業者が単独で進められるものではありません。通信ソフトウェアだけでなく、データセンター、光ファイバー、電力、システム統合、運用人材、セキュリティまで一体で整える必要があるからです。楽天シンフォニーが中東・アフリカで拡大しているパートナープログラムは、世界共通の技術と地域に根差した実行力を組み合わせ、通信インフラを共同で構築する取り組みです。

2026年3月2日から5日まで、スペイン・バルセロナのFira Gran Viaで開催されたMWC Barcelona 2026では、楽天シンフォニーのCorporate Communications DirectorであるJames Dartnell氏の進行により、顧客とパートナーを交えたパネルディスカッションが行われました。登壇したのは、Telkom KenyaのCOOであるAli Kosi氏、データセンター事業者RadoreのCEOであるIsmail Ozeren氏、コンサルティングやシステム統合を担うOdineのChief Growth OfficerであるTarkan Alagöz氏、楽天シンフォニーのMEA地域営業責任者であるShadi Sayed氏です。

パネルディスカッションの動画はこちら。

https://youtu.be/I6au3h6n-aI

Open RANで競争条件を変えるTelkom Kenya

ケニアで第3位の通信事業者であるTelkom Kenyaは、より大きな企業グループに属する国内大手2社と競争していて、資金や設備調達力で同じ戦い方をするのは困難です。そこでTelkom KenyaはOpen RANを競争力強化の選択肢と位置づけ、2025年1月に楽天シンフォニーおよびAirspanと覚書を締結し、ケニアにおける4G・5Gの技術移転、開発、検証を共同で進めています。楽天シンフォニーは基地局の中央・分散処理を担うCU・DU基盤とOSS、Airspanは無線装置とモバイルコアを提供し、Telkom Kenyaは現地の人材や施設を担います。この役割分担は、グローバル技術とローカル実行を組み合わせる協業モデルの具体例です。期待される効果は、既存サイトを生かした迅速な展開、インフラの効率的な管理による運用費と電力費の削減、AIを活用したネットワーク制御と新サービスの柔軟な導入です。Open RANは単に設備を安く調達する手段ではなく、大手との規模の差を展開速度と運用効率で補うための戦略として位置づけられています。

展開速度を支えるエッジと段階移行

Open RANや低遅延サービスを地域で展開する上で、エッジデータセンターは重要な役割を担います。RadoreのOzeren氏によると、データセンターに対する顧客の要望は、サーバーを設置するスペースと電力の確保から、接続性と迅速な計算資源の展開へ移っています。エッジデータセンターは通信の遅延を抑えるだけでなく、新サービスを短期間で開始するための拠点になります。一方、既存ネットワークを運用する通信事業者は、すべての設備を一度にOpen RANへ置き換えることができません。OdineのAlagöz氏は、適切な技術を選び、限定された地域や用途で検証し、既存設備との接続、監視、障害対応を確認しながら対象を広げる段階的な移行計画が必要だと説明しました。また、プロジェクトの開始から展開完了まで関与する社内責任者を置き、通信事業者自身が移行の目的と優先順位を管理することも重要です。その先にあるのが、回線を提供するだけの「接続性」から、AIによって状況を把握し、最適化できる「知性化」されたネットワークへの転換です。

5G・AIを生かす4条件と現場課題

楽天シンフォニーのSayed氏は、5Gや6GネットワークをF1カーに例えました。高性能な車だけを用意しても、ドライバー、整備拠点、道路、安全装置がなければ能力を引き出せません。通信ネットワークに必要な第1の条件は、クラウドネイティブソフトウェアやOpen RANなどのオープン技術です。第2の条件は、それを運用する通信事業者と信頼できる地域パートナー、第3の条件は、低遅延処理を支えるエッジデータセンターです。第4の条件は、ネットワークとAI基盤を安全に動かす自動化とセキュリティです。これら4つの条件は相互に依存しており、その土台となるのが光ファイバーや電力などの現場インフラです。どれほど優れたソフトウェアを導入しても、この土台が不安定であれば、安定したサービス運用は難しくなります。基地局機能と処理拠点を分離する構成では厳しい遅延管理が求められ、動画では5ミリ秒以内という条件が例示されました。さらに、電柱に敷設された光ファイバーには断線のリスクがあると説明されました。そのため、基地局の位置だけでなく、エッジデータセンターの配置、光回線の経路、冗長化、障害時の切り替えまで一体で設計する必要があります。電力についても、発電だけでなく配電の安定性、予備電源、停電後の自動起動、遠隔復旧まで含めた検証が欠かせません。

グローバル設計とローカル実行

中東、トルコ、アフリカでは、通信世代、規制、経済状況、人材、電力、設備調達の条件がそれぞれ異なります。Alagöz氏が示した「アーキテクチャはグローバルに、実行はローカルに」という考え方は、共通のソフトウェアや技術仕様を使いながら、導入、統合、保守、規制対応を地域に合わせるものです。SIは楽天シンフォニーの技術と通信事業者の既存環境をつなぐ「接着剤」となり、移行計画や責任範囲を整理します。エッジインフラについても、通信事業者がすべてを保有するのではなく、データセンター事業者が設備へ投資し、通信事業者が接続性を提供する協業モデルが考えられます。楽天シンフォニー、Odine、Radore、Telkom Kenyaの発言は、通信事業者の課題、エッジ基盤、段階的な移行、オープン技術という異なる領域を結び付けることで、地域の通信インフラが成り立つことを示しています。パネルディスカッションでは「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければ皆で行け」という言葉とともに、通信事業者、SI、データセンター事業者、技術ベンダーが長期的なエコシステムを築く重要性が強調されました。

私見と考察:協業を競争力に変える地域実装力

今回のパネルディスカッションの本質は、Open RANという個別技術よりも、地域のデジタルインフラを誰が、どのような役割分担で構築するかという点にあります。Open RANがもたらすオープン化は、通信設備やソフトウェアの選択肢を特定ベンダーの外へ広げるという意味で「技術の民主化」と捉えることもできます。ただし、誰でも簡単に通信ネットワークを構築できるようになるという意味ではありません。これまで特定ベンダーが主導してきた技術選定や運用に、地域の通信事業者やパートナー企業が主体的に関われるようになるということです。一方で、選択肢が増えるほど、製品の検証、統合、監視、障害対応は複雑になります。地域パートナーに求められるのは、製品を販売することではなく、規制、電力、光ファイバー、人材、商習慣を理解し、グローバルな技術を現地で安定して動くインフラへ仕立て直すことです。技術を選べる自由を実際の競争力へ変える地域実装力こそ、協業の価値の源泉になります。

ネットワークを守る役割分担

複数企業がネットワークを構成する場合、大きな課題の一つとなるのが責任範囲の分散です。障害の原因が無線装置、ソフトウェア、クラウド、データセンター、光回線のどこにあるのか、利用者には分かりません。選択肢が増えても、障害が起きたときに各社が責任を押し合えば、利用者にとっては復旧の遅いネットワークにすぎません。そのためSIには、製品を接続するだけでなく、監視、一次対応、原因分析における各社の責任範囲を明確にし、障害対応を全体として調整する役割が求められます。同時に、光ファイバーの断線や停電を例外として扱わず、回線の二重化、予備電源、停電後の自動起動、遠隔復旧、交換部品の確保まで、最初から設計へ組み込む必要があります。電力供給が不安定な市場では、省電力は環境対策にとどまりません。通信を止めず、運用費を抑えるための切実な経営課題でもあります。オープンな技術を安定した通信サービスへ変えるには、平常時の性能だけでなく、障害が起きてもサービスを維持できる設計と役割分担が不可欠です。

利益と再現性による評価

Open RANやAIの成果は、導入した基地局数や自動化機能の数だけでは判断できません。展開期間、消費電力、現地出動回数、運用人員、障害件数、復旧時間がどれだけ改善し、それが電力費や人件費の削減、新サービスの早期投入、顧客獲得、解約率の改善、売上増加へどうつながったかを測る必要があります。規模で勝てなくても、変化の速さでは戦えます。Telkom Kenyaのような事業者にとって、展開速度の向上は、大手との資本力の差を補う経営戦略になり得ます。ただし、短縮した時間や生み出した人員を新たな価値創出へ振り向けなければ、利益改善にはつながりません。楽天シンフォニーがこの協業モデルをほかの地域へ広げるには、設計、検証、運用、障害対応の方法を地域パートナーと共有・標準化し、それぞれの地域条件に合わせて再構成できる仕組みを整える必要があります。協業の最終的な成果は、地域のパートナーが次のネットワークを自ら構築し、運用し、改善できるようになることです。障害や更新のたびにグローバルベンダーの介入を必要とするのであれば、依存先が従来のベンダーから新しい企業へ変わっただけになりかねません。技術と運用の知識が地域に残り、次の案件へ引き継がれて初めて、オープン化は地域の自立性につながります。最先端の通信網を支えるのは、ソフトウェアだけではありません。最後にものをいうのは、現場を知る企業と人のつながりです。最終的に問われるのは、Open RANを導入したかではなく、協業によって持続可能な通信インフラと事業利益を生み出せたかどうかです。


How MEA region partners build digital infrastructure through collaboration

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How MEA region partners build digital infrastructure through collaborationHow Middle East and Africa region partners are building digital infrastructure through collaboration with Rakuten Symphony.リンク