
楽天シンフォニーがMWC 2026で示した、協業によるテレコム成長戦略
MWCはGSMA(GSMアソシエーション)が主催する、通信業界で世界最大級とされる年次イベントです。2026年のMWCは、3月2日から5日にかけて、スペイン・バルセロナのフィラ・グラン・ビアで開催されました。 2026年はバルセロナ開催20周年の節目にあたり、モバイル通信事業者、技術ベンダー、自動車業界、スタートアップ、投資家、政策立案者など、通信エコシステム全体から参加者が集まりました。MWCは新製品や新技術が発表される場であると同時に、業界の方向性そのものが議論される場としても機能しています。 今回取り上げるのは、2026年のMWCで行われたパネルセッション「The Power of Partnerships」の内容です。ここで語られていたのは、テレコム業界の次の成長段階において、パートナーシップはもはや成長戦略に付随するものではなく、成長戦略そのものであるという考え方でした。
楽天シンフォニーと楽天モバイル、そしてMWCに参加する理由
このセッションを主催したのは楽天シンフォニーです。楽天シンフォニーは楽天モバイルの子会社で、クラウド、Open RAN、OSS、AIなどの通信技術やサービスを世界の通信事業者に提供しています。もう一方の楽天モバイルは、日本国内で携帯電話事業を展開する通信キャリアであり、ネットワークをゼロからクラウドベースで構築した、いわゆる完全仮想化ネットワークの先駆けとして知られています。楽天モバイルの商用ネットワーク構築・運用で培われた技術や知見を基盤に、通信事業者向けの製品やサービスとして世界に展開しているのが楽天シンフォニーです。そのため楽天モバイルは、親会社であると同時に、楽天シンフォニーが提案する技術や運用モデルの実効性を商用環境で示す重要な存在でもあります。
なぜ楽天シンフォニーと楽天モバイルはMWCに参加するのでしょうか。2026年の出展にあたって楽天シンフォニーが掲げたのは「Intelligent Growth(インテリジェント・グロース)」という考え方で、これはブースでの展示から各セッションまで、参加全体を貫くテーマとして位置づけられていました。 会場のブース(グラン・ビア 2C70番)では、実際の通信環境でこの考え方がどう活かされているかを示す取り組みが紹介されました。 初日には楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史氏がメインステージに登壇し、通信事業者が既存の接続基盤やデータを活用し、新たな収益と顧客価値を生み出すためのモデルを示しました。 こうした発信の目的は一つではありません。すでに楽天モバイルで実証済みの技術やノウハウを、世界中の通信事業者や関連企業に向けて示すこと。同業他社やベンダー、クラウド事業者、通信キャリアなど、多様なプレイヤーと直接顔を合わせ、新しい協業のきっかけをつくること。そして、オープンRANやAIネイティブなネットワークといった分野で、楽天グループが単なる一通信キャリアではなく、業界全体の方向性を提示する存在であることを印象づけること。これら全てが、MWCという場に参加する理由になっていると言えます。今回紹介する「The Power of Partnerships」のセッションも、まさにそうした狙いの延長線上にあるものでした。このセッションは、楽天シンフォニーでグローバルパートナーアライアンスと間接販売戦略を率いるサード・ジャベド氏(Saad Javed氏)がモデレーターを務めました。
Panel Discussion: Power of Partnerships
https://youtu.be/x6Gcjj4zArg
技術そのものはもはやボトルネックではない
議論の出発点となったのは、テレコム業界がすでにクラウドネイティブ、オープンRAN、AI、自動化の時代に入っているという認識です。技術的な土台はすでに整っており、問われているのは、その技術をどれだけ早くビジネス価値に変換できるかという実行力の部分です。パテル氏は、技術が基盤をつくる一方で、実際に収益を生み出すのは協業であるという趣旨の発言をしています。通信事業者にとっての成功の物差しも変わりつつあります。新しい収益源をつくれるか、コスト構造を改善できるか、顧客体験を高められるか。この3つの視点で技術投資の意味が測られるようになってきているのです。半導体からサービスまでを一貫してつなぐモデルは、単なる技術的な枠組みというより、顧客にとって本当に重要な指標を軸に、業界全体を足並みそろえて動かすための仕組みとして捉えられています。
パートナーシップは収益を生み出すレバーになった
パネルで強調されていたのは、パートナーシップを単なる納品のための仕組みとしてではなく、収益化そのものを支える仕組みとして捉え直す視点です。ソフトウェア中心で多くの関係者が関わる現在のテレコムモデルでは、価値は一社だけで生まれるものではなく、複数のプレイヤーの連携によって組み立てられるものになっています。ジャベド氏が指摘するように、単独で革新や規模拡大を成し遂げられる主体は存在しません。パテル氏も、価値の創出や収益化は一つの関係者だけでは完結せず、関係者同士が協力して初めて実現するものだと述べています。インフラ、ソフトウェア、インテグレーション、サービス、市場展開といった各領域が連携することで、革新は協業によって強化され、収益化は足並みのそろった連携によって加速するという構図が見えてきます。
クラウドの役割が次の段階で一層重要になる理由
オープンRANやOSSをクラウド基盤上で安定して稼働させるには、単に従来のインフラをクラウドへ移すだけでは不十分です。実際のネットワーク負荷やサービスの俊敏性を支えられるだけの性能、セキュリティ、拡張性が必要になるのです。サンセット・テクノロジーズのグアスパリ氏は、コンテナ化されたソリューションの普及によって、通信事業者がより多くのネットワークワークロードをクラウド基盤に載せやすくなってきていると指摘しています。楽天シンフォニーとそのパートナーにとって、クラウドは単なる基盤層ではなく、オープンRANやOSSという上位層を支える存在としての意味を強めています。クラウドが十分に強固であれば、柔軟性やオーケストレーション、将来のサービス革新を支えるプラットフォームとして機能するようになるという見立てです。
現地での実行力こそがパートナーシップの真価を証明する
世界規模でアーキテクチャが変化しても、その成果を証明するのは、あくまで各地域でどう実装されるかという点です。中南米(LATAM)では、競争の激しい市場でより高い柔軟性を得る手段として、オープンRANが有力な選択肢として注目されています。ここで力を発揮するのが、地域に根差した専門知識です。イズベルのゴンザレス氏は、市場を理解し実行する力がなければ、どれほど優れた製品を持っていても実行に移せないという趣旨の発言をしています。逆に言えば、優れた技術と現地での実行力が組み合わさったとき、革新が実際の成果に結びつくまでの道のりは大きく短縮されるということでもあります。
単発の取引関係を超えて
従来型のベンダー関係から、より深く、成果を軸にした連携関係へと移行する流れが強まっています。焦点はコストや契約範囲だけではなく、ビジネス上の成果、リスクの共有、成功の共有へと移りつつあります。グアスパリ氏は、エンドユーザーを理解していること、顧客の課題を理解していること、同じタイムゾーンで同じ言葉を話せることそのものが強みになると述べています。優れたエコシステムとは、技術力があるだけでなく、市場の文脈を理解し、信頼され、市場とともに動ける存在なのだという指摘です。
より確かなテレコム成長モデルへ
ここまでの議論を通じて見えてくるのは、共創、責任の共有、そして集団としての力を商業的な推進力に変える力を土台にした、より確かな成長モデルの姿です。楽天シンフォニーが掲げる「Intelligent Growth」という考え方が説得力を持つのも、この文脈においてです。今の時代の成長とは、先進的な技術を導入することだけを意味するのではなく、正しいパートナーを、正しい市場で、正しい成果に向けて結びつけていくことを意味しているのです。ジャベド氏が締めくくったように、業界の未来は、協業の強さと深さに直結しているという言葉が、単なるまとめ以上の、ある種の宣言として響くセッションでした。

私見と考察:協業の設計力が利益を生み出す
このセッションを読んで、まず印象に残ったのはパートナーシップという言葉が持つ意味の変化そのものです。少し前まで、パートナーシップは技術提供側と導入側という上下関係、あるいは発注と受注という取引関係の延長として語られることが多かったように思います。ベンダーは製品を納め、通信事業者はそれを買う。関係はそこで一区切りつき、次の案件でまた同じことが繰り返される。しかし今回のパネルで語られていたのは、誰か一社が主導し、他社がそれに追随するという構図ではなく、複数の主体が対等に価値を組み立てていく協業の姿でした。この変化は、テレコム業界がハードウェア中心の産業からソフトウェア中心の産業へと移り変わったこととも、おそらく無関係ではありません。ソフトウェアは一度作って終わりではなく、運用しながら継続的に手を入れていくものだからこそ、関係も一度きりの取引ではなく、継続的な協業へと自然に形を変えていくのだと思います。
特に印象深かったのは、中南米の事例で語られていた「技術力があっても現地の実行力がなければ成果に結びつかない」という指摘です。これは、グローバル展開を進める企業にとって示唆に富む視点だと感じます。優れた技術は前提条件にすぎず、それを現地の市場感覚、規制環境、顧客の期待値と結びつける力こそが、成果を分ける決定的な要素になっているという捉え方は、テレコムに限らずさまざまな業界に通じる普遍性を持っているように思えます。どれほど優れた設計図を持っていても、それを実際の土地に建てるのは、その土地を知る人間の手だという、ある意味では当たり前でありながら見落とされがちな真実が、ここでは率直に語られていました。
さらに言えば、この「現地の実行力」という課題は、AIや自動化といった先端技術が標準化していくこれからの時代だからこそ、より切実な意味を持ってくるはずです。クラウドネイティブやAI、自動化の導入が広がり、利用できる技術の共通化が進むほど、企業の差別化要因は、技術そのものの保有から、それを市場に合わせて組み合わせ、運用する力へと移っていく可能性があります。企業の真の差別化要因は「共通の土台の上で、いかに独自の価値を素早く組み立てられるか」という応用力にシフトしていきます。つまり、多くの企業が同種の先端技術へアクセスしやすくなる時代において、自社に足りないピースを持つパートナーとどれだけ迅速に、かつ深く結びつけるかという柔軟性こそが、勝敗を分ける決定打になります。技術的な検証に何年も費やす従来型のモデルから脱却し、信頼できるエコシステムを駆使してより短期間で市場にサービスを投入する。これは公式な定義ではありませんが、私には楽天シンフォニーが掲げる「Intelligent Growth」の「インテリジェント」という言葉には、単にAIの活用だけでなく、こうしたエコシステムを賢明に選択・駆動させ、変化の激しい市場への価値提供を加速するという、文字通りの「戦略的な知性」の意味がこめられているように思えてなりません。
もう一つ考えさせられたのは、楽天シンフォニーと楽天モバイルの関係そのものが、このパネルで語られていた考え方を体現しているという点です。楽天シンフォニーは、楽天モバイルの商用ネットワーク構築・運用で培われた技術や知見を、世界の通信事業者への提案に活用しています。これは、外部のパートナーとの協業というより、グループ内での実証と展開という、いわば内側から始まる協業のかたちです。今回のパネルが強調していた「単独では革新も規模拡大も成し遂げられない」という考え方は、外部パートナーとの関係だけでなく、こうしたグループ内での役割分担にもそのまま当てはまるように思います。楽天モバイルという現場があるからこそ、楽天シンフォニーは机上の空論ではない、実際に動いている技術を語ることができる。この構造自体が、MWCという場で楽天グループが繰り返し発信している「Intelligent Growth」という言葉に、単なるスローガン以上の重みを与えているのではないでしょうか。
もっとも、こうした議論には注意も必要だと感じます。パートナーシップやエコシステムという言葉は、聞こえが良い分だけ、実態を伴わない形で使われることも少なくありません。リスクや利益をどう分配するのか、意思決定の主導権を誰が握るのか、うまくいかなかったときに誰が責任を負うのか。こうした具体的な取り決めが伴わないまま「協業」や「エコシステム」という言葉だけが先行してしまうと、結局は従来型の発注者と受注者の関係に逆戻りしてしまう危うさもあります。今回のパネルで語られていた「成果の共有」や「リスクの共有」という言葉が、実際の契約や実務のレベルでどこまで具体化されているのかは、今後の展開を注視していきたいところです。
とはいえ全体を通じて感じるのは、テレコム業界がハードウェアの性能競争から、いかに多くのプレイヤーを巻き込みながら価値を生み出せるかという競争へと、確実に軸足を移しつつあるということです。技術の進化そのものよりも、その技術を誰と、どのように実装し、収益に結びつけていくかという「協業の設計力」こそが、これからの通信業界の競争力を左右していく。今回のセッションは時代の転換点を静かに、明確に示すものだったように思います。
MWC 2026: How strategic partnerships are reshaping telecom value creation
https://symphony.rakuten.com/blog/mwc-2026-how-strategic-partnerships-are-reshaping-telecom-value-creation
