
楽天モバイルの「Mirai X-Gen」とは【中編】追加カードをCPUへ統合 4倍の処理容量と屋外型DU
前編では、基地局がスマートフォンと通信会社のネットワークをつなぐ設備であり、その「頭脳」に当たるDUが大量の通信データを処理していることを紹介しました。
楽天モバイルが採用するvRANは、この基地局機能をソフトウェアとして動かし、汎用的なサーバーを計算基盤として利用する仕組みです。ただし、5Gの重い処理をこなすために追加の専用カードが必要となり、柔軟なはずのvRANに別の複雑さが生まれていました。
中編では、次世代DU「Mirai X-Gen」が、この「複雑さの税金」をどのように減らそうとしているのかを見ていきます。焦点となるのは、Intel Xeon 6 SoCへの機能統合、4倍の処理容量、35%の省電力、そして屋外に設置できるDell PowerEdge XR9700です。
追加カードが担っていた二つの重い処理
従来のvRANサーバーでは、5Gの信号処理をCPUだけで行うのではなく、特定の計算を高速化するアクセラレーションカードに一部の仕事を任せる構成が使われてきました。
代表的な処理がFECとSRSです。FECは、電波の乱れなどによってデータの一部が壊れたときに、誤りを見つけて補正する仕組みです。SRSは、スマートフォンから送られる信号を使って電波の状態を把握し、通信をより適切に制御するために使われます。
どちらも安定した5G通信に欠かせません。しかし、外付けカードを追加すると、部品、配線、制御用ソフトウェア、動作確認の項目が増えます。全国の多数の基地局へ同じ構成を展開すれば、予備部品の在庫、故障原因の調査、交換作業などの負担も積み重なります。
カードの機能をCPUの中へまとめる
Intel Xeon 6 SoCでは、FECやSRSを支援する機能がプロセッサーの内部に組み込まれました。SoCは「System on a Chip」の略で、CPUだけでなく、特定の処理に必要な複数の機能を一つのチップへまとめたものです。
これにより、従来は外付けしていたアクセラレーションカードを減らし、vRANサーバーの構成を簡素化できます。部品が減れば、消費電力だけでなく、故障原因の切り分け、予備部品の管理、現地での交換、ソフトウェアの互換性確認も容易になります。
ただし、一般的なCPUがソフトウェアだけで専用装置を上回ったという話ではありません。CPUの柔軟性を残しながら、通信に特化した専用処理も同じチップの中へ取り込んだことが重要です。
Mirai X-Genは、汎用性か専用性かのどちらか一方を選ぶのではなく、両方を組み合わせた構成です。
設備投資10~40%削減と処理容量4倍
楽天シンフォニーによると、新しい構成では、基地局サイト当たりの設備投資を10~40%削減できるとしています。部品点数を減らし、同じサイトでより多くの通信を処理できるようにすることで、必要なサーバー台数や周辺設備を抑えられるためです。
5G Massive MIMO環境におけるサイトの処理容量は、前世代のハードウェアと比べて4倍に拡大しました。CPUコア当たりの効率も約30%向上したと説明されています。
Massive MIMOでは、多数のアンテナから届く信号を同時に扱うため、DUに高い計算能力が求められます。
処理容量が4倍になるということは、単に通信速度が4倍になるという意味ではありません。1つの基地局サイトに置かれたサーバーが、より多くのアンテナや通信エリアを担当できるようになることを示しています。
CPUの消費電力が増えても省電力になる理由
楽天シンフォニーは、新しいアーキテクチャーによって、消費電力を前世代より35%削減できると説明しています。一方、Intel Xeon 6 SoCのTDPは325ワットで、前世代より高くなっています。
TDPは、CPUの発熱量や冷却設計の目安となる数字です。サーバー全体や基地局サイト全体の実際の消費電力を、そのまま表すものではありません。
新しいCPUは単体では多くの電力を使いますが、それ以上に処理できる通信量が増えています。公表例では、72コアの構成で、基地局が電波を届ける範囲の単位であるセルを最大60まで処理します。
大型バスは小型車より多くの燃料を使います。しかし、一度に多くの乗客を運べれば、乗客1人当たりの燃料消費は小さくなります。今回の省電力も、それに近い考え方です。サーバー1台当たりの電力ではなく、1セルや一定の通信量を処理するために必要な電力で比べると、効率が改善します。
したがって、CPUのTDP上昇と35%の消費電力削減は、必ずしも矛盾しません。ただし、比較している範囲が異なるため、数字だけを切り離して読むこともできません。

削減率はすべての基地局に共通する数字ではない
公表された世代間性能は、楽天シンフォニーとインテルによる内部推計や性能試験に基づくものです。実際の削減率は、基地局の構成、周波数、通信量、既存設備などによって変わります。設備投資の削減幅が10~40%と広いのも、基地局ごとに条件が異なるためです。
今回の数字は、vRANを導入すれば必ず得られる共通の効果ではありません。楽天モバイルの構成と比較条件から得られた参考値として見る必要があります。
電柱や屋上に設置できる屋外型サーバー
Mirai X-Genのハードウェアの中核を担うのが、Dell PowerEdge XR9700です。約15リットル、重さ約18キログラム未満の筐体にIntel Xeon 6 SoCを搭載しています。
XR9700は、内部の液体を循環させる閉ループ式の液冷機構を採用しています。ほこりや雨水の侵入を防ぐIP66にも対応し、直射日光を受ける環境で、マイナス40度から46度までの動作が想定されています。
1台で、アンテナが方向別に受け持つ通信エリアである「5Gセクター」を最大15まで処理できます。電柱、鉄塔、屋上、建物の外壁など、従来の高性能サーバーを置きにくかった場所への設置を想定した製品です。
「ゼロフットプリント」は場所を取らないという意味ではない
従来、高性能なvRANサーバーを基地局サイトへ置くには、地上のキャビネット、空調、電源、設置スペースなどが必要でした。都市部では新しい設備を置く土地の確保が難しく、建物所有者との調整や工事にも時間がかかります。
デル・テクノロジーズは、XR9700による設置を「ゼロフットプリント」と表現しています。これは装置が物理的な場所をまったく取らないという意味ではありません。地上に新しいキャビネットやコンクリートの基礎を設けず、既存の電柱や壁面へ取り付けられるという意味です。
アンテナの近くにDUを置けば、無線装置とDUを結ぶ光ファイバーも短くできます。これによって、光ファイバーの敷設費や通信の遅延を抑えられる可能性があります。
将来のエッジAIは注目を集めやすい構想ですが、短期的には、この設置のしやすさが基地局増強の期間短縮や工事費削減として先に効果を生むと考えられます。
検証済みの技術と全国展開は分けて考える
楽天シンフォニーは、Intel Xeon 6 SoCを使った統合型のvRAN構成について、楽天シンフォニー・イノベーション・ラボで検証し、楽天モバイルの商用ネットワークでも性能や運用上の効果を確認したと説明しています。
一方、デル・テクノロジーズは2026年2月の発表で、楽天モバイルがXR9700の初期導入企業であるローンチカスタマーの一社となり、日本の全国ネットワークへ展開する計画だとしました。XR9700は、2026年後半から世界市場で提供される予定です。
したがって、Xeon 6 SoCを使った処理方式が検証済みであることと、XR9700の全国配備が完了していることを、同じ進捗として扱うべきではありません。実際の導入台数や長期運用の結果は、これから確認すべき段階です。
古いサーバーを別の仕事へ回す
専用の基地局装置は、処理能力が不足したりサポートが終了したりすると、装置全体を交換する場合があります。これに対してvRANは広く普及しているx86方式のサーバーを使うため、基地局で役割を終えた機器をデータセンター内の別の処理へ回せる可能性があります。
楽天シンフォニーは、楽天モバイルで使っていた旧世代のインテル製サーバーを、RAN以外の用途へ再配置する方針を示しています。購入した機器を長く使えれば、廃棄物を減らすだけでなく、設備投資から得られる価値も高められます。
ただし、すべての古いサーバーを無条件で再利用できるわけではありません。実際の経済効果を判断するには、性能や電力効率だけでなく、何台をどの用途へ移し、何年間使えたのかという実績も重要になります。
Mirai X-Genが示しているのは、基地局サーバーの単なる性能向上ではありません。部品を減らし、設置場所の制約を小さくし、役割を終えた機器を別用途へ回すことで、基地局のライフサイクル全体を変えようとしています。
後編では、その先に示されているAI-RANとエッジAIを取り上げます。基地局でAIを動かすとは何を意味するのか、通信設備をAI基盤として活用する構想は事業として成立するのかを考えます。
動画の説明:楽天、Dell、Intelのリーダー陣が、5Gを超え世代に依存しない新たなクラスの分散ユニット(DU)のローンチについて語ります。楽天モバイル向けに開発された「Dell PowerEdge XR9700 DU」は、3社が培った知見を結集し、現代のRANアーキテクチャを再定義します。この新たなDUを大規模展開することで、過酷なエッジ環境にクラウドRANとAIをもたらし、大幅な省エネルギーに加えて以下のメリットを提供します。
よりスマートなアーキテクチャ – 最高クラスのハードウェアを楽天モバイルのOpen RANエコシステムへシームレスに統合
設計レベルでの高い拡張性 – 複雑さを伴わずに迅速な拡張を可能にするクラウドネイティブな柔軟性
サステナビリティの追求 – 拠点(サイト)あたりの電力効率を劇的に向上
妥協のないパフォーマンス – 大容量化、低遅延化、そして将来の技術革新に対応する機能
From Complexity to Capacity: How Rakuten Mobile is Redefining the 5G vRAN Lifecycle
