
日本の消費者はAIをどう受け入れているのか
楽天グループは、AI活用においてつねに積極的な姿勢を示してきたことで知られています。AIソリューションがグループ全体の効率化やユーザー体験の向上を支え、楽天の社員たちもワークフロー改善のために数千もの独自AIを作り上げてきました。いまやAIは、同社の成長を牽引する中核的な存在となっています。しかし、その一方で素朴な疑問が残ります。日本の消費者は、このテクノロジーの波をどのように受け止めているのでしょうか。
日本の市場調査機関であるMMD Laboは、デジタルサービスにおけるAIへの態度を探る大規模な意識調査を実施しました(調査期間:2025年11月14日〜17日)。その結果が映し出したのは、AIの可能性に好奇心を抱きながらも、その使われ方には慎重な姿勢を崩さない生活者たちの姿でした。
年齢・性別で浮かび上がる「温度差」
今回の調査は、18歳から69歳まで、全国5,000人を対象に行われました。分析を進めると、ある馴染み深いパターンが浮かび上がってきました。若い世代ほどAIへの抵抗感が薄く、また年齢を問わずほぼすべての層において、男性のほうが女性よりも好意的な回答を示したのです。
18〜29歳の男性では、「AIの利用にまったく抵抗がない」と答えた割合が27%にのぼりました。一方、対照的な結果を示したのが60代の女性で、同じ回答をしたのはわずか9.5%にとどまりました。男女ともに、年齢が上がるにつれてAIへの熱量は落ちていく傾向があり、女性はより高い割合で抵抗感を表明しています。
ところが、「信頼」という観点から調査すると、様相は少し異なってきます。AIにどこまでを任せられるかという問いに対して、基本的な商品レコメンドから実際の決済にいたるまで、段階を追って聞いたところ、男性は女性と比べて約半分しか支払い情報をAIに委ねたくないと回答しました。AIへの「好奇心」と「信頼」は、必ずしも比例しないのかもしれません。
楽天ユーザーの「積極性」が際立つ
調査の中で、年齢や性別よりも鮮明な差を生んだ要因がありました。それは、楽天エコシステムへの関わり方です。調査では、回答者を「楽天のサービスを積極的に利用している層」「認知しているだけの層」「まったく知らない層」に分類しました。その結果、楽天のサービスを利用している層では62.5%が「AIを嫌いではない」と回答したのに対し、楽天を知らない層では43.6%にとどまりました。さらに、「すでに何らかのAIを使った経験がある」と答えた割合も、楽天ユーザーは約50%と、非ユーザー(20%未満)を大きく上回っています。
この差は、より高度なAI活用になるとさらに広がります。「AIエージェントが取引全体を代行することを許可できる」と答えたのは、楽天ユーザーでは約30%でしたが、非ユーザーではわずか8.6%でした。個人データの活用に関しても同様で、楽天ユーザーの37.4%が「AIによる個人情報の活用に抵抗がない」と答えた一方、非ユーザーでは10.3%に過ぎませんでした。
興味深いのは、楽天サービスを利用していない層がAIを好まない理由として最も多く挙げたのが、「特に理由はない」という答えだったことです。これは積極的な拒絶というよりも、単純な「接点のなさ」が壁になっていることを示唆しています。デジタルサービスへの日常的な関わりが、AIへの受容性を育むのかもしれません。
ショッピングと旅行。AIへの期待が集まる領域
調査では、オンラインショッピングと旅行計画という、身近な2つの場面でのAI活用についても聞いています。オンラインショッピングにおいて消費者が感じている不満として多く挙がったのは、「信頼性に欠けるレビュー」「商品の比較のしにくさ」「サイズ感や用途に合うかどうかの判断の難しさ」などでした。こうした課題を解決するAIとして、複数サイトにまたがる価格比較機能や、値下がりアラート、そして曖昧・自然な言葉での商品検索などへの期待が高まっています。
こうしたニーズに応えるかたちで、楽天市場はAIコンシェルジュを新たに提供開始しました。テキスト・音声・画像を組み合わせながら予算や好み・使用シーンを伝えると、約5億点もの商品から最適な候補を提案してくれます。
旅行計画においても、同様の課題が見られます。多くの回答者が、情報量の多さに圧倒され、選択肢の比較や旅程の組み立て、最適なタイミングの判断に苦労していると答えました。混雑や料金の予測、好みに基づく目的地の提案、出発から到着まで一貫した旅行プランの作成といった機能への期待が寄せられています。これを受け、楽天トラベルは2025年9月にAI旅行検索機能を無料提供開始しました。口コミ・トレンドデータ・多様なホテルプランを活用し、自然言語で入力された条件から、目的地・宿泊数・予算などに合わせたホテルのパーソナライズされた提案を行うAIエージェントです。
「使ってみたい」と「心配」の交差点
調査全体を通じて、AIの持つ高い利便性への期待は明らかでした。自力では見つけにくかった選択肢を引き出してくれる存在として、また情報過多の状況を整理し、比較の手間を省いてくれるツールとして、AIへの期待感が確かに存在しています。しかし同時に、懸念の声も根強く示されました。最も多く挙がった不安は「AIが間違いを犯しても責任を取れない」こと、次いで「メディアでのネガティブな報道」「日常生活にまだ身近な存在として感じられない」といった点でした。では、AIをより受け入れやすくするために何が必要か。データが示した答えは、おおむね3つの領域に集約されます。強固なセキュリティとプライバシー保護、高い精度・正確性、そしてAIが出した結論の根拠を明示する透明性です。日本の消費者にとって、AIの「ブラックボックス性」はいまだ大きな不安の種となっています。
信頼はどこから生まれるのか
調査が示した本質的なメッセージは、シンプルです。AIへの信頼は、親しみ・透明性・そして「最終的にはどこかに責任を持つ人間がいる」という安心感から生まれるということです。AIツールを提供する企業が向き合うべき課題は、もはや技術的な処理能力ではないのかもしれません。消費者が求めているのは、安全性、わかりやすさ、そして本当の意味での「使える」実用性です。その3つを実現できた企業だけが、日本の消費者から真の信頼を勝ち取ることができるのではないでしょうか。
参考:MMD Labo「AIの活用に関する消費者意識調査」(2025年11月14日〜17日実施、全国18〜69歳男女5,000名対象)
調査結果はMMD Laboのウェブサイトにて公開されています。
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2505.html
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2506.html
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2507.html

私見と考察:好奇心と信頼は同じではないという日本的リアリズム
今回のMMD Laboによる大規模調査を読みながら強く感じたのは、日本の消費者は決してAIを拒絶しているわけではなく、むしろ非常に冷静に距離を測っているという点です。若い世代、とりわけ18〜29歳の男性ではAI利用に「まったく抵抗がない」と答えた割合が高く、全体としてもAIへの好奇心は確実に広がっています。しかし同時に、支払い情報をAIに委ねることになると慎重になる傾向が見られました。ここから浮かび上がるのは、「使ってみたい」という感情と「任せてもよい」という信頼は別物であるという事実です。日本の消費者はAIを便利な道具としては歓迎していますが、全面的な代理人としてはまだ位置づけていないのではないでしょうか。この温度差は、今後AIエージェントが広がる時代において、極めて重要な示唆を含んでいると感じます。
年齢差以上に大きい「接点の有無」という要因
世代差や男女差も興味深い結果ですが、私がより本質的だと感じたのは、楽天エコシステムとの関わり方によってAI受容度が大きく変わっている点です。楽天サービスを積極的に利用している層ではAIに対する好意度や利用経験が高く、AIエージェントへの許容度も非ユーザーと比べて顕著に高いという結果が出ています。一方で、楽天サービスを利用していない層では「AIが好きではない理由は特にない」と回答する人が多かったことも印象的でした。これは積極的な拒否というより、単に接点がないことによる心理的距離を示しているように思えます。日本市場では、未知のものにいきなり飛びつくのではなく、日常的な体験の中で徐々に信頼を積み上げていく傾向があります。デジタルサービスを通じた体験の蓄積が、そのままAIへの心理的ハードルを下げているのだとすれば、AIの普及は単独の技術革新ではなく、エコシステム全体の成熟とともに進むものだと考えられます。
「ブラックボックス」への不安と責任の所在
調査で最も多く挙げられた懸念が「AIが間違えても責任を取れない」という点だったことは、日本社会の特性をよく表していると感じました。日本では責任の所在が明確であることが安心感につながります。誰が最終的に判断し、問題が起きた場合に誰が対応するのかが見えないと、不安が増幅します。AIは高度であるがゆえにブラックボックス性を持ちやすく、その透明性が見えにくい存在です。そのため、単に精度を高めるだけでなく、なぜその提案に至ったのかという説明可能性や、人間が最終判断を行う仕組みを明示することが、日本市場では特に重要になるでしょう。技術力そのものよりも、安心して使える設計が問われているのだと思います。
ショッピングと旅行に期待が集まる理由
オンラインショッピングや旅行計画においてAIへの期待が高いという結果も、非常に象徴的です。どちらも情報量が多く、比較が難しく、選択に時間がかかる領域です。消費者は「完璧な正解」を求めているというより、「後悔を減らしてくれる存在」を求めているのではないでしょうか。楽天市場のAIコンシェルジュや楽天トラベルのAI旅行検索のような取り組みは、情報過多の状況を整理し、選択肢を絞り込む支援を行う点で、日本の消費者心理と合致しています。すべてを自動化するよりも、最終判断は自分で行える状態を保ちながら、判断材料を賢く提示してくれる仕組みのほうが受け入れられやすいのではないかと感じます。
日本市場におけるAIの本質的課題
今回の調査を通して見えてきたのは、日本の消費者はAIに対して消極的なのではなく、成熟した態度を取っているということです。利便性を認めつつも、責任や透明性を重視する姿勢は、長期的に健全な技術普及を促す土壌とも言えます。AIへの信頼は、AI単体から生まれるものではなく、企業ブランドへの信頼、セキュリティ実績、トラブル時の対応力などの積み重ねの上に形成されます。楽天ユーザーが比較的前向きなのも、単にテクノロジー志向だからではなく、日常的な接触の中で築かれた信頼の延長線上にAIが存在しているからでしょう。日本におけるAIの課題は技術力そのものではなく、いかに信頼設計を行うかにあると私は考えます。透明性を高め、最終的な責任の所在を明確にし、実用的な価値を着実に示すことができた企業だけが、長期的に日本の消費者の支持を得るのではないでしょうか。
How Japanese consumers are embracing AI
https://rakuten.today/blog/japanese-consumers-embracing-ai-survey.html
