楽天シンフォニーのレベル4自律型ネットワークが拓く通信業界の未来

通信業界が今、ひとつの大きな節目を迎えています。ネットワークの複雑さは増す一方で、コスト削減の圧力は緩む気配がなく、サービス需要はとどまるところを知りません。こうした状況のなかで、通信事業者の関心は「自動化」という従来の枠組みを超え、完全に自律して自己最適化するネットワークの実現へと向かいつつあります。
2026年4月、ネットワーク専門メディアグループNMGのアベ・ネジャッド氏が司会を務めたパネルセッションでは、自動化から自律化へのシフトがいかに進んでいるか、そしてRANからコアまでの全域でAI主導のインテリジェンスがなぜ欠かせないのかが論じられました。登壇したのは、テレノールグループでテクノロジー戦略・アーキテクチャのディレクターを務めるアフナン・アハメド氏と、楽天シンフォニーのEMEA地域セールス責任者であるファイク・カーン氏の2名です。

https://youtu.be/3eKL8mpIDHg
動画の説明:従来の自動化だけでは、もはや十分ではありません。The Network Media Group (NMG) が主催する MWC26 のパネルディスカッションでは、楽天シンフォニーとテレノール・グループ(Telenor Group)のリーダーたちが登壇。複雑な5G、エッジ、マルチベンダー環境を管理する通信事業者にとって、なぜ「クローズドループ」と「AIによる意思決定」を特徴とするレベル4 自律型ネットワークが次なる重要な飛躍となるのかを深掘りします。
主なトピック:
・レベル4 自律型ネットワークとは: 従来の自動化と何が違うのか
・Open RANとRICの役割: リアルタイムの最適化とベンダー間の相互運用性をいかに実現するか
・OPEX(運用コスト)の削減: AI駆動のクローズドループなネットワーク運用による効率化
・ユースケースの拡大: 通信事業者、プライベートネットワーク、エッジコンピューティングの規模拡大への対応
・将来を見据えたインフラ構築: 拡張性の高い次世代通信インフラの確立

レベル4自律化とは何か
議論はまず「レベル4自律化とは実際のところ何を意味するのか」という問いから始まりました。登壇者の答えはシンプルです。人間が主体となって操作する運用から、AIエージェントやシステムが主体となって判断・実行する運用への移行、それがレベル4です。テレノールにとって、この定義にはより具体的な意味があります。レベル4以上の自律化は、ネットワークをより柔軟に制御できる状態にし、管理しやすくし、何よりビジネスとして収益を生みやすくするための仕組みです。自律性を追い求めること自体が目的なのではなく、ネットワークの柔軟な制御性を通じて事業成長を実現することが本来の狙いです。その考え方を体現する取り組みとして、テレノールは北欧の特定エリアを地理的に区切り、その範囲内のネットワーク全域でレベル4の自律化を達成するという構想を進めています。一部のドメインや特定のノードだけで自律化を実現するのではなく、エリア内のあらゆる機能でレベル4を達成することを目指しています。見せるための実証ではなく、スケールアウトできる証明として設計されている点が重要です。

自律化を支える土台
両者が迷いなく断言したのは、クラウドネイティブアーキテクチャとオープンRANなしには自律型ネットワークは実現できないという点です。スタック全体の仮想化と、オープンRANおよびRICプラットフォームのオープン性が揃ってはじめて、自律化への道が開けます。単一ベンダーがすべての機能を握る従来型の独占的なサイロに縛られ続ける限り、自律化に必要なネットワークの柔軟な制御性は根本から阻まれます。従来の構造では、ネットワークに新しい機能を加えようとするたびに、特定のベンダーに依頼するしかありませんでした。しかしRANをオープン化して自由に機能を追加・変更できる構造にすることで、rAppsやxAppsといったアプリケーションを事業者自身が開発したり、さまざまなサードパーティから調達したりすることが可能になります。機能追加の主導権が、ベンダーから事業者側に移るわけです。ネットワークを自由に制御できる範囲が広がることが、そのままビジネスの可能性を広げると両者は語りました。一方で、業界の現状についても率直な言及がありました。通信事業者はラジオ層やトランスポート層からCRMや障害管理システムまで、膨大なネットワークデータを保有しています。しかしそのデータを、自社の主権を守りながら、安全に、かつ体系的に活用することはいまだ解決できていない課題です。「データなくしてAIなし」というひと言が、現実の重さを端的に示していました。

技術だけでは変わらない
このセッションで印象的だったのは、自律型ネットワークの実現が技術的な課題にとどまらないという認識が、率直な言葉で語られたことです。組織のあり方、現場の文化、意思決定の構造といった要素の変革なしには、どれだけ優れた技術も機能しません。そして通信業界はこの難しさを、長年にわたって軽く見すぎてきたという指摘がなされました。通信事業者は今も動きが遅く、組織は縦割りのままです。オープンRANのアーキテクチャは、こうした構造を崩す本物のチャンスを初めてもたらしています。レベル4を実スケールで実現するには、フラットな組織階層、領域をまたいで動けるキーパーソンの存在、そしてインテント駆動型の運用モデルが必要です。インフラを刷新するだけでは、変革は起きません。
具体的な証拠として挙げられたのが、楽天モバイルの事例です。日本全国をカバーするネットワークを、完全仮想化・フルオープンスタックで構築し、約200名という少数精鋭で運営しています。この事実は、既存の大手通信事業者にとって羨望と焦りを同時に呼び起こすベンチマークとなっています。アハメド氏は「あなたたちが200人でネットワークを動かしていると聞いて、正直うらやましいと思う」と率直に語り、かつて120人を要したNOCが10〜15人で回せるようになれば、それこそが針を動かした証明だと述べました。
求められているのは、人材をアラーム監視業務から解放し、収益創出の仕事へと再配置できるような、OpExを50〜80%削減するレベルの変革です。小幅な改善を積み重ねることではありません。

スケールした実績だけが証明になる
セッション全体を通じて繰り返されたメッセージがあります。「レベル4認定の数を数えるのをやめ、レベル4が実際に何を変えたかを見せろ」というものです。ラボや限定エリアでの小さな成功ではなく、実ネットワーク全域にわたって再現できる成果こそが、自律型ネットワークというビジョンを正当化します。部分的なドメインの勝利や軽微な改善を積み上げるだけでは、業界の信頼を勝ち取ることはできません。スケールしない実績はカウントされない。そうした厳しい基準を業界全体が自らに課すべき時期に来ています。
テレノールの北欧における完全レベル4自律化構想と、楽天モバイルが日本全国で示した運用効率の実績。この二つの事例は、自律型ネットワークが遠い未来の話ではなく、着実に現実へと近づいていることを示しています。オープンRANとクラウドネイティブアーキテクチャがもたらすネットワークの柔軟な制御性を土台とし、データ活用と組織変革に本気で取り組む事業者が増えるにつれ、ネットワークはコストセンターから収益エンジンへと変わっていきます。楽天シンフォニーは、その変革を支える存在として、業界の議論の中心に位置し続けています。

私見と考察:世界が注目する200名のネットワーク​​​​​​​​​

200名という数字が意味すること
楽天モバイルが約200名でフルオープンスタックの全国ネットワークを運営しているという事実は、改めて数字として向き合うと、やはり驚異的です。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった既存の大手通信事業者が数千人規模のネットワーク運用要員を抱えていることを考えると、その差は単なる効率の違いではなく、ネットワーク運用の設計思想そのものが根本から異なることを示しています。

大手3社との決定的な違いはどこにあるか
既存の大手3社は長年にわたって積み上げてきた独自システムと専用ハードウェアの巨大な資産を抱えています。安定的なサービス提供という面では強みでもありますが、新しい技術を導入しようとするたびに既存システムとの互換性確認や複雑な調整作業が発生します。結果としてネットワークの進化がどうしても遅くなり、コストも膨らみます。楽天モバイルには良くも悪くもそうした「歴史の重さ」がありません。完全仮想化・クラウドネイティブという構造でゼロから構築したがゆえに、変更や機能追加をソフトウェアの更新だけで完結できる場面が多く、ハードウェアの制約に縛られにくい運用体制が実現しています。オープンRANという観点でも、楽天モバイルの立ち位置は国内で唯一無二です。NTTドコモやKDDIもオープンRANへの取り組みを進めてはいますが、既存ネットワークとの共存という制約のなかで段階的に移行を図っている状況です。楽天モバイルはグリーンフィールド、つまり何もないところから完全オープンな構成で全国展開を果たした世界でも数少ない事業者のひとつです。この違いは非常に大きいといえます。部分的にオープンRANを導入している状態と、最初からオープンRANで全国ネットワークを構築・運用している状態とでは、実際に積み上げられるノウハウの質と量がまったく異なるからです。

自分たちが使っているものを売る
楽天シンフォニーがそのノウハウを外販できる体制を整えているという点も、他社との差別化として見逃せません。楽天モバイルが自社ネットワークで実証したアーキテクチャや運用モデルを、世界の通信事業者に提供するビジネスモデルは、国内の競合他社には存在しない視点です。NTTドコモもNTTグループとしてグローバル展開を志向していますが、楽天シンフォニーが提供するのはあくまでも自社が日々運用しながら磨き続けているプラットフォームそのものです。「自分たちが使っているものを売る」という説得力は、他社が簡単に模倣できるものではありません。

世界が楽天モバイルを羨む理由
今回のセッションでテレノールのアハメド氏が「正直うらやましい」と口にした場面は、単なる社交辞令ではないと思います。欧州の大手通信事業者が、日本の新興事業者の運用モデルを本気で羨む状況が生まれているという事実は、楽天モバイルが国際的な文脈においても明確なベンチマークとして認識されていることの証左です。

冷静に見ておくべき課題
一方で、冷静に見ておくべき点もあります。楽天モバイルは現在も国内シェアの拡大を続けている段階であり、ネットワーク品質に関する評価は大手3社と比べてまだ道半ばという声もあります。約200名での運用が実現できている背景には、ネットワーク規模や加入者数がドコモやKDDIと比べてまだ小さいという側面もあるからです。加入者がさらに増え、トラフィックが拡大したとき、同じ少人数体制を維持しながら品質を担保できるかどうかは、今後の真の試練になるでしょう。しかしそれでも、楽天モバイルが示した「完全仮想化・オープンスタックで全国ネットワークを運営できる」という実績は、理論ではなく現実として存在します。世界の通信事業者がレベル4自律化を語るとき、楽天モバイルの名前が必ず参照されるようになっているという現状は、国内での競争環境とは別の次元で、この会社が果たしている役割の大きさを物語っています。

通信障害は「起きる前に防ぐ」へ
では、こうした技術が本格的に普及したとき、私たちの生活やビジネスは具体的にどう変わるのでしょうか。まず、通信サービスの料金という身近な話から考えてみます。ネットワーク運用コストが50〜80%削減されれば、その恩恵は最終的に利用者側に還元される可能性があります。現在、大手通信事業者の料金体系には、膨大な人件費や専用ハードウェアの維持コストが当然のように含まれています。自律型ネットワークが当たり前になれば、通信コストの構造そのものが変わり、利用者にとってより手頃で多様な料金プランが生まれやすくなります。次に、ネットワーク障害への対応です。現在、通信障害が発生すると、人間のエンジニアが原因を特定し、復旧作業を行うまでに一定の時間がかかります。レベル4の自律型ネットワークでは、障害の予兆をAIがリアルタイムで検知し、人間が気づく前に自動で対処します。かつて他社が経験した大規模通信障害のような事態も、自律型ネットワークが十分に成熟すれば、影響範囲を大幅に抑えられる可能性があります。障害が起きてから直すのではなく、起きる前に防ぐ、あるいは瞬時に局所化するという運用に変わっていくわけです。

工場・物流・医療:産業の現場で何が変わるか
企業のビジネスへの影響も見逃せません。現在、工場の生産ラインや物流倉庫でIoTセンサーやロボットを活用する企業は増えていますが、ネットワークの遅延や不安定さが足かせになるケースは少なくありません。自律型ネットワークは状況に応じてリアルタイムでリソースを最適配分するため、ミリ秒単位の応答が求められる産業用途でも安定した通信品質を維持しやすくなります。自動運転、遠隔手術、スマート農業といった分野で通信の信頼性がボトルネックになっている課題が、一気に解消に向かう可能性があります。

新サービスの立ち上げが、アプリのアップデートと同じ感覚になる日
また、新しいサービスの立ち上げスピードも変わります。従来のネットワークでは、新しい通信サービスや機能を提供しようとすると、ハードウェアの調達から設定・テストまで数カ月単位の時間がかかることも珍しくありませんでした。ソフトウェアで自由に機能を追加・変更できる構造になれば、新サービスの展開がアプリのアップデートに近い感覚で行えるようになります。通信事業者が新しいビジネスアイデアを素早く試し、市場の反応を見ながら改善できる環境が整うことで、通信インフラを活用したサービスのイノベーションが加速するでしょう。

災害大国・日本だからこそ、自律型ネットワークに期待できること
さらに視野を広げると、災害時の通信確保という観点でも大きな意味を持ちます。日本は地震や台風など自然災害の多い国です。自律型ネットワークは被害状況をリアルタイムで把握しながら、生きているリソースを自動的に再配分することができます。人間のオペレーターが現地に駆けつけなくても、ネットワーク自身が復旧の優先順位を判断して動き始める世界が、それほど遠くない将来に実現するかもしれません。

通信インフラは社会変革のプラットフォームに
楽天モバイルが今まさに日本全国で実証しているのは、こうした未来への入り口です。約200名での全国ネットワーク運用という数字の背景には、単なるコスト削減の話ではなく、通信インフラのあり方を根本から変えようとする設計思想があります。この設計思想が楽天シンフォニーを通じて世界へと広がり、各国の通信事業者が同じ方向へ進んでいくとき、通信は、使えて当たり前のインフラから社会の変革を能動的に支えるプラットフォームへと進化していくことになるでしょう。​​​​​​​​​​​​​​​​

From Automation to Autonomy: Why Level 4 Autonomous Networks and Open RAN Intelligence Are Critical for Telco Transformation

https://symphony.rakuten.com/blog/from-automation-to-autonomy-why-level-4-autonomous-networks-and-open-ran-intelligence-are-critical-for-telco-transformation

From Automation to Autonomy with Open RAN – Blog | Rakuten SymphonyA recent session by NMG at MWC26 explored the role AI-driven intelligence across the RAN and core must play to make autonomous operations a reality.symphony.rakuten.com