楽天モバイル・楽天シンフォニー、RIC全国展開とオープンRANエコシステムの拡大で通信業界に新たなマイルストーン

日本初、そして世界初の取り組みが示すOpen RANの今
楽天モバイル株式会社と楽天シンフォニー株式会社は2026年2月、O-RAN準拠のRAN Intelligent Controller(RIC)について、サードパーティー製rAppの統合や新たなユースケース展開など、複数の重要な成果を発表しました。中でも注目されるのは、楽天モバイルが商用ネットワークへのRICアプリケーションを日本全国に展開完了したという事実です。これは、Open RAN技術を用いた完全仮想化による全国規模の商用ネットワークへのRIC導入としては、世界で唯一の事例とされており(2026年2月25日時点・楽天モバイル調べ)、通信業界に大きなインパクトを与えています。

そもそもRICとは何か?Open RANにおける役割をおさらい
RIC(RAN Intelligent Controller)とは、Open RANアーキテクチャーにおける重要なコンポーネントの一つです。従来の無線アクセスネットワーク(RAN)は、特定ベンダーのハードウェアとソフトウェアが一体化した「クローズドな構造」が主流でした。しかしOpen RANでは、機能を分離・仮想化し、異なるベンダーの機器やソフトウェアを組み合わせて運用できるオープンな設計を目指しています。
RICはその中で、無線ネットワークの状態をリアルタイムまたは非リアルタイムに収集・分析し、AIや機械学習を活用してネットワーク全体の最適化・自動化を実現するための「頭脳」に当たる部分です。このRICの上で動作するソフトウェアアプリケーションが「rApp」(Non-RT RIC上で動作するもの)や「xApp」(Near-RT RIC上で動作するもの)であり、予知保全やトラフィック最適化、モビリティ向上といった機能を担います。

今回の発表のポイント:三つの大きな成果

1:商用網へのRIC全国展開の完了楽天モバイルは、日本全国の商用ネットワークにRICアプリケーションの展開を完了させました。これは単なる技術的な実証実験ではなく、実際に顧客が利用する商用インフラへの本格導入です。試験段階から大規模な実運用へと移行できることを示したという意味で、Open RAN業界全体にとっての「証明」とも言えます。
楽天モバイル ビジネスマネジメントディビジョン AI&データ統括部 ディレクターのサッチン・ヴァーマ氏は、「最適化サイクルが加速され、お客様により強靭で高品質なネットワーク体験の提供が可能となった」と述べており、全国展開がすでに具体的なサービス品質向上につながっていることを強調しています。また、開発者やパートナー企業にとっては、「運用への影響を定量的に評価できる実証済みの実運用プラットフォーム」が提供されることになり、新たなrApp開発・展開の土台が整ったことも大きな意義を持ちます。
2:サードパーティー製rAppの商用網統合
今回の取り組みでもう一つ注目すべき点が、自社製rAppにとどまらず、サードパーティー製のrAppも商用ネットワークに統合したことです。楽天モバイルと楽天シンフォニーは、米AirHop Communications社や蘭Future Connections社などのパートナー企業と連携し、Non-RT RIC環境へのrApp統合を推進しています。
これらのアプリケーションがカバーする領域は多岐にわたります。具体的には、予知保全(障害が起きる前に異常を検知・対処する仕組み)、モビリティ向上(移動中のユーザーに対するハンドオーバー最適化など)、トラフィック最適化、そしてAIアシストによる意思決定支援といった機能が挙げられます。これらはいずれも、人的関与を減らしながらネットワーク品質と信頼性を高めることを目指したものです。
楽天シンフォニー 執行役員 兼 ネットワーク運用システム(OSS)ビジネスユニット プレジデントのヴィヴェック・ムルシー氏は、「オープン標準が実際のイノベーションへとつながることを示している」と語っており、標準化とオープン化が絵空事ではなく、現実のネットワーク改善に直結していることを改めて示しました。
3:TM Forumの「自律型ネットワーク レベル4」認証取得
今回の成果はまた、国際的な業界団体TM Forumが定める「自律型ネットワーク レベル4」の認証取得にも結びついています。この認証は、ネットワーク運用における自律性の度合いを評価するフレームワークの中で、高度な自律性を示す段階であり、クローズドループの自動化とAIがネットワーク運用の中核を担っていることが求められます。
2026年2月19日に発表されたプレスリリースによれば、楽天モバイルと楽天シンフォニーはOpen RANの商用ネットワークにおけるRAN省電力化でこの認証を取得しており、世界初の事例となっています。今回のRIC全国展開と合わせ、Open RANを活用した自律型ネットワーク実現に向けた取り組みが着実に進展していることが伺えます。

NICTとの連携:研究開発が実用化へ
今回の成果は、楽天モバイルが2023年より取り組んでいる国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の事業とも密接に関連しています。具体的には、「Beyond 5Gにおける高度RAN基盤を実現するOpen RAN無線通信技術の研究開発」(委託研究)と、「次世代通信に向けたエッジクラウドの高度化技術に関する研究開発プロジェクト」(助成事業)の二つです。
国の研究機関との連携のもとで積み上げられた技術的知見が、今回の商用ネットワークへの全国展開という形で実を結んだことは、産学官連携の観点からも非常に意義深い事例と言えるでしょう。日本の5G/Beyond 5G戦略においても、こうした民間企業の先進的な取り組みが果たす役割は大きいといえます。

マルチベンダーエコシステムの構築という大きな絵
今回の発表を通じて浮かび上がるのは、楽天モバイルと楽天シンフォニーが単に自社ネットワークを最適化するだけでなく、通信業界全体のエコシステム変革を牽引しようとしているという姿勢です。
Open RANの理念の核心にあるのは、特定のベンダーへの依存を排し、多様なプレイヤーが競争・協力できるオープンな市場を作ることです。サードパーティー製rAppを商用網に統合したことは、まさにそのビジョンの具現化であり、「rAppを開発すれば実際の商用ネットワークで検証・展開できる」というプラットフォームの魅力を世界に示すことでもあります。
両社はこれを踏まえ、自社RICプログラムへの技術パートナーや開発者の参画を積極的に募っています。世界唯一の全国規模商用RICを「実証の場」として開放することで、国内外のスタートアップや技術企業がOpen RANエコシステムに参入しやすい環境を整えていく方針です。

今後の展望:xAppの展開と新ユースケースへ
楽天モバイルと楽天シンフォニーは今後も、新たなエコシステムパートナーやrApp開発者との連携を拡大し、ユースケースの幅をさらに広げていくとしています。また、Non-RT RIC上で動作するrAppに加え、Near-RT RIC上で動作するxAppの搭載・検証も予定されており、より短い時間スケールでのネットワーク制御・最適化にも取り組んでいく見通しです。
xAppはリアルタイム性が求められる用途に対応するため、例えばトラフィックの急激な変動への即応や、より精緻なQoS(サービス品質)制御といった分野での活用が期待されています。rAppとxAppが連携することで、長期的な予測・最適化と短期的なリアルタイム制御を組み合わせた、高度に自律的なネットワーク運用が実現に近づきます。

まとめ:Open RANは「概念」から「現実」へ
楽天モバイルと楽天シンフォニーによる今回の一連の発表は、Open RANが依然として技術的な夢想に留まっているという一部の懐疑論を正面から否定するものです。商用ネットワークへのRIC全国展開、サードパーティー製rAppの統合、そして世界初の「自律型ネットワーク レベル4」認証取得という三つの成果は、いずれも「実運用での証明」という点で非常に重い意味を持っています。
通信業界のオープン化・ソフトウェア化という大きな潮流の中で、日本発のOpen RANエコシステムがどこまで世界に影響を与えられるか。楽天モバイルと楽天シンフォニーの今後の動向は、引き続き業界関係者から高い注目を集めることになりそうです。​​

私見・考察:楽天のRIC全国展開が意味すること。Open RANはついに「使えるもの」になった

「世界唯一」という言葉の重さ
プレスリリースの中に、さらっと書かれている一文があります。「Open RAN技術を用いた、完全仮想化による全国規模の4Gおよび5G商用ネットワークへのRIC導入において、世界で唯一」というくだりです。ドコモでもソフトバンクでもなく、AT&TでもVodafoneでもなく、楽天モバイルが達成しています。加入者数でいえば世界の大手通信キャリアの足元にも及ばない規模の会社が、ネットワークの知性化という最前線で世界をリードしている。この非対称性は、通信業界の構造変化を象徴する出来事として、もっと注目されるべきだと思います。従来の通信業界では「大きいキャリアが最初にやる」というのが常識でした。設備投資の規模が大きいほどベンダーと有利な交渉ができ、先行投資のリスクを吸収できる体力がある。だから技術の最前線は常に大手の独壇場でした。ところが今回は逆です。大手キャリアがまだ「RICは検証中」「部分展開にとどまる」という段階で、楽天モバイルは全国展開を完了させてしまっています。なぜこんなことが起きたのか。それを考えると、今回の発表の本質が見えてきます。

「ゼロから作った」ことが最大の武器になるという逆説
楽天モバイルがOpen RANの最前線に立てた理由は、逆説的ですが「レガシーがなかったから」だと思います。既存の大手キャリアは、何兆円もの設備投資で積み上げてきたネットワークインフラを持っています。エリクソンやノキア、ファーウェイといった特定ベンダーの機器が全国に張り巡らされており、そのシステムを動かすための運用ノウハウも、人材も、契約関係も、すべてが既存の構造に最適化されています。そこにOpen RANを導入しようとすると、既存インフラとの共存問題、運用チームの再教育、ベンダーとの契約見直しなど、想像を絶する摩擦が生じます。大きな船ほど向きを変えるのに時間がかかる、まさにそれです。一方の楽天モバイルは、2019年のMNO参入時点でゼロからネットワークを構築しました。最初からOpen RAN、最初から完全仮想化、最初からクラウドネイティブ。しがらみが一切なかった分、最新のアーキテクチャーを一気通貫で実装できた。RICの全国展開が他社より早くできたのも、ネットワーク全体が最初からRICを受け入れる設計になっていたからです。これは後発の強みであり、今後もこの構造的優位は簡単には消えません。

rAppの「サードパーティー統合」が意味する市場創造
今回の発表でもう一点、個人的に非常に重要だと感じたのが、AirHopやFuture Connectionsといったサードパーティー企業のrAppを商用網に統合したという点です。これを聞いて「ふーん、外部のアプリも使えるようになったのか」と思う人は多いかもしれません。しかし本質はそこではなく、「rAppという新しい市場が、実際に成立することが証明された」という点にあります。わかりやすく例えると、iPhoneが登場する前と後を想像してください。iPhoneが登場する前にも「携帯向けアプリ」は存在していましたが、キャリアの審査を通過した限られたサービスしか使えず、開発者が自由に参入できる市場ではありませんでした。それがApp Storeの登場によって、誰でもアプリを作れば何億人ものユーザーにリーチできる市場が生まれた。開発者が集まり、投資家が集まり、エコシステムが自己増殖的に拡大していきました。rAppの世界も、今まさに同じ転換点にあります。これまでのネットワーク最適化は、ベンダーが独自ソフトウェアを使って行うブラックボックスの世界でした。キャリアはベンダーに言われるままに機能を使うしかなく、「うちのネットワークにはこういう最適化が必要だ」と思っても、ベンダーのロードマップに乗っていなければ実現できませんでした。ところがRICとrAppの世界では、標準化されたインターフェースを通じてサードパーティーが独自の最適化ロジックを開発・展開できます。そして今回、その仕組みが「実際の全国商用ネットワークで動いている」ことが示されました。これは「rAppを作れば、実際のキャリアネットワークに採用される可能性がある」ということを世界中のソフトウェアエンジニアやスタートアップに向けて発信した、非常に大きなシグナルです。

「自律型ネットワーク レベル4」が本当に意味すること
TM Forumの「自律型ネットワーク レベル4」という認証についても、少し踏み込んで考えてみたいと思います。レベル4というのは「条件付き自律運用」とも言える段階です。簡単に言えば、ネットワークが自分で状況を判断し、人間の指示なしに対処できる範囲が大幅に広がっている状態です。具体的にイメージしてもらうために例を挙げると、従来のネットワーク運用は「夜中の2時に特定の基地局でトラフィックが異常に増加している」という通知を受けたオペレーターが、手順書を見ながら対処する、という世界でした。これがレベル2くらいのイメージです。レベル4になると、そもそもその異常が通知されること自体がなくなります。なぜならネットワーク自身が「このままだとトラフィックが混雑しそうだ」と予測し、近隣の基地局に負荷を分散し、必要であれば電力設定を変え、問題が起きる前に自律的に解決してしまうからです。オペレーターが気づいたときには、すでに対処済みになっている。
これは単なる「便利になった」という話ではありません。通信キャリアにとってネットワーク運用コストは莫大で、24時間365日の監視体制を支える人件費は経営を圧迫し続けています。自律化が進むほど、少ない人員でより広いネットワークをより高品質に運用できるようになる。これは収益構造そのものを変え得る変化です。
楽天モバイルがこのレベル4を達成したことは、将来的なコスト競争力という観点でも、非常に重要な意味を持つと考えます。

NICTとの連携が示す「日本の通信戦略」の可能性
今回の成果がNICTの委託研究・助成事業と連動していることも、見逃せないポイントです。日本の通信業界はこれまで、標準化や技術開発の最前線において、欧州勢(エリクソン、ノキア)や中国勢(ファーウェイ、ZTE)の後塵を拝してきた面がありました。日本企業が得意としてきた「すり合わせ型」の製造業モデルは、オープン化・標準化が進む通信インフラの世界ではむしろ不利に働いてきた歴史があります。
しかし今回のように、楽天モバイルという民間企業がNICTというナショナルリサーチセンターとタッグを組み、Beyond 5GのRIC技術を世界に先駆けて商用展開するという構図は、日本の通信技術戦略の新しいモデルを示しているように見えます。大企業による垂直統合型の開発ではなく、オープンなエコシステムの中で日本が重要なハブになる、という道筋です。もちろん、これが持続するかどうかは今後の取り組み次第です。しかし少なくとも現時点では、「日本発のOpen RANエコシステム」という概念が、単なる掛け声ではなく実体を伴い始めていることは確かです。

エコシステムはまだこれから
ここまで前向きな考察を書いてきましたが、公平を期すために懸念点も述べておきたいと思います。最も大きな課題は、rAppのエコシステムがいまだ黎明期にあるという点です。今回統合されたサードパーティー製rAppはAirHopとFuture Connectionsの2社であり、「マーケットプレイスに何百ものアプリが並んでいる」という状況には程遠い。App Storeの比喩に戻れば、今はまだ「App Storeが開設されて、最初のアプリが数本並んだ段階」と言えるかもしれません。このエコシステムが本当に自走するためには、rAppを開発・販売することでビジネスとして成立するという実績が積み重なる必要があります。そのためには、楽天モバイル以外のキャリアもRICを導入し、rApp開発者にとっての「市場規模」が拡大していかなければなりません。世界唯一の全国商用RICという事実は誇るべき成果ですが、裏を返せば「現状ではここにしか売り場がない」ということでもあります。楽天モバイルが自社のRICプログラムへの技術パートナーや開発者の参画を積極的に募っているのは、まさにこの課題を認識しているからこそでしょう。ここから先、どれだけの開発者を引き込み、どれだけ多様なユースケースを生み出せるかが、Open RANエコシステムの本当の試練になると思います。

結局のところ、これは「通信の民主化」の話
最後に、今回の一連の発表を大きな視点で捉え直してみます。RICとrAppが実現しようとしていることの本質は、ネットワーク最適化の「民主化」だと思います。これまでネットワークをどう動かすかは、巨大ベンダーと一握りの大手キャリアだけが決められる世界でした。ところがオープンな標準インターフェースの上でソフトウェアアプリケーションとして最適化ロジックを提供できるようになれば、世界中のエンジニアやスタートアップが通信インフラの改善に参加できるようになります。
これはクラウドコンピューティングがIT産業を変えたのと同じ構造変化の予兆です。クラウドが登場する前、大規模なITインフラを構築・運用できるのは大企業だけでした。AWSが登場したことで、ガレージの中の二人組のスタートアップでも世界規模のサービスを構築できるようになった。rAppの世界でも、同じことが起きつつあるのかもしれません。楽天モバイルと楽天シンフォニーが今回示したのは、技術的な成果以上に、「その未来は絵空事ではない」というメッセージだったと思います。世界がそれをどう受け取るか、そして日本のOpen RANエコシステムがここからどう育っていくか、引き続き注目していきたいと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​


楽天モバイルと楽天シンフォニー、商用網へのRIC全国展開とサードパーティー製rAppの統合によりOpen RANイノベーションを推進

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