
楽天モバイルとノキア、クラウドネイティブなコアネットワーク機能の商用運用を開始
楽天モバイル株式会社、楽天シンフォニー株式会社、そしてフィンランドの通信機器大手Nokia Corporation(ノキア)の3社は、ノキアのクラウドネイティブネットワーク機能(CNF)を楽天シンフォニーが提供するクラウドソリューション「Rakuten Cloud」に展開し、楽天モバイルの商用コアネットワークにおいて運用を開始したことを発表しました。この取り組みは、単なる技術連携にとどまらず、日本の通信業界が世界に誇る「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」の進化において、重要なマイルストーンとなるものです。本記事では、今回の発表の内容と、その技術的・戦略的意義について詳しく解説します。
今回展開されたネットワーク機能とは
今回「Rakuten Cloud」に展開されたノキアのCNFには、以下の5つの主要機能が含まれています。
IP Multimedia Subsystem(IMS)
音声通話やビデオ通話などのマルチメディアサービスをIPネットワーク上で提供するための基盤技術です。モバイル通信の国際標準化プロジェクト「3GPP」によって標準化されており、現在のVoLTE(Voice over LTE)サービスを支える中核的な仕組みです。
Subscriber Data Management(SDM)
加入者データを一元的に管理するシステムです。ユーザーの認証情報やサービスプロファイルなど、通信サービスに欠かせないデータを安全かつ効率的に管理します。
Cloud Signaling Director(CSD)
ネットワーク内の通話関連情報を制御する機能です。通信の経路制御やシグナリングのオーケストレーションを担い、ネットワーク全体の品質維持に貢献します。
Mediation(メディエーション)
異なるシステム間の相互連携を実現する機能です。異種ネットワーク間のデータ変換やプロトコル変換を担うことで、複雑な通信環境における相互運用性を確保します。
NetGuard Certificate Manager
デジタル証明書を管理するセキュリティ機能です。ネットワーク内の各種通信を暗号化・認証するための証明書を一元的に管理し、通信インフラのセキュリティ強化に寄与します。これらの機能が一体となってクラウドネイティブ環境上で動作することで、楽天モバイルは4G・5G商用ネットワークにおける高品質な音声・データサービスを効率的に提供できるようになります。
Rakuten Cloudと楽天クラウドイノベーションラボの役割
今回の商用展開に先立ち、事前検証は「楽天クラウドイノベーションラボ」にて実施されました。同施設は2019年に楽天グループが設立した次世代ネットワークの試験施設であり、新技術の評価・検証を行うための専用環境として機能してきました。この検証を経て、ノキアのクラウドネイティブなIMSが本番環境においても「Rakuten Cloud」上の他のCNFと円滑に連携し、楽天モバイルの完全仮想化クラウドネイティブネットワークアーキテクチャで問題なく動作することが確認されました。「Rakuten Cloud」の基盤となる「Rakuten Cloud-Native Platform」は、従来の仮想化クラウドと比較して、以下の点で優れた特性を持っています。
・より迅速な展開およびアップグレード
・柔軟な拡張性(スケーラビリティ)
・自動化による効率的な運用管理
・システム全体の信頼性・安定性の向上
また、「Rakuten Cloud」の一部機能は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の助成事業による開発成果を活用しており、公的な研究開発の成果が商用ネットワークへと結実した点も注目されます。
楽天モバイルにとっての意義。クラウドネイティブが切り開く新時代
楽天モバイルは、2019年のキャリア参入当初から「完全仮想化ネットワーク」という世界でも先進的なアーキテクチャを採用してきました。既存の通信インフラを専用ハードウェアに依存させるのではなく、汎用サーバーとクラウド技術を活用することで、コスト効率の高いネットワーク構築・運用を実現してきたことは、通信業界において高く評価されています。今回のノキアCNF導入により、楽天モバイルはその取り組みをさらに進化させました。VoLTEを含む高度な4G・5Gサービスを支援しながら、ネットワークの安定性強化、新サービスの迅速な投入、そして運用管理の効率化という三つの目標を同時に追求できる体制が整ったと言えます。これは、ネットワーク事業者にとっての「アジリティ(俊敏性)」を実現するものであり、急速に変化する通信サービスの需要に柔軟に対応するための重要な基盤となります。
楽天シンフォニーのグローバル戦略における位置づけ
今回の取り組みは、楽天シンフォニーにとっても戦略的に重要な意味を持ちます。楽天シンフォニーは、楽天モバイルが構築した世界最先端の仮想化ネットワーク運用ノウハウを活かし、グローバルな通信事業者向けにプラットフォームを提供する事業を展開しています。楽天シンフォニーのクラウドビジネスユニットプレジデントであるパルタ・シータラ氏は、今回の取り組みについて次のように述べています。「Rakuten Cloudは、ノキアのような主要パートナー企業様との連携により、通信事業に不可欠なネットワーク機能を本番環境で大規模展開を可能とする『エコシステムプラットフォーム』であることを示している。また、楽天モバイルの商用ネットワーク上でノキアのCNFを稼働させていることは、世界の通信事業者にとって、コアネットワークを近代化するモデルケースといえる」と。この発言が示すとおり、楽天シンフォニーは「Rakuten Cloud」を単なる自社ネットワーク基盤としてではなく、世界の通信事業者が採用できる「エコシステムプラットフォーム」として育てることを目指しています。ノキアとの協業はその「エコシステム」を構成するパートナーソリューションの一つとして、重要な役割を担っています。
ノキアのマルチクラウド戦略との親和性
一方、ノキアにとっても今回の協業は自社の戦略と深く合致しています。ノキアのコア・ソフトウェア テクノロジー&プラットフォームズ部門責任者であるマルセロ・チェミン・マドルーガ氏は、「今回の協業は、当社のマルチクラウド戦略の強みと、オープンでクラウドネイティブなイノベーションへの積極的な姿勢を示すものだ」と述べています。ノキアは世界各国の通信事業者に向けて通信機器・ソフトウェアを提供する企業ですが、近年は特定のクラウド環境に依存しない「マルチクラウド対応」のソフトウェアソリューションに力を入れています。「Rakuten Cloud」という特定のプラットフォーム上でCNFが正常稼働することを実証できたことは、ノキアのソリューションの柔軟性と相互運用性を示す重要な事例となります。世界の通信事業者がコアネットワーク近代化を検討する際、楽天モバイルの商用環境での実績は強力な参照例となり得ます。
5Gエコシステム拡大に向けた布石
今回の商用運用開始は、「Rakuten Cloud」のパートナーソリューションのエコシステムをさらに強化するものでもあります。楽天シンフォニーは、ノキアをはじめとするパートナー企業と協力しながら、大規模かつ持続可能な5Gネットワークの実現に向けて取り組みを拡大させています。通信業界全体の潮流として、コアネットワークの「クラウドネイティブ化」は今後ますます加速すると見られています。専用ハードウェアに依存した従来型のネットワーク構成から、ソフトウェアベースの柔軟なアーキテクチャへの移行は、コスト削減と機能拡張の両面で大きなメリットをもたらします。楽天モバイルと楽天シンフォニーが今回示した実績は、この潮流の先駆的な事例として、世界の通信事業者から注目を集めることが予想されます。
完全仮想化ネットワークの実用性と拡張性
楽天モバイル・楽天シンフォニー・ノキアの3社による今回の取り組みは、クラウドネイティブ技術を活用した通信コアネットワークの未来像を具体的に示すものです。「Rakuten Cloud-Native Platform」上でノキアのIMSやSDMなどが商用稼働したことは、完全仮想化ネットワークの実用性と拡張性を改めて証明するものであり、楽天モバイルの「携帯市場の民主化」というミッションを支える重要な技術的礎となります。また、楽天シンフォニーが推進する「エコシステムプラットフォーム」戦略の観点からは、ノキアという通信業界の大手企業との協業実績が積み重なったことで、グローバルな通信事業者向けビジネスの説得力が一層高まったと言えるでしょう。5G・次世代通信の本格普及が進む中、今後もこうした先進的な技術連携の動向から目が離せません。

私見と考察:楽天×ノキアの発表が示す「本当の意味」を読み解く
「今さら」ではなく「いよいよ」。楽天モバイルのIMS導入が持つ重さ
楽天モバイルが完全仮想化ネットワークを引っ提げて商用サービスを開始したのは2020年のことです。そこから数年が経過した今になって「IMSとSDMの商用運用開始」という発表が出てきたことに対して、「それはもうできていたのでは?」と思った読者も少なくないはずです。しかし、これは「今さら」ではなく「いよいよ」と捉えるべきだと思います。楽天モバイルはサービス当初から音声通話(VoLTE)を提供してきましたが、そのコアとなるIMS機能については、段階的に自社クラウドへの移行を進めてきた経緯があります。「とりあえず動かす」フェーズから「本番環境でスケーラブルかつ安定的に稼働させる」フェーズへの移行は、通信インフラにおいては技術的難易度が一段も二段も上がります。特にIMSは音声通話という「落とせないサービス」を支えるコア機能であるがゆえに、慎重な検証と段階的な移行が不可欠です。つまり今回の発表は、「ノキアのCNFを使い始めた」というよりも、「商用環境で大規模かつ本番品質での稼働が確認された」という意味合いが強いと解釈すべきです。この違いは、通信業界の実態を知る人間には非常に大きく映ります。
ノキアを選んだ理由。オープン性と実績のバランス
次に気になるのは、「なぜノキアなのか」という点です。楽天モバイルはその設立思想からして「特定ベンダーへの依存を排除する」オープンなアーキテクチャを志向してきました。Open RANの推進、マルチベンダー構成の採用。これらはすべて、通信業界に根深く存在していた「ベンダーロックイン」の構造を打破しようとする意思の表れです。にもかかわらず、IMS・SDMという通信の心臓部にノキアという大手ベンダーを採用したことは、一見すると矛盾に映るかもしれません。しかし筆者はむしろ、これは楽天モバイルの現実主義的な判断として評価できると考えています。IMS領域は標準化が複雑で、実績のある実装を持つベンダーが限られています。ノキアはその中でも3GPP標準への準拠度が高く、かつCNF(クラウドネイティブネットワーク機能)としての実装に積極的な数少ないベンダーの一つです。「クラウドネイティブである」という条件を満たしつつ「本番レベルの品質と実績がある」という二つの要件を同時に満たせるベンダーを探したとき、ノキアは有力な選択肢として浮かび上がってくるでしょう。また、ノキアが「マルチクラウド戦略」を掲げていることも重要です。特定のクラウド環境に縛られないノキアのCNFは、「Rakuten Cloud」という楽天シンフォニー独自のプラットフォームへの展開という要件にも合致します。つまりこれは、単なるベンダー選定ではなく、「オープンなエコシステム」と「実績ある技術」という二つの価値観を両立させた選択だったと読み解けます。
Rakuten Cloudという名の野望。楽天シンフォニーの本当の狙い
今回の発表において、筆者が最も注目したのは楽天シンフォニーの戦略的ポジションです。今回の構図を整理すると、楽天モバイルはユーザー、ノキアはソフトウェア提供者、そして楽天シンフォニーは「Rakuten Cloud」というプラットフォームの提供者という関係になります。楽天シンフォニーのプレジデントがこの取り組みを「エコシステムプラットフォーム」と表現したことは、非常に示唆に富んでいます。「エコシステムプラットフォーム」という言葉が指し示す先にあるのは、Amazon AWSやGoogle Cloud Platformのような「プラットフォームビジネス」の構造です。つまり楽天シンフォニーは、「Rakuten Cloud」を通信キャリア向けの”AWS”にしようとしているのではないかと筆者は推察します。ノキアというグローバルベンダーのCNFが「Rakuten Cloud」上で問題なく動作することが実証された。この事実は、他の通信事業者に対して「あなたの国でもこのプラットフォームを使えば、ノキアのCNFをすぐに展開できますよ」というメッセージになります。パートナーエコシステムが充実すればするほど、他の通信事業者がそのプラットフォームを選ぶインセンティブが高まる。これはまさにプラットフォームビジネスの論理です。楽天シンフォニーが日本だけでなく米国・シンガポール・インド・欧州・中近東アフリカなど世界各地に拠点を置いている理由も、この観点から理解できます。「楽天モバイルの日本での成功を世界に売る」という単純なビジネスを超えて、グローバルな通信インフラのプラットフォームプロバイダーになるという、はるかに大きな野望が透けて見えます。
完全仮想化はもはや差別化要因ではなくなりつつある。だからこそエコシステムが重要になる
少し視野を広げて考えてみます。楽天モバイルが2020年のサービス開始当時に掲げた「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」は、当時としては極めて革新的なアプローチでした。世界中の通信業界関係者が注目し、多くのメディアが「前例のない試み」として報道しました。しかし、2026年現在、クラウドネイティブ化は通信業界全体のトレンドとなっており、多くのキャリアやベンダーが同様の方向性を打ち出しています。「クラウドネイティブです」と言うだけでは、もはや差別化要因にはなりません。そう考えると、楽天シンフォニーがエコシステムの拡充に注力している理由がより明確に見えてきます。技術そのものの優位性が相対化されつつある今、「どれだけ多様なパートナーと、どれだけ実績ある環境で、どれだけシームレスに連携できるか」がプラットフォームの競争力を左右するからです。ノキアのCNFを「Rakuten Cloud」上で商用稼働させたという事実は、その意味で「技術的な成果」であると同時に「エコシステムの深化」を示す証拠でもあります。今後もこうしたパートナーとの商用実績の積み重ねが、楽天シンフォニーの競争力の源泉となっていくでしょう。
NICT助成金という注釈が示すもの。官民連携の複雑な現実
今回のプレスリリースには、「Rakuten Cloudの一部機能はNICTの助成事業による開発成果」という注釈がひっそりと記載されています。この一文は、見過ごしてしまいがちですが、私には非常に興味深く映りました。国の研究開発予算が通信インフラの構築に活用され、それが商用ネットワークで運用されているという構造は、ある意味で理にかなっています。次世代通信インフラは国家の産業競争力に直結するものであり、官民が連携してその開発を加速させることには意義があります。しかし同時に、この注釈は「公的資金の支援を受けた技術が、商業ベースのグローバルビジネスに活用されている」という構造を示してもいます。これが適切な産業政策の成果なのか、それとも本来は広く還元されるべき技術の囲い込みに近いのか。その評価は立場によって分かれるところでしょう。少なくとも、通信インフラのような社会基盤に関わる技術開発において、官民の役割分担と成果の帰属については、継続的な議論が必要だと感じます。
音声通話という「地味な基盤」が持つ戦略的重要性
今回の発表の中心にあるIMS(IP Multimedia Subsystem)は、要するに音声通話を支える仕組みです。5Gや次世代通信の話題が飛び交う昨今、「音声通話」というテーマはやや地味に聞こえるかもしれません。しかし筆者は、ここに大きな見落としがあると考えています。音声通話は、モバイル通信サービスにおいてユーザーが最も「当たり前」と感じる機能です。LINEやWhatsAppなどのOTTサービスの普及により、キャリアの音声通話サービスの利用は減少傾向にあると言われますが、それでも緊急通報(110・119番など)や法人向けサービス、そして一定年齢以上のユーザー層では、従来型の音声通話は依然として不可欠な機能であり続けています。つまりIMSは、「使われる頻度は減っているかもしれないが、絶対に落とせないサービス」を支える基盤です。この基盤をクラウドネイティブ環境上で安定稼働させることは、ネットワーク全体の信頼性に対する通信事業者としての責任を果たすことに他なりません。華やかな5Gサービスやエッジコンピューティングの話題の陰で、こうした「地味だが重要な基盤技術」の近代化が着実に進んでいることを、今回の発表は示しています。通信インフラの信頼性というのは、派手な新機能よりも、こうした縁の下の力持ちの積み重ねによって保たれているのです。
「モデルケース」という言葉の重み
楽天シンフォニーのプレジデントは今回の取り組みを「世界の通信事業者にとってのモデルケース」と表現しました。この「モデルケース」という言葉には、かなりの自信と野心が込められていると筆者は感じます。世界には数百の通信事業者が存在し、それぞれが老朽化したレガシーシステムの近代化という共通の課題を抱えています。この課題を解決するための選択肢として、楽天モバイルの商用環境での実績を「参照アーキテクチャ」として提示できることは、楽天シンフォニーにとって最強のセールスツールになり得ます。ただし、モデルケースとしての説得力を持続させるためには、「商用で稼働している」という事実だけでなく、「安定して運用できている」「コストメリットがある」「スケールアップできる」という継続的な実証が必要です。その意味で、今回の発表は「ゴール」ではなく「チェックポイント」であり、楽天モバイルの商用ネットワークは引き続き世界への「生きたショーケース」として機能し続けることが求められるでしょう。
このニュースを3年後に振り返ったとき
今回の発表を3年後に振り返ったとき、それがどのような意味を持っていたと評価されるでしょうか。楽天シンフォニーの「エコシステムプラットフォーム」戦略が成功し、多くの通信事業者が「Rakuten Cloud」上でノキアをはじめとする様々なベンダーのCNFを展開するようになっていれば、今回の発表は「その転換点の一つ」として位置づけられるでしょう。逆に、グローバルな通信インフラ市場での競争が激化し、より大きなプレーヤーに押し切られる展開になれば、この発表は「実現できなかった野心の証拠」として記録されるかもしれません。いずれにせよ、楽天モバイル・楽天シンフォニー・ノキアが今回示した「クラウドネイティブなコアネットワークの商用大規模展開」という実績は、通信業界のデジタル変革において一つの確かな足跡を残したことは間違いありません。その足跡がどこへ続いていくのか。引き続き注目していきたいと思います。
楽天モバイル、ノキアのクラウドネイティブなIMSやSDM等を「Rakuten Cloud」に展開し4G・5G商用コアネットワークにて運用開始
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