
7カ国、100局、最大80億円。楽天シンフォニーが挑む、世界最大規模のOpen RAN実証とは
楽天シンフォニー、経済産業省「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に2件同時採択。AIによるOpen RAN最適化をアジア・中南米・アフリカで大規模実証へ
2026年4月21日、楽天シンフォニー株式会社は経済産業省が推進する「グローバルサウス未来志向型共創等事業」において、ASEAN加盟国向けと非ASEAN加盟国向けの2つの補助金枠に同時採択されたと発表しました。いずれも「人工知能・機械学習による無線アクセスネットワーク制御最適化技術に関する実証事業」として採択されており、東南アジアから中南米、アフリカ、中東まで複数の国々でOpen RANとRIC(RAN Intelligent Controller)の大規模な実証を行うことになります。国際的な通信インフラ整備への挑戦として、国の補助金制度の後押しを受けながら、これほど広範な地域をカバーする実証事業に乗り出すのは楽天シンフォニーとしても初の試みです。
グローバルサウスが抱える通信インフラの課題
グローバルサウスとは一般的に、アジア、アフリカ、中南米などに広がる新興国・途上国を指す概念です。これらの地域では、通信インフラをめぐる構造的な問題が複合的に絡み合っています。島嶼部や山岳地帯といった地形的な障壁による整備の遅れ、自然災害が発生した際の復旧コストの膨大さ、老朽化したインフラの更新費用、5Gへの移行にかかるコスト負担、そして電力インフラそのものの脆弱さ。これらは一国の問題ではなく、地域全体に共通する課題として長年指摘されてきました。こうした現状に対して、Open RANは有力な解決策のひとつとして世界的に注目を集めています。従来の通信ネットワークは特定ベンダーのハードウェアに依存した閉じたアーキテクチャが主流でしたが、Open RANはソフトウェアとハードウェアを分離し、複数のベンダーの機器を組み合わせて通信システムを構築できる開放型の設計思想に基づいています。このアーキテクチャは導入コストの抑制と柔軟な拡張性を実現するため、インフラ整備の遅れたグローバルサウス諸国にとって特に親和性が高いと考えられています。そこにAIによる制御最適化を組み合わせるのが、今回の実証事業の核心です。
RICとは何か。そしてなぜ今なのか
RIC(RAN Intelligent Controller)とは、Open RAN環境においてAIと機械学習を活用して無線アクセスネットワークの制御・最適化を行うソフトウェアコンポーネントです。ネットワークの状態をリアルタイムで監視・分析し、電力消費の削減、通信品質の向上、障害への自動対応などを実現します。楽天モバイルはすでに2023年から、NEDOや政府の支援のもとでRICに関する研究開発を国内で進めており、今回の事業はその成果を海外の商用ネットワーク環境に持ち出す大きな一歩となります。100局規模の基地局設置を複数国で同時並行で実施するという計画は、これまでの実験室レベルや限定的なパイロット運用とは異なる「大規模実証」です。それだけの規模があってはじめて、RIC導入による効果を定量的なデータとして示すことができます。そのデータが各国での早期商用化判断を後押しし、グローバルなOpen RAN普及に道を開くという構造が今回の事業設計の根幹にあります。

2つの補助金枠での採択が示すもの
今回の採択が注目される理由のひとつは、ASEANと非ASEANという2つの異なる補助金枠に同時採択された点にあります。ASEAN加盟国向けの採択については、経済産業省がデロイト トーマツを通じて運営する事業支援事務局が管理しており、第2回公募(申請16件に対し採択10件)での採択となりました。楽天シンフォニーの実証対象国はインドネシア、ベトナム、マレーシアの3カ国です。同じ採択リストには三菱電機、住友商事、ダイハツ工業といった日本を代表する大企業が並んでいます。一方、非ASEAN加盟国向けの採択はTOPPAN株式会社が事業実施機関を担う別枠の補助金制度で、こちらの第2回公募(申請24件に対し採択9件)でも楽天シンフォニーが選ばれました。こちらの実証対象国はインド、クウェート、パラグアイ、ボリビアという地理的にも多様な4カ国です。南アジア、中東、南米にまたがる組み合わせは、Open RANの汎用性と適用可能性を広く検証するうえで非常に意義のある構成です。2つの枠を合わせると、楽天シンフォニーは計7カ国での実証を行うことになります。これに対して最大80億円の補助金が設定されており、政府の本気度と楽天シンフォニーへの期待の大きさがうかがえます。
経済安全保障と外資獲得の視点
今回の事業には技術実証という側面だけでなく、政策的な文脈もあります。楽天グループのプレスリリースでは、この事業が「グローバルサウスとの共創」、「通信インフラ事業における外資獲得のビジネスモデル創出と国際競争力向上」、「経済安全保障の強化」、「社会インフラの自律性向上」に貢献するものだと位置づけています。通信インフラは現代社会の基幹であり、誰がその技術を提供するかは単なるビジネスの問題を超えた戦略的意味を持ちます。グローバルサウス諸国における通信インフラ整備の主導権をめぐっては、中国系ベンダーを含む各国の企業がすでに激しい競争を展開しています。日本政府がOpen RAN関連の実証に大規模な補助金を投じる背景には、日本発の通信技術をグローバルに普及させることで、サプライチェーンの多様化と経済安全保障上のリスク低減を図る狙いがあると考えられます。楽天シンフォニーは、楽天モバイルが国内で構築した世界でも先進的な仮想化Open RANネットワークの知見を事業基盤として持っています。大規模な商用ネットワークの構築・運用実績を持つ企業として、この分野の国際展開を担う旗手として期待されているのは自然な流れともいえます。
楽天モバイルとの連携
今回の事業では楽天モバイル株式会社が連携機関として参画します。楽天モバイルはこれまで、NEDOが採択したポスト5G研究開発事業(2023年)やBeyond 5G向けRIC研究開発(2023年)において楽天シンフォニーと協力してきた実績があります。国内での研究開発フェーズを経て、今度は複数の海外商用ネットワーク環境での大規模実証というステージに進む形です。
日本の通信インフラが世界に出ていく意味
国内で構築されたネットワーク技術が、海を越えてグローバルサウスの通信課題を解決するために実証されるというこの取り組みは、技術輸出の文脈でも重要な意味を持ちます。日本の通信業界はこれまで、国内市場の特殊性もあって国際展開において必ずしも存在感を発揮してきたとはいえませんでした。しかし楽天シンフォニーは、楽天モバイルが世界に先駆けて実現した仮想化Open RANの知見をそのまま商材として、グローバル市場に正面から向き合おうとしています。今回の実証事業は、技術的有効性の検証という役割にとどまらず、グローバルにおけるOpen RAN標準化の流れを加速させる可能性もはらんでいます。十分な規模の実証データが揃えば、各国の通信事業者が商用導入を判断しやすくなり、ひいては特定ベンダーへの依存から脱却した多様な通信インフラエコシステムの形成につながることが期待されます。東南アジアからインド、中東、南米へと広がる今回の実証フィールドは、楽天シンフォニーにとって挑戦の舞台であると同時に、日本発の通信技術が世界に問われる試金石でもあります。その成果が今後の世界のOpen RAN普及にどのような影響を与えるか、引き続き注目していきたいと思います。
楽天シンフォニー、経済産業省「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に採択
– グローバルサウスの複数国でOpen RANとRICの大規模実証を実施 –
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0421_01.html
