Tech Mahindra × 楽天シンフォニー:MNOが直面する最大の課題をどう解くか

世界中の通信事業者が直面する「5Gへの巨額投資が回収できない」というROIジレンマ。この構造的課題を、オープンネットワークと最新のエージェンティックAIはどう解決するのか?対談の要点と共に、通信業界のパワーシフトの構造を考察します。

2026年6月、MWC Barcelona 2026での対談動画が公開されました。楽天シンフォニーのSVPであるSheheryar Khakwani氏と、Tech MahindraでNetwork Services(Americas)のビジネスヘッドを務めるAhmed Bilal SVP氏が、通信業界の核心的な課題について意見を交わしています。テーマは「オペレーターはいかにして新しいサービス主導のビジネスモデルを取り入れ、将来の成功に向けて自社を位置づけるか」という、業界全体が抱える問いです。


https://youtu.be/SOjnkRDvweU
動画の説明:楽天シンフォニーのパートナー&ポートフォリオマネジメント担当SVPであるシェヘリヤル・ハクワニ(Sheheryar Khakwani)氏と、テックマヒンドラ(Tech Mahindra)のアメリカ地域ネットワークサービス部門ビジネスヘッドを務めるアーメド・ビラル(Ahmed Bilal)SVPが対談し、顧客の成功を後押しするために、両社がいかに連携して市場に「価値の共同創造(コ・クリエーション)」をもたらそうとしているかについて意見を交わしました。

5G ROIジレンマ:業界最大の課題
Ahmed氏がまず挙げるのが「5G ROIジレンマ」です。世界中の通信事業者(MNO)が5Gインフラに数兆円規模の投資を行ってきましたが、収益化は期待通りには進んでいません。Ahmed氏はこう語ります。「4Gがそうであったように、5Gも素晴らしいデジタルハイウェイを構築しました。接続性は確かに存在しています。しかし、接続性をリターンへと変換するビジネスモデルが欠けています。このギャップを埋めることが、他のあらゆる課題の前提になっています」インフラとしての5Gは整備されつつあります。でも「つながること」と「稼ぐこと」の間には、いまだ大きな溝があります。この構造的な問題こそが、業界全体が向き合うべき最優先課題だとAhmed氏は指摘しています。

自律化からエージェンティックAIへ:楽天シンフォニーが拓くアーキテクチャ
次に話題は、楽天シンフォニーが実現するOpen RANの意義へと移ります。Ahmed氏は、楽天がネットワークを分解し、柔軟なクラウドベースのインフラ上で運用したことを「通信業界の夢」と表現しています。「オープンネットワークははるかに優れたコスト効率でスケールし、運用が自律化されているためTCO(総保有コスト)の面でも有利です。しかしより大きな価値は、それを可能にするアーキテクチャそのものにあります」オープンで、クラウドネイティブで、自律的なネットワークは、AIが行動するために必要なデータとプログラム可能な制御を外部に公開します。これがエージェンティックAIの導入を可能にする基盤です。Ahmed氏の言葉を借りれば、単なるタスクの自動化にとどまらず「ネットワークを実行し、最適化し、最終的には閉じた手動スタックでは不可能な形で収益化する基盤」がここに生まれます。楽天シンフォニーのアーキテクチャが持つ意味は、コスト削減にとどまりません。AIを「考えて動かせる存在」にするための構造的な前提条件を提供している点に、本質的な価値があります。

サービスオーケストレーターへ:Tech Mahindraの新モデル
3つ目のテーマは、Tech Mahindraが描く自社変革のビジョンです。Ahmed氏は明言しています。「Tech Mahindraは、従来型のITサービスプロバイダーではなく、サービスオーケストレーターになりたいと考えています」違いは「価値がどこに宿るか」にあります。単に工数ベースでサービスを提供して請求するのではなく、通信事業者や企業が自社の資産を収益化する支援を行い、その成果を共有する。これがTech Mahindraの目指すモデルです。楽天シンフォニーとのパートナーシップが重要な理由もここにあります。「オープンなエコシステムであるため、あらゆる角度からパートナーシップを構築する余地があります。顧客を単一のスタックに囲い込むのではなく」とAhmed氏は語ります。成果連動型のビジネスモデルへのシフトは、SIerやITサービス企業全体のトレンドでもあります。Tech MahindraがRakuten Symphonyのオープンエコシステムを基盤に選ぶ理由は、その開放性が多様なパートナーとの協業を可能にし、より広い価値創出の機会をもたらすからです。

通信業界の課題は技術から仕組化へ
この対談が示すのは、通信業界の課題が「技術」ではなく「モデル」の問題に移行しつつあるという現実です。インフラはある。接続性もある。しかし、収益に変える仕組みがない。楽天シンフォニーが提供するオープンで自律的なネットワークアーキテクチャは、エージェンティックAIを実装するための基盤であると共に、Tech Mahindraのようなパートナーが新しいビジネスモデルを構築するための舞台でもあります。5G投資のリターンをどう実現するか。その答えは技術単体にはなく、エコシステム全体の設計にあると、この対談は示唆しています。

私見と考察:通信業界の「問い」が変わる時

5G ROIジレンマの本質は、技術の問題ではなく想像力の問題
Ahmed氏が指摘する5G ROIジレンマは、今に始まった話ではありません。4Gの時も同じ議論がありました。「インフラを整えれば需要がついてくる」という論理で大規模投資が行われ、結果としてOTT(Over-The-Top)事業者(NetflixやWhatsAppやYouTube)が通信インフラの恩恵を享受し、MNO自身はパイプ役に甘んじるという構図が定着しました。5Gでも構図は今のところ繰り返されています。問題の核心は、通信事業者が「接続を売る」という発想から抜け出せていないことにあります。5Gが実現するのは、超低遅延・高信頼・大容量という特性のセットであり、これはスマートファクトリー、自動運転、遠隔医療、産業用ロボット制御といった垂直産業との掛け合わせで初めて価値を持ちます。しかし、垂直産業向けソリューションを誰が設計し、誰が運用し、誰が収益化するのか。ここに明確な答えを持っている通信事業者は世界を見渡してもごく少数です。5G ROIジレンマとは、投資回収の問題である前に、何を売るのかというビジネスモデルの想像力の問題です。この「ビジネスモデルの想像力」を語る上で、Ahmed氏が指摘した「エンドユーザーは、バックエンドでどのような技術やITサービスが動いているかを本質的には気にしていない」という視点は極めて重要です。求められているのは、Open RANやAIそのものではなく「エンドユーザーが期待する通りのキャリアグレードのサービスを提供できているか、彼らの体験を向上させられているか」 という具体的な成果に他なりません。技術のスペック競争から体験の質へのシフトこそが、MNOがROIジレンマを脱する上での大前提となります。

なぜ楽天シンフォニーが変えられるのか?「夢の副産物」という逆説
楽天が日本国内で第4の携帯キャリアとして参入したとき、既存インフラを持たないという弱点を逆手に取り、ゼロから完全仮想化・クラウドネイティブなネットワークを構築しました。これは当初、資金力の限界から生まれた制約への対応でした。しかし結果として、通信業界が何十年もかけて目指してきたアーキテクチャを、実運用レベルで世界で初めて実現した事例になりました。Ahmed氏が「通信業界の夢」と表現したのはまさにこの点です。しかし重要なのはその先です。楽天が実現したことの副産物として、エージェンティックAIを導入するために必要な条件が偶然ではなく構造的に揃ってしまった。エージェンティックAIがネットワーク内で機能するには3つの前提が必要です。データへのアクセス、プログラム可能な制御インターフェース、クローズドではないアーキテクチャ。従来の独自ハードウェア中心のネットワークは、この3つ全てにおいて壁があります。ベンダーロックインの構造上、データは閉じており、制御はブラックボックスで、他システムとの統合には多大なコストがかかります。楽天シンフォニーのOpen RANアーキテクチャは、この壁をそもそも持っていません。ネットワーク機能がソフトウェアとして分離されており、標準インターフェースで外部と通信できる。これはAIエージェントが「見て、判断して、動く」ための環境として、既製品に近い状態で提供されています。これが楽天シンフォニーの本質的な差別化です。

Tech Mahindraが「オーケストレーター」を名乗る意味
サービスオーケストレーターという言葉は、一見するとマーケティング用語に聞こえます。しかし中身を分解すると、通信業界における重要な構造変化を示しています。従来のITサービスモデルでは、Tech Mahindraのような企業は「実装する側」でした。顧客が設計し、SIerが作り、保守する。価値の源泉は工数と専門性であり、成果そのものではありませんでした。サービスオーケストレーターへの転換が意味するのは、顧客の収益化に乗るというビジネスモデルの変化です。これはリスクを取るということでもあります。顧客が稼げなければ自分たちも稼げません。楽天シンフォニーのオープンエコシステムは、Tech Mahindraがそのリスクを合理的に取れる環境を提供しています。単一ベンダーのスタックに囲いこまれていれば、成果を出す手段が限定されます。しかしオープンな環境では、最適なコンポーネントを組み合わせ、顧客ごとに異なるソリューションを設計できる。オーケストレーターという役割は、そのような柔軟性があって初めて成立します。Tech Mahindraが従来のITサービスモデルを破壊し、成果連動型の「サービスオーケストレーター」へ転換できる最大の理由は、楽天シンフォニーのオープンエコシステムがもたらす自由度にあります。Ahmed氏は、単一ベンダーのスタックに縛られないメリットとして「自分たちが持つサービスカタログと、楽天シンフォニーのエコシステムを柔軟にマッチングさせ、ITプロバイダーやOEMの都合ではなく、顧客にとって真に最善なものを導き出せる」 点を挙げています。
これを受けて楽天シンフォニーのSheheryar氏が「価値の共同創造」と表現したように、このパートナーシップは「発注・受注」の上下関係ではなく、オープンな基盤の上でお互いの強みを掛け合わせ、顧客の収益化という共通のゴールへ向かう、共同投資としての性質を色濃く持っています。

残る課題:楽観論への留保
ただし、この議論には楽観的に受け取りすぎてはいけない部分もあります。

第1に、Open RANの成熟度の問題です。楽天が日本国内で実現したことは、確かに前例のない成果でした。しかし日本の地理的・人口的条件、規制環境、楽天自身の経営判断という文脈の上に成立しています。これを異なる市場でそのまま再現できるかどうかは、まだ実証が途上です。楽天シンフォニーは自らのノウハウを輸出しようとしていますが、導入先の既存インフラとの統合や、既存ベンダーとの利害調整は依然として複雑です。

第2に、エージェンティックAIの「エージェンティック」がまだ言葉先行であるリスクです。自律的に判断して動くAIエージェントを通信ネットワークの中核に置くという構想は、技術的には筋が通っています。しかし通信ネットワークには高い信頼性要件があり、誤動作が直接的なサービス断につながります。AIが誤った判断をしたときの責任をどう設計するか。ここの答えは、現時点ではまだ十分に語られていません。ただし、この言葉先行のリスクに対して、Ahmed氏は全てを自律AIに委ねる極端な楽観論ではなく「エージェンティックAI、シンプルな自動化、従来型の手法、これらをどうミックスすれば顧客に最も有用な成果をもたらすことができるか」 という「最適解のブレンド」を模索しています。ミスが許されない通信ネットワークにおいて、AIは特効薬ではなく、既存の自動化技術や従来手法と調和されるべき1つのコンポーネントとして捉える意識が、実装の現場に存在しています。

第3に、成果連動モデルの難しさです。Tech Mahindraが「成果を共有する」と言う時、その成果の測定方法と帰属の合意形成は簡単ではありません。通信事業者の収益改善が、どの施策のどの部分によってもたらされたのかを切り出すことは、実務上きわめて困難です。成果連動モデルの理念は正しいとしても、契約実務での実現には相当な工夫が必要です。

問いが変わる時、業界が変わる
この対談から浮かび上がるのは、通信業界が問うべき問いそのものが変わりつつあるという感覚です。「どのネットワーク技術を選ぶか」から「誰とどんな成果を共に設計するか」へ。問いの変化は静かですが、産業構造の変化は大きいです。従来の通信業界では、技術選択の主導権はMNOが握り、大手ベンダーが意思決定を固定化してきました。インフラを売る側と買う側という非対称な関係が、何十年も続いてきました。しかし楽天シンフォニーとTech Mahindraが示すモデルは関係性を根底から問い直しています。MNOは顧客であるとともにプラットフォームになり得る。SIerは「実装者」であるとともに「共同投資家」になり得る。こうした役割の流動化は、エコシステムがオープンであることではじめて成立します。

5G ROIジレンマへの回答は、まだ誰も完成させていません。ただ、問いを正しく立て直すことが、答えへの最初の一歩です。この対談が示しているのは、その問いの立て直しが、技術論ではなくビジネスモデル論の領域で起きているという事実です。そしてその領域において、楽天シンフォニーが持つアーキテクチャ上の優位は、技術スペックの差異を超えた意味を持ちはじめています。

Three takeaways: Solving MNOs’ biggest challenge with Tech Mahindra

https://symphony.rakuten.com/blog/three-take-aways-solving-mnos-biggest-challenge-with-tech-mahindra

Three take aways: Solving MNOs’ biggest challenge with Tech MahindraAt MWC 2026, we spoke with Ahmed Bilal, SVP, Business Head, Network Services (Americas) of Tech Mahindra, about one of biggest challenges for telcossymphony.rakuten.com