
楽天シンフォニー、ウクライナの商用4G網でOpen RAN実証へ Kyivstarと通信インフラの強靭化を目指す
楽天シンフォニー株式会社は2026年7月27日、ウクライナの通信インフラ復旧に向けたOpen RAN実証事業が、経済産業省の補助金事業に採択されたと発表しました。採択されたのは、令和6年度補正「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(ウクライナ復興支援・中東欧諸国等連携強化)」の第2回公募に提案した「仮想化オープン無線アクセスネットワークによる通信インフラ強靭化実証事業」です。楽天シンフォニーは、VEON Ltd.の完全子会社であるウクライナの大手デジタル通信事業者Kyivstar(キーウスター)と連携します。首都キーウ周辺の既存4G LTEネットワークに基地局を設置し、実際の顧客通信を収容しながら、仮想化Open RANの性能や安定性を検証します。楽天モバイル株式会社も連携機関として参加し、Open RANに関する技術や運用ノウハウを提供します。今回の実証は、これまでラボで進めてきた試験を、Kyivstarの商用ネットワークへ広げる取り組みです。屋外で検証するのは4G LTEで、5Gについては引き続きラボで機能評価を行います。
Open RANとは
RANは「Radio Access Network」の略で、スマートフォンなどの端末を基地局経由で通信ネットワークにつなぐ無線アクセスネットワークを指します。従来のRANでは、特定の通信機器メーカーが基地局の機器とソフトウェアを一体で提供する構成が一般的でした。Open RANでは基地局を構成する機能を分け、オープンな仕様に基づくインターフェースで接続します。これにより、異なるメーカーの機器やソフトウェアを組み合わせやすくなります。仮想化Open RANは、従来は専用機器が担っていた基地局機能の一部をソフトウェア化し、汎用サーバーやクラウド基盤上で動かす仕組みです。設備構成を柔軟に変更しやすくなるほか、ソフトウェアによる運用の自動化や効率化も期待されています。一方、複数のメーカーの製品を組み合わせるため、機器やソフトウェア同士の相互接続性を細かく確認しなければなりません。選択肢が増える分、一つのネットワークとして安定稼働させるための設計や試験も欠かせません。楽天モバイルは、こうしたOpen RANの仕様に基づく商用サービスをすでに提供しています。国内の商用ネットワークで得た技術や知見は、楽天シンフォニーを通じて海外の通信事業者にも展開されています。
4Gのラボ試験から商用ネットワークへ
楽天シンフォニーとKyivstarの協業は、今回が初めてではありません。両社は2025年2月、ウクライナ国内でOpen RANの実証試験を始める段階に入ったと発表しました。当時の発表では、Kyivstarが約2,400万人のモバイル加入者に通信サービスを提供していると紹介されています。第一段階では、試験条件を管理した4Gのラボ環境で、楽天シンフォニーのOpen RANおよびクラウドソリューションを検証しました。機能や相互接続性などの確認はすでに完了しています。第二段階となる今回は、キーウ周辺の既存4G LTEネットワークに基地局を設置します。ラボ内で生成した試験用データだけでなく、実際の顧客通信を収容する点が、第一段階との大きな違いです。商用ネットワークでは、時間帯によって通信量が変化し、さまざまな種類の端末が接続します。既存設備と共存させながら、通信サービスへの影響を抑えて保守や更新を行う必要もあります。今回の屋外実証では、より実運用に近い条件でOpen RANの性能や安定性を確認します。
5Gは引き続きラボで評価
今回の発表には4Gと5Gの両方が登場しますが、検証する環境は異なります。キーウ周辺の商用ネットワークで実際の顧客通信を収容するのは4G LTEです。5Gについてはラボで機能を評価し、将来の商用展開に向けた検証を続けます。現時点で、ウクライナの商用ネットワークに5G Open RANを導入することが決まったわけではありません。4Gの屋外実証と5Gのラボ評価は、分けて捉える必要があります。
Open RANはすでに楽天モバイルで商用運用
今回の実証は、「Open RANが商用環境で使えるか」を一から確かめるものではありません。楽天モバイルは、Open RANに基づくモバイル通信サービスを日本国内で提供しています。同社は2025年12月、サービス全体の契約数が1,000万回線を突破したと発表しました。楽天モバイルのOpen RANは、実験室の中だけで動いている技術ではなく、全国規模の商用ネットワークで運用されています。今回の目的は、日本で商用運用されてきた技術やノウハウを、Kyivstarの既存ネットワークへ適用することです。ウクライナの設備、通信環境、電源や伝送網、保守体制などに合わせてOpen RANを構築し、安定して運用できるかを確かめます。「Open RANがラボを出る」のではなく、「Kyivstar向けの実証がラボから商用ネットワークへ進む」と表現する方が、今回の取り組みを正確に捉えられます。
D-RANとC-RANの両方を評価
屋外実証では、分散型のD-RANと集中型のC-RANをそれぞれ評価します。D-RANは、基地局の処理機能を各基地局サイトの近くに配置する構成です。処理設備が各地に分散するため、中央拠点への依存を抑えやすい一方、設置場所ごとに設備を保守する必要があります。C-RANは、複数の基地局に関わる処理機能をデータセンターなどに集約する構成です。設備や運用をまとめやすくなりますが、基地局と処理拠点を結ぶ伝送網には高い性能と信頼性が求められます。D-RANとC-RANでは、基地局設備の配置だけでなく、必要となる伝送網や電源設備、保守方法も異なります。楽天シンフォニーとKyivstarは両方の構成を試し、柔軟性や耐障害性、運用上の利点を確認します。実証後に採用するネットワーク構成は、現時点では公表されていません。
楽天モバイルが提供する技術とノウハウ
連携機関として参加する楽天モバイルは、楽天シンフォニーと協力し、海外市場を視野に入れたOpen RAN技術の研究開発を進めてきました。楽天モバイルが2023年に開始したNEDO事業では、通信事業者や国・地域ごとに異なる要件へ対応するOpen RAN共通ソフトウェアを開発しています。クラウド上で利用できるPoC環境や、試験を自動化する品質保証システムも研究開発の対象です。海外の通信事業者による実証結果を検証環境に反映し、品質保証の仕組みを継続的に改善する取り組みも進めてきました。今回のウクライナ実証では、こうした研究開発に加え、日本の商用ネットワークで蓄積した技術や運用ノウハウも提供します。
事業費は約7.1億円、2027年5月末までを予定
楽天シンフォニーの発表によると、事業費総額は約7.1億円で、補助金申請額は最大3.5億円です。この金額は申請額であり、実際に交付される金額とは異なる場合があります。採択事業の概要資料では、事業完了予定日を2027年5月31日としています。今後は相互接続性試験を行い、ネットワーク構成に問題がないことを確認したうえで、必要なハードウェアを調達します。その後、ウクライナの実環境にネットワークを構築し、安定して動作するかを確かめるとともに、現地での運用手順を整備します。同資料には、将来の商用化を見据えた費用項目として、ソフトウェアライセンス、システムインテグレーション、保守運用なども記載されています。楽天シンフォニーは今回の実証を通じて、海外における仮想化Open RANの安定動作を確認し、商用展開につながる事業モデルの確立を目指します。
ウクライナの通信インフラ復旧を支援
ウクライナでは戦争の長期化により、通信インフラの復旧と強靭化が課題となっています。今回の事業では、仮想化Open RANを活用し、被害を受けた地域の無線アクセスネットワークを迅速かつ効率的に再構築することを目指します。楽天シンフォニーは、Open RANの技術や運用ノウハウを提供することで、Kyivstarの技術力向上と自立的なネットワーク運営を支援します。採択事業の概要資料では、特定のベンダーへの依存を抑え、調達先を多様化することも目的として示されています。複数のメーカーから必要な機能を選べるようになれば、サプライチェーンの安定化やコスト競争力の向上にもつながります。通信インフラの復旧を通じて、経済活動の再活性化に加え、教育や医療サービスの改善、人々の生活の質の向上に貢献する方針です。

私見と考察:日本で培ったOpen RANをウクライナでどう生かすか
試されるのは技術の新しさではなく、現地への適応力
私が注目しているのは、日本で運用してきたOpen RANを、設備構成や伝送網、保守体制の異なるウクライナへどう適応させるかです。ラボから商用ネットワークへ進む意味も、ここにあります。楽天モバイルがすでにOpen RANを商用運用している以上、今回の実証を「Open RANは商用ネットワークで使えるのか」という一般論だけで捉えると、実証の狙いが見えにくくなります。今回確かめるのは、Kyivstarの既存設備と共存させながら、実際の顧客通信を安定して支えられるかです。日本とは異なる電源や伝送網、保守体制の中で運用を続けられるかも確かめなければなりません。Open RANそのものの実用性を証明するのではなく、すでに商用化されている仕組みを現地の条件に合わせるための実証です。
複数メーカーをまとめる力が欠かせない
Open RANには、異なるメーカーの機器やソフトウェアを組み合わせやすいという利点があります。その反面、接続する製品が増えるほど、ネットワーク全体の設計や品質管理は複雑になります。障害が発生した際に、原因となった機器やソフトウェアをどこまで早く特定できるのか。複数のメーカーとの調整を誰が担うのか。顧客への影響を抑えながら、ソフトウェアを更新できるのか。こうした運用の積み重ねが、サービスの品質やコストを左右します。採択資料には、ネットワークの構築だけでなく、システムインテグレーションや保守運用も事業内容として記載されています。製品単体の性能に加え、楽天シンフォニーとKyivstarが一つのネットワークとして安定稼働させられるかも、実証の成否を左右します。
D-RANとC-RANを一つに絞る必要はない
D-RANとC-RANの両方を評価するのは、現地の条件に適した構成を探るためです。処理機能を集約するC-RANは、設備や運用を効率化しやすい一方、集約拠点と基地局を結ぶ伝送網や電源の安定性が欠かせません。D-RANは中央拠点への依存を抑えやすいものの、各地に分散した設備の保守が必要です。ウクライナ国内のすべての地域で、通信設備や電源、伝送網の状況が同じとは限りません。一つの構成に統一するのではなく、地域の条件に応じてD-RANとC-RANを使い分ける方法もあり得ます。実証の結果を見る際には、どちらが優れていたかだけでなく、異なる条件に合わせて適切な構成を選べるかにも注目したいところです。
復興支援を継続するには事業として成り立つ必要がある
今回の事業には、ウクライナの通信インフラ復旧を支援する目的と、楽天シンフォニーが海外でOpen RAN事業を展開する目的があります。この二つは切り離して捉える必要はありません。通信インフラは、構築して終わりではありません。復旧後も設備を保守し、ソフトウェアを更新しながら、安定した通信サービスを提供し続ける必要があります。現地で維持できる運用体制と事業モデルがなければ、長期的な復興にはつながりません。まず確認したいのは、ウクライナの通信サービスの復旧と継続に役立つか、Kyivstarが主体となって運用を続けられる仕組みを残せるかです。そのうえで、実証から得た知見をほかの国や地域でも活用できれば、復興支援と楽天シンフォニーの海外展開を両立できます。
本格導入の判断は実証結果を待つ必要がある
現時点では、屋外実証で設置する基地局数や対象エリア、使用する機器メーカー、具体的な性能目標などは公表されていません。今回の採択は、ウクライナでOpen RANの本格導入が決まったことを意味するものではありません。現在は商用導入に向けた検証段階です。通信速度や遅延だけではありません。サービスの安定性、既存設備との相互接続、切り替え時の通信品質、障害からの復旧時間、保守に必要な人員、電源や伝送網に問題が起きた際の対応、運用コストなども見ていく必要があります。「Open RANで通信できた」という結果だけでは、実証が成功したとはいえません。実際の顧客通信を安定して支え、Kyivstarが継続して運用できる体制を整え、将来の商用展開へつなげられるか。そこまで実現できれば、ウクライナの復興支援と楽天シンフォニーの海外事業の双方にとって、大きな意味を持つ取り組みになります。
楽天シンフォニー、経済産業省の令和6年度補正「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(ウクライナ復興支援・中東欧諸国等連携強化)」に採択
– 大手デジタル通信事業者KyivstarとOpen RAN検証を継続し、 既存ネットワーク環境での基地局設置を伴うOpen RAN提供へ –
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0727_01.html
