
楽天銀行はなぜ預金残高10兆円を達成できたのか?25年の歩みと強み
存続の危機から楽天グループとの融合へ
楽天銀行の前身は、独自の決済技術を強みにデジタルバンクという新分野を切り開いた「Eバンク(イーバンク銀行)」でした。しかし、当時のネット銀行は「ネットオークションの決済」や「馬券・くじの購入」といった限定的な用途で使われる「セカンドバンク」の位置づけに留まっていました。さらに、当時は貸出業務が認められていなかったことによる制約や、2008年のリーマンショックという世界的な大逆風が重なり、経営は存続の危機に瀕していました。このような厳しい状況の中、2008年に楽天グループとの資本提携が実現します。Eバンクが持っていた先駆的な技術力と、楽天グループが有する巨大な会員基盤。この両者の強みが融合したことで、楽天銀行の本格的な成長ストーリーが幕を開けました。
預金残高10兆円という無謀に見えた壮大な目標
2009年に楽天銀行が楽天グループ入りした当時、その預金残高はわずか7,000億円に過ぎませんでした。これに対し、大手地方銀行の預金残高は10兆円を超えており、その差は圧倒的でした。そのような状況下で楽天銀行が掲げた目標は、当時のデジタルバンクの常識を覆す「預金残高10兆円」という壮大なものでした。この目標は、単一の銀行だけで挑む無謀な夢ではなく、楽天グループの「フィンテック事業を中核に据える」というグランドデザインに基づいた、総力戦による戦略でした。提携からわずか半年後には、楽天カードからカードローン事業を統合し、さらに住宅ローン事業の開始、2013年には楽天証券への事業譲渡など、息つく暇もないスピードでグループ内の事業再編が進められていきました。
銀行化プロジェクトと楽天エコシステム」の爆発力
2014年、楽天銀行は新たな拡大フェーズである「銀行化(Bankify)プロジェクト」を始動します。これは銀行口座を金融事業の中心に据え、楽天証券や楽天カードのユーザーに対して、楽天銀行の預金金利優遇やポイント還元といったお得な仕組みを提供し、グループ内から楽天銀行へと顧客を誘う流れを作るものでした。さらに2018年には、楽天のポイントアッププログラム(SPU)に参画したことも功を奏します。楽天エコシステム(経済圏)を徹底的に活用することで、極めて低い顧客獲得コストで新規口座を開設していく仕組みが確立されました。2020年以降のコロナ禍では、非対面での銀行利用ニーズが急増したほか、キャッシュレス化を背景に楽天カードの利用者が爆発的に拡大し、その引き落とし口座として楽天銀行が選ばれる好循環が生まれました。また、新NISAの浸透による資産運用の活発化に伴い、楽天証券との口座連携サービス「マネーブリッジ」も右肩上がりに成長。その結果、2019年末に820万口座だった口座数は、2024年末には1,640万口座へと、わずか5年間で2倍に急増しました。
システムの限界を乗り越えた自社開発の意地
急激な成長は、裏を返せばシステムへの多大な負荷を意味していました。年間1.5倍のペースで膨れ上がる取引量に対し、楽天銀行のシステムは限界を迎えていました。日本最強の銀行システムを築くべく、2017年から検討を開始し、2018年にシステムのモダナイズに着手します。2019年には大規模なシステムトラブルという大きな壁に直面したものの、開発チームは歩みを止めませんでした。自社開発だからこそシステムを熟知している強みを活かし、各組織と週2〜3回という密な連携を継続。数年の歳月をかけて、見事にシステムの刷新を完遂しました。この「自社開発」の強みは、イノベーション of 新たな体験をもたらすスピード感にも表れています。例えば、スマートフォンの生体認証機能が普及し始めた初期には、エンジニアからの提案により、国内の銀行で初めてアプリのログインに生体認証を導入しました。この画期的なシステムを、企画からわずか6週間でローンチさせたスピード感は、内製化体制が整っているからこそ実現できた好例です。現在では、この金融システムを他社に提供する「BaaS(Banking as a Service)」ビジネスも、新たな事業の柱として成長しています。
悲願の達成と上場、そして暮らしのメインバンクへ
多くの挑戦を積み重ねた結果、楽天銀行は2021年にインターネット銀行として日本初の1,000万口座突破を達成します。さらに、2023年4月には東京証券取引所プライム市場への上場を果たし、同年12月末には、かつてスプレッドシートの上で描いた「預金残高10兆円」という遠い目標を現実のものとしました。現在、楽天銀行の規模は口座数1,800万口座、預金残高13兆円(2026年時点)に達しています。2026年には楽天グループ内でのフィンテック事業再編も行われ、金融各社との連携はさらに深化しています。現在は「暮らしのメインバンク」としての地位を確立すべく、さらなる進化を続けています。

私見と考察:デジタル金融の未来を拓く3つの鍵
顧客獲得コスト(CAC)を極小化する「エコシステム一体型金融」
従来の銀行、特に店舗を持たないネット銀行にとって、最大の課題は「いかにして新規顧客を獲得し、使い続けてもらうか」という点にあります。一般的な金融機関が多額の広告費を投じて口座開設を促す中、楽天銀行は「楽天エコシステム」という巨大な経済圏を活用することで、この課題をクリアしました。SPUへの参画や、楽天カード・楽天証券との強力な連携(マネーブリッジなど)は、ユーザーに対して「楽天銀行を使うこと自体が、生活全体の得につながる」という極めて強力なインセンティブを提供しています。動画内でも語られていた「エコシステムの中で極めて安いコストで顧客獲得ができる」という仕組みは、金融業界における最強の競争優位性です。単なる「お金を預ける場所」から「生活を豊かにするツール」へと銀行の定義をシフトさせたことが、1,800万口座という驚異的な数字の源泉であると考えられます。
金融機関における内製化(自社開発体制)がもたらす俊敏性
多くの伝統的な金融機関が、システムの維持・改修を外部のベンダーに依存しているのに対し、楽天銀行が「自社開発」にこだわり続けている点は非常に示唆に富んでいます。金融システムは安全第一であり、保守的になりがちですが、楽天銀行は2019年のトラブルを乗り越えながらも、システムのモダナイゼーションを完遂しました。この経験により、システムの中身をブラックボックス化せず、自社でハンドリングできる体制が強化されたと言えます。その結果として実現した「生体認証の6週間でのローンチ」や、他社に機能を提供する「BaaSビジネス」の創出は、システム内製化が単なるコスト削減のためではなく、「ビジネスの機動力を最大化するための戦略投資」であることを証明しています。不確実性の高い現代において、アイデアを即座に形にできるエンジニア組織を持つことは、今後のフィンテック競争においても強力な武器であり続けるでしょう。
メインバンク化への移行における真の信頼性と課題
楽天銀行は、かつてネットオークションなどの決済用だった「セカンドバンク」の立ち位置から、給与振込や生活費決済の基盤となる「暮らしのメインバンク」へのシフトを掲げています。このメインバンク化を達成するためには、2つの課題をクリアしていく必要があります。1つ目の課題は、システムの絶対的な安定性とセキュリティです。メインバンクとして利用されるということは、万が一システムが停止した際の影響が個人の生活に直結することを意味するため、自社開発の柔軟性を維持しつつ、これまで以上の堅牢性とセキュリティを担保し続ける必要があります。2つ目の課題は、「経済圏の魅力」への依存からの脱却です。ポイント還元や金利優遇といった「経済圏のインセンティブ」は強力な武器ですが、ユーザーが「お得だから使う」という段階から、「信頼できるからメインで使う」というロイヤルティの段階へと移行できるかが鍵となります。利便性だけでなく、顧客一人ひとりのライフステージに寄り添った付加価値の提供(パーソナライズされた金融アドバイスなど)が、今後の差別化要因になると予想されます。
楽天銀行の25年は、単なるデジタル技術の導入プロセスではなく、グループ全体の強みを結集し、金融そのもののあり方を「生活者視点」で再定義してきた歴史であると言えます。2026年のフィンテック事業再編を経て、楽天グループの金融部門はさらに強固な一枚岩となりました。今後、楽天銀行がどのようなイノベーションを起こし、私たちの「暮らしのメインバンク」としてさらに浸透していくのか、その進化から目が離せません。
[RNN]楽天銀行25年の挑戦と進化 ―ネット銀行の先駆者から、暮らしのメインバンクへ
https://youtu.be/JzBGjS55Lhg
動画の説明:創業25周年。わずか300万口座から始まった楽天銀行は、今では1,800万口座、預金残高13兆円規模の巨大な金融インフラへと成長し、楽天エコシステムに欠かせない基盤事業となっています。「ネット銀行の先駆け」は、いかにしてお客様から選ばれる存在へと進化したのか。本動画では、楽天グループとの融合による事業再編や「預金残高10兆円」という当時の常識を打ち破るビジョン、フィンテック事業との連携、そして開発チームをはじめとする現場の社員の挑戦など、楽天銀行の25年間の歩みを紐解きます。
楽天銀行25年の挑戦と進化 ―ネット銀行の先駆者から、暮らしのメインバンクへ
https://corp.rakuten.co.jp/innovation/rnn/2026/2607_001/
