ルールを破ってテック帝国を築いた。三木谷浩史がCNBCで語った楽天の30年と、その先(中編)

「みんなが狂気だと言った」楽天モバイルへの参入
Englishnizationと並ぶ「無謀な決断」として、三木谷氏が今回のインタビューでも語ったのが、携帯電話事業への参入です。「私自身も、最初はクレイジーなアイデアだと思った」と三木谷氏は振り返ります。「でも、やってみようと言った。リスクはある。でも私たちはずっとステータスクオ(現状維持)に挑戦し続けてきた」、「モバイル事業に参入すると決めた時、みんなに『なぜそんな大規模な投資が必要な分野に飛びこむのか』と聞かれた。でも私は、今こそ破壊的変革が必要だと感じた」MWC Barcelona 2026での発言も、その姿勢を端的に表しています。2020年に商用スタートした楽天モバイルが、既存キャリアとの差別化に選んだのが、完全仮想化クラウドネイティブネットワーク(Open RAN)という新しいアーキテクチャでした。「モバイルネットワークのアーキテクチャは、1Gから5Gに数字が変わっても、根本的には近代化されていない。独自仕様の専用ソフトウェアに依存したままだ」そこに楔を打ちこんだのが楽天です。標準的なハードウェアとソフトウェアによるネットワーク構築は、通信業界の常識を根本から覆す試みでした。

楽天モバイルの挑戦が問いかけるもの
楽天モバイルへの参入は、今なお評価が分かれる決断です。巨額の投資を要し、赤字が続いた時期も長くありました。しかし私が注目するのは、その「赤字」の意味です。通信インフラの構築コストは先行投資の性格が強く、一定規模を超えた段階でコスト構造が劇的に変化する性質を持っています。楽天モバイルが採用したOpen RANは、まさにそのコスト構造を根本から変えるための賭けでした。三木谷氏が「我々の運営コストは競合他社の何分の一かだ。レガシーなサプライチェーンの影響を受けていない」と語る時、それは単なるコスト自慢ではありません。従来の通信キャリアが積み上げてきた「レガシーの重さ」を持たないことが、長期的には決定的な競争優位になりうるという読みがそこにあります。楽天モバイルは、短期的に料金が安いのではなく、構造的に安くできる作りになっています。そこに他社との差別化となる決定的な競争優位があるのです。問題は、その競争優位が顕在化するまでの時間軸です。投資家の忍耐力と、市場の変化のスピードが合致するかどうか。これは三木谷氏の読みが正しいかどうかとは別の次元で、楽天モバイルの命運を左右する変数です。私は、その問いの答えはまだ出ていないと思っています。楽天モバイルは「成功した」とも「挑戦中」とも、どちらとも言えるフェーズにあります。だからこそ、目が離せません。

「モバイルを持つと、全部変わる」エコシステムの乗数効果
三木谷氏がモバイル事業に参入した理由は「通信ビジネスをやりたかったから」ではありません。楽天が長年培ってきたエコシステムをより強固にするためのピースとして、モバイルを位置づけていました。「他の多くのモバイル会社は、まずモバイルサービスを提供してから、その上にエコシステムを乗せようとする。私たちはその逆だ」と三木谷氏は言います。「まずEコマース、旅行、銀行、クレジットカード、決済、証券、保険といったサービスを持っていた。日本で70もの事業を展開しているなかで、モバイルを加えればビジネス全体がもっと強くなると感じた」その読みは当たりました。楽天エコシステムのユーザーが楽天モバイルに加入すると、それ以前と比べて2.43倍のサービスを利用するようになるといいます。「マーケットプレイスでの購買は約50%増、旅行サービスの利用は約20%増、クレジットカードの利用は約30%増。これは巨大な乗数効果だ」と三木谷氏は語ります。楽天モバイルの契約者数は現在1000万人を超えており、三木谷氏は「できるだけ早く2000万人に達したい」と意欲を見せます。モバイルはもはや、単なる通信サービスではなく、楽天エコシステム全体を加速させる「接着剤」として機能しているのです。

逆順エコシステムという発想の鋭さ
この「逆順」という発想こそ、楽天モバイルの本質的なユニークさだと私は考えます。NTTドコモやソフトバンクが「通信→サービス」という方向でエコシステムを拡張してきたのに対し、楽天は「サービス→通信」という真逆の経路を辿りました。これが重要なのは、単なる参入順序の違いではないからです。サービスを先に持っている企業がモバイルに参入するとき、その目的は「通信収入を得ること」ではなく「既存ユーザーの行動データをより豊かにすること」にあります。データの質と量が変わると、AIの精度が変わります。AIの精度が変わると、サービスの価値が変わります。サービスの価値が変わると、ユーザーの消費行動が変わる。この連鎖が、2.43倍という乗数効果の背景にある構造です。ただし、この乗数効果には前提条件があります。各サービスのデータが実際に横断的に連携されていることです。楽天が「データは金鉱だ」と言い続けるためには、その金鉱を採掘する技術、つまり「データインフラと組織的な意思決定」が機能していなければなりません。数字が示す成果は本物だとしても、その持続性と拡張性を担保する仕組みが問われるのは、これからのフェーズだと私は思っています。

参照:CNBC「Managing Asia」2026年5月3日配信/「How Rakuten Built a Tech Empire by Breaking the Rules」(インタビュアー:Christine Tan)
How Rakuten built a tech empire by breaking the rules
https://www.cnbc.com/video/2026/05/03/managing-asia-rakuten.html

How Rakuten built a tech empire by breaking the rulesRakuten founder Mickey Mikitani reflects on building one of Japan’s most influential tech companies — and why he continues to make bold bets on telecom, AI and global growth.www.cnbc.com

https://youtu.be/Fzar4vb03TI
動画の説明:楽天は、インターネットが実際のビジネスとして成立すると信じる人がほとんどいなかった時代に、オンラインマーケットプレイスとして産声を上げました。それから約30年。現在では、EC、フィンテック、通信、デジタルサービスを網羅し、日本を代表するテック企業へと成長を遂げています。『Managing Asia』の今回のエピソードでは、創業者の三木谷浩史会長兼社長が、楽天の成長を形作った決断の数々を振り返ります。インターネットの可能性に対する初期の確信から、社内公用語の英語化の推進、そして日本の既存の携帯キャリアに挑む覚悟まで、その裏側を語ります。また、なぜ今、楽天が人工知能(AI)に注力しているのか、長期的な投資に対してどのようなアプローチをとっているのか、そして日本の起業家精神の未来において楽天がどのような存在でありたいと考えているのか、そのビジョンを共有します。