通信キャリアの稼ぎ方を変える!楽天がMWC26で描いた次の一手

世界最大級のモバイル業界イベント「MWC26」がバルセロナで開幕し、楽天グループは今年もひときわ目立つ存在感を放ちました。テーマとして打ち出したのは「インテリジェント・グロース(Intelligent Growth)」という概念です。

帯域幅を広げれば収益が増える、という時代はとっくに終わっています。世界の通信キャリアは長年にわたって収益の伸び悩みに直面しており、設備投資を積み重ねながらも財務的な閉塞感から抜け出せずにいます。楽天はこの構造的な問題に正面から向き合い、技術とエコシステムを組み合わせた独自の処方箋を業界に示しました。今回のMWC26は、その「処方箋」を世界規模で発信する絶好の機会となりました。

三木谷会長のキーノート 「技術の話ではない」

会期中のハイライトのひとつは、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長によるメインステージキーノートでした。「フォージング・ザ・フューチャー・オブ・コネクティビティ&コマース」と題したこの講演で、三木谷氏はインテリジェント・グロースの本質をこう言い切りました。「これは単なる技術転換ではない。ビジネスモデルそのものの変革だ」と。

楽天ポイントを核とした会員エコシステムは、楽天モバイルの通信事業に独自の収益力をもたらしています。ショッピング、金融、旅行、エンターテインメントなど多様なサービスと通信を結びつけることで、通信料収入という単一の収益源に依存しない構造を築いてきました。三木谷氏が強調したのは、この仕組みが楽天固有の話ではないという点です。「会員制度を中心にした真のエコシステムを構築すれば、取引を超えた価値を生み出せる」という考え方は、世界中の通信キャリアに応用できる普遍的な原理だと訴えました。

複雑化する競争環境の中で出口を模索している通信キャリアにとって、この言葉は重く響いたはずです。

Open RANの地平が広がる VEONとの新たな協業

技術面では、Open RANに関する動きが注目を集めました。なかでも新鮮だったのが、ウズベキスタンの大手通信キャリアBeeline Uzbekistanを傘下に持つVEONとのMOU(基本合意書)締結です。

楽天シンフォニーとVEONは、Open RANとAIを活用したネットワークインテリジェンスの共同開発・探索に向けて歩み出します。ウズベキスタンのデジタルインフラ整備と経済発展への貢献を視野に入れたこの取り組みは、Open RANの普及が先進国市場にとどまらず、新興国でも現実的な選択肢になりつつあることを示しています。楽天がOpen RANのノウハウを新たな地域へと広げていく動きは、今後も続きそうです。

RakutenCloudの「実力」を証明した2つの発表

クラウド基盤としてのRakuten Cloudの信頼性を示す発表も続きました。

まず、サムスンの5G vRANおよびvCore製品とRakuten Cloudの相互運用性が実証されました。これにより、サムスン製の5Gネットワークをより少ない統合工数とリスクでRakuten Cloud上に展開できる見通しが立ちました。キャリアが自社ネットワークに使う機器を選ぶ自由度が増すという意味で、業界全体の選択肢を広げる実績です。

もう一方の発表はさらに踏み込んだ内容でした。ノキアのクラウドネイティブなIMS(IPマルチメディアサブシステム)とSDM(加入者データ管理)のコア機能が、楽天モバイル向けにRakuten Cloud上での本番稼働を開始したのです。通信キャリアの根幹を担うコアネットワーク機能をクラウド上で安定運用できるか。その問いに対し、楽天は実績という形で答えを示しました。ミッションクリティカルな通信ワークロードをスケールで処理できることを証明したこの事例は、Rakuten Cloudが次世代通信プラットフォームとして本格的に機能しうることを業界に印象づけました。

ストレージがGoogleに採用される OEM契約の意味

クラウドストレージの領域では、Google Cloudとの戦略的OEM契約が大きな話題となりました。Google Distributed Cloud Connected Serverの展開に、Rakuten Cloud-Native Storageが組み込まれることになったのです。

顧客にとっての変化は明確です。コンピュートとストレージを統合した一体型スタックを、事前検証済みの状態でGoogle Cloudから調達できるようになります。検証済みである以上、導入時の不確実性は大幅に下がります。調達から運用までをGoogle Cloudが一元的にサポートする体制も整うため、従来のように複数ベンダーを取りまとめる手間が省けます。

技術的な優位性がGoogleという巨大な流通網と結びついたこの契約は、Rakuten Cloud-Native Storageの市場展開を一気に加速させる可能性を秘めています。

Wind RiverとLightstormとも連携 用途の広がりが鮮明に

Rakuten Cloud-Native Storageをめぐってはもう一件の発表がありました。Wind River Cloud Platformへの統合です。Wind River Cloud Platformのエンタープライズ顧客は、ステートフルなエッジサポートを含む完全なクラウドネイティブ環境を、一体化されたソリューションとして利用できるようになります。購入と統合の手順が簡素化されることで、エッジクラウドの導入障壁はさらに低くなります。

また、ソブリンネットワーク(主権ネットワーク)への取り組みも具体化しました。クラウドの利便性を享受しながらデータを自国内にとどめたいというニーズは、各国政府や厳しい規制下の産業では切実な課題です。LightstormとのパートナーシップによってRakuten CloudとPolarin NaaSプラットフォームが連携し、通信キャリアや企業、ソブリンクラウドプロバイダーが主権ネットワークサービスを迅速に構築できる環境が整いました。データ主権をめぐる議論が世界各地で活発化するなか、タイムリーな一手といえます。

30以上の講演 現場で交わされた議論の密度

今回のMWC26で楽天が担ったのは、展示や発表だけではありません。楽天シンフォニーの幹部陣が積極的に登壇し、業界の重要テーマについて議論をリードしました。

Nagendra Bykampadi氏はセキュリティとエネルギー効率について、Subha Shrinivasan氏はデジタルツインの普及加速について、Devesh Gautam氏はハイパースケールなネットワークライフサイクル自動化について、それぞれ知見を共有しました。楽天のブース内外を通じ、Tier 1 MNO、パートナー企業、業界アナリスト、メディアとともに30を超える講演・パネルセッションを実施しています。

インテリジェント・グロースという概念を「言葉」として語るだけでなく、具体的な技術と実績を持つ実務家として議論に参加したことで、楽天のメッセージは説得力を増しました。賑わいを見せたブースシアターのセッションがその雰囲気を物語っています。

MWC26は始まりにすぎない

通信キャリアの財務的な閉塞感は、一朝一夕には解消しません。しかし、打開策が存在しないわけでもありません。オープンなインターフェースとクラウドネイティブな自動化を基盤に、エコシステム戦略を重ねるインテリジェント・グロースのアプローチは、既存の仕組みをゼロから壊すことなく、段階的な変革を可能にする現実的な道筋を示しています。

MWC26の会場で楽天が発信したメッセージは、イベントの終幕とともに終わるものではありません。VEONとの協業、Google CloudやWind RiverとのOEM・統合実績、Nokia製コアの本番稼働。こうした具体的な成果の積み重ねが、インテリジェント・グロースという概念に実体を与えていきます。

世界の通信キャリアが新しい成長の論理を手に入れるために何が必要か。楽天はその問いに対して、言葉と実績の両面から答え続けています。MWC26は、その長い旅の一里塚でした。

私見と考察:インテリジェント・グロースは通信業界の「出口」になりうるか

通信業界の収益モデルが行き詰まっているという話は、今に始まったことではありません。ARPUの低下、設備投資の重さ、OTTプレイヤーへの価値の流出。これらは10年以上前から繰り返し語られてきたテーマです。MWC26で楽天が掲げた「インテリジェント・グロース」も、最初の数行だけ読めば「またか」と感じる人もいるでしょう。

しかし今回の発表群を丁寧に見ていくと、単なるコンセプト提唱に終わっていない点が重要です。ノキアのコア機能がRakuten Cloud上で本番稼働を開始したこと、Google CloudがRakuten Cloud-Native StorageをOEM製品として採用したこと。こうした具体的な実績が積み上がっている以上、「理念を語る会社」ではなく「実績を持つ会社」として業界に立ち向かえる立場にあります。言葉の重みが違います。

エコシステム戦略は「再現できるか」が問われる

三木谷会長が強調したエコシステムによる価値創出は、楽天グループの文脈では説得力があります。ポイント経済圏を軸に数千万人規模の会員基盤を持ち、金融・EC・旅行・コンテンツを横断するサービス群を自社で抱えているからこそ、通信事業単体では出せない収益力を実現できています。

ただ、ここで慎重に考えなければならないのは「再現性」の問題です。楽天のエコシステムは20年以上をかけて積み上げられたものであり、明日から真似できるものではありません。中堅・新興国の通信キャリアが「エコシステム戦略を取ろう」と決断したとして、何から始め、どれくらいの時間軸で成果を期待できるのか。この問いへの答えが明確でなければ、世界の通信キャリアへの訴求力は限定的にとどまるリスクがあります。

楽天シンフォニーが提供できるのはネットワーク技術と自動化のプラットフォームであり、エコシステムそのものを外から移植することはできません。インテリジェント・グロースを「楽天成功体験の輸出」ではなく、各キャリアが自社の文脈で実装できる汎用的なフレームワークとして昇華できるかどうかが、今後の鍵になると見ています。

Open RANの「次のステージ」をどう定義するか

VEONとのMOU締結に象徴されるように、Open RANの地理的な広がりは続いています。日本、米国、欧州に加え、中央アジアの新興国市場でも具体的な取り組みが始まりつつあることは評価できます。

一方で、Open RAN全体の普及曲線を見れば、まだ「実証段階から商用展開への移行期」にあることは否めません。コスト面での優位性が従来のベンダーロックイン型ネットワークと比べて明確になるまでには、もうしばらく時間がかかるという見方もあります。特に既存インフラへの投資を回収しきれていないキャリアにとって、全面的な移行に踏み切る経済的なインセンティブはまだ十分とはいえない場合があります。

楽天がこの局面で重要な役割を果たせるとすれば、「Open RANを導入したあとに何が変わるのか」を実例で示し続けることでしょう。楽天モバイル自身がOpen RAN上で動く大規模商用ネットワークであるという事実は、世界に類を見ない強みです。この「生きた証拠」を使い倒すことが、市場啓発において最も効果的な手段だと考えます。

クラウドインフラ事業の「本気度」が見えてきた

今回の発表の中で、個人的に最も注目したのはGoogle CloudとのOEM契約です。Rakuten Cloud-Native StorageがGoogle Distributed Cloud Connectedに組み込まれるという事実は、楽天シンフォニーのクラウドインフラ事業が「通信向けの特殊製品」という枠を超えつつあることを示しています。

Googleほどのブランドと流通力を持つ企業が楽天のストレージ技術を自社製品の構成要素として採用するということは、技術品質の外部評価として極めて強いメッセージになります。通信キャリアへの直接販売と並行して、こうしたハイパースケーラーとの連携によって市場リーチを広げる戦略は理にかなっています。

Wind River Cloud Platformとの統合も同様の文脈で読めます。エッジコンピューティング分野でのプレゼンスを持つWind Riverと組むことで、通信以外の産業向けエッジ市場への入り口が開きます。楽天のクラウドネイティブ技術の応用範囲が、通信インフラにとどまらず広がっていく方向感は、中長期的な事業ポートフォリオの観点からも興味深い動きです。

ソブリンネットワークは地政学リスクへの現実的な回答

Lightstormとの連携によるソブリンネットワーク対応は、技術トレンドというよりも地政学的な変化への応答として捉えるべき動きです。データが国境を越えることへの規制や懸念は、欧州のGDPR以降、世界各地で強まっています。政府系クラウドの調達基準が厳格化される流れは今後も続くとみられ、「データが自国内にあることを保証できる」クラウド基盤へのニーズは確実に高まっています。

Rakuten CloudとPolarin NaaSの連携が意味するのは、単に技術的な対応にとどまりません。各国・各地域の規制環境や政治的文脈に応じて、主権を保持しながらクラウドの恩恵を受けられる選択肢を提供するという姿勢の表明でもあります。特に中東、東南アジア、中央アジアといったデータローカライゼーション規制が強まっている地域での商機は小さくありません。

30講演という「数」より「質」をどう担保するか

30を超える講演・パネルセッションへの参加は、業界への発信量という点で相当な投資です。ただ、こうした大型カンファレンスでは「セッション数」が必ずしも「影響力」に比例しないという現実もあります。各セッションで伝えたメッセージが、参加者の意思決定にどう結びついたか。そこまでを追いかける仕組みがなければ、存在感の大きさとビジネスへの波及効果はかい離し続けます。

インテリジェント・グロースというメッセージを業界に定着させるには、MWCのような場での発信を「種まき」と位置づけ、個別キャリアとの実務的な対話に繋げていく粘り強いフォローが欠かせません。コンセプトの魅力と、導入を後押しするサポート体制の両輪が揃って初めて、啓発活動が成果に変わります。

総じて言えば:楽天は特異な位置

率直に言えば、インテリジェント・グロースというコンセプト自体は、通信業界の多くの人が「正しい方向性だ」と感じるものでしょう。問題はそれが「誰が言うか」によって重みが変わることです。

その点で、楽天は現在、世界の通信キャリアの中でも特異な位置にいます。自ら通信キャリアでありながら、ネットワーク技術を外部に販売するベンダーでもある。Open RAN商用展開の先駆者として実績を持ちながら、エコシステムによる収益多様化も実現している。この「両面性」は、単なる機器メーカーにも、単なるコンサルティング会社にも出せないメッセージの厚みを生んでいます。

もちろん、課題がないわけではありません。エコシステム戦略の再現性、Open RAN普及の速度、クラウド事業の収益化の道筋。どれも一筋縄ではいきません。しかしMWC26での発表群を見る限り、楽天は「言うだけ」の段階をとうに過ぎ、「やってみせる」フェーズに入っています。通信業界の変革を語る資格があるとすれば、現時点でその筆頭に挙げられる企業のひとつであることは間違いないでしょう。

Speeding the transition to Intelligent Growth at MWC26 Barcelona
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Speeding the transition to Intelligent Growth at MWC26 BarcelonaAt MWC 2026, Rakuten talked about a new path forward based on an Intelligent Growth model that breaks the old mold and sets a new course for the industry.symphony.rakuten.com