楽天モバイルの衛星通信が国家プロジェクトへ。J-LEO採択で圏外ゼロに前進

今やスマートフォンが地上の基地局ではなく、宇宙を飛ぶ人工衛星と直接つながる時代です。楽天モバイルと米AST SpaceMobileが進める衛星ダイレクト通信は、2025年に日本国内で市販スマートフォンを使ったビデオ通話に成功しました。さらに2026年には、700MHz帯を衛星通信に利用するための技術的条件が取りまとめられ、6月30日には国の低軌道衛星インフラ整備事業「J-LEO」の事業者として、RAST株式会社と楽天モバイル株式会社による共同提案が採択されました。楽天モバイルが進めてきた衛星通信構想は、民間サービスの開発にとどまらず、日本の通信インフラを強化する国家規模の取り組みへ発展しようとしています。


市販スマートフォンで衛星経由のビデオ通話に成功

楽天モバイルとAST SpaceMobileは2025年4月、日本国内で初めて、低軌道衛星と市販スマートフォンを直接接続したビデオ通話に成功したと発表しました。試験では、福島県内に設置された楽天モバイルのゲートウェイ地球局から、AST SpaceMobileの商用低軌道衛星「BlueBird Block 1」に向けて電波を送信しました。衛星から福島県内のスマートフォンへ電波を届け、地上ネットワークも経由しながら、福島県と東京都にある市販スマートフォンの間でビデオ通話を実現しています。

大きな特徴は、専用の衛星電話や外付けアンテナではなく、一般に販売されているスマートフォンを利用したことです。AST SpaceMobileは、通常の携帯電話と直接通信できる宇宙からのセルラーネットワーク構築を目指しています。利用者が衛星通信専用の端末を用意しなくても、普段使用しているスマートフォンがそのまま衛星につながる仕組みです。

楽天モバイルは、この技術を利用する「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」について、日本国内で2026年第4四半期の提供開始を目指しています。サービスの周波数、利用可能な時間、料金などの詳細については、正式決定後に発表される予定です。


山間部や離島を宇宙から通信エリアに

日本の携帯電話網は広範囲に整備されていますが、山間部、離島、海上などには、地上基地局の電波が届きにくい場所が残されています。地形上の問題に加え、基地局へ電力や光回線を引き込む費用も必要になるため、利用者が少ない地域では整備が難しい場合があります。

衛星ダイレクト通信が実用化されれば、地上基地局を設置しにくい場所にも、宇宙から携帯電話の電波を届けられる可能性があります。登山中の事故、海上でのトラブル、離島での連絡手段など、これまで通信エリアの制約を受けてきた場面で、普段のスマートフォンを利用できる環境が期待されています。

衛星通信は災害対策としても重要です。地震、津波、豪雨などによって基地局や光回線が被害を受けても、宇宙側に別の通信経路があれば、安否確認や救援活動に必要な通信を確保しやすくなります。楽天モバイルは、山間部や離島を含むエリアカバーの拡大と、災害などの緊急時に備えたネットワークの冗長性確保を、衛星サービスの目的として掲げています。

700MHz帯の利用に向けた制度整備が進展

衛星とスマートフォンを直接つなぐには、通信技術だけでなく、使用する周波数についての制度も必要です。楽天モバイルの衛星ダイレクト通信で利用が検討されているのが、携帯電話向けの700MHz帯です。

総務省の情報通信審議会では、「衛星コンステレーションによる携帯電話向け700MHz帯非静止衛星通信システムの技術的条件」が検討されました。700MHz帯は比較的遠くまで電波が届きやすく、建物などの障害物にも回り込みやすい性質を持っています。

技術的条件では、スマートフォンから衛星へ送る上り回線に715MHzから718MHz、衛星からスマートフォンへ送る下り回線に770MHzから773MHzを使用し、チャネル幅を3MHzとする構成などが示されています。

700MHz帯の周辺では、地上デジタルテレビ放送、特定ラジオマイク、高度道路交通システムなども利用されています。そのため、既存の放送や無線通信に影響を与えないよう、干渉を抑えるための技術条件や運用方法も検討されました。

これにより、衛星ダイレクト通信の商用化に必要な周波数利用のルールが整いつつあります。技術実証だけでなく、電波を安全に使用するための制度面でも実用化への準備が進んでいます。

日本で管理する衛星網をつくるJ-LEO

衛星通信の実用化をさらに後押しするのが、総務省の「自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業」、通称J-LEOです。J-LEOでは、日本国内で運用・管理される低軌道衛星コンステレーションを活用した衛星ダイレクト通信の実現に向け、衛星や地上設備の整備を支援します。

低軌道衛星コンステレーションとは、多数の人工衛星を比較的低い高度に配置し、複数の衛星を連携させて通信エリアを形成する仕組みです。静止衛星よりも地上に近い場所を飛ぶため、通信の遅延を抑えやすく、スマートフォンとの直接通信にも適しています。

J-LEOでは、通信サービスの提供だけでなく、その基盤となる衛星インフラを日本側で保有し、運用・管理することが重視されています。支援の対象には、通信衛星の調達、衛星の打ち上げ、ゲートウェイ地球局などの地上設備の整備が含まれます。

海外の衛星通信サービスを利用するだけではなく、日本の事業者が衛星や通信サービスの運用権限を確保することで、災害や国際情勢の変化が起きた場合にも、国内の通信を維持できる体制の構築を目指します。


RASTと楽天モバイルの共同提案を採択

J-LEOの基金設置法人である一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会は、2026年3月30日から5月29日まで事業者を公募しました。審査の結果、6月30日にRAST株式会社を申請代表、楽天モバイル株式会社を共同提案者とする1事業者を採択しました。

総務省の公表資料では、RASTが衛星や通信サービスを保有・運用する権限などを有し、補助条件を満たしていることが採択理由として示されています。採択後は、交付申請の内容や事業計画について審査が行われ、交付決定後に衛星コンステレーションの構築が本格的に始まります。

RASTは今回のJ-LEOで申請代表を務め、楽天モバイルは共同提案者として携帯電話ネットワークや国内サービスの提供に関わります。AST SpaceMobileの衛星技術、RASTによる衛星インフラの保有・運用、楽天モバイルの地上ネットワークを組み合わせ、日本国内向けの衛星ダイレクト通信網を整備していく計画です。

J-LEOの予算は1500億円、助成上限は1480億円

J-LEOには、令和7年度補正予算として1500億円が計上されています。この予算を活用し、衛星の調達、打ち上げ、地上設備の整備などを支援します。

CIAJが実施した今回の公募では、交付金額の上限が1480億円に設定されています。助成率は、助成対象経費の税抜額の2分の1以内です。RASTと楽天モバイルの共同提案は、この最大1480億円の助成枠を持つ事業に採択されました。

実際に交付される金額は、採択後の交付申請と審査を経て決定されます。また、楽天モバイル単体に配分される金額は公表されていません。今回の申請代表はRASTであり、楽天モバイルは共同提案者として参加しています。

助成率が2分の1以内であるため、上限の1480億円が交付される場合、対象となる衛星インフラ整備は少なくとも2960億円規模になります。国による支援と事業者側の投資を組み合わせて、衛星と地上設備を整備する大型プロジェクトです。


2028年度中に衛星ダイレクト通信の開始を目指す

総務省のJ-LEO採択資料では、速やかに衛星コンステレーションの構築を進め、令和10年度、つまり2028年度中の衛星ダイレクト通信サービス開始を目指す方針が示されています。

CIAJの公募要領では、事業期間は交付決定後から2029年3月末までです。それまでに、日本全国の一般利用者が、携帯電話用の周波数を使った衛星ダイレクト通信を利用できる状態にすることが求められています。

事業期間中には、日本全国で少なくとも1日のうち7割程度の時間帯にビデオ通話が可能となるインフラを整備します。事業終了後も投資を続け、最終的には全国で常時利用できる水準まで衛星網を拡張する計画を示す必要があります。

楽天モバイルが掲げている2026年第4四半期のサービス提供目標と、J-LEOが目指す2028年度中のサービス開始は、異なる整備段階を示しています。2026年の計画はAST SpaceMobileの衛星網を利用した初期サービスを目指すものです。一方、J-LEOは日本側が保有・運用する衛星や地上設備を整備し、全国規模の通信基盤へ発展させる中長期的な計画です。


災害時には通信会社の垣根を越えて活用

J-LEOで整備される衛星インフラには、楽天モバイルの通常サービスを補完するだけでなく、災害時に国内の通信網全体を支える役割も求められています。

公募要領では、ほかの携帯電話会社のネットワークが被災し、非常時事業者間ローミングが発動された場合に、衛星通信を介したローミングを提供できるようにすることが条件に含まれています。対象には、音声通信、データ通信、SMSが想定されています。

大規模災害によって特定の携帯電話会社の基地局が停止した場合でも、別の通信会社や衛星網を経由して通信できる可能性が高まります。平常時には山間部や離島などの圏外を減らし、非常時には通信会社の枠を越えて被災地を支えることが、J-LEOに期待される役割です。


「空が見えればつながる」通信環境へ

楽天モバイルとAST SpaceMobileによるビデオ通話の成功は、市販スマートフォンと低軌道衛星を直接つなぐ技術が、実用化へ近づいていることを示しました。そこに700MHz帯の制度整備と、J-LEOによる最大1480億円の助成枠が加わり、衛星ダイレクト通信は実証実験から本格的なインフラ整備へ移り始めています。

今後は、正式な助成額、調達する衛星の数、打ち上げ時期、対応端末、利用料金、通信可能な時間などが注目されます。衛星の製造や打ち上げには大きな費用と技術的なリスクが伴うため、全国で安定したサービスを実現するには、長期的な投資と継続的な衛星配備が必要です。

それでも、地上に基地局を建設できるかどうかで決まっていた携帯電話の通信エリアに、宇宙から電波を届けるという新たな選択肢が加わる意味は大きいといえます。楽天モバイルとRASTによる取り組みは、山間部や離島の圏外を減らし、災害時にも途切れにくい通信網を構築するための重要な一歩となります。

楽天モバイルと米AST SpaceMobile、日本国内で初めて低軌道衛星と市販スマートフォンの直接通信試験によるビデオ通話に成功
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2025/0423_01/

総務省|電気通信政策の推進|自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業 (J-LEO:Japan Low Earth Orbit Satellite Communications Project)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/jiritsuseikakuho.html

自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業(J-LEO)採択結果
https://www.soumu.go.jp/main_content/001080413.pdf

衛星通信システム委員会報告(案)に対する意見募集の結果
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/1040?CLASSNAME=PCM1040&Mode=1&id=145210692

情報通信審議会情報通信技術分科会衛星通信システム委員会「非静止衛星を利用する移動衛星通信システムの技術的条件」のうち「衛星コンステレーションによる携帯電話向け700MHz帯非静止衛星通信システムの技術的条件」報告概要
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000316580

自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業(J-LEO) | CIAJ 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会
https://www.ciaj.or.jp/infra/j-leo_inf/

「自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業(J-LEO)」に係る間接補助事業者の採択について | CIAJ 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会
https://www.ciaj.or.jp/topics2026/13017.html