
Rakuten Cloudとサムスン電子の相互運用性試験が示す次世代通信の未来
楽天シンフォニーとサムスン電子が、クラウドネイティブ通信ネットワークの世界で重要な一歩を踏み出しました。両社は2025年、「Rakuten Cloud-Native Platform(Rakuten Cloud)」上でサムスンのvRAN(仮想化無線アクセスネットワーク)とvCore(仮想化コアネットワーク)の相互運用性試験を完了したと発表しました。コードの変更なしにシームレスな動作が確認されたこの成果は、通信業界に新たな可能性をもたらすものとして注目を集めています。
「相互運用性試験」とは何か?
通信ネットワークは今、大きな変革期を迎えています。従来の通信インフラは、特定のベンダーが提供するハードウェアとソフトウェアが密接に結びついた「クローズド」な構成が主流でした。しかし近年は、異なるベンダーのコンポーネントを組み合わせて柔軟にネットワークを構築できる「オープンRAN」や「クラウドネイティブ」なアーキテクチャへの移行が加速しています。こうした流れの中で重要になるのが「相互運用性(インターオペラビリティ)」です。異なるメーカーが開発したソフトウェアやシステムが、互いに問題なく連携・動作できるかどうかを確認するのが相互運用性試験です。この試験をクリアすることで、通信事業者はベンダーロックインを避け、最適なコンポーネントを自由に選択・組み合わせることができるようになります。
今回の試験で何が確認されたのか?
楽天シンフォニーとサムスン電子が実施した試験では、以下の点が確認されました。
・サムスンのvRANおよびvCoreソフトウェアスタックが「Rakuten Cloud」上で完全に近い相互運用性を持って動作すること
・双方のコードに変更を加えることなく、シームレスな動作が実現されること
・クラウド環境での展開から運用検証まで、従来と比較して大幅に短い時間での導入が可能であること
特筆すべきは、「コードの変更なし」という点です。これは通常、異なるベンダーのシステムを統合する際に発生する長期にわたるカスタマイズ作業や個別開発が不要であることを意味します。通信事業者にとって、これは導入リスクとコストの大幅な削減につながる重要な成果です。
Rakuten Cloudとは何か?
「Rakuten Cloud-Native Platform」は、楽天シンフォニーが提供するテレコムクラウドプラットフォームです。楽天モバイルが世界に先駆けて商用展開した大規模な仮想化Open RANネットワークの知見を基に開発されており、通信事業者向けの次世代ネットワーク構築・運用に必要な機能を横断的に提供します。その特徴は「クラウドネイティブ」なアーキテクチャにあります。従来の通信インフラとは異なり、クラウドの柔軟性・拡張性・オープン性を最大限に活用した設計思想に基づいており、マルチベンダー対応のネットワーク機能(CNF)をシームレスに展開できる環境を提供します。今回の試験成功により、「Rakuten Cloud」はオープンなマルチベンダー構成の大規模展開を支える「通信業界水準の横断型テレコムクラウドプラットフォーム」として実用段階にあることが改めて証明されました。
両社トップが語る「今回の意義」
楽天シンフォニーの執行役員 クラウドビジネスユニット プレジデントであるパルタ・シーターラ氏は、次のようにコメントしています。
「『Rakuten Cloud』上でのサムスン製vRANおよびvCoreの検証は、通信事業者がネットワークを長期的に進化させる柔軟性を維持しながら、より迅速かつ低リスクに高度なネットワーク機能を展開できることを証明しています。今回の成果は、『Rakuten Cloud』が、オープンなマルチベンダー構成のネットワークの大規模展開を支える、通信業界水準の横断型テレコムクラウドプラットフォームとして十分に実用段階にあることを示しています」
── パルタ・シーターラ(楽天シンフォニー 執行役員 クラウドビジネスユニット プレジデント)
一方、サムスン電子のエグゼクティブヴァイスプレジデント 兼 ネットワーク事業部グローバルセールス&マーケティング責任者であるアンジェロ・ジョンホ・パク氏は、このように述べています。
「このたびの成功は、クラウドネイティブな設計とオープンなプラットフォームの組み合わせがもたらす価値を裏付けるものです。楽天シンフォニーとの連携により、通信事業者がオープンで柔軟なネットワークインフラを展開するための多様な選択肢を提供できることを喜ばしく思います。今後、私たちが共にグローバルな舞台でさらなる飛躍を遂げることを確信しています」
── アンジェロ・ジョンホ・パク(サムスン電子 EVP ネットワーク事業部グローバルセールス&マーケティング責任者)
通信業界へのインパクト:何が変わるのか?
1:ベンダーロックインからの解放
今回の試験結果は、通信事業者が特定ベンダーへの依存を脱し、クラス最高水準のコンポーネントを自由に組み合わせられる「オープンなエコシステム」の実現可能性を示しています。これにより、事業者はコスト効率と技術的柔軟性を同時に追求できるようになります。
2:展開スピードの劇的な短縮
従来の統合プロジェクトでは、異なるベンダーのシステムを接続するために数ヶ月〜数年単位の開発・検証期間が必要でした。しかし今回の試験では、その期間が大幅に短縮できることが実証されています。通信事業者にとって、これはサービスの市場投入スピードを加速させる大きな武器となります。
3:グローバルな選択肢の拡大
世界中の通信サービス事業者に対して、サムスンの実績あるvRAN・vCoreソリューションと「Rakuten Cloud」の先進的なプラットフォームを組み合わせた新たな選択肢が提供されることになります。特に新興市場や5G展開を加速させたい地域にとって、この組み合わせは魅力的な選択肢となりえます。
クラウドネイティブ通信の「標準化」が進む
楽天シンフォニーとサムスン電子の相互運用性試験成功は、単なる二社間の技術的達成にとどまらず、通信業界全体のトレンドを象徴する出来事です。Open RANやクラウドネイティブアーキテクチャは、かつて「理想論」と見られていた時期もありました。しかし楽天モバイルが実証し、今回の試験が改めて確認したように、それは現実として機能しています。異なるベンダーのシステムが、コードの変更なしに短期間で統合・動作できる──この事実が積み重なることで、通信インフラの「オープン化」と「クラウド化」は着実に業界標準へと向かっています。楽天シンフォニーは今後も、通信事業者がより迅速に対応し、自由にイノベーションを創出し、長期的な拡張性と柔軟性を持つネットワークを構築できるよう、サムスン電子をはじめとするパートナーとの連携を強化していく方針です。次世代通信インフラの進化から、引き続き目が離せません。
楽天シンフォニーについて
楽天シンフォニーは、革新的なモバイルネットワーク技術を用いた通信プラットフォーム事業をグローバルに展開しています。楽天モバイルが世界でも先進的に商用利用を実現した大規模な仮想化Open RANネットワーク構築の知見を生かし、通信事業者向けのプラットフォームを含む次世代ネットワークの計画・構築・運用に必要なすべての機能を提供しています。日本に本社を置き、米国、シンガポール、インド、韓国、欧州、中近東アフリカ地域にも現地拠点を展開しています。
https://symphony.rakuten.com/jp
Rakuten Cloudの全体像
Rakuten Cloudは、楽天シンフォニーが提供するテレコム向けクラウドネイティブプラットフォームの総称です。ウェブサイトのキャッチコピーは「One Platform. Any Workload.」コンテナと仮想マシンを単一のKubernetesプラットフォーム上で統合して動かすという思想を端的に表しています。製品は大きく3つの柱で構成されています。1つめはCloud-Native Platform(CNP)で、Kubernetesをベースに通信向けの大幅な強化が施された基盤です。SR-IOVやスマートNICを含む高性能ネットワーキング、ステートフルワークロードを支えるストレージ統合、そしてベアメタルプロビジョニングからライフサイクル管理までをカバーするゼロタッチ自動化が組み込まれています。2つめはCloud-Native Storage(CNS)で、2025年4月にオブジェクトストレージが追加され、AI・ML・データレイク・小売・金融など多様な業界での利用実績を積んでいます。Googleが「Google Distributed Cloud」の標準ストレージソリューションとして採用しており、その品質の証左となっています。3つめはCloud-Native Orchestrator(CNO)で、設計から導入・運用後の継続管理まで一気通貫でカバーするDay 0/1/2の自動化エンジンです。対象産業は今やテレコムの枠を超え、小売・製造・ヘルスケア・金融・メディア・公共セクターにまで広がっています。通信インフラとITシステムを同一プラットフォームで動かすという「水平統合」の思想が、他業界への展開を可能にしています。
楽天モバイルという前例のない実証フィールド
Rakuten Cloudを他のテレコムクラウド製品から際立たせる最大の特徴は、「実際に大規模な商用通信網で使われ続けている」という事実です。これは見た目以上に重要な差別化要因です。
楽天モバイルは日本全国に約11,000か所のエッジコンピューティング拠点を展開しており、STL Partnersのレポートによると次位のMNOの3倍以上の規模です。2025年7月時点で930万人を超える加入者を抱えるこの通信網は、世界初の完全エンド・ツー・エンドでクラウドネイティブかつフルコンテナ化された5Gネットワークとして動き続けています。競合他社が「テストラボでの検証」や「パイロット展開」を実績として掲げる中、Rakuten Cloudは文字通り「本番の通信網で毎日鍛えられている」プラットフォームです。
楽天モバイルでの実装を通じて明らかになった数値は、単なるマーケティング数字ではなく実運用から得られたものです。旧来のOpenStackと比較してVMが30%高速に動作したこと、従来型展開と比べてCapExが約50%削減されたこと、インフラ準備にかかるOpExが70%削減され、作業時間が「数ヶ月」から「4分」に短縮されたことが報告されています。この「4分」という数字は象徴的です。新しい基地局を立ち上げる作業が数ヶ月から4分になるのは、単なる効率化ではなくビジネスモデルそのものの変革を意味します。
技術的な特徴:Kubernetesとテレコムグレードのギャップをどうやってふさぐか
技術的な観点から見ると、CNPが解こうとしている問題は明快です。「KubernetesはIT領域では標準になったが、通信ネットワーク特有の要件には対応していない」というギャップを埋めることです。中でも「VNFとCNFを同一プラットフォームで動かす」という設計は競合との明確な差別化点です。通信業界は現在、物理ネットワーク機能から仮想化(VNF)、さらにコンテナ化(CNF)へと段階的に移行しています。多くの事業者が「VNFはまだ残っているが、新しいCNFも入れなければならない」という過渡的な状況にあります。Rakuten CloudのCNPはこの二つを、別チームや別運用体制なしに一つのプラットフォームで扱えます。移行期間中のオペレーションコストという実務的な問題に対する、非常に現実的な回答です。楽天シンフォニーが提唱する「ホリゾンタル(水平)テレコムクラウド」という概念も重要です。従来の通信インフラはRAN・コア・IMS・ITシステムそれぞれが垂直にサイロ化していました。異なるベンダーが別々のスタックを納入し、それぞれを別チームが運用する構造です。水平クラウドとは、これらを一つの共通プラットフォーム層に統合することで、組織のサイロも解消しようとする試みです。これは通信事業者の組織論・経営論と直結する、技術以上の概念です。
ABI Researchが認定した業界第3位という立ち位置
2025年12月、グローバルテクノロジーリサーチ機関のABI Researchが「テレコムクラウドネイティブプラットフォーム」の競合ランキングを発表し、楽天シンフォニーはWind River、Red Hatに次ぐ第3位に位置づけられました。評価のポイントは「オートメーションファーストのソリューション」という点で、展開タイムラインと運用複雑性を大幅に削減する自動化の質が高く評価されています。同月、GoogleがRakuten Cloud-Native Storageを「Google Distributed Cloud connected Server」の標準ストレージとして採用したことも発表されており、製品の品質に対する強いシグナルとなっています。

私見と考察:通信インフラへのインパクト
Rakuten Cloudの構造的インパクトは5つあります。
1:ベンダーロックインの解体
通信事業者が単一ベンダーに縛られることのコストは、技術的な制約だけでなく、調達交渉力の喪失・ライセンス費用の高止まり・イノベーションスピードへの制限として長年積み上がってきました。「オープンなマルチベンダー対応」とは、通信事業者が調達の主導権を取り戻すことを意味します。サムスンのvRAN・vCoreとの相互運用性試験で「コードの変更なしに動く」という事実が積み重なることで、オープンエコシステムは理想論から調達の実務へと昇格していきます。
2:展開スピードの革命
「4分で基地局を立ち上げる」という能力は、通信事業者が提供できるサービスの性質を根本から拡張します。大規模イベント会場のための一時的な5G増強、災害時の緊急ネットワーク展開、新興市場での迅速なロールアウト。これらはすべてスピードが競争優位の核心になるユースケースです。これはオペレーション効率化ではなく、「どんなビジネスができるか」の限界を書き換える変化です。
3:AI時代のインフラとしての戦略的位置付け
2025年のRakuten Cloudの動きで興味深いのは、「テレコム」の枠を超えてAIワークロード基盤としてのポジショニングを強化していることです。GPU対応、大規模データセット向けのオブジェクトストレージ追加、「Private Cloud for Data & AI」ソリューションの整備は、5G/6Gネットワークが単なる通信インフラではなくエッジAIの実行基盤になるという未来図を見越した動きです。11,000か所のエッジ拠点を持つRakuten Cloudのポジションは、このシフトが本格化した際に戦略的に極めて有利です。
4:テレコムとITの垣根消滅がもたらすコスト構造の変革
現在多くの通信事業者は、ネットワーク系と企業IT系で別々のクラウドインフラを持ち、別々のチームが運用しています。これは人材・ライセンス・ハードウェア・運用プロセスの全てを二重に抱えることを意味します。水平テレコムクラウドが本格普及すれば、一つのプラットフォームでRAN・コア・OSS/BSS・業務系アプリを動かせるようになり、人材の統合・ライセンスの簡素化・ハードウェアの共用が可能になります。楽天モバイルが示した50%のCapEx削減という数字が、それが夢想でないことを示しています。
5:新興市場・グリーンフィールドへの展開
既存インフラを持たない新興市場や新たに通信免許を取得した事業者にとって、最初からクラウドネイティブなアーキテクチャで構築できるなら、従来型インフラへの投資負担なしに最先端のネットワークが実現できます。楽天モバイル自体がまさにそのグリーンフィールド事業者として世界初の完全仮想化ネットワークを作り上げた歴史があり、その経験の産物が製品として外部展開されることの意義は大きいと考えます。
課題として冷静に見えるリスク
楽観的な見立てを述べた一方で、課題も率直に書いておきます。まずブランド認知と実績の非対称性があります。ABI Research評価では3位とはいえ、Wind RiverやRed Hat/OpenShiftと比べてグローバルのTier 1事業者への商用展開実績はまだ限定的で、「楽天モバイルの自社向けソリューション」というイメージの払拭が続く課題です。次にエコシステムの厚みの問題があります。Red HatのOpenShiftが持つようなSI・ISV・パートナーの厚い生態系はまだ形成途上で、大規模展開の決断にはエコシステムの成熟度が重要な判断材料になります。さらに親会社の財務状況リスクがあります。楽天グループの財務状況は通信事業への多大な投資によって注視が必要な状態が続いており、長期サポート継続性という観点での懸念は残ります。
実験の産物が業界標準になる日
楽天モバイルという、ある意味「追い詰められた」グリーンフィールド通信事業者が、コストと時間の制約の中で選んだ答えがクラウドネイティブアーキテクチャでした。その「必要に迫られた実験」が、今や世界の通信業界が参照すべき設計図になりつつあります。Rakuten Cloudの本質的な価値は製品のスペックシートにあるのではなく「世界で最も過酷な実運用環境で何年もかけて鍛えられた本番グレードの知識体系がコードに結晶化している」という点にあります。これは短期間では複製できない競争優位です。Rakuten Cloudが通信業界にもたらす最大の変化は技術的な革新よりも「通信事業者の自己イメージの変革」にあります。「インフラはベンダーから買うもの」から「インフラは自分たちが操作するソフトウェアで構成するもの」へ。このマインドシフトこそが、業界の長期的な再編を駆動する根本的な力です。サムスンとの相互運用性試験成功、Googleとのパートナーシップ、Nokiaとの検証完了と、2025年に積み上げられた実績は、Rakuten Cloudがいよいよ「楽天モバイルの自家製ツール」から「グローバル通信インフラの選択肢の一つ」へと脱皮しつつあることを示しています。その先がどこまで加速するかは、エコシステムの厚みと財務基盤の安定性にかかっています。
楽天シンフォニー、「Rakuten Cloud」においてサムスンのvRANとvCoreとの相互運用性試験を完了
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0303_02.html
