
Rakuten Product Conference 2026。エージェント型AIが企業を変える日
楽天インド(Rakuten India)が主催する年次カンファレンス「Rakuten Product Conference 2026」が2026年4月22日にバーチャル形式で開催されます。今年のテーマは「The Agentic Enterprise」日本語にすれば「エージェント型企業」とでも訳せるこの言葉は、AIをめぐる議論が効率化ツールの域を完全に超えたことを端的に示しています。AIはもはや人間の傍らに置かれた補助装置ではなく、企業活動の中で観察し、判断し、自律的に行動する主体として組み込まれつつあります。Rakuten Product Conference 2026(以下、RPC 2026)はその転換点を正面から議題に据えたカンファレンスです。
AIをめぐる語り口が変わった
AIについての語り方には、ここ数年で静かな変化が起きています。かつてはもっぱら効率化の言葉で語られていました。文章を書く、商品を推薦する、業務を最適化する。AIは人間の努力を加速させ、滑らかにするシステムとして語られてきました。しかし最近、そうした説明の枠組みでは足りないと感じる場面が増えています。問題は「AIは私たちのために何ができるか」ではなくなりました。「AIは私たちとともに、能動的なアシスタントとして何ができるか」へと移行しています。RPC 2026はその課題を中心に設計されており、AIを単なる付加的なレイヤーとして捉える視点から脱し、意思決定への能動的な参加者としてのAIの役割へと議論を転換させることを狙っています。カンファレンスの公式サイトはこの変化をより直接的に言語化しています。ソフトウェアはもはや「実行するもの」から「共に働くもの」へと変わりつつある。AIシステムはリアルタイムで複雑な状況を読み解き、観察し、判断し、行動する存在として日常のビジネス業務に組み込まれつつある。RPC 2026はその変化を企業に向けて可視化し「これが私たちが構築しようとしている未来だ」と提示する場だと位置づけられています。
開催概要
RPC 2026は2026年4月22日、バーチャル形式で開催されます。主催は楽天インド(Rakuten India Enterprise Private Limited)で、インド・バンガロールに拠点を置く楽天グループの研究開発・エンジニアリング拠点です。参加登録は公式サイト(https://product-conference.corp.rakuten.co.in/register)から受け付けています。
プログラムは午前9時から午後1時15分までのおよそ4時間半。旅行、エンターテインメント、フィンテック、通信インフラ、AIガバナンス、コマースと幅広い領域を縦断しながら、エージェント型AIが各産業にもたらす変化を実務者の視点から掘り下げます。登壇者は楽天グループ内部の幹部にとどまらず、Google、Microsoft、Reliance Jio、Mavenir、Nasscom、Adani Group、Mahindra Groupといった国内外の主要企業・機関から集まっています。
アジェンダ詳細:4時間半の全体像
09:00 ウェルカムとRakuten紹介(5分)
コーポレートコミュニケーション担当のIndushree SR氏によるオープニング。カンファレンスの幕開けを告げるセッションです。
09:05 ウェルカムノート(10分)
楽天インドのVice Chairman兼CEOであるTsubasa Shiraishi氏が登壇し、なぜ今この瞬間にこのイベントが重要なのかを楽天のリーダーシップとして語ります。
09:15 特別スピーチ(5分)
在ベンガルール日本総領事館のYoshimura Tomotaka副総領事が特別アドレスを行います。テクノロジー、貿易、そして信頼が交差する場所で構築されている共通の未来について語られる予定で、カンファレンスに外交的・国際的な文脈を加える注目セッションです。
09:20 Rakuten AI(30分)
楽天インドVPのSekhar MK氏が、楽天グループがAIをどのように設計・実装しているかを解説します。AI が単に反応するだけでなく、先読みして行動するシステムとして構築されていることが示される予定です。「未来に追いつくのではなく、未来を定義するためのAIをどう作るか」という問いが軸に置かれます。
09:50 Industry Spotlight – エンターテインメントプラットフォームの進化(20分、ファイアサイドチャット)
GoogleのPrashant Paulose氏(Lead – Apps, Google Play & Google TV, India)が登壇し、楽天インドVPのNishant Nayak氏がモデレーターを務めます。「ストリーミング戦争は終わり、エージェント戦争が始まった」という表現が使われており、エンターテインメントプラットフォームが視聴者の嗜好を先読みし、コンテンツをキュレーションし、興味をエンゲージメントへと変換するAIを中核に再設計している現状が語られます。
10:10 Industry Spotlight – 旅行におけるエージェント型AI(20分)
Yatra OnlineのChief Architect兼Data Scientist、Dr. Shakti Goel氏が登壇します。検索から座席確保、ホテルチェックインに至るまでの旅行行程全体が、AIエージェントによってひとつのシームレスな会話へと集約されていく過程が解説されます。旅行業界は意思決定の複雑さと選択肢の多さが特に顕著な領域であり、エージェント型AIの実用的な価値が最もわかりやすく示される事例のひとつです。
10:30 キーノート「Welcome to the Agentic Enterprise」(25分)
GoogleのAPAC・インド地域ペイメント担当プロダクトリーダー、Anshumani Ruddra氏によるキーノートセッション。エージェント型AIとは何か、それがどう機能し、なぜ今この瞬間に重要なのかを具体的に解説するとともに、命令に従うシステムから監督下での自律性へと移行しつつあるAIの現在地を示します。
11:00 Agentic Dialogues – フィンテック:高リスク意思決定におけるエージェント(20分)
MicrosoftのChief Architect(Office of the CTO)、Divya Krishnamurthy氏が登壇します。機械が金融判断を下すとき誰が責任を負うのか、そして大規模なスケールで信頼を獲得できるAIをどう設計するかという問いが中心に置かれます。フィンテック領域はAIエージェントの自律性と説明責任のトレードオフが最も鮮明に現れる分野であり、このセッションはカンファレンス全体のガバナンス論にも接続する重要な議論になります。
11:20 Agentic Dialogues – 6GとエージェントAIのエンタープライズ変革(20分、ファイアサイドチャット)
Reliance JioのVP兼Chief Data Scientist、Dr. Shivani Gupta氏と、MavenirのEVP兼General Manager(Platform & Cloud)、Santhosh Kumar氏が登壇し、楽天インドVPのAnup Mahajan氏がモデレーターを担います。「5GがエージェントAIに声を与えたとすれば、6GはそれにNervous System(神経系)を与える」というフレーミングのもと、超低遅延が次世代の自律型企業の基盤をどう変えるかが議論されます。通信インフラとエージェントAIの関係は、このカンファレンスにおける最も技術的に深いテーマのひとつです。
11:40 Governing AI – インドAIミッション:Sovereign Intelligence(20分)
NasscomのHead of AI、Ankit Bose氏によるセッション。グローバルなAI潮流に対し、国産AIをどう構築しスケールするか。ナショナルスケールのAIエコシステム整備という、インドのテック産業全体にとって切実なテーマを扱います。グローバルから地域へ、という文脈でインド固有のAI戦略と生態系の構築が語られます。
12:00 Leadership Huddle(30分)
カンファレンスの最大のハイライトとも言えるセッションです。Adani GroupのChief AI Officer、Mukund Seetharaman氏、Mahindra GroupのHead of AI Solution(MFCWL)、Suvro Shankar Ghosh氏、CogniteのVP(Customer Experience and Support)、Vinoth Raju氏、楽天SymphonyのChief People Officer、Prajakta Kanaglekar氏が参加し、楽天インドSVPのShreedhar Patwari氏がモデレーターを務めます。人間のワークフローを前提に設計された組織の在り方はエージェント型AI時代には通用しなくなる。インドを代表するビジネスリーダーたちが、AIが組織の深部に組み込まれた世界に向けて再構築するために何が必要かを議論します。
12:30 Builders Arena「Complexity In, Simplicity Out: An AI-First Playbook」(20分)
Super.moneyのCTO、Kaushik Mukherjee氏が、AIエージェントをプロトタイプから本番投入へと引き上げる実際の過程で得られた知見を語ります。AI導入の議論が実験フェーズから本格運用フェーズへと移行するなかで、失敗も含めた実務者の経験談は聴衆にとって特に価値の高いコンテンツになるでしょう。
12:50 Agentic Dialogues – Commerce「Next Gen AI Commerce」(20分)
Flash AIのFounder、Ranjith Boyanapalli氏が、エージェント型コマースの最前線を解説します。楽天グループがコマース領域に強みを持つ企業であることを踏まえれば、このセッションは楽天インド自身の戦略的関心とも深く共鳴するテーマです。
13:10 クロージング(5分)
楽天インドVPのArjun Basu氏がクロージングを担当します。「ここで始まる対話が、あなたの組織が次に何を構築するかを形作る」というメッセージとともにカンファレンスを締めくくります。
RPC 2026が問うこと
アジェンダ全体を貫くのは共通の方向性です。システムはもはや指示を待っていません。AIエージェントは組織の目標を達成するために自律的に行動し始めています。そしてこの転換は、説明責任、ガバナンス、信頼をめぐる議論を不可避にします。大規模な意思決定が行われるとき、誰が責任を負うのか。AIの自律性の境界はどこに設けるべきか。 カンファレンスの構造自体が、この問いへの答えを段階的に組み立てるように設計されています。まず楽天グループ内部でのAI実装から始まり、産業ごとの具体的な事例へと展開し、最終的にはリーダーシップレベルでの組織再設計の議論へと収束します。

私見と考察:エージェント型AIの最前線
RPC 2026のテーマ設定と登壇者の顔ぶれを見て、まず感じるのは「エージェント型AI」という言葉がもはやバズワードの域を超えているという事実です。Rakuten Todayのブログにせよカンファレンスサイトにせよ、「agentic」という形容詞を中心に据えた言語設計は明らかに意図的なものです。「AIを活用する企業」ではなく「AIエージェントとともに動く企業」この差はプロダクト戦略の言葉ではなく、組織論の言葉です。そこに今回のカンファレンスの本質があると思います。
注目したいのはLeadership Huddleの設計です。Adani、Mahindra、楽天シンフォニーというそれぞれまったくセクターBの異なる企業のリーダーを一つのパネルに並べ「人間のワークフロー向けに作られた組織図はエージェント型AI時代を生き延びられない」という挑発的なテーゼを投げかけています。これは技術論ではありません。人事、組織構造、意思決定権限の再分配という、経営の核心部分の話です。Chief People Officerの立場からPrajakta Kanaglekar氏が参加していることもそれを示しています。AIエージェントの普及が「誰が何を決めるか」という問いに直結するという認識が、このカンファレンス全体に通底しているように見えます。
「5GがエージェントAIに声を与え、6GはNervous Systemを与える」というフレーミングは、楽天グループ全体の動きと照らし合わせると特に興味深いです。楽天はクラウドネイティブなOpen RANネットワークを自社で構築し、楽天シンフォニーを通じてその技術を世界に展開しようとしています。つまり楽天はエージェント型AIの「アプリケーション層」を議論する立場であると同時に、そのAIが走るインフラ層を自ら提供しようとしている企業でもあります。RPC 2026でReliance JioやMavenirとの対話が設けられていることは、そのインフラ戦略とAIエージェント戦略が不可分であることを楽天グループが認識しているのだと思います。
Builders Arenaで語られる「プロトタイプから本番投入」という実務論は、華やかな基調講演とのコントラストとして機能しています。AIエージェントをめぐる議論は往々にして構想の次元にとどまりますが、Super.moneyのような実際にスケールで運用しているフィンテック企業のCTOが「何が失敗したか」を語る場を設けたことは、このカンファレンスが実務者に本当に向けられたものであることを示しています。
全体として、RPC 2026は「エージェント型AI」という概念を宣言するだけでなく、それを旅行・エンタメ・フィンテック・通信・コマース・組織論という複数の断面から同時に照射しようとした、構造的に丁寧なカンファレンスです。楽天インドがこのテーマを選んだ背景には、単なるトレンドへの乗乗りではなく、楽天グループとして「エージェント型AIのインフラとアプリケーションの両方を手がける企業」という自己定義を、インドという舞台から発信しようとする意思があるように思います。
道具としてのAIから同僚としてのAIへのガバナンス転換
これまでのAI活用は「ツールをどう使いこなすか」という話でしたが、今回のテーマ「The Agentic Enterprise」は、AIに自律的な意思決定権をどこまで譲渡するかという踏みこんだ議論です。特にMicrosoftのセッションにある「高リスク意思決定における責任」の議論は重要です。単なるAIの誤回答の問題ではなく「AIエージェントの判断によって発生した数億円の損失や法的トラブルを、誰が、どういうロジックで責任を取るのか」という、AI時代の新しい商習慣と法務の知見が得られるかもしれません。
6G×エージェントがもたらす知能の分散化
「5Gは声、6Gは神経系」という比喩は非常に示唆的です。これは単に通信が速くなるという話ではありません。これまでのAIはクラウド上の巨大な脳(中央集権)でしたが、エージェント型AIは末端のデバイスやネットワークの節々で自律して動く必要があります。Reliance JioやMavenirとの対話からは「知能を中央に置かず、インフラそのものに溶けこませるためのアーキテクチャ」という極めて物理的な実装知見が得られるでしょう。これは開発者にとって、システムの設計思想を根底から変えるヒントになります。
組織図の破壊とAIネイティブなワークフローの実態
Leadership Huddleでの「人間のワークフロー向けに作られた組織図は生き残れない」という主張は、単なる脅しではなく、現在進行形の失敗学に基づいているはずです。AIエージェントが自律的に動き出すと、従来の中間管理職の役割(進捗確認や情報の橋渡し)は不要になります。AdaniやMahindraといった巨大組織のリーダーたちが「AIが主体となった時に、人間はどのレイヤーで意思決定に介入すべきか」という、組織のOSを再書き換えする際の痛みを伴う知見を得られるでしょう。
「Builders Arena」のようなセッションでは、きらびやかな理想論の裏にあるAIエージェントが制御不能になった際の泥臭いデバッグの話やプロンプトエンジニアリングを超えた、エージェント間の連携制御の難しさといった現場の摩擦係数を感じ取れるかもしれません。このカンファレンスは「AIで何ができるか」を見に行く場所ではなく「AIエージェントが勝手に動き出す世界で、企業はどう形を保てばいいのか」という生存戦略のヒントも得られるかもしれません。
Rakuten Product Conference 2026: The Agentic Enterprise Unveiled
https://rakuten.today/blog/rakute-product-conference-2026-the-agentic-enterprise-unveiled.html
