船舶サイバーセキュリティRakuten Maritimeが韓国造船大手ハンファオーシャンに導入

なぜ今、船舶にサイバーセキュリティが必要なのか?
かつての船舶は、陸上ネットワークから独立した「孤島」のような存在でした。しかし、現在の近代的な船舶や将来の自律運航船は、多数のセンサーや制御システム、通信機器が高度に連携しています。もしこれらのシステムがサイバー攻撃を受けると、航海データが改ざんされたり、機関の制御が乗っ取られたりするなど、乗組員の命や莫大な積荷、さらには海洋環境を脅かす重大な事故につながる危険性があります。こうしたリスクに対応するため、国際船級協会連合(IACS)は「船舶のサイバーレジリエンスに関する統一規則(UR E26 / E27)」を策定するなど、新造船や船上システムに対するサイバー対策の重要性は世界的に高まっています。今やサイバーセキュリティは、船を造り、動かす上での「必須要件」となっているのです。

注目を集める「Rakuten Maritime」とは?
「Rakuten Maritime」は、2024年12月にグローバルで本格提供が開始された、高性能な船舶および自律運航船向けのワンストップ・サイバーセキュリティソリューションです。韓国のサイバーセキュリティスタートアップ企業「CYTUR Inc.」との提携によって提供されています。このソリューションの最大の強みは、日本の「日本海事協会(ClassNK)」やイタリアの「イタリア船級協会(RINA)」といった、世界の主要な船級協会からその革新性と堅牢性が認められ、認証を受けている点にあります。単なるセキュリティソフトの提供にとどまらず、海事クライアント特有の課題に合わせてカスタマイズされたコンサルティングサービスも提供しており、企業のスムーズな規制遵守(コンプライアンス)と、サイバー攻撃から立ち直る力(サイバーレジリエンス)の確立を強力に支援します。

ハンファオーシャンが導入する具体的な仕組みとメリット
今回「Rakuten Maritime」を導入するハンファオーシャンは、40年以上の歴史を持ち、世界各国に1,400隻以上の船舶を納入してきた世界有数の造船会社です。ハンファオーシャンは、船が完成した後にセキュリティ対策を施すのではなく、設計段階からセキュリティを体系的に組み込むアプローチを採用しました。具体的には、まず設計段階において、海事分野に特化した最新の脅威情報を活用するThreat Intelligence(脅威分析情報)と、船舶の一般配置図(G/A)に基づいてサイバー脅威をシミュレーションするThreat Modeler(脅威モデラー)により、潜在的なリスクを洗い出して軽減します。続く建造段階では、船上に搭載される様々な機器の脆弱性診断を行うScanner(スキャナー)によって、リスクを事前に評価します。そして船が引き渡された後の運航段階においても、実際の運航時に自動で脅威を分析するThreat Analysis(脅威分析)と、運航中に発生する脅威情報を統合的に管理するRisk Manager(リスクマネージャー)により、継続的な管理体制が敷かれます。設計や建造の初期段階で脆弱性を見つけて対処しておくことで、船が完成して顧客に引き渡された後の運用リスクや、後から対策を講じるためのコストを大幅に削減できるというメリットがあります。

両社のトップが語る、今回の提携への期待
今回の重要な商用契約にあたり、両社の担当者は次のようにコメントを発表しています。

楽天シンフォニー:ライアン・ソン氏(インターネットサービスビジネスユニット プレジデント)
「ハンファオーシャンのような世界的な造船大手による本ソリューションの採用は、当社技術の有効性が高く評価されたことを示しています。設計・建造の初期段階からこのようなソリューションを組み込むという同社のアプローチは、海事分野における先進的かつ包括的なリスク管理の新たな基準を提示するものとなるでしょう」

ハンファオーシャン 商船事業部門 担当者
「世界の海運業界で船舶のデジタル化が加速する中、サイバーセキュリティは安全性や品質、規制遵守において不可欠な要件となっています。本ソリューションを導入し、設計段階から高度なサイバーセキュリティ要件を体系的に組み込むことで、船上機器や建造中の船舶におけるサイバーリスク管理のさらなる向上を図ってまいります」

海事DXの新たなスタンダードへ
通信プラットフォーム事業で培った高い技術力と知見を持つ楽天シンフォニーと世界有数の造船技術を持つハンファオーシャンのタッグは、これからの海運業界におけるサイバーセキュリティの新しいスタンダードを作る一歩と言えます。「Rakuten Maritime」は今後もグローバル展開を加速させ、造船企業や海運事業者が安心してデジタルトランスフォーメーション(DX)を進められる環境をサポートしていくとのことです。安全でスマートな海のモビリティ社会の実現に向けて、この両社の取り組みがどのように世界をリードしていくのか、今後の展開からも目が離せません。

私見と考察:海事産業とテック産業に関する4つの視点

楽天シンフォニーの「Rakuten Maritime」が韓国造船大手ハンファオーシャンに導入されたというニュースは、単なる一企業の商用契約という枠に収まらない、海事産業とテック産業の双方にとって  海事DXにおける注目すべき一歩を意味しています。業界の動向や今後の未来予測を交えながら、4つの視点から考察・私見を述べさせていただきます。

「セキュリティ・バイ・デザイン」の海事産業への本格的な定着
今回の発表で最も注目すべきは、ハンファオーシャンが設計段階(G/A:一般配置図の段階)からサイバーセキュリティを組みこむアプローチ(セキュリティ・バイ・デザイン)を徹底している点です。従来の船舶におけるサイバー対策は、船の完成後や運用段階で対策を強化する発想になりがちでした。しかし、この方法にはいくつかの限界がありました。完成後に脆弱性が見つかると、システムの改修に莫大な費用と時間がかかる上、設計段階での設計ミスや船内ネットワークの根本的な構造欠陥を後から修正するのは極めて困難だったのです。ハンファオーシャンは「Threat Modeler」や「Scanner」を活用することで、まだ図面段階、あるいは建造中の段階でリスクを可視化し、軽減する戦略をとりました。これは、国際船級協会連合(IACS)が定めた規則(UR E26/E27)をクリアするためだけでなく、サイバーセキュリティが強固であること自体を、造船会社としての新たな付加価値(ブランド力)に昇華させようという強い意志の表れだと推察されます。

楽天シンフォニーの「脱・通信専門」への戦略的転換
楽天シンフォニーといえば、モバイルネットワークの仮想化や「Open RAN(オープンラン)」の世界的パイオニアとして知られています。その同社がなぜ「船舶サイバーセキュリティ」なのか、一見すると意外に思えるかもしれません。しかし、ここには非常に高度なビジネス戦略が見え隠れします。

自前主義にこだわらない「エコシステム戦略」
楽天シンフォニーは、このソリューションを全て自社開発したわけではなく、韓国のサイバーセキュリティスタートアップである「CYTUR Inc.」と提携して提供しています。コアな専門技術を持つ新興企業とタッグを組み、自社が持つグローバルな商流や通信インフラの知見を掛け合わせることで、極めてスピーディーに「造船世界大手からの受注」という最大の成果を叩き出しました。このスピード感と柔軟性は、伝統的な巨大IT企業には真似しにくい強みです。

通信の知見が生きる「動く巨大インフラ」の防衛
船舶は、陸上のオフィスとは異なり、衛星通信などを経由して不安定な環境でネットワークに接続される「動くインフラ」です。楽天シンフォニーが通信キャリアビジネスで培った「大規模ネットワークの監視・運用ノウハウ」や「仮想化技術」は、まさにこうした複雑な環境におけるセキュリティ管理(Risk Managerなど)と非常に親和性が高いと考えられます。

将来の「自律運航船」市場を見据えた主導権争いの布石
これは私見ですが、今回の提携は、現在の規制対応にとどまらず、将来の自律運航船市場を見据えた先行投資と捉えることができるかもしれません。IMOは2026年5月、遠隔操船やAIを利用する船舶の安全な導入に向けた初の国際規範「MASS Code」を採択しました。現時点では任意規範ですが、サイバーセキュリティや遠隔運航センターを重要な要件として位置づけ、2032年の強制規範化を目指しています。自律化が進むほど、船舶の安全性は船体や機関の性能だけでなく、通信、ソフトウェア、センサー、遠隔運航システムを攻撃から守れるかどうかに左右されます。航海情報の改ざんや通信の妨害、制御系への不正アクセスは、運航停止や衝突、座礁などにつながる恐れがあります。そのため、サイバーセキュリティは自律運航船を社会実装するための重要な前提条件になります。こうした状況を踏まえると、ハンファオーシャンによる「Rakuten Maritime」の導入は、将来の自律運航船市場で信頼性の高い船舶を提供するための基盤づくりと見ることができます。楽天シンフォニーにとっても、造船大手への初の本格導入実績を獲得したことは、今後のグローバル展開に向けた重要な足がかりです。自律運航船時代の安全基盤を誰が担うのかという主導権争いが、すでに始まっていることを示す一例といえるでしょう。

自律運航時代における「防衛線」の確立
ハンファオーシャンが今、楽天シンフォニーの技術を取り入れた理由は、目先の規制対応だけではありません。「世界で最もサイバーレジリエンス(耐性)が高い自律運航船を造るメーカー」としてのポジションを、他社に先駆けて決定づけるための先行投資であると考えられます。また、日本の「日本海事協会(ClassNK)」やイタリアの「イタリア船級協会(RINA)」といった権威ある機関からすでに認証を得ている「Rakuten Maritime」が、今回のハンファオーシャンへの導入実績(トラックレコード)を引っ提げて、今後欧州や日本の他のメガ造船所へ横展開していくことは容易に想像できます。

異業種連携がもたらす「海の安全基準」のアップデート
今回のニュースは、「通信・ITのトップランナー(楽天シンフォニー)」×「セキュリティの新星(CYTUR)」×「造船の巨人(ハンファオーシャン)」という、国境と業種を越えた最高の掛け算によって成り立っています。楽天シンフォニーとCYTURの知見が、ハンファオーシャンの船舶設計・建造プロセスに活用され、世界の海を走る船の安全を守る。この構図は、これからのグローバルビジネスにおける異業種連携の模範解答のようにも思えます。「Rakuten Maritime」が今回の商用化を足がかりに、世界の海事DXにおける「事実上の業界標準(デファクトスタンダード)」へと駆け上がっていくのか、その動向は今後も日本の産業界全体にとって非常に興味深いケーススタディとなるはずです。


楽天シンフォニーの船舶サイバーセキュリティソリューション「Rakuten Maritime」を韓国造船大手ハンファオーシャンが導入
– 「Rakuten Maritime」として初の本格的な商用展開、船舶の設計・建造から運用に至る包括的なセキュリティ対策を支援 –

https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0709_01.html

楽天シンフォニーの船舶サイバーセキュリティソリューション「Rakuten Maritime」を韓国造船大手ハンファオーシャンが導入 | 楽天グループ株式会社 楽天シンフォニー株式会社(以下「楽天シンフォニー」)は、提供する船舶サイバーセキュリティソリューション「Rakuten Maritime」(以下「本ソリューション」)を、韓国の造船大手Hanwha Ocean(以下「ハンファオーシャン」)が導入することについて、同社と契約を締結しました。本契約により、設計・建造から運用に至るまで包括的に同社船舶のセキュリテ…corp.rakuten.co.jp