改めて考える、楽天モバイルの自律型ネットワーク レベル4認定の意味

2026年2月、楽天モバイルと楽天シンフォニーが共同開発した自律型RAN省電力化ソリューションが、国際的な通信業界団体TM Forumの定める「自律型ネットワーク レベル4」の認定を取得しました。商用Open RAN環境におけるTM Forumの「RAN Energy Efficiency Optimization」シナリオでは、世界初の認定です。楽天モバイルによると、AIを活用して通信トラフィックに応じた電力制御を行うことで、従来の同ネットワークと比較してRANの消費電力を約20%削減できるといいます。今回は、この成果が通信ネットワークの運用にどのような変化をもたらすのか、改めて考えてみます。

自律型ネットワークとは何か
TM Forumは、自律型ネットワークの成熟度をレベル0からレベル5までの6段階で定義しています。レベル0からレベル1は、人による手動運用を中心としながら、一部の作業を単純なスクリプトなどで支援する段階です。レベル2では複数の作業をワークフローとしてつなげられますが、例外的な処理には人の対応が必要です。レベル3になると、システムがネットワークの状態を把握・分析し、既知の問題に対する対応を提案または実行できるようになります。ただし、想定外の事態や重要な判断では、依然として人の承認や介入が求められます。今回認定されたレベル4は、AIや機械学習を活用し、インテント、つまり人や事業システムから示された目的に基づいて、予測、判断、実行をクローズドループで行う段階です。事前に人が定めた固定的なルールだけに従うのではなく、ネットワークの状態を分析しながら、状況に応じて自律的に適応・最適化する点に特徴があります。その先のレベル5は、複数のサービスやネットワーク領域、ライフサイクル全体を横断し、システムがエンドツーエンドで自律的に判断する完全自律型ネットワークとして位置づけられています。

従来の自動化とレベル4の違い
通信事業者では、すでに多くの定型業務がソフトウェアによって自動化されています。しかし、その多くは、人が事前に設定した条件と処理を実行するルールベースの自動化です。たとえば、「毎日午前2時になったら設備の出力を下げる」「特定の数値を超えたらアラートを出す」といった処理は、あらかじめ想定したシナリオの範囲内では有効です。一方、想定していなかった通信需要の変化や複数の異常が同時に発生した場合には、ルールだけで適切に対応できない可能性があります。レベル4では、AIがネットワークの現在の状態と将来の変化を予測し、目的や制約に応じて対応を判断します。判断後の制御結果を再び監視し、必要に応じて修正するクローズドループが形成されるため、人が一つひとつの処理を承認しなくても運用を継続できます。TM Forumでメンバー・プロダクト部門の執行副社長を務めるアンディ・テイラー氏は、従来の自動化と真の自律性を区別する重要性を強調しています。レベル4への移行は新しいソフトウェアを導入するだけの話ではなく、通信エンジニアの役割そのものを変える取り組みであり、ネットワークを直接調整する能力に加えて、AIを調整・最適化する能力が必要になると説明しています。

AIが基地局設備の電力を動的に制御
楽天モバイルが独自開発した「Rakuten Intelligent Controller」は、AIと機械学習モデルを活用し、通信トラフィックの状態に応じてネットワークの各部分へ必要な電力を動的に割り当てます。夜間など利用が少ない時間帯や、利用者のいないエリアでは、基地局設備の一部の消費電力を下げます。一方、通信需要が増えた場合には、必要な電力を供給してネットワーク品質を維持します。楽天モバイルのネットワーク運用統括部でディレクターを務めるシェーレシュ・グプタ氏によると、この制御は、あらかじめ定められたルールだけに従って動くものではありません。AIがトラフィックの変化やネットワークの状態を分析し、電力を下げても通信品質に影響しない場面を判断します。こうした動的な電力制御により、楽天モバイルは従来の同ネットワークと比較して、RANの消費電力を約20%削減したと説明しています。

自律制御を支える3つの原則
楽天モバイルは、精密なネットワーク運用を支える原則として、「予測学習」「詳細なデータ分析」「リアルタイムのセーフティネット」の3つを挙げています。予測学習では、AI解析プラットフォームが利用者の移動パターンやトラフィック負荷をリアルタイムで監視し、問題が発生する前に変化を予測します。詳細なデータ分析では、ネットワーク内に蓄積されたデータから、通常の監視だけでは見つけにくいパターンや変化の兆候を抽出します。リアルタイムのセーフティネットでは、レイテンシー、スループット、セッションの安定性などを常時監視します。異常を検知した場合には、利用者が通信品質の低下を感じる前に、必要な修正や制御を行います。予測と分析によって省電力化を進める一方、通信品質に異常が生じていないかを継続的に確認することで、電力効率とネットワークパフォーマンスの両立を目指しています。

ネットワークパフォーマンスとサステナビリティの両立
5Gの普及やAIサービスの拡大により、ネットワークを流れるデータ量は今後も増加すると考えられます。さらに、自動車、ロボット、ドローンなどの「物理的なAI」がネットワークへ接続されれば、通信需要と消費電力は一段と増える可能性があります。通信量の増加に合わせて基地局設備を常に最大出力で稼働させれば、通信品質を確保しやすくなる一方、電力コストとCO₂排出量も増加します。逆に、電力削減を優先しすぎれば、通信速度や接続の安定性へ影響するおそれがあります。AIがトラフィックの変化を予測し、必要な場所へ必要な電力を割り当てる仕組みは、この二つを両立するための方法になります。電力コストを抑えるだけでなく、設備の稼働率向上や障害の早期発見、通信品質の安定化につながる可能性があります。楽天モバイルが目指しているのは、利用者から不具合の報告を受けてから対処する運用ではなく、ネットワーク自身が問題を検知・予測し、利用者が影響を感じる前に解決する運用です。

レベル5に向けて対象領域を拡大
今回レベル4として認定されたのは、RAN省電力化という特定の運用シナリオです。楽天モバイルのネットワーク全体がレベル4になったわけではありません。楽天モバイルは今後、RAN省電力化で得られた自律運用の仕組みを、コアからエッジまでネットワークのほかの領域へ広げる方針です。目標としているのは、ネットワークがエンドツーエンドで自律的に最適化、復旧、判断を行う姿です。ただし、RAN、コア、伝送、エッジ、ITシステムなどを個別に自律化するだけでは、完全自律型ネットワークには到達できません。それぞれの領域を連携させ、サービス全体として共通の目的に基づいて判断する仕組みが必要になります。楽天モバイル自身も、レベル5への道のりはまだ発展途上であり、短期間で実現できるものではないと説明しています。

私見と考察:楽天モバイルのレベル4認定が持つ意味

今回の認定を考える上で、最初に確認しておきたいのが評価対象の範囲です。TM Forumは、自律性のレベルを通信事業者のネットワーク全体へ一律に付与するのではなく、RANの障害管理やIPネットワークの品質最適化など、個別のネットワークシナリオを対象に評価すると説明しています。TM ForumのAutonomous Networks Missionでも、AN Levelは特定のネットワークシナリオにおける自律化能力を測るものとされています。MapYourTechの解説でも、一つのネットワーク内に異なる自律化レベルが併存し得ることが指摘されています。RANの省電力化がレベル4であっても、別の障害対応や顧客対応はレベル1やレベル2という状態があり得ます。したがって、今回の成果は「楽天モバイルのネットワーク全体がレベル4になった」という意味ではありません。商用Open RAN環境におけるRAN省電力化という特定のシナリオで、高度な自律運用が認められたものです。これは認定の価値を小さく見せるための注意点ではありません。対象範囲を正確に理解することで、楽天モバイルがすでに実現したことと、今後取り組むべきことを明確に区別できます。

約20%削減よりも「判断の自律化」が重要
約20%という消費電力削減率は、今回の成果を分かりやすく示す数字です。しかし、より長期的な意味を持つのは、電力を下げるか、維持するか、元に戻すかという判断を、AIがネットワークの状態に応じて行う仕組みが商用環境で認められたことだと考えます。指定した時刻に設備の出力を下げるだけなら、従来のルールベースによる自動化でも可能です。今回の特徴は、AIがネットワークの状態を認識・分析し、通信品質への影響を考慮しながら判断し、制御結果を再び監視する点にあります。TM Forumはレベル4を、インテントに基づく予測分析、AIモデリング、継続学習を利用し、サービスや顧客体験を考慮したクローズドループ管理を行う段階と位置づけています。レベル3では機械が人の判断を支援するのに対し、レベル4ではシステム自身が判断と実行を担う範囲が広がります。約20%という数字は今回得られた成果ですが、それを可能にした自律制御の仕組みは、通信需要やネットワーク構成が変化しても利用できる可能性があります。その意味で今回の認定は、一度限りの省エネ施策ではなく、ネットワークを継続的に改善する運用基盤が商用環境で機能し始めたことに価値があります。

人の役割は「操作」から「統治」へ移る
AIがネットワークを制御するようになっても、通信エンジニアが不要になるわけではありません。変化するのは、人が担当する仕事の内容です。MapYourTechは、自律型ネットワークのレベルを構成する認知的活動として、意図・体験、認識、分析、判断、実行という5つの要素を挙げています。レベルが上がるほど、これらの活動を担う主体が人からシステムへ移ります。レベル4では、選択されたシナリオについて、認識、分析、判断、実行をシステムが担い、人は主に目的の設定や例外処理を受け持つ構造になります。通信エンジニアに求められる専門性も、個々の設備を直接操作する能力だけではなくなります。AIへ与える目的や制約を定め、利用するデータの品質を確認し、モデルの精度を監視し、想定外の動作が起きた場合には安全に制御を止める能力が重要になります。ネットワークを操作する人から、ネットワークを動かすAIを統治する人へ。この役割の変化は、今回の認定が示す重要な意味の一つといえるでしょう。

Open RANを採用するだけではレベル4にならない
今回の認定は、Open RANとクラウドネイティブ技術がAIによる自律運用を支える可能性を示した事例としても注目できます。ネットワークをソフトウェアで柔軟に制御し、各システムから得られるデータを連携できることは、AIが状況を把握して判断するための重要な条件です。ただし、今回の成果から「Open RANを採用すればレベル4を実現できる」と結論づけることはできません。MapYourTechは、レベル4以上への移行を妨げる要因として、データ品質、既存設備との統合、複数ベンダー間の連携、AIへの信頼、組織や人材の変革などを挙げています。AIによる判断は、基礎となるデータの品質に左右されます。設備情報やトラフィックデータが不正確だったり、ベンダーごとにデータ形式が異なったりすれば、AIモデルが高度でも制御の精度は低下します。今回の認定は、Open RANそのものの優位性を全面的に証明したものというより、楽天モバイルがOpen RAN、クラウドネイティブ、データ基盤、AIモデル、異常検知、運用プロセスを組み合わせ、一つの商用シナリオで自律制御を成立させた事例と捉えるのが適切でしょう。

レベル4からレベル5には大きな隔たりがある
レベル4とレベル5は、数字の上では一段しか違いません。しかし、実現に必要な仕組みには大きな隔たりがあります。Ciscoのホワイトペーパーは、レベル5を、すべてのネットワーク領域を対象とした包括的なエンドツーエンドの自動化と、アプリケーションを含む事業プロセスとの切れ目のない統合を実現する段階と説明しています。RAN、コア、伝送、エッジ、ITシステムを個別に自律化するだけでは十分ではありません。それぞれの領域が共通の目的を理解し、互いの状態を共有しながら、サービス全体として判断する仕組みが必要です。たとえば、消費電力を抑える制御と通信品質を最大化する制御が同時に動けば、両者の判断が衝突する可能性があります。複数のクローズドループが異なる目標を持つ場合、どちらを優先するかを調整する上位の仕組みも必要になります。そのため、レベル4のシナリオを増やしていけば自然にレベル5へ到達できるとは限りません。個別の自律化から、複数領域を横断した全体最適へ移行するところに、質的に異なる難しさがあります。

AIの誤判断を止める仕組みも必要になる
ネットワークの自律性が高まれば、障害への対応速度や運用効率の向上が期待できます。その一方で、AIによる誤った判断が、人の承認を経ずにネットワークへ反映される危険性も高まります。MapYourTechは、古いデータによってAIモデルの精度が低下するモデルドリフトや、不適切な設定を生成するリスクなどを、レベル4で生じる問題として指摘しています。レベル3では人が最終判断を承認する仕組みが残りますが、レベル4では、その確認が省略される場面が増えます。ここで重要になるのが、リアルタイムの異常検知です。ただし、異常を発見するだけでは十分ではありません。AIによる制御を停止する仕組み、変更前の設定へ戻すロールバック、影響範囲を限定する制御、人への速やかな引き継ぎ、復旧後の原因検証まで含めたガバナンスが必要です。AIへ運用を委ねる範囲が広がるほど、AIを止める仕組みも同時に強化しなければなりません。自律性と安全性を別々に考えるのではなく、一体として設計する必要があります。

自律化レベルより事業上の成果が問われる
TM Forumは、自律型ネットワークの導入によって、コスト削減、ネットワークの耐障害性向上、顧客体験の改善、サービス提供の迅速化、サステナビリティへの貢献などが期待できるとしています。一方、レベルの数字を上げること自体が目的になれば、必要以上に複雑で高コストな仕組みを導入することにもなりかねません。MapYourTechも、すべての運用を一律にレベル4へ引き上げるのではなく、投資効果の高いシナリオから自律化を進める考え方を示しています。楽天モバイルがRAN省電力化を対象にしたことには合理性があります。基地局設備は通信ネットワークの消費電力と深く関係し、トラフィックの変動に応じた制御によって効果を数値として確認しやすいからです。今後は、認定されたシナリオの数だけでなく、電力コスト、通信品質、障害復旧時間、顧客体験などが実際にどれだけ改善したかを見る必要があります。自律化レベルの高さは手段であり、最終的な評価基準は、利用者と通信事業者へどのような価値をもたらしたかに置くべきでしょう。

レベル4は完全自律化に向けた出発点
今回の認定が示したのは、楽天モバイルのネットワーク全体が完全に自律化したということではありません。商用Open RAN環境におけるRAN省電力化という特定のシナリオで、AIによる予測、判断、実行を含むクローズドループ運用がレベル4として認められたという成果です。その価値は、約20%の消費電力削減だけにあるのではありません。ネットワーク運用の一部をAIが主体的に担う仕組みが、商用環境で具体的な成果につながった点にあります。一方、レベル5を目指すには、RANで得られた自律性をコア、伝送、エッジ、ITシステムへ広げ、さらにサービスや事業プロセスまで切れ目なく連携させなければなりません。同時に、データ品質、複数ベンダー間の統合、AIの誤判断、制御同士の衝突、異常時の停止や復旧といった課題にも対応する必要があります。今回の認定は、完全自律型ネットワークの完成ではなく、シナリオ単位で実用的な自律性を積み上げていくための一つの到達点です。今後の焦点は、認定レベルそのものよりも、楽天モバイルがこの仕組みをどの領域へ広げ、通信品質、運用効率、電力削減、安全性をどこまで両立できるかに移っていくでしょう。



楽天モバイルと楽天シンフォニー、商用Open RANネットワークにおけるRAN省電力化でTM Forumより世界初の「自律型ネットワーク レベル4」認定を取得
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2026/0219_01/

楽天モバイルと楽天シンフォニー、商用Open RANネットワークにおけるRAN省電力化でTM Forumより世界初の「自律型ネットワーク レベル4」認定を取得 | プレスリリース | 楽天モバイル株式会社 楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)と楽天シンフォニー株式会社(以下「楽天シンフォニー」)は、共同開発した楽天モバイルの自律型RAN(無線アクセスネットワーク)省電力化ソリューション(以下「RAN省電力化」)が、通信事業者やテクノロジー企業などが参画する国際的な業界団体であるTM Forum(以下「TMF」)より、「自律型ネットワーク レベル4」と…リンク

mapyourtech.com「Challenges in Achieving TM Forum Level 4 and Above Autonomous Networks」
https://mapyourtech.com/challenges-in-achieving-tm-forum-level-4-and-above-autonomous-networks/

Challenges in Achieving TM Forum Level 4 and Above Autonomous Networks — MapYourTechChallenges in Reaching Level 4 Autonomous Networks Skip to main content MapYourTech | MapYourBasics Series Challenges in Achieving TM Forum Level 4 and Above Autonomous Networks…リンク

Cisco「Autonomous Networks for Service Providers White Paper」
https://www.cisco.com/c/en/us/solutions/collateral/networking/auton-ntwk-sp-wp.html

Autonomous Networks for Service Providers White PaperDescribes the service provider’s journey toward an autonomous network in the context of the TM Forum’s five-level maturity model and the long tail of network automation. Advancing …リンク

TM Forum「Autonomous Networks Mission」
https://www.tmforum.org/missions/autonomous-networks

商用Open RAN省電力化で世界初のTM Forum自律型ネットワーク「レベル4」を取得 – AIでネットワーク自身が運用を最適化する時代へ
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/blog/2026/0710_01/

商用Open RAN省電力化で世界初のTM Forum自律型ネットワーク「レベル4」を取得 – AIでネットワーク自身が運用を最適化する時代へ | 楽天モバイル株式会社2026年2月、楽天モバイルの自律型RAN省電力化ソリューション(以下「RAN省電力化」)が、国際的な通信業界団体TM Forumが定める自律型ネットワークの評価基準において「レベル4」の認定を取得しました(注1)。商用Open RANネットワークにおいては世界初(注2)の認定取得となります。楽天モバイルは、AIの活用により通信トラフィックの状況に応じて消費…リンク