
国内7社が主導!オール光ネットワーク(APN)が国際標準化された意味
KDDI、NTT、富士通グループの1FINITY、NEC、楽天モバイル、沖電気工業、住友電気工業の国内通信7社が主導してきた「低遅延・低消費電力なネットワークの設計指針」が、2026年8月13日、国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T)において国際標準として承認されました。正式にはITU-T勧告Y.3335「Framework of low-latency and energy-efficient networks」として発行されています。
オール光ネットワーク(APN)とは何か
この設計指針が支えようとしているのは、総務省が掲げる「Beyond 5G推進戦略2.0」の中核技術のひとつである、オール光ネットワーク(All-Photonics Network、APN)です。APNは電気処理を介さず光のまま信号を伝送することで、大容量・低遅延・低消費電力な通信を実現する技術で、遠隔地のセンサーやロボットが生成するデータをリアルタイムに処理できるようになることから、いわゆる「フィジカルAI」をはじめとする次世代サービスの基盤として世界的に注目されています。
これまでの取り組みと残された課題
すでにAPNの実現に向けては、IOWN Global Forumがアーキテクチャや機能要件を定める共通技術文書の策定を進めており、各通信事業者のAPN同士を接続する「光ネットワークフェデレーション技術」についても、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究というかたちで、KDDI・NTT・1FINITY・NEC・楽天モバイルの5社が2024年から研究開発に取り組んできました。しかし、こうした枠組みに参加していない事業者や国・地域も含めて世界規模での相互接続性・普及を実現するには、特定の団体や実装方式に依存しない、より広範な国際的合意に基づく設計指針が必要だという課題が残っていました。
Y.3335が定めるもの
今回のY.3335は、まさにこの課題に応えるものです。異なる事業者間でも低遅延・低消費電力な通信経路を構築するためのネットワーク構成や技術要件を定めており、これまでAPNや光ネットワークフェデレーション技術の研究で蓄積されてきた知見を、汎用的な設計指針として体系化した内容になっています。この標準化により、複数の通信事業者にまたがるAPNサービスの構築がしやすくなり、広域の拠点間でも高速かつ省電力な通信サービスの利用が期待できるとしています。
今後の予定
7社は今後もこれまで培ってきたネットワーク技術や標準化の知見を活かし、国内外での標準化活動を継続する方針です。ITU-Tでは2028年10月を目標に、低遅延・低消費電力ネットワークのより詳細な機能アーキテクチャに関する勧告の策定が進められる予定です。

私見と考察:標準を握る国内7社の思惑
まず率直に、7社という顔ぶれの組み方が興味深いです。NTTとKDDIという伝統的な二強に加えて、1FINITY(富士通)、NEC、OKI、住友電気工業といった通信機器・ケーブルメーカー勢、そこに後発の楽天モバイルが並んでいる。競合関係にあるはずの事業者同士が「規格の土台」の部分では手を組むというのは、通信業界では珍しい話ではありませんが、APNのような次世代基盤技術の場合、この協調にはもう一段深い意味があるように思います。つまり、個社が独自方式で囲い込みを図るよりも、まず世界共通のフレームワークを国際標準として押さえてしまうほうが、日本発の技術がグローバルなデファクトになる可能性が高まるという計算です。IOWNやAPNは、これまでどちらかというと国内主導・NTT主導の色が強い技術領域と見られてきましたが、今回のように複数事業者連名でITU-Tに乗せてきたことで、「特定企業の独自規格」という見え方を薄める狙いも透けて見えます。
楽天モバイルの立ち位置も気になるところです。後発のモバイルキャリアとして、自前のネットワーク基盤をクラウドネイティブな設計で構築してきた楽天モバイルが、APNのような光ネットワークの標準化議論に名を連ねているのは、単なる「参加している」以上の意味を持ちうると見ています。楽天シンフォニーが海外の通信事業者にネットワーク基盤を提供するビジネスを展開していることを踏まえると、APNや光ネットワークフェデレーション技術が国際標準として整備されることは、楽天グループが海外市場でネットワーク技術を売り込む際の「共通言語」を手に入れることにもつながります。標準化への関与自体が、将来のビジネス機会の布石になっている可能性は十分にあるでしょう。
一方で、少し冷静に見ておきたい点もあります。ひとつは、標準化と実装・普及の間には依然として大きな距離があるということです。Y.3335はあくまで「設計指針(フレームワーク)」であり、詳細な機能アーキテクチャの勧告策定は2028年10月を目標としている段階です。Beyond 5G/6G領域はこれまでも国際的な議論のスピードと実際の商用展開のスピードにギャップが生じやすい分野で、2028年という目標が計画通りに進むかどうかは、今後の各国・各事業者の足並み次第という面が大きいと感じます。
もうひとつは、国際標準化そのものが持つ地政学的な側面です。通信インフラの標準化は、5G/6Gの時代を通じてすでに各国・各陣営の主導権争いの舞台になってきました。日本発の技術がITU-Tで正式な国際勧告として承認されたことは技術外交上も意味のある成果ですが、実際に世界規模で普及するかどうかは、標準を「持っている」ことよりも、その標準に沿った機器やサービスをどれだけ安価かつ大量に供給できるかという、地に足のついた産業競争力の話に帰着します。この点で、通信事業者だけでなく機器ベンダーである1FINITYやNEC、OKI、住友電気工業が名を連ねていることは、標準策定から実装・量産までを見据えた布陣として理にかなっていると言えるでしょう。
今後の展望:これは私たちの生活にどうつながるのか
少し専門的な話が続いたので、最後にかみ砕いておきます。今回決まったのは「世界中の通信会社が、同じルールに沿って高速・省エネな光ネットワークを作れるようにする設計図」のようなものです。今すぐスマートフォンの通信速度が変わるといった話ではありません。
むしろ影響が出てくるのは、もう少し先の未来、AIやロボットが社会のあちこちで当たり前に動くようになった時期だと考えられます。たとえば工場のロボットや自動運転車、遠隔医療の機器などは、離れた場所からのデータをほぼ遅れなくやり取りできる通信網が必要です。今回の標準は、そうした通信網を「一社だけの独自技術」ではなく、世界中の複数の通信会社をまたいでも同じように使えるようにするための土台になります。
もうひとつのポイントは省エネです。AIの計算量が増えるほど、それを支える通信網の消費電力も無視できない問題になっていきます。光でそのまま信号をやり取りするAPNは、電気に変換する回数を減らせる分、消費電力を抑えられるとされており、今回の標準化はこうした「AI時代にふさわしい、地球に優しい通信インフラ」を世界規模で広げていくための一歩と位置づけられます。
ただし、これはあくまで設計図が国際的に認められた段階の話です。実際にこの規格に沿った機器やサービスが街中に行き渡るまでには、まだ数年単位の時間がかかると見ておくのが現実的でしょう。2028年に予定されている、より詳細な技術仕様の策定が、その次の大きな節目になりそうです。
AI時代の低遅延・低消費電力なネットワークの設計指針がITU-Tで国際標準化
~国内7社が連携し、オール光ネットワークのグローバルな普及を推進~
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2026/0821_01
