楽天モバイル、海から通信復旧へ。商船高専3校との協定を読み解く

楽天モバイルは公共インフラを担う通信事業者として、平時の備えと災害発生時の通信確保に取り組んでいます。2026年には、瀬戸内海沿岸の商船高等専門学校3校と、練習船を災害支援に活用するための連携協定を相次いで締結しました。基地局や道路が被害を受けた場合でも、海上から復旧活動を進められる選択肢を増やす取り組みです。楽天モバイルが整備してきた災害対策と3件の協定を整理しながら、海上から通信を復旧する仕組みの狙いと今後の課題を考えます。

指定公共機関としての災害対策
楽天モバイルは、災害対策基本法に基づく指定公共機関として防災業務計画を策定しています。計画には平時の準備に加え、災害発生時の体制や対応手順、関係機関との連携などが定められています。また、武力攻撃事態などにおける国民保護措置を円滑に実施するため、国民保護業務計画も整備しています。こうした法定計画を土台として、ネットワークの強靭化、社内体制の整備、防災訓練、外部機関との協定締結を進めています。

分散化と冗長化でネットワークを守る
通信システムには仮想化技術を積極的に取り入れ、通信量の増加や機器障害に対して迅速かつ柔軟に対応できる体制を目指しています。通信設備や建物を含む付帯設備には、耐震、耐火、耐水、耐雪などを考慮した防災設計が採用されています。設備を複数の拠点に分散させるとともに、拠点間を結ぶ通信網の冗長性も高めています。一部の設備や回線に障害が発生しても、ネットワーク全体への影響を抑えるための取り組みです。

人と組織の備え
設備だけでなく、災害対応にあたる人と組織の準備も進められています。早期復旧に向けたマニュアルの整備、自治体などへ派遣されるリエゾン要員への教育、社員向けの防災教育、復旧用資機材や飲料水、食料などの備蓄が行われています。夜間や休日に災害発生のおそれがある場合には、あらかじめ定められた対策要員が気象や地象などの情報を確認し、緊急事態の発令に備えます。通信障害や情報セキュリティインシデント、台風、地震などを想定した社内訓練に加え、自治体などと合同で行う防災実動訓練も実施されています。

被災地へ向かう「動く通信インフラ」
災害によって基地局が損傷したり停電が発生したりした場合には、移動基地局車、可搬型基地局、移動電源車、可搬型発電機などを被災地域へ投入します。固定された基地局が使えなくなっても、必要な場所に通信設備や電源を運び、携帯電話やメールなどを利用できる環境の確保を目指します。通信が集中してネットワーク設備の処理能力を超える「輻輳」が発生した場合には、一時的な利用規制によって一定の通信サービスを維持します。自治体などからの要請に応じ、避難場所や災害復旧関係機関へ衛星携帯、スマートフォン、Wi-Fiルーター、マルチチャージャーなどを貸し出す支援も行われます。楽天モバイルは令和6年能登半島地震でも応急復旧活動を実施しました。今回の商船高専との協定によって、こうした「動く通信インフラ」に、海上から接近する船上基地局という新たな選択肢が加わります。

商船高専3校と相次いで協定
楽天モバイルは2026年3月25日、弓削商船高等専門学校と練習船「弓削丸」の災害支援利用を推進する協定を締結しました。続いて6月1日には広島商船高等専門学校と「広島丸」について、8月24日には大島商船高等専門学校と「大島丸」について同様の協定を結んでいます。3件に共通するのは、練習船を通信復旧と被災地支援に活用する考え方です。船上に基地局を設置して被災地の通信エリアを確保するほか、復旧に必要な資機材の海上輸送、作業要員の船内宿泊などが想定されています。平時から連絡体制を整え、机上訓練や実動訓練を重ねることも協定に盛り込まれました。協定の内容には一部違いがあります。弓削丸では年1回以上の机上・実動訓練を行うことが明記されています。大島丸でも定期的な共同訓練を実施し、発災時の即応体制を維持・向上させます。広島丸では、連絡窓口の確認と維持、定期的な意見交換、防災訓練の視察や災害を想定した訓練への相互参加など、平時の連携方法が具体的に示されています。

災害支援を担う弓削丸と大島丸
2024年3月に竣工した弓削丸は、次世代の海技士を育成する練習船であると同時に、有事には災害支援船として活用できる機能を備えるよう設計されています。2023年3月に竣工した大島丸は、学生の海技士教育や海洋実習に使用される練習船で、環境に配慮した静粛性の高い電気推進システムを備えています。今回の協定では、船上に可搬型基地局などの通信設備を搭載し、被災地の通信エリアを迅速に確保することが想定されています。

私見と考察:通信の海上復旧を協定から実働へ

瀬戸内海に広がる海上復旧ルート
楽天モバイルが協定を結んだ弓削、広島、大島の3校は、いずれも瀬戸内海沿岸に位置しています。弓削丸と大島丸の協定では、災害によって陸路が遮断された場合に、海上から被災地へ接近する手段を確立することが掲げられました。広島丸についても、船上基地局の設置や復旧機材の海上輸送が想定されています。現時点で3校を一体的に運用する計画が示されているわけではありませんが、瀬戸内海沿岸の複数地点に海上支援の拠点が広がる意味は小さくありません。道路の寸断によって復旧車両が被災地へ入れない場合でも、海上から通信設備や人員を運べる可能性が生まれます。沿岸部や島しょ部を多く抱える地域にとって、陸路とは異なる移動経路を確保しておくことは、災害対応の選択肢を増やすことにつながります。

船上基地局の価値と制約
船上基地局の強みは、通信設備、電源、輸送手段、宿泊場所を一つの船にまとめられる点にあります。被災地の沖合や港に船を配置し、可搬型基地局を運用できれば、陸上の基地局が復旧するまでの応急的な通信手段として活用できます。一方、船舶による支援は天候や海況、航行条件、港湾の被災状況などに左右されます。船上基地局と基幹ネットワークをどのように接続するのか、どの程度の通信エリアを確保できるのか、通信設備の積載や設置にどれだけの時間がかかるのかといった技術面の検証も欠かせません。港が使用できない場合の代替手段や、出動判断から出港までの手順を含め、共同訓練を通じて具体的な運用方法を磨いていくことが重要になります。

協定の数より訓練と運用実績
楽天モバイルは商船高専だけでなく、防衛省、海上保安庁、海上自衛隊、高速道路会社、自治体、総務省の地方総合通信局など、幅広い機関と災害時の協力協定を結んでいます。平時から連絡経路をつくり、支援を受ける手順を整理しておくことは、災害発生時の初動を早めるうえで重要です。ただし、協定は締結しただけで完成するものではありません。その価値を決めるのは、共同訓練をどれだけ実践的に行い、そこで見つかった課題を次の訓練に反映できるかです。船上基地局の展開時間、通信可能な範囲、必要な人員や資機材、関係機関との役割分担など、運用実績が積み重なることで海上復旧の実効性も高まっていきます。

教育と災害対応をどう両立するか
練習船は本来、海技士を養成するための教育施設です。その船を災害支援にも活用することは、既存の公共資産を地域防災に生かすという点で合理的な取り組みです。一方、学生が乗船している時期に災害が発生した場合の安全確保、教育実習との日程調整、船員や通信事業者側の要員確保など、実際の出動にはさまざまな調整が必要になります。教育活動を損なわず、必要なときには迅速に災害対応へ移れる体制をどのようにつくるかが、この連携を継続するうえで重要な課題になります。

海の防災力を実働につなげるために
今回の3件の協定から見えてくるのは、楽天モバイルが通信復旧の経路を陸上から海上へ広げようとしていることです。移動基地局車や可搬型基地局に練習船が加わることで、道路が寸断された沿岸部や島しょ部へ到達するための選択肢が増えます。これから問われるのは協定の数ではなく、実際の訓練や災害時に、通信設備をどれだけ迅速に展開し、安定した通信エリアを確保できるかです。商船高専が持つ船舶運用の知見と、楽天モバイルが持つ通信復旧の技術を組み合わせた「海の防災力」が、実践を通じてどこまで高められるのか注目したいと思います。



楽天モバイルの災害への取り組み
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/sustainability/bcp/

災害への取り組み | 楽天モバイル株式会社楽天モバイル株式会社の災害対策ページです。体制整備や、防災訓練などについて掲載します。リンク

楽天モバイル、大島商船高等専門学校と練習船「大島丸」の災害支援利用推進に関する連携協定を締結
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/media/2026/0825_01/

楽天モバイル、大島商船高等専門学校と練習船「大島丸」の災害支援利用推進に関する連携協定を締結 | お知らせ | 楽天モバイル株式会社楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)は、独立行政法人国立高等専門学校機構 大島商船高等専門学校(以下「大島商船高専」)と、災害発生時における通信確保および復旧支援を目的とした連携協定を締結しました。 リンク

楽天モバイル、広島商船高等専門学校と練習船「広島丸」の災害支援利用推進に関する連携協定を締結
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/media/2026/0601_01/

楽天モバイル、広島商船高等専門学校と練習船「広島丸」の災害支援利用推進に関する連携協定を締結 | お知らせ | 楽天モバイル株式会社楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)は、独立行政法人国立高等専門学校機構 広島商船高等専門学校(以下「広島商船高専」)と、災害発生時における通信確保および復旧支援を目的とした連携協定を締結しました。リンク

楽天モバイル、弓削商船高等専門学校と練習船「弓削丸」の災害支援利用推進に関する連携協定を締結
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/media/2026/0326_01/

楽天モバイル、弓削商船高等専門学校と練習船「弓削丸」の災害支援利用推進に関する連携協定を締結 | お知らせ | 楽天モバイル株式会社楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)は、独立行政法人国立高等専門学校機構 弓削商船高等専門学校(以下「弓削商船高専」)と、それぞれが保有する技術・ノウハウ・サービスを活用することで、練習船「弓削丸」の災害支援利用を推進し、新たな価値を提供するため、「練習船『弓削丸』の災害支援利用推進に関する連携協定」を2026年3月25日(水)に締結しました。リンク