
楽天モバイルとKDDIが共同研究へ。基地局とデータセンターの消費電力を40%削減目指す
ライバル同士が手を組む理由、そこには日本の通信インフラが抱える切実な課題があります。ふだん私たちがスマートフォンを使う時、その裏側でどれだけの電力が消費されているか、意識することはほとんどないでしょう。動画を見て、音楽を聴いて、地図を確認して。そのたびに、全国に張り巡らされた無線基地局と、膨大なデータを処理するデータセンターが休みなく稼働しています。快適な通信は、莫大なエネルギーの上に成り立っているのです。
その課題に正面から向き合う、注目すべき取り組みが2026年5月13日に発表されました。楽天モバイルとKDDIが共同で、国立研究開発法人NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発事業に採択されたのです。テーマは「仮想化基地局と計算基盤の同時最適化技術の開発」。目標は、データセンターおよびRAN(無線アクセスネットワーク)の消費電力を約40%削減すること。そして期限は2030年度です。
そもそもNEDOとは、どんな機関なのか
今回の採択元であるNEDOは、経済産業省が所管する国立研究開発法人です。エネルギーや産業技術の分野で、民間だけでは取り組みにくい大規模な研究開発を支援することを役割としています。今回の採択が位置づけられている「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」は、経済産業省とNEDOが連携して推進する国家プロジェクトで、日本のポスト5G技術の開発・製造基盤を強化することを目的としています。
ポスト5Gとは何か、と思われる方もいるかもしれません。現在普及しつつある5Gよりもさらに進化した通信規格のことで、超低遅延・多数同時接続といった性能が大幅に強化されています。工場の自動化、自動運転、スマートシティ。そうした次世代の産業用途を支える基盤技術として、日本が国際競争力を持てるかどうかを左右する重要な領域です。今回の楽天モバイルとKDDIの共同研究は、その中でも「超分散コンピューティング」という分野に位置づけられており、国家戦略の一翼を担う取り組みといえます。なお事業期間は研究開発開始から原則5年(60カ月)以内とされており、2030年度という目標はこのスケジュールと一致しています。
ライバルが組む、という驚き
楽天モバイルとKDDI。この2社が協力するというだけでも、業界的には目を引くニュースです。両社はプランや料金でしのぎを削る競合関係にあり、普段であれば各社が独自に技術開発を進めることがほとんどです。
ではなぜ、今回は共同で臨むのでしょうか。答えは、それぞれが持つ強みが見事に補い合う関係にあるからです。
KDDIは長年にわたって培ってきたモバイル通信技術の研究開発実績に加え、国内外で大規模データセンターを運用する豊富な知見を持っています。一方の楽天モバイルは、仮想化Open RANをベースにした大規模な商用ネットワークをゼロから構築し、クラウドRAN向けのソフトウェアやSMO(サービス管理・オーケストレーション)を自社開発・運用してきた稀有な経験を持ちます。
データセンターの運用ノウハウと、ネットワーク仮想化の実装経験。この2つが合わさることで、どちらか1社では届かないところまで技術を押し上げることができます。ライバルが手を組む背景には、そんな現実的な計算があるのです。

40%削減は、どうやって実現するのか
目標として掲げられた消費電力40%削減は、1つの魔法の技術で達成されるものではありません。今回の研究開発では、5つの柱が設定されています。少し技術的な話になりますが、それぞれの意味するところを平たく説明してみましょう。
まず1つ目は、仮想化ネットワークの最適化です。データセンター内のGPUクラスタ間のネットワークを光ベースに切り替えることで、電気処理に伴う電力消費そのものを減らします。光は電気よりもエネルギー効率が高く、大量のデータをやり取りするデータセンターにとって、これは根本的なアプローチといえます。
2つ目は、AIによるRAN最適化です。基地局の電波送信を、リアルタイムのトラフィック変動に合わせてAIが動的に調整します。深夜に利用者が少ないのに昼間と同じ出力で電波を出し続ける、といった無駄をなくすイメージです。さらにIoTデバイスの通信データを端末側のエッジAIで処理・圧縮することで、ネットワーク全体の負荷を下げることも目指しています。
3つ目は、冷却設備の省エネ・小型化です。データセンターの消費電力のかなりの割合を冷却が占めているのは、業界ではよく知られた話です。IT機器の負荷に応じて冷却を細かく制御するシステムを構築することで、必要以上に冷やし続けるという無駄を排除します。
4つ目は、セキュリティ強化です。Open RANのような開かれたネットワーク環境では、セキュリティの確保が不可欠です。同時に、セキュリティ処理に伴うデータ量や計算量を削減することで、消費電力の低減にもつなげます。省エネとセキュリティを両立させるという視点が、なかなか面白いところです。
5つ目は、超高性能GPU対応の冷却技術です。AIの急速な普及に伴い、データセンターに搭載されるGPUはどんどん高性能・高発熱になっています。TDP3000W級。つまり一枚のGPUが3000ワットもの熱を発するような極限環境にも対応できる水冷・液浸冷却技術を確立する、という野心的な取り組みです。
ポスト5Gという時代への備え
今回の採択はGX(グリーントランスフォーメーション)の旗印のもとに位置づけられています。GXとは、化石燃料への依存を減らしながら経済成長を実現しようという社会変革の方向性のことです。通信インフラの省エネ化は、まさにその中核的な課題の一つといえます。
AIの爆発的な普及は、通信インフラへの需要を急速に押し上げています。大規模言語モデルの学習や推論、自動運転、スマートファクトリー。こうした用途が本格化するほど、データセンターと基地局にかかる負荷は増大し続けます。そこに省エネ化の技術革新が伴わなければ、電力消費の問題は社会インフラ全体の課題になりかねません。
楽天モバイルとKDDIが目指す消費電力40%削減は、単なる企業の環境対応の話ではありません。国家プロジェクトの一翼を担いながら、日本の通信インフラを持続可能なものにするための、現実的かつ野心的な挑戦といえます。
2030年度という期限まで、あと数年。ライバル2社が持ち寄った技術と知見が、どんな形で結実するのか。その成果は、私たちが毎日何気なく使うスマートフォンの裏側を、静かに、しかし確実に変えていくはずです。
楽天モバイルとKDDI、NEDOの研究開発事業「仮想化基地局と計算基盤の同時最適化技術の開発」に採択
データセンターおよびRAN消費電力の約40%削減を目指す
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2026/0515_01/
