
映画評「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年/アメリカ)
2009年/アメリカ/100分 監督・製作:トッド・フィリップス 脚本:ジョン・ルーカス/スコット・ムーア 出演:ブラッドリー・クーパー/エド・ヘルムズ/ザック・ガリフィアナキス/ヘザー・グラハム
奥行きのある演技をそれぞれが見せていた。会話のリズムや、人間関係の背後をしっかりとつかんだ演技が、自然でいい。本当に存在するかのような自然さだ。その結果、観客もいっしょになって笑うことができる。シチュエーションコメディではないし、シチュエーションコメディの映画版でもない。それだけで、最近のアメリカ映画とは感触が違う。スラップスティックな要素はあるが、不自然な要素はない。非日常的な展開はあるのだが、それは「酔ってラリッた結果」として提示されているため、不自然には感じられないのだ。ジムキャリーのようなスケッチコメディでもない。会話をバンバン続けないので私のような英語に不慣れな人間でも聞き取りやすかった。あの一本の歯だけで、真面目っぽい登場人物を笑いの側に持っていく手法も巧みだ。巧妙に、登場人物に試練というか、限界(枷)を与えている。彼女にラスベガスにいることを知られたくない男のカセ。結婚式が近づいている日程的なカセ。お金がないカセ。記憶がよみがえらないカセ。高級車を壊してはいけないカセ。バチュラーパーティを題材に取っておきながら、馬鹿騒ぎの部分に時間を費やさなかった点は、非常にシナリオとしては、個性的。一般人が、いったん全ての社会的活動から背を向けた一瞬に発するパワー。バチュラーパーティの本質をきちんと表現できている。低俗な笑いを一手に引き受ける花嫁の弟役のザック・ガリフィアナキス、かなり独特なルックスだ。匂ってくるような不気味な存在感を見せている。あの周囲から浮いているかのような距離感は、彼の中に秘められた独自のものだろう。
