三木谷浩史CEO、新入社員に語る「現場力」の本質

楽天創業の原点
楽天グループの三木谷浩史会長兼CEOが、2026年4月の新卒入社式で新入社員に向けて直接メッセージを送りました。三木谷CEOはスピーチの冒頭、自身のキャリアの原点を振り返りました。1988年に日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、その後、従来の銀行業界を離れて1997年に楽天を創業した経緯を語りました。創業当時、インターネットで物を買う人はほとんどいませんでした。ネットビジネスは軒並み苦戦しており、インターネットが普及するとは誰もが信じていたものの、そこで実際にお金を稼げるとは誰も思っていなかった時代です。そのような環境の中で楽天が掲げたのは、地域経済を支え、全国で販路に苦しむ中小規模の販売者を後押しするという大きなミッションでした。

ビジネスの厳しさ
三木谷CEOはビジネスの厳しさについても率直に語っています。競争は激烈であり、生き残れる企業はごくわずかだということを、検索市場ではGoogleのみが生き残り、AI分野でも最前線企業が熾烈な競争を繰り広げているという現実を例に挙げながら説明しました。「夢を持つだけでは足りない。複雑化・混乱化する世界の中で、勝ち続ける力が必要です」というのが、三木谷CEOのメッセージです。

現場力こそが、成否を分ける
スピーチの核心となるのが「現場力」という概念です。三木谷CEOは、成功する人とそうでない人を分けるのは「実行する力」だと明言しています。「現場」とは文字通り「実際の場所」、つまり実際の業務が行われる最前線のことです。「力」は能力や力を意味します。この二つが合わさった「現場力」は、問題の根源に立ち向かい、いざというときに確実に物事をやり遂げる能力、言い換えれば真の実行力です。エンジニアであれ、クリエイターであれ、営業担当であれ、常に現場での改善に120%の力を注ぐことが求められます。さらに三木谷CEOは、AIが普及する時代においてこの現場力の重要性はさらに増すと強調しています。AIを活用しながら現場レベルで実行できなければ、それができる人材に取って代わられるリスクがある、という厳しい現実認識も示されました。

信頼を積み上げることが、最初のミッション
キャリアの最初の数年間に最も大切なことは何か。三木谷CEOが挙げたのは「信頼を得ること」です。同僚から、クライアントから、そして社会から信頼を獲得することで、成長のスピードは一気に加速すると述べています。その信頼を得るための最善の手段が、まさに現場力を磨くことだというのが三木谷CEOの考えです。このテーマは三木谷CEO自身にとっても個人的な関心事でもあります。前年入社の新卒社員と「三木谷アントレプレナーシッププログラム」を通じてほぼ毎日コミュニケーションを取りながら、楽天モバイルの店舗改善や若手社員のプロフェッショナルとしての成長を直接支援しているといいます。

新入社員へのメッセージ
今年の入社式で三木谷CEOが新入社員に送ったメッセージはシンプルなものです。「強くあること。改善し続けること。現場の力の中に、自分の強みを見つけること」楽天が今日の規模に成長できた背景には、この現場力への徹底したこだわりがあったのかもしれません。新しく楽天グループの一員となった社員たちが、その精神をどのように体現していくのか、注目されます。​​​​​​​​​

私見と考察:三木谷CEOの「現場力」スピーチが示すもの

「現場力」という言葉の選択に、戦略がある
三木谷CEOがあえて英訳せずに「Genba-ryoku」というローマ字表記をスピーチに持ち込んだことは、単なる語彙上の問題ではないと思います。英語で”boots on the ground”という表現もありますが、これは主に軍事・外交の文脈で使われる言葉であり、ビジネスの現場感覚とは少しズレがあります。“Execution ability”や”operational excellence”も候補になりますが、どちらも管理職や組織レベルの話に聞こえてしまいます。「現場力」が持つニュアンスは、個人が最前線に立ち、汗をかきながら問題を自分の手で解くという感覚は、たしかに英語一語では表しにくい概念です。しかしだからこそ、この言葉をあえてローマ字で世界に押し出す姿勢には、日本的な仕事観の再評価という意図が感じられます。DXやAI推進を声高に叫ぶ時代に、地に足のついた「現場主義」を企業文化の核心に据え直すという、ある種の逆張りのメッセージとも読めるでしょう。

AI時代の「現場力」発言が持つ重み
「AIを活用しながら現場レベルで実行できなければ、それができる人材に取って代わられる」という発言は、新卒入社式の場としてはかなり踏みこんだ言い方です。通常、入社式のスピーチというものは激励と夢の提示が中心です。厳しい現実を語ることはあっても、「あなたたちが置き換えられる可能性がある」という警告をこれほど直接的に伝える経営者はそう多くありません。ここに三木谷CEOの経営哲学の一端が見えます。楽天モバイルが長期にわたって厳しい競争環境にさらされ、グループ全体としてもコスト効率と成長の両立を迫られている現状を考えると、この発言は単なるレトリックではなく、組織が実際に向かおうとしている方向性の表明だと受け取るべきでしょう。AIに「使われる人材」ではなく、AIを「使いこなしながら現場で勝てる人材」を育てたい。そのメッセージは、採用戦略や人材育成の方針とも深く連動しているはずです。

「信頼を得ること」を最初のミッションに据える意味
三木谷CEOが「最初の数年間で最も大切なのは信頼を得ること」と語ったことも、注目に値します。成果を出すことでも、スキルを磨くことでもなく、信頼。この優先順位は一見地味に聞こえますが、組織論としては非常に深い洞察を含んでいます。信頼は、スキルや実績が一定水準に達して初めて積み上げられるものではありません。むしろ、困難な状況でどう動いたか、約束を守ったか、逃げなかったか、そういった行動の積み重ねから生まれるものです。言い換えれば、現場力の発揮こそが信頼の原資になるという構造が、このスピーチには一貫して流れています。若手社員が最初の数年で「信頼残高」を積み上げることができれば、その後のキャリアは加速する。これは多くのビジネスパーソンが実感として知っていることですが、それを入社初日に明言できる経営者は多くありません。

「三木谷アントレプレナーシッププログラム」が示す、トップのコミットメント
前年度の新卒社員と三木谷CEO自身がほぼ毎日コミュニケーションを取っているというエピソードは、このスピーチの中で最も具体的かつ印象的な部分です。時価総額1兆円規模のグループのCEOが、入社1〜2年目の若手社員と日常的にやり取りをしているというのは、組織の規模を考えると異例のことです。これを単なる「いい話」として流すのはもったいないかもしれません。この取り組みには少なくとも2つの意味があると思います。1つは、現場感覚をトップが失わないための装置として機能しているということ。若手社員の目線を通して楽天モバイルの店舗現場を見ることで、三木谷CEOは経営の上層から見えにくい問題を察知できます。もう一つは、CEOが直接見ているという事実が若手社員にとって強烈な動機付けになるということです。組織が大きくなればなるほど、若手社員は「自分の仕事は誰も見ていない」という感覚に陥りやすくなります。そのフラストレーションが離職やエンゲージメント低下を生む。三木谷アントレプレナーシッププログラムは構造的な問題に対する、シンプルでありつつも力強い回答かもしれません。

「現場力」は、楽天にとって今なぜ重要なのか
最後に、このスピーチの背景にある文脈について考えてみます。楽天グループはここ数年、楽天モバイルの設備投資負担による赤字問題、グループ全体の財務体質の改善、国際競争の激化という三重苦に直面してきました。それらを乗り越えるための武器として、三木谷CEOが選んだのが「現場力」という概念です。テクノロジーへの投資も、戦略の精緻化も重要です。しかし最終的には、現場で顧客と向き合い、問題を解決し続ける個人の力が、企業の底力を決める。この信念を、毎年の入社式というもっとも象徴的な場で繰り返し語ることで、三木谷CEOは楽天という組織のDNAに「現場主義」を刻みこもうとしているのではないでしょうか。新入社員たちがこのメッセージをどこまで体感として受け取れるかは、これからの経験次第です。しかし少なくとも、スタートラインに立った日にこの言葉を聞けたことは、決して小さなことではないと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​


Mikitani to new hires: Master the ‘Genba’

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Mikitani to new hires: Master the ‘Genba’Rakuten Group Chairman and CEO Mickey Mikitani delivered a personal address at the 2026 April new graduates welcome ceremony.rakuten.today