AIが変革する5G RAN運用:効率化から自律型ネットワークへの道のり

現代の通信事業者にとって、4G時代までの管理手法を5Gにそのまま適用することは、もはや現実的ではありません。通信業界が直面している収益の頭打ち、増大するコスト、顧客離れという現実に加え、複数のネットワーク世代を同時に管理しなければならない現場の負担はかつてないほど増大しています。こうした中、楽天シンフォニーが参加した最近のパネルディスカッションでは、AxiataやAira Technologiesのリーダーたちが集い、AIが5Gの経済性と運用をどのように変えようとしているのか、初期の効率化から完全な自律型ネットワーク管理へ移行するために何が必要なのかを深く議論しました。

https://youtu.be/qK4yLQo7tX8
動画の説明:AIは、5Gネットワークの構築、管理、最適化のあり方を根本から変えています。MWC26にてThe Network Media Group (NMG)が主催したこのパネルディスカッションでは、Axiata、Aira Technology、楽天シンフォニーのリーダーたちが、5G RAN構築の加速、リソース配分の改善、複雑さを増すネットワーク環境下でAIを活用して優れたユーザー体験を実現するための実践的な洞察を共有します。

AIがもたらす課題解決以上の機会
議論で強調されたのは、AIを単なる運用の課題への対処療法として捉えるべきではないという視点です。むしろ、AIと自動化は、通信ネットワークを自由にプログラムできる仕組みに変え、通信インフラを状況に合わせて柔軟に変化するシステムへと進化させることができます。特に東南アジアのように、プリペイド契約が主流で、SIMカードの差し替えによって容易に他社へ乗り換えられてしまう市場では、実際のユーザー行動に合わせて動的にネットワークパフォーマンスを最適化できる能力は、他社に対する強力な競争優位性となります。AIを活用できる通信事業者は、単に技術的に先進的な企業ではなく、ユーザーの要求が厳しく、パフォーマンスへの依存度が高い市場でこそ真価を発揮できるのです。

AIが既に成果を出している領域と今後の展望
現在、AIが最も目に見える成果を出している分野として、以下の2点が挙げられました。
エネルギー管理:
固定的なスケジュール設定ではなく、機械学習を活用したトラフィック分析により、ネットワークで実際に起きている現象に適応でき、極めて詳細な電力制御が可能になっています。
根本原因分析:
これまで通信事業者が分析できていたのは、生成されるデータのわずか1〜3%に過ぎませんでした。AIを活用することで、割合を20〜30%以上に引き上げることができ、分析の精度は飛躍的に向上しています。
一方で、多くの事業者が目指す、人間の介入なしの自律運用には、まだ課題が残っています。技術的な要素は揃いつつあるものの、AIの判断に対する信頼と、その信頼を担保するためのガバナンスの枠組みが追い付いていないためです。登壇者たちは、自動運転車に例えてこう指摘しました。「人間による操作が電子機器に置き換わるためには、単に正確であるだけでは不十分です。なぜその判断を下したのかという説明ができるかどうかが、通信事業者がAIを完全に信頼するために不可欠な鍵となります」

SMOは、Open RANがもたらす隠れた立役者
Open RANの議論といえば、多くの場合、塔の上にあるハードウェアに焦点が当たりがちです。しかし、今回の議論ではSMO(Service Management and Orchestration)こそが、最も過小評価されている変革の鍵であると主張されました。SMOとは、通信ネットワーク全体を一元管理し、自動化やAI活用を実現するための仕組みのことです。SMOは、これまで特定のベンダーのエコシステム内に閉じこめられていたアプリケーションや分析ツールを解放し、サードパーティによるイノベーションを可能にします。複数の世代やベンダーが混在するアンテナやツールを持つ通信事業者にとって、SMOはこれらを統合的に管理する傘となり、自動化機能を導入するコストを劇的に低減します。

成功の鍵はデータ基盤の構築にあり
議論の最後で繰り返されたのは、AI導入の前提条件はデータであるということです。現在、多くの通信事業者ではRAN、トランスポート、CRM、OSS、BSSといったシステムがサイロ化されています。AIモデルの学習や相関分析に必要な共通データ基盤が存在しません。データ基盤なしでは、AIをどれだけ高性能にしても便利になりません。さらに、技術面だけでなく、数十年かけて構築された既存の運用習慣を捨て、新しいスキルを習得するという、組織における人間側の変化も不可欠であると結論付けられました。楽天シンフォニーのリシ・シュクラ氏が「基地局の障害時に、周囲の楽天モバイルのアンテナが自動的にカバー範囲と容量を補い、顧客体験を損なわないようにしている」と述べるように、AIは既に顧客の離脱を防ぐ強力な武器になりつつあります。今後、通信事業者がAIを真に活用し、自律的なネットワークを実現できるかどうかは、単なる技術導入だけでなく、データ基盤の整備と、AIの判断に対する信頼をいかに組織として構築できるかにかかっていると言えるでしょう。

私見と考察:AIが変える5G運用の現場

5G運用の複雑性は次世代ではなく別競技への移行
4Gと5Gの運用上の違いを進化と表現するのは、正確ではないと思います。むしろ「別の競技に変わった」と言うべきです。4Gの時代、基地局は一体型でベンダーも基本的に一社。障害が起きても、経験豊富なエンジニアが勘と経験でかなりの部分を回せました。管理すべき項目の数が、人間の頭で把握できる範囲に収まっていたからです。5Gではこの前提が崩れます。基地局はCU・DU・RUの3層に分離され、それぞれ異なるメーカーが供給し得るOpen RAN環境では、管理しなければならない箇所の数が一気に増えます。さらにネットワークスライシングによって、同じ物理インフラの上で用途別の仮想ネットワークを複数同時に動かさなければなりません。工場の生産ラインで使う超低遅延のネットワークと、一般消費者向けの高速ネットワークを、それぞれ別の品質基準で維持しながら同時に最適化する必要があります。人間が手作業でやれる話ではありません。しかも現実には、4Gを廃止できないまま5Gを上に乗せています。職人芸が通用しなくなったのではなく、職人芸が適用できない規模になりました。AIを使わざるを得ないのは、もはや選択ではなく必然です。

AIは遅れた事業者の救済策ではなく先行者をより強くする武器
今回の議論で「AIの恩恵を最も受けるのは最大手でも最先端の事業者でもなく、競争が最も厳しい市場の事業者だ」という指摘がありました。これは正しいと思いますが、もう一つ重要な側面があります。AIは先に導入した事業者が先にデータを蓄積し、先に精度を上げ、先に顧客体験を改善して、先に解約率を下げるという、先行投資の差が雪だるま式に広がっていく技術です。東南アジアのプリペイド市場でいち早くAIによる最適化を実現した事業者は、競合が追いついた頃にはすでに数年分のデータの蓄積があります。AI活用の差は、放置すれば縮まるどころか広がっていく一方です。「いずれやる」では手遅れになる種類の投資だと思います。

地味なSMO、実は主役級の存在感
Open RANの話になると、鉄塔のハードウェアばかりが注目されます。目に見えてわかりやすいからです。しかしSMO(Service Management and Orchestration)は目に見えない管理レイヤーなので、どうしても脇役扱いになります。ここに見落とされがちな逆転の構図があります。RUやDUをOpen RAN対応に替えても、特定のメーカーに依存した管理の仕組みがそのままなら、自動化のコストは大して下がりません。逆にSMOでネットワーク全体を一元管理できれば、RAN側のハードウェアが従来型であっても、その上に自動化やAI分析を乗せることができます。SMOはOpen RANのオマケではなく、AI活用への入口そのものです。ハードウェアの刷新よりSMOの整備を先に進める方が、コストの面で合理的なケースも十分あり得ます。ここを後回しにすると、AIを入れても効果が出ない構造になります。

説明できるAI:障壁は技術ではなく責任の所在
自律型ネットワークへの移行を阻む最大の障壁として「信頼」と「AIがなぜその判断をしたか説明できること」が挙げられていました。ただ私は、これをもう少し具体的に言い換えた方がいいと思っています。本当の問題は、AIが誤った判断を下したときに誰が責任を取るかが決まっていないことです。AIがパラメータを自律的に変更して大規模障害が起きたとき、それはAIを提供したメーカーの責任なのか、導入を決めた事業者の責任なのか、監督していたエンジニアの責任なのか。このルールが整っていない限り、現場のオペレーターは承認ボタンを押せません。「説明できるAI」への要求は、技術の問題である前に、責任の所在を決めるための仕組みづくりの問題です。リシ・シュクラ氏が語った「基地局障害時に周辺アンテナが自動でカバーを補う」という事例は、まさにこの問いの入口にあります。その自動補完が別の問題を引き起こしたとき、誰がどう説明するのか。技術の成熟よりも、この問いに答えを用意できるかどうかが、自律型ネットワーク実現の本当の壁だと思います。

土台を作れるかどうかが分岐点
データ基盤なきAI活用が絵空事であることは、今回の議論でも繰り返し出てきました。RANとCRMとOSSがバラバラのまま存在する限り、AIは断片的な情報でしか判断できません。

ただ私が気になるのは、データ統合がいつも「技術的な前提条件」として語られることです。実際にはこれは組織の問題です。RANを管理するチームとBSSを管理するチームが同じデータ基盤を共有するには、縦割りの組織構造と、各部門が守ってきた権限やプロセスを崩さなければならない。技術投資の話ではなく、経営判断の話です。

5Gの複雑性がAI活用を必然にした今、問われているのは技術の選択よりも経営の覚悟かもしれません。通信業界の特殊な話ではなく、AIの導入についての世界共通の課題がこの議論には詰めこまれているように感じました。


How AI Is Automating and Optimizing 5G RAN Deployments

https://symphony.rakuten.com/blog/how-ai-is-automating-and-optimizing-5g-ran-deployments

How AI Is Automating and Optimizing 5G RAN – Blog | Rakuten SymphonyLeaders from Axiata, Aira Technologies, and Rakuten Symphony share practical insights on how AI is transforming 5G RAN operations in this latest blog.symphony.rakuten.com