
楽天が「楽天ふるさと住民」を2027年春に新設 ふるさと納税・旅行・地域活動をつなぐ新たな関係人口基盤へ
都市部に暮らしながら、離れた地域を継続して応援する。そうした関わり方を、旅行や寄付だけで終わらせず、地域での活動へつなげる仕組みが具体化してきました。
楽天グループは2026年8月4日、総務省が創設を目指す「ふるさと住民登録制度」の実装を見据え、独自のポータルサイト「楽天ふるさと住民」を2027年春に新設すると発表しました。自治体の情報を掲載するだけではなく、地域産業の短時間就労、地域ならではの体験、ふるさと納税、宿泊支援などを組み合わせ、居住地とは別の地域と継続的な関係を築けるようにする構想です。
今回の発表で注目したいのは、楽天が新しい地域情報サイトを立ち上げることだけではありません。「楽天市場」「楽天ふるさと納税」「楽天トラベル」などに分かれていた地域との接点を一つにつなぎ、地域を知った人や商品を買った人、寄付した人、旅行した人を、地域の担い手になり得る人へと結び直そうとしている点にあります。
「楽天ふるさと住民」は2027年春に提供開始予定
「楽天ふるさと住民」は、地域とユーザーが継続的につながるためのポータルサイトです。提供開始は2027年春を予定しており、参画する自治体の魅力や地域課題、参加できる活動などを紹介します。
対象となるのは、単純な観光情報だけではありません。地域の基幹産業に関わるスポットワークや就労体験、文化や暮らしに触れる体験コンテンツ、地域課題の解決につながる担い手活動などが想定されています。楽天の地域創生事業ページには、農業、林業、漁業、祭り、観光、教育、福祉、スポーツ、環境保全といった幅広い分野が例として挙げられています。
利用者は、興味を持った自治体を探し、その地域で募集されている活動を確認して参加できます。地域を検索するところから、登録、来訪、活動、寄付、地域産品の購入までを一つの流れとして設計し、一度きりになりがちな接点を継続的な関係へ育てることを目指します。
「ふるさと住民登録制度」とは何か
「ふるさと住民登録制度」は、現在住んでいる場所とは別に、継続して関わりたい自治体を任意で選び、「ふるさと住民」として登録できる仕組みです。住民票を移して移住する制度ではなく、生活の拠点を変えなくても、関心のある地域とのつながりを公的な仕組みの中で持てるようにします。
制度では、「ベーシック登録」と「プレミアム登録」という二つの区分が用意されます。制度設計上、ベーシック登録は地域との接点を持つための入口にあたり、プレミアム登録は、自治体が指定する担い手活動などを通じて、より継続的に関わる人を想定したものです。登録者に対する地域情報の提供や、活動を続けるための各種支援も検討されています。
「楽天ふるさと住民」は国の登録制度そのものに置き換わるものではなく、自治体を知り、活動を探し、登録へ進むための民間側の受け皿と位置づけられます。利用者がサイト上で担い手活動などを調べたり利用したりすることで、自治体によるベーシック登録やプレミアム登録につながる導線を整えます。
ふるさと納税の返礼品と地域活動を組み合わせる
新サイトでは、旅行代理店と共同開発するふるさと納税の返礼品も扱う予定です。具体的には、寄付者が現地を訪れ、担い手活動を体験できる旅行券などが想定されています。
これまでのふるさと納税では、寄付をした人と地域との接点が、返礼品を受け取った時点で途切れてしまうこともありました。旅行や地域活動を組み込んだ返礼品であれば、寄付者が現地を訪れ、地域の人や産業に直接触れるきっかけになります。金銭的な応援を、人と人との関係へ広げる試みといえます。
さらに、対象となる宿泊施設で宿泊費の補助に利用できる「楽天トラベル」のクーポンも取り扱う計画です。地域活動に関心があっても、交通費や宿泊費が負担になれば参加は難しくなります。旅行券や宿泊クーポンを活動と組み合わせることで、現地へ向かう際の負担を抑え、最初の一歩を踏み出しやすくします。
自治体にとっては情報発信と参加者募集をまとめる場になる
自治体はこれまで、観光、移住、ふるさと納税、地域産品、ボランティア、副業や就労体験といった施策を、それぞれ別の窓口で展開することが少なくありませんでした。そのため、旅行者が地域活動を知る機会や、寄付者が再訪するきっかけを十分につくれず、せっかく生まれた関心が次の行動につながらない場合があります。
「楽天ふるさと住民」では、自治体ごとのページに地域の魅力、暮らし、観光、担い手活動、ふるさと納税、地域産品などをまとめて掲載する構想です。単に地域を宣伝するのではなく、「この地域に関心を持った人が、次に何をできるのか」を見つけやすくすることが狙いです。
自治体向けには、登録者数だけでなく、活動への参加、クーポンの利用、寄付、宿泊、地域産品の購入などを把握し、施策の改善に役立てる仕組みも示されています。観光客数や寄付額を個別に見るのではなく、地域への関心がどのような行動へ発展したのかを捉えようとしている点が特徴です。
2025年のコンソーシアム設立から実装段階へ
楽天は2025年9月、「ふるさと住民登録制度」の社会実装に向けて「ふるさと住民応援コンソーシアム」を設立し、事務局を担ってきました。自治体、官公庁、企業、教育機関、個人などが制度の活用方法を検討し、総会や座談会、セミナーなどを通じて理解を広げる取り組みです。
今回の「楽天ふるさと住民」は、そこでの議論や官民連携を、実際にユーザーが利用するサービスへ移す動きと捉えられます。制度の周知や意見交換にとどまらず、自治体が参加者を集め、利用者が現地で行動するための具体的な仕組みづくりへ進んだことになります。
地域との関わり方を段階的につなぐ
想定される利用の流れは分かりやすいものです。たとえば、ある地域の商品を「楽天市場」で購入した人が、その地域の特集や活動募集を知ります。次に「楽天トラベル」のクーポンを使って現地を訪れ、農作業や祭りの運営、環境保全などに参加します。その後も地域産品を購入したり、ふるさと納税で支援したり、別の活動に参加したりすることで、関係が続いていきます。
もちろん、全ての利用者が同じ順序をたどるわけではありません。旅行を入り口にする人もいれば、寄付や地域産品の購入から関心を深める人もいます。複数の入口を用意し、それぞれの関心に応じて次の行動へ進める点に、楽天のサービス基盤を活用する意味があります。

私見と考察:「楽天ふるさと住民」の本当の価値
「楽天ふるさと住民」の価値は、地域情報を大量に集めることではなく、これまで分断されていた行動をつなぐことにあると私は思います。観光サイトで地域を知り、旅行予約サイトで宿を取り、別のサイトでふるさと納税を行い、自治体のウェブサイトでボランティアを探す。現在は一人の利用者が同じ地域に関心を持っていても、その行動が別々のサービスに分かれています。自治体側から見ても、旅行者、寄付者、購入者、活動参加者が同じ人なのか、次にどのような情報を届ければ関係が深まるのかを把握しにくい構造です。
「楽天ふるさと住民」がそれらを無理なく行き来できる場所になれば、地域との接点は点ではなく線になります。一度の旅行や寄付を繰り返させるというだけではなく、地域の課題を知り、現地の人と会い、自分にできる関わり方を見つけるところまで支えられる可能性があります。
楽天の強みは会員数よりも、すでに複数の入口を持っていること
楽天の優位性は、大規模な会員基盤だけではありません。買い物、旅行、ふるさと納税という、地域と接点を持ちやすいサービスがすでにそろっていることが大きな強みです。
地域創生のサービスでは、利用者を集めるところが最初の難関になります。優れた活動を企画しても、存在を知られなければ参加者は集まりません。楽天で地域産品を買った人、旅行先として検索した人、寄付先に選んだ人に対し、関連する地域活動を適切なタイミングで紹介できれば、まったく関心のない人へ一から呼びかけるよりも参加につながりやすいと考えられます。
一方で、この強みは、サービス間の連携が利用者にとって自然であることが前提です。買い物をしただけで過度に活動参加を促されたり、本人が意図しない形で関心や行動が推測されたりすれば、便利さは監視されているような感覚に変わります。どの情報を何の目的で利用するのか、自治体とどこまで共有するのかを分かりやすく示し、利用者が選べる設計が欠かせません。
寄付者を「参加者」へ変える発想には可能性がある
ふるさと納税は、都市部などに暮らす人が地域を応援する大きな仕組みに成長しました。しかし、返礼品を選ぶ行為が中心になると、寄付先の暮らしや課題を知る機会は限られます。地域側にとっても、寄付額が増えることと、地域を継続して支える人が増えることは同じではありません。
担い手活動を体験できる旅行券は、この距離を縮める可能性があります。農業、祭り、環境保全などに実際に参加すれば、利用者は返礼品の背景にある産業や人手不足、文化を支える人々の存在を具体的に知ることができます。地域も、単なる観光客や寄付者ではなく、再び訪れる可能性のある協力者と出会えます。
ただし、地域への思いを無償労働の確保に利用してはなりません。スポットワークなのか、就労体験なのか、ボランティアなのかを明確に分け、報酬、作業時間、必要な技能、保険、安全管理、交通手段、悪天候時の扱いなどを事前に示す必要があります。「地域貢献」という言葉だけで参加者の負担を見えにくくすれば、継続的な関係は生まれません。
登録者数だけを追うと、制度の目的を見失う
新しい制度やポータルでは、登録者数が最も分かりやすい成果として注目されがちです。しかし、関係人口の本質は名簿の人数ではなく、地域との関係が実際に続いているかどうかにあります。
見るべきなのは、登録後に活動へ参加した人の割合、再び地域を訪れた人の割合、担い手活動が予定どおり成立した件数、地域産品の継続購入や寄付につながった動きなどです。同時に、受け入れた地域側の負担が増えすぎていないか、住民が活動を前向きに受け止めているか、現場で本当に不足していた力を補えたかも確かめる必要があります。
登録者が多くても、案内を受け取るだけで行動につながらなければ、地域課題の解決には直結しません。反対に、登録者数が少なくても、毎年同じ地域を訪れ、地元の人と信頼関係を築く人が増えれば、その取り組みは十分に価値があります。量と質の両方を測る評価設計が重要です。
地域側の受け入れ体制が成否を分ける
プラットフォームが利用者を地域へ送り出しても、受け入れ側の準備が整っていなければ、参加者にも地域にも不満が残ります。募集内容の作成、問い合わせ対応、当日の説明、作業の割り振り、安全管理、活動後の交流や次回案内まで、現地には多くの運営業務が生じます。
特に人手不足に悩む自治体や事業者ほど、新しい参加者を受け入れる担当者も不足している可能性があります。そのため、サイトへの掲載や集客だけでなく、活動の設計、地域コーディネーターの育成、問い合わせ対応の標準化、参加後のフォローまで支援できるかが重要になります。
また、外部から来る人の満足度だけを優先すると、地域の暮らしが体験コンテンツとして消費される危険もあります。何を手伝ってほしいのか、どこまで地域を開くのかを地元住民が決め、受け入れ後の声を次の企画へ反映できる仕組みが必要です。
人気のある地域だけに人が集まる構造を避けられるか
大規模なポータルでは、写真映えする体験や知名度の高い自治体に利用者が集中しやすくなります。しかし、担い手を強く必要としている地域が、必ずしも観光地として知られているとは限りません。情報発信に人員や予算をかけられる自治体ほど目立ち、支援を必要とする小規模自治体が埋もれるのであれば、制度の意義は弱まります。
検索順位やおすすめ表示を人気だけで決めず、地域の課題、必要とされる技能、参加可能な時期、移動のしやすさなどから利用者と活動を結び付ける工夫が求められます。自治体の知名度ではなく、「この人の経験が、この地域の困りごとに合う」という視点でマッチングできれば、楽天のデータ活用は地域創生により深く貢献できます。
国の制度と民間サービスの境界も重要になる
「ふるさと住民登録制度」は公的な制度であり、「楽天ふるさと住民」はそれを利用しやすくする民間のポータルです。この二つは密接に連携しながらも、同じものではありません。
楽天のサービスを使わない人にも登録手段が確保され、自治体が一つの民間事業者だけに依存しないことが重要です。将来的には、国の登録アプリ、自治体のシステム、複数の民間サービスが適切に連携し、利用者が入口を自由に選べる形が望まれます。民間企業の集客力や利便性を生かしながら、公的制度としての公平性をどう守るかが問われます。
また、ふるさと納税の返礼品や楽天トラベルのクーポンは、地域を訪れる負担を軽くする手段です。それらと「ふるさと住民」という立場が混同され、特典を得ることだけが登録の目的にならないようにする必要があります。ベーシック登録を単なる下位区分、プレミアム登録を優遇会員のように見せるのではなく、関わり方の違いとして丁寧に伝えることが大切です。
2027年春の開設後に確認したいこと
今後の焦点は、何自治体が参加するかだけではありません。どの地域に、どのような担い手活動が用意されるのか、活動内容や負担が分かりやすく示されるのか、登録から現地参加まで迷わず進めるのか、参加後に関係を続ける仕組みがあるのかが重要です。
宿泊クーポンなどの費用を誰がどのように負担し、施策を継続できるのかも見逃せません。データ分析についても、自治体に分かりやすい成果が返されるのか、利用者が自分のデータの扱いを確認・選択できるのかを見ていく必要があります。
「楽天ふるさと住民」が単なる地域情報のカタログにとどまれば、既存サービスとの差は小さくなります。一方、寄付や旅行で生まれた関心を、無理のない地域参加へつなぎ、その結果を自治体と利用者の双方へ返せるのであれば、関係人口を支える実用的な基盤になり得ます。
2027年春の開設は完成ではなく、実際の関係づくりが始まる地点です。登録者数の大きさよりも、地域へ戻ってくる人が増えたか、現場の負担が軽くなったか、地域の人と外から関わる人の双方が続けたいと思えたか。その積み重ねによって、「楽天ふるさと住民」の価値が決まっていくことになります。
総務省「ふるさと住民登録制度」特設ページ
https://www.soumu.go.jp/furusatojuumin
楽天、「ふるさと住民登録制度」の受け皿となるポータルサイト「楽天ふるさと住民」を2027年春に新設
– 制度の社会実装を見据えた官民連携や施策実施をさらに加速 –
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2026/0804_01.html
