楽天と飯綱町はなぜ人口1万人の町に3,000人のファンを集められたのか?ふるさと納税から関係人口へ

地方創生の取り組みでは、移住者数、観光客数、ふるさと納税の寄付額といった数字が個別に注目されがちです。しかし、人口約1万人の長野県飯綱町(いいづなまち)が楽天グループと進めているのは、どれか一つの数字を増やすだけの施策ではありません。ふるさと納税を通じて町を知った人をファンクラブへ招き、特産品の購入や収穫体験、現地での農作業、将来の「ふるさと住民登録」へとつなげる、持続的な「関係づくり」です。楽天グループが公開した公式動画では、飯綱町のふるさと納税寄付額が3年間で約4倍の12億円へ拡大し、町公式ファンクラブの部員数も半年足らずで3,000人に達したことが紹介されています。さらに、ふるさと納税の寄付件数は町の人口の約11倍に上ります。注目すべきなのは、その成果が単発の広告キャンペーンによって生まれたのではなく、「りんごの商品化」「データを使った情報発信」「ファンとの接点づくり」「農業人材の確保」を一つの流れとして一貫して設計した結果だという点です。

りんごの町を揺さぶる人口減少
飯綱町は長野県北部に位置し、約50品種のりんごが育つ全国有数の産地です。長野市に隣接しながら豊かな自然に恵まれ、りんごを中心とする果樹栽培が地域経済を支えてきました。一方で、人口減少や農業従事者の高齢化が進み、農家の担い手不足が深刻になっています。動画に登場するりんご農家は、周囲の畑が使われなくなり、りんごの木が切られ、人が住まなくなった家が増えていく状況を語っています。町の風景が少しずつ変わっていく様子は、人口減少を統計上の数字としてではなく、「農地や産業、暮らしの基盤が失われていくリアルな危機」として突きつけています。楽天はこれまで全国55自治体と連携協定を結び、地域の課題解決に取り組んできました。飯綱町とは、長野県との包括連携協定をきっかけに2021年度から本格的な連携を開始しています。楽天が持つEC・データ・広告・トラベル・体験予約などの機能と、飯綱町が持つりんご・自然・地域文化を掛け合わせることで、町単独では実現しにくかった大きな改革が動き始めました。

「感謝りんご」が変えた規格外品の価値
ふるさと納税の急成長を支えた代表的な返礼品が「感謝りんご」です。これは、味には全く問題がないものの、表面の薄い傷や色むらなどによって一般流通では「家庭用(訳あり)」として扱われてきた商品です。以前は地域のイベントで安売りしたり、近所へ配ったりすることが多く、農家にとって十分な収益につながりにくい存在でした。美味しさは正規品と変わらなくても、見た目によって価格が決まってしまうことが長年の課題だったのです。そこで楽天のECコンサルタントの助言を受け、家庭用りんごを「感謝りんご」として再定義しました。光センサーで果肉内部の傷みを確認し、糖度を保証することで、見た目ではなく「中身の確かな品質」を担保しました。単に「訳ありで安い」と訴えるのではなく、品質を保証した上で、農家から寄付者への感謝を込めたストーリーとして価値を伝え直したのです。この取り組みは、新しい特産品を外部から持ち込んだわけではありません。すでに存在していたものの十分な価値を付けられていなかった地域資源を、品質保証・商品名・写真・訴求方法まで含めて再設計したものです。その結果、農家の収入向上と町への寄付拡大を同時に実現し、3年連続で10億円を超える寄付(最高12億円)を集める原動力となりました。

データが変えた自治体の情報発信
優れた特産品があっても、その存在が全国の消費者に届かなければ意味がありません。自治体には地域を熟知した職員がいますが、EC上でどのような写真や文章が選ばれやすいのか、どの層に届ければ購買につながるのかといったノウハウまで備えているとは限りません。楽天は、全国の自治体支援で培ったマーケティングの知見を生かし、飯綱町のふるさと納税ページや広告戦略を根本から改善しました。楽天市場における購買履歴や閲覧データなどを基に、フルーツやりんごに関心が高い潜在層へピンポイントで情報を届ける設計を行ったのです。これは、単に広告の表示回数を増やすだけの施策ではありません。「誰が飯綱町に関心を持つか」をデータに基づいて予測し、反応を確認しながらページを改善するデータドリブンなアプローチです。飯綱町の職員も「以前はデータに根拠を求めながら事業を進める習慣が十分ではなかった」と振り返ります。連携を通じて変わったのは寄付額という数値だけでなく、自治体組織の仕事の進め方そのものでした。

半年で3,000人を集めた「いいづなリンゴ部」
ふるさと納税で町を知ってもらっても、一回限りの寄付で終わってしまっては一過性の関係に過ぎません。そこで2025年度、楽天市場の特設サイト上に開設されたのが、町公式ファンクラブ「いいづなリンゴ部」です。「いいづなリンゴ部」では、特産品やイベント情報の配信をはじめ、部員限定企画や収穫体験などを通じて、町外の人が飯綱町と継続的に関われる環境を整えています。寄付者を一度きりの顧客として終わらせず、町を応援するファンへと育てる狙いがあります。このファンクラブは開設から半年足らずで3,000人を獲得しました。これは町の人口(約1万人)の約3割に相当するインパクトです。楽天が持つデータを活用し、「りんごや地方特産品に関心がある層」へ狙いを定めて案内を出したからこそ実現した数字です。ふるさと納税は基本的に年単位の制度ですが、ファンクラブという基盤があれば、時期を問わず特産品を購入したり現地のイベントに参加したりできます。一つの寄付体験を入口として、買い物、体験、観光、移住検討へと関係を立体的に広げていく役割を果たしています。

農作業へ広がる町外との接点(スポットワークの活用)
飯綱町が直面している本質的な課題は「りんごの販売」だけではありません。いくら注文が増えても、現場で育て、収穫する手が足りなければ産地そのものが衰退してしまいます。そこで町と楽天は、観光や買い物だけでなく、町外の人が農作業に参加する仕組みづくりに着手しました。全国に先駆けて取り入れたのが、スキマバイトアプリ「タイミー(Timee)」を活用した農作業サポート人材の受け入れです。さらに町では、民間企業からの社員受け入れや「daywork」等の1日農業バイトアプリの活用、JR東日本や大学と連携した「農作業が与えるストレス軽減効果」の実証実験など、多角的なアプローチを行っています。これらを通じて、農業体験を単なる労力提供ではなく、企業研修、福利厚生、CSR活動、副業などと組み合わせる可能性を模索しています。未経験者を受け入れる農家側にも最初は不安や負担がありますが、動画に登場する農家は「受け入れてみないと改善点も見えない。まずは挑戦しよう」と語ります。「人は育てるもの」という温かいマインドで都市部の人材を受け入れることで、人手不足の解消と同時に「町に深い思い入れを持つ関係人口の育成」を両立させています。

ふるさと住民へとつながる持続的な循環
飯綱町は、総務省が創設を予定している「ふるさと住民登録制度」の本格運用を見据え、北海道上川町、山梨県甲州市、ふるさと住民応援コンソーシアムとともに、関係人口創出モデルの共同プロジェクトを進めています。実際には移住していなくても、アプリ等を通じて地域と継続的な関係を持つ人を「ふるさと住民」として登録し、地域活動やイベントへ巻き込む構想です。町が描いているのは、「いいづなリンゴ部」の会員を、将来的なふるさと住民や現地の活動主体へと発展させていくエコシステムです。まず、楽天市場やふるさと納税を通じて、町外の人が飯綱町や飯綱町のりんごを知ることが入口になります。そこで寄付や返礼品の体験を通じて町に関心を持った人を、次の接点としてファンクラブ「いいづなリンゴ部」へ案内します。ファンクラブに参加した人は、特産品やイベント情報を継続的に受け取り、単なる一回限りの寄付者ではなく、町を応援するファンとして関わり続けることができます。さらに、その関心はオンライン上だけにとどまりません。楽天トラベルや体験予約などを通じて、実際に飯綱町を訪れたり、収穫体験や農作業サポートに参加したりすることで、町との関係はより具体的なものになります。そして将来的には、こうしたファンや来訪者が「ふるさと住民」として登録し、日常的なリピート購買や寄付、地域活動への参加へとつながっていくことが期待されています。オンラインでの関心を、現地でのリアルな体験や地域貢献へとスムーズに接続できる点は、多様なサービスを展開する楽天経済圏だからこそ実現できた強みと言えます。

私見と考察:地方創生を関係の循環で測る

飯綱町と楽天の取り組みから見えてくるのは、従来の地方創生が陥りがちだった点の施策を、いかに面としての持続的な仕組みへ広げるか、という重要な示唆です。この事例の本質について、以下の4つの視点から考察します。

経済圏を活用した行動ジャーニーのシームレス化
従来の官民連携では、広告代理店へのイベント委託やコンサルティングによる計画策定など、施策が単発で終わるケースが少なくありませんでした。しかし本事例の強みは、EC・データ・トラベル・コミュニティを包括する楽天のプラットフォームを活用することで、「発見(ふるさと納税)→ ファン化(リンゴ部)→ 移動・滞在(トラベル)→ 継続購買(EC)」という都市部ユーザーの行動ジャーニーが分断されずに円滑につながっている点にあります。自治体が個別にシステムや導線を作るコストを抑え、既存の巨大経済圏に乗り込むことで、都市と地方の距離を劇的に縮めています。

訳ありを価値に変えたブランディングの本質
「感謝りんご」の成功は、単なる安売りを行わなかった点に価値があります。規格外品をただ値下げして販売することは、短期的に売れても農家の利益率を下げ、地域ブランドを消耗させるリスクがあります。糖度センサーによる品質保証で、安さではなく確かな品質を担保し、農家からの感謝のストーリーを添えることで、欠点の言い訳だった規格外品を、ストーリーを持った価値ある商品へと再定義したのです。これは外部から新しい特産品を持ちこまずとも、既存の地域資源を見つめ直すことで価値を創出できる好例と言えます。

移住だけではない関係のステップの設計
地方創生では移住者数という高いハードルが成果指標にされがちですが、仕事や生活基盤を持つ都市部の人々が簡単に移住できるわけではありません。飯綱町の事例が優れているのは、一回限りの寄付者からファン(部員)、現地来訪者、農業サポーター(スポットワーク等)、ふるさと住民へと、関係性のステップを細かく用意したことです。ハードルを細分化することで、人々は自分のライフスタイルに合わせて無理なく地域を支えるプレイヤーになることができます。

入口の数字の先にある真の成果と自走への課題
一方で、ファンクラブ3,000人という入口の数値だけで手放しに成功と断定するのは時期尚早でもあります。今後真に注視すべきなのは、メルマガのエンゲージメント率や特産品のリピート購買率といったファンの熱量、農業サポーターの定着による農家の収益性向上や荒廃地の抑制といった、現場への実質的な波及効果です。また、プラットフォームとの連携においては、外部に依存し過ぎない自走力の構築が欠かせません。動画の中で町の職員が「データに基づく根拠を持って事業を進める姿勢を学んだ」と語っていたように、プラットフォームの力を借りながらも、自治体や地域の農家自身がマーケティング思考とデータ活用ノウハウを内製化していくことこそが、長期的な地域の自立と持続可能性を決定づけるはずです。

地方創生の新たな可能性
長野県飯綱町と楽天の挑戦は、人口減少という課題を一つの魔法のような施策で解決しようとするものではありません。規格外品に新しい価値を与え、データで必要としている人へ届け、寄付者をファンへ変え、ファンを地域の支え手へと変えていく。ふるさと納税寄付額12億円やファンクラブ3,000人という数字は、その循環の仕組みが力強く動き出した証拠です。知る、買う、寄付する、訪れる、働く、応援する。この複数の行動を地域と都市との間でぐるぐると巡らせる飯綱町のモデルは、これからの日本の地方創生における大きな道しるべとなるはずです。

https://youtu.be/qu2Jkn3qPBw

楽天のアセットでファンを呼び込む 長野のりんごの町・飯綱のチャレンジ
https://corp.rakuten.co.jp/innovation/rnn/2026/2604_010/

楽天のアセットでファンを呼び込む 長野のりんごの町・飯綱のチャレンジ | 楽天グループ株式会社人口減少が避けられない今、りんごの産地・長野県飯綱町は、楽天グループと連携して、ふるさと納税や、楽天市場内での公式ファンクラブ開設、スポットワーク連携など新たな取り組みを進めています。楽天はこれまで全国55自治体と連携協定を結び、地域課題解決に挑んできました。その知見を生かして、飯綱町では楽天ふるさと納税寄付額が3年で4倍、ファンクラブ部員は半年で3,000…