
楽天シンフォニーとTech Mahindraは通信事業者の変革をどう実現するのか
Open RAN、自律運用、エッジクラウドを結ぶ協業
通信事業者(MNO)にとって、5G基地局の整備を進める一方で、ネットワークを効率よく運用し、新しい収益へ結びつけることが課題となっています。その手段として、Open RAN、クラウドネイティブ、エッジコンピューティング、AI、ネットワーク自動化への期待が高まっています。2025年11月、楽天シンフォニーが東京で開催した「Global Partner Summit」の会期中、楽天シンフォニー欧州営業バイスプレジデントのThomas Riedel氏と、Tech Mahindraのネットワークサービス・グローバル責任者であるAbhishek Malhotra氏による対談が行われました。対談では、両社の協業、ネットワーク運用の自律化、AI時代に向けた通信クラウドの進化という3つのテーマが語られました。楽天シンフォニーが技術やソフトウェアを提供し、Tech Mahindraが顧客環境への接続や移行、運用を支えるという役割分担のもと、これらの技術を商用ネットワークへ導入する取り組みが進められています。
技術を提供する協業から成果を生む協業へ
Malhotra氏によると、Tech Mahindraは早期から楽天シンフォニーの構想を指示し、顧客への導入を進めてきました。両社の関係は、単に製品を納入する関係から、導入後の成果まで共に追う関係へと変化しています。楽天シンフォニーはOpen RANソフトウェアや自動化技術を提供し、Tech Mahindraは顧客の既存設備を調査し、移行順序の設計、導入後の運用、人材育成までを支援します。Malhotra氏が用いた「better together」という言葉は、一社では担いきれない役割を分担し、顧客が求める成果まで届けるという考え方を表しています。この役割分担は、2025年2月に発表された「Real Open RAN Licensing Program」にも反映されています。本プログラムにおいて、Tech Mahindraは楽天シンフォニーのCU、DU、OAMを含むOpen RANソフトウェアの販売と、顧客環境への導入を主導するシステムインテグレーター(SIer)の役割を担います。両社はソフトウェアの納入に留まらせず、基地局の展開速度、障害復旧時間、コスト削減、新サービスの投入速度といった導入後の変化を確認する「共同創造」を掲げています。
Open RANの導入と統合作業の課題
通信事業者の商用網には、2Gから5Gまでの異なる世代の設備や、多様なベンダーの製品が混在しています。拠点ごとの個別設定や手作業も多く、データや管理ツールが分散していることが、新技術導入の障壁となっています。Open RANは機能ごとに異なるベンダーの製品を組み合わせられる柔軟性を持つ一方で、製品間の接続試験、全体性能の調整、障害時の原因特定、ソフトウェア更新時の影響確認といった作業が新たに発生します。Malhotra氏は、オープンな仕組みを活用して複雑なレガシーネットワークを整理する必要性を指摘しています。既存設備を一括撤去するのではなく、異なる世代やベンダーの設備を単一の仕組みで監視・接続できるようにし、段階的に自動化へ移行する流れです。システムインテグレーターには、商用通信を止めずに接続試験、セキュリティ対策、運用手順の変更、社内教育を進める計画作成が求められます。
ネットワーク運用の自律化
対談の2つ目のテーマである運用の自律化について、Tech Mahindraは楽天シンフォニーのソフトウェアに、障害の予兆検知や省電力化などの設計・導入・運用支援を組み合わせています。従来の自動化が「決められた条件で既定の処理を実行する」のに対し、自律運用は「システムが状態を常時監視し、障害や混混雑の原因を推定してルールの範囲内で対策を実行・確認する」という違いがあります。TM Forumが定義するレベル0からレベル5までの自律化段階において、現実的な移行手順として以下のプロセスが挙げられています。
・設備構成、警報、通信品質などの分散データを集約・可視化する。
・手順が明確でリスクの低い作業から自動化する。
・AIによる予測と対策案の提示を行い、人が判断して実行する。
・安全性が確認された作業からAIへ実行・検証を委任し、対象範囲を広げる。
自律化の効果測定においては、稼働率などの技術指標だけでなく、自動処理成功率、復旧時間、現地作業回数、運用費・電力費の削減、解約率、新サービスの投入速度といった事業指標での評価が行われます。
AIを組みこむエッジクラウド
3つ目のテーマである通信クラウドとエッジの進化では、AIの処理位置が議論されました。大量データの学習や長期分析には中央クラウドが適している一方、即時性が求められる処理や機密データの扱いには、利用者や基地局に近いエッジクラウドが適しています。エッジ運用には、分散した拠点における計算能力の制限、通信切断時の対応、遠隔保守、AIモデルの配布・管理といった課題が存在します。Malhotra氏は、既存システムからの切替手順、移行中の品質維持、障害発生時の対応体制などを明確にした導入計画の重要性を強調しています。また、両社による別の対談では、巨額の5G投資に対して収益化が追いつかない「5G ROIのジレンマ」が取り上げられました。自律運用による運用コストや電力費の削減(守り)と、新サービスの迅速な提供による売上拡大(攻め)の両立が、5G投資の回収に必要であると示されています。

私見と考察:通信事業者は技術礼賛を排し利益を生む構造へ脱皮できるか
何のためにやるのか:技術導入の自己目的化に対する警鐘
対談では自律化レベルの向上やエッジクラウドの先進性が強調されていました。しかし、MNOにとっての真の目的は、技術の導入そのものではなく、通信料金の下落とインフレ(電力費・人件費高騰)の中で事業の利益率(ROI)を担保することです。どれほど高度なAI自律運用(レベル4)を実現しても、Open RANで構成を自由化できたとしても、最終的にP/L(損益計算書)上のコスト削減や新規売上として反映されなければ、単なる自己目的化したIT投資に終わります。
AI×エッジクラウド:コスト膨張の罠と5G ROIをめぐる攻防
AIの処理位置と5G ROIのジレンマは、まさに切り離せない一体の課題です。エッジクラウドへのAI組みこみを推進する上で、以下の3つのリアリティに着目する必要があります。
エッジAIにおける電力・計算資源の費用対効果
基地局近傍やエッジ拠点でAI推論を回すことは、超低遅延やデータプライバシーの観点で魅力的ですが、数千〜数万の分散拠点に高価なアクセラレータ(GPU/NPU)を配備するため、電力を維持するコストは膨大となってしまいます。中央での学習と軽量化されたエッジでの即時推論の境界線をどこに引き、ワークロードを動的に最適配置できるか(AIオーケストレーション能力)が、コスト自滅を防ぐ鍵となります。
社内運用の効率化からB2Bエッジ収益化への跳躍
エッジクラウド投資を回収するには、自社ネットワークの最適化だけでなく、そのエッジ基盤を自動運転やスマート工場などの産業用AIプラットフォームとして外部へ切り売りする構造が必要です。巨大な集中型クラウドで規模を追うハイパースケーラーに対し、MNO陣営が対抗しうる数少ない領域は、基地局に近接した拠点でしか実現できない「通信と直結したリアルタイム・地産地消型のエッジAI」でしょう。これをB2B収益モデルへどのように昇華させることができるかが問われます。
分散エッジにおける「AI/MLOps(モデル運用管理)」の課題
全国に分散したエッジ環境で稼働する多数のAIモデルは、環境変化によって精度が低下します。インフラの自律運用だけでなく、遠隔地に散らばるAIモデルの再学習・配布・監視という地味な積み重ねを「エッジMLOps」としてどこまで無人化・自動化できるかが、実運用での大きな踏み絵となります。
ブラウンフィールド(既存網)の現実に立ち向かう実直さの評価
グリーンフィールド(新規参入)として一からクラウドネイティブ網を構築した楽天モバイルのモデルは、2G〜4Gのレガシー設備と手間のかかる個別設定を大量に抱える世界の既存大手MNO(ブラウンフィールド)にそのまま適合するわけではありません。本協業において本質的に重要なのは、楽天の最先端ソフトウェアそのものよりも、Tech Mahindraが持つ「複雑な既存インフラを止めずに段階的に切り替える地道なSI力」です。技術の華やかさではなく、複雑なマルチベンダー環境での移行計画を完遂できるかどうかが商用化の成否を分けます。
MNOが保持すべき事業主権と成果連動の厳しさ
AIによる自律運用が進むことで、MNO内部の技術ノウハウが空洞化し、運用がブラックボックス化するリスクがあります。MNOが守るべきは、日々の障害対応作業ではなく「どのようなリスク許容度と事業優先度でAIを動かすかという政策決定権」と「顧客データ主権」です。また、両社が主張する「共同創造」を単なるスローガンに終わらせないためには、製品の納入や人件費の積み上げで対価を得る従来モデルから、削減できた運用コストや増収分に応じて対価を分配する「成果連動型・リスク共有型の契約モデル」へ踏みこめるかが問われます。
Open RANの自由を事業の競争力へ
Open RAN、自律運用、エッジクラウドという技術要素は、それ単体では利益を生み出しません。MNOが獲得すべきは「技術を採用したという事実」ではなく、設備や運用を安全かつ迅速に変更し、コストを抑えながら収益機会を逃さない「事業としての柔軟性」です。楽天シンフォニーとTech Mahindraの協業の真価も、ソフトの販売数や導入件数ではなく、MNOが両社へ「新たなロックイン」をされることなく、自らの運用能力と利益創出力を高められたかどうかで評価されるべきでしょう。
Tech Mahindra x Rakuten Symphony: Tacking customer challenges across automation and Open RAN
https://youtu.be/pRqgqM6G0RE
Three takeaways: The power of partnership to bring new tech to MNOs with Tech Mahindra
https://symphony.rakuten.com/blog/three-takeaways-the-power-of-partnership-to-bring-new-tech-to-mnos-with-tech-mahindra
